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「リーゼロッテ、あなたはノワールの役に立ちたいとは思わないの?」
「思います!」
リーゼロッテは噛みつくように私に返してきた。
彼女の目には完全な敵意が宿っている。
「なら大人しく皇族としてオルソン殿の元へ嫁げ」
「嫌です!」
ノワールの額に青筋が立っている。
オルソンはやれやれという感じでリーゼロッテを見ている。リーゼロッテを嫁にするとしたら一夫多妻でなくては無理だろう。
「矛盾してるだろ。俺の役に立ちたいと言いながら嫁げないなんて。お前がオルソン殿に嫁ぐことは一番帝国の為になるんだが」
我儘ばかり言うリーゼロッテにノワールはため息交じりに言う。
「帝国を出たらお兄様のお役に立てません」
「お前が帝国を出ることは俺の役に十分すぎるほど立つ」
傍に居たって問題事ばかり起こすからね。本人にその自覚がないから反省のしようもない。反省ができないから直すこともできない。本当に厄介な存在だ。どうしてこんなのが皇族に生まれて来たんだろう。
「私はお兄様の傍でお兄様を支えたいです」
周囲の人が忍び笑いをやめて息を呑む。
私もノワールもオルソンも呆然とリーゼロッテを見た。彼女だけが気づいていない。自分が何を言ったのか。その言葉が何を示唆しているのか。
「それはどういう意味での言葉ですか?オルソン殿下の元に嫁がず、ずっと独身を貫くつもり?」
思ったよりもずっと声が低くなった。
「そんなにオルソン殿下との婚姻が大事で推し進めるのなら帝国の為にエレミヤ様が婚約をすればいいじゃないですか!そして私がお兄様と婚約します。そうすれば私はずっとお兄様の傍で、お兄様を支えられます。これで全て丸く収まりますね」
無邪気な子供のように「名案だ」と自画自賛するリーゼロッテに私が怒るよりも先にノワールが動いた。
「エレミヤは俺の婚約者だ。誰にも渡すつもりはない。お前、俺のエレミヤを誰に渡すと言った?」
「ひっ」
リーゼロッテはがくがくと体を震わせ、ノワールを見上げる。
隣に立つ私もノワールの怒りがびりびりと伝わって来る。産毛が全て立ち上がり、隠し持っていた暗器を無意識のうちにとろうとしていた。
「何を勘違いしている?エレミヤは現段階でテレイシアの人間だ。彼女がテレイシアの為に動くことはあっても無条件で帝国の為に動く理由はない。俺と婚姻して初めてエレミヤは帝国の人間になる。お前、いつからテレイシアの王女を顎で使えるほど偉くなったんだ?」
「あ、あ、あの、私はただ、お兄様を支えたくて」
ノワールの怒気を一心に受けながらも意見を言うなんて根性だけはあるようだ。
「支える?笑わせる。お前にできることなんてない。今まで問題しか起こしてないだろうが」
ノワールがそう言うときっとリーゼロッテが私を睨む。どうして私に矛先を向ける。
「そんな出まかせをお兄様に吹き込んだのね。酷いわ、エレミヤ様。私はエレミヤ様と仲良くしようと思っていたのに」
なるほど。彼女の中では私はリーゼロッテとノワールの仲を引き裂き、更にリーゼロッテを虐める悪女という位置づけかしら。
リーゼロッテがノワールに好意を抱いていたのは分かっていたけど。
「ある程度知識を持ってこっちに来たけど、すっごい女だなぁ」
今まで黙っていたオルソン殿下が口を挟んだことによってみんなの意識がリーゼロッテとノワールからオルソンに向かう。




