154.リーゼロッテ視点
「あり得ない。こんなの誘拐と同じだわ」
私は今、ドレスで鬱蒼と生い茂る森の中にいた。
理由は私の自称婚約者とお兄様の婚約者であるエレミヤ様の企みに嵌ったせいである。
一時間ほど前
いつの間にか眠っていた私の目に飛び込んできたのは見知らぬ天井
そして私は家の形をした外と殆ど同じような建物の中にいた。
天井や壁は木で作られているが問題は床だ。
床は大理石でもなければ天井や壁のように木でできているわけではない。ただの地面だ。そこに薄い布団とも呼べない、布切れを敷かれた上に私は寝転ばされていた。
起きた私は急いで全身くまなくチェックした。
寝ている間に虫にでも刺されたら大変だ。
「良かった。問題はなさそうね。ここはどこ?」
お兄様が突然、「今からオルソン殿と一緒にネメア島に行け」と言ってきた。当然、私は反発した。でも気が付いたらここにいた。
お兄様が突然、国から出て行けなんて言うはずがない。
きっとエレミヤ様がまた何か余計なことをお兄様に言ったに違いないわ。私がお兄様に愛されているからって嫉妬して。
多分、記憶が途絶えているのもきっと彼女が私に一服盛ったに違いない。
意識のない私をオルソンが無理やりここへ連れて来た。
‥‥‥っていうことはここはネメア島?
さぁっ。と、血の気が引いた。
「誰か、誰かいないの?」
さっさと帰らないと。きっとお兄様が心配しているわ。
「ああ、やっと目が覚めたのね」
私の声に反応して女が一人入ってきた。
平民だろうか?
とてもラフな格好をした女だ。
「私は今すぐ国に帰るわ。あなた、準備してくださる?」
きょとんとした後、女は急に声を上げて笑い出した。なんて失礼な女だろう。
「お嬢ちゃん、何を言ってんだい?そんなの無理に決まってるだろう。お嬢ちゃんはオルソン様の嫁。帰る国はここだよ」
「そんなのは嘘よっ!私は帝国に帰るわ」
私がそう言うと急に女は「オルソン様じゃあ、不満だってのかい?」と急に怒り出した。
当たり前じゃないか。私は帝国の皇女なのだから。つりあう相手は同じ大国の男だけだ。そんな常識もないなんて嫌になるわ。
「そんなに帰りたければ帰ればいい。止めはしない」
そう言って現れたのはオルソンだ。しかも、平民の女と同じとてもラフな格好をしていた。
騙された。
高貴な血の人間だと言っていたのに平民だなんて。
「あなた、王族なんて嘘だったのね」
「?王族だ。この国の第五王子。と言っても、ここの王は世襲制じゃない。強い者が王になる。だからお前が見下すただの島民でも王族の血は流れている。一代限りの王だからな。それより帰るんだろ。さっさと帰れよ。言っとくけど、俺たちは手助けしない。そんな義理もメリットもないからな」
なんて男だ。
「あなたが勝手に連れて来たんでしょう」
「違う。俺は正当な取引をしたんだ。あんたの兄と」
「オルソン、そいつが新しい妻?」
三人の女が入って来た。一番年かさの女がオルソンの首に腕を巻きつかせる。
「ああ。紹介しよう、エルヘイム帝国の皇女殿下、リーゼロッテだ。リーゼロッテ、彼女たちは俺の妻、右からリーファ、トゥーファ、リベルだ」
吊り目の如何にも気の強そうなのがリーファ、好奇心旺盛な猫のような目で私を見ているのがトゥーファ、穏やかににこりと笑っただけの雰囲気だけで言うのならフィリミナ様に近い女がリベル。
「リーゼロッテ、ここでの生活やルールはお前の先輩に当たる彼女たちから聞け」
「気安く呼び捨てにしないで。私は帝国の皇女よ。私は国に帰る。あなたやエレミヤ様の思惑通りに事が運ぶと思わないで」
「は?エレミヤ殿下は関係ないだろう」
ふぅん。庇うんだ。つまり、そういう関係なの?
お兄様というものがありながらエレミヤ様はお兄様を裏切っていたのね。なんて人なの。必ず国に帰ってエレミヤ様の本性を白日の下に晒してやる。
「まぁいいや。帰りたきゃあ好きにしろよ。俺たちは手助けしないし止めもしない。ここでは自分の命の責任は自分で持つのがルールだ。まぁ、頑張れ」
投げやりにオルソンが言い、他の妻と紹介された女たちも「頑張ってね」と手を振る始末。
私はそんな彼らに腹を立てながら家とも呼べない建物を飛び出した。




