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「エレミヤ様、リーゼロッテ皇女殿下から遣いの者が来ています」
カルラの言葉にノルンはお茶を淹れていた手を止めた。
「用件は?」
「お話があるのでお部屋に来て欲しいそうです。呼びつけるなどかなり不躾に感じますが、あちらは謹慎中なので仕方がないのかもしれませんね。いかがいたしましょう?」
答えは分かりきっているので形だけカルラが確認する。
「会う気はないわ」
「畏まりました」
カルラはリーゼロッテの遣いに返事をしに一旦退室した。
ノルンは紅茶を淹れる作業を再開した。
「あれだけ迷惑をかけておいてよく会ってくれると思えますよね」
ノルンが淹れたての紅茶をテーブルの上に置く。私はまず紅茶の匂い楽しむ。それから紅茶を一口飲む。爽やかな味が口の中にいっぱいに広がる。
「仕方がないわよ。向こうは迷惑をかけた自覚がないんだもの。謹慎を命じたのはノワールだけど、そうなるように頼んだのは私。リーゼロッテ様を監視している騎士も私が命じて監視させていると思っているようよ」
「何ですか、それ?」
ノルンは眉間に皴を寄せて不快を顔全体で表現している。
「おかしいわよね。テレイシアの王女が帝国の騎士に命じられるわけがないのに。私の専属護衛ならともかく。そうでないのなら私に命令する権利はないし、向こうに従う必要はないのに。彼女には私が何でもできるように見えるのでしょうね。買い被りも良いところだわ」
多分、リーゼロッテはこのまま謹慎処分が明けたと同時にこの国から出て行くことになるだろう。
彼女は納得しないだろうけど元々、婚姻に意志は関係ない。
嫌がるリーゼロッテを国から出す方法は幾らでもある。例えば、薬で眠らせている間に連れ出すとか。
「まぁ、どうせ後少しの辛抱よ。謹慎処分されているのだしもう会うこともないでしょう」
「そうですね。交流会もあと少しで終わりますし。マルクア神聖国のフィリミナ様も直ぐに帰ることになるのでやっと静かになりますね」
「‥…そうね」
マルクア神聖国。
問題の多い国ね。アヘンのこともあるし、このまま終わりそうにない気がするわ。それにノワールも何らかの形で決着をつけさせるだろうし。
がたんっ
「何?」
「エレミヤ様」
窓の外、バルコニーから物音がした。ノルンが庇うように私の前に立つ。カルラは私の安全が確保されていることを確認してから物音がした窓に近づく。
「‥…リーゼロッテ様」
ひょっこりと窓の外からこちらを覗き込んできたのはリーゼロッテだった。
緊迫した空気が一気に霧散したがなぜ謹慎処分中の彼女が部屋の外に居るのか全員の頭に疑問が浮かんだ。
「ノルン、ノワールに報告して来て。それと部屋の外にいるシュヴァリエとディーノを中に入れて」
「畏まりました」
ノルンが出て行き、代わりにシュヴァリエとディーノが中に入って来た。二人はいつでも私を守れる位置に立つ。私はカルラに窓を開けるように指示した。




