160
「気にするな。愚か者を身内に持つ苦労は身に染みて分かっている」
ノワールの言葉にアルセン殿下は苦笑される。
そうよね。彼の父、前皇帝陛下は好色で戦闘狂。死後に隠し子が何人も出てきたって噂がある。本当かどうかは知らないけどみんなノワールに殺されたとか。
「今回お招きしたのは医療の共同開発について伺いたいことがあったからです」
「私も聖力について教えていただけると有難い。何が医療の開発に繋がるか分かりませんので」
「私は構いませんが、中にはあまり快く思わない者もいます。怪我を治すことができるその力は神に選ばれたからこそ使える。神の御業として誇りを持っている者もいますので、医療の開発の為に学ぶ、あるいは実験に使うなどをしようものなら大げさに聞こえるかもしれませんが、快く思わない者もいます。その者がどのような行動に出るか分かりませんのでくれぐれも気をつけてください」
つまりは教会側の人間ね。
医療の共同開発が進んでいけばいつかは聖力を持つ天族が要らなくなる。
そうなると聖力で殆どを補っているこの国は間違いなく破綻する。
「分かりました。気をつけます」
にっこりと笑顔を見せるノワールになぜか周囲の従者たちは胡散臭いものでもみるような目で客人を見ていた。
「それでは、私はこれで。長旅でお疲れでしょうから夕食はお部屋に運ばせていただけますね」
「助かります。ありがとうございます」
さて、善意だろうか。
あのアルセン殿下はわざわざ寝室を一つにしたり。
アルセン殿下が出て行くと私たちは二人きりになった。
自分の部屋ならリラックスして部屋で楽しめるかなと思ったけど実際はそんな余裕が私にはない。
「どうする?少し早いけど先にお風呂使う?」
「一緒に入るという手もあるぞ」
「ありませんっ!」
にっこりと笑って冗談を言うものだから久しぶりに私の顔が真っ赤に染まった。




