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「あぁ~、つまんないなぁ」
フィリミナの部屋の前に来た。
「フィリミナ様、お茶をお持ちしました」
中に入ると退屈そうに本を開いたり閉じたりしているフィリミナがいた。ソファーの上でだらしなく寝そべっている彼女はまさに平民だ。
マルクア神聖国で本当に彼女は淑女教育がされていたのだろうか?
いくら部屋に使用人しかいないと言ってもここは他国なのだからもう少し気を遣うべきだと思う。
私が紅茶を入れてテーブルの上に置くとフィリミナはげんなりした顔でカップを持ち上げる。
カップを左右に揺らして中に入っている茶色の液体を見つめる。
「お茶しかないのよね。たまには炭酸が飲みたいわ」
タンサン?
初めて聞く単語だ。マルクア神聖国ではそのようなものがあるのだろうか。さり気なく周囲を見てみるとみんなすました顔をしているけどあれは絶対に分かっていない顔だ。
「ねぇ、あなたは作れないの?炭酸」
フィリミナが話題を振ってきた。
「申し訳ございません。その、タンサンというものはどういったものでしょうか?」
「飲むと口の中がシュワシュワするのよ。飲み込んだ時に、喉に刺激を与えてくれてそれが癖になるの」
‥…それって毒じゃないの?
そんなの出したら私、処刑されるよ。
彼女は自殺志願者なの?それとも私にそれを出させて『毒を盛られた』って騒いで貶めるつもり?もしそうなら何の為に?
私がエレミヤだとバレているわけではなさそうだ。
『あぁ~、つまんないなぁ』
部屋に入る前にフィリミナが言っていた言葉だ。
ただの暇つぶしの為に一介の侍女の運命を捻じ曲げるつもり。
あっ、こいつはクズだ。
「暇つぶしにリーゼロッテ様の所にでも行こうかな」
フィリミナは私が淹れたお茶には一切手を付けずに立ち上がった。
「聖女様はリーゼロッテ様と仲がよろしいのですね」
「お友達になったの。リーゼロッテ様はエレミヤ様と違って優しいもの」
悪かったわね。ご期待に添えなくて。
「しかし、急に訪ねて大丈夫でしょうか。最近はご婚約者のオルソン第五王子と一緒に過ごされていると伺っておりますが」
「大丈夫よ。いちいちお伺い立てるのとか面倒だし、悪かったら『悪い』って向こうが言ってくるでしょう。それにオルソン様と婚約したくないって言ってたし。リーゼロッテ様もオルソン様に無理やり迫られてきっと迷惑しているはずだわ」
「フィリミナ様はリーゼロッテ皇女殿下をお助けに行かれるのですね」
テーブルの上に置かれたまま手つかずのお茶を片付けていた侍女の言葉にフィリミナは「そうよ」と頷いた。
次々に周りの侍女たちは「素晴らしい」だの「お優しいだの」と言い始める。
私は適当に彼女たちに合わせた。
正直、全く理解できないけど。




