130.ドミニカ視点
「さて、どうしようか。この女は」
私は髪の毛を掴まれ、引きずられながら王宮の地下まで連れてこられた。おかげで髪が何本か抜けてしまった。
地面に転がされた私をノワール陛下とジェイが冷たく見下ろす。
どうして私がこんな目に合わないといけないのよ。
私はただ自分のあるべき場所に戻ろうとしただけなのに。そうよ。エスイルの時だってセシルに貶められなければ私が王妃になっていたのよ。その私が皇后になるのは当然でしょう。
「あんなバツイチの恥知らずな小娘よりも私の方が皇后に相応しいわ!」
「お前が皇后になったところで一日ともたずに暗殺されるだろうよ」
「何を言っているの。そんなわけ」
「あるんだよ。この帝国では。皇后の座は誰もが喉から手が出るほどのものらしいな。そこにある責任だの義務だのは他人に押し付けるが権力と財力だけは都合よく手に入れようとする輩は至る所にいる」
嘘ではないことは彼の目を見れば明らかだった。
でも解せないことがある。
「エレミヤは生きているじゃない」
「当たり前だろ。俺が選んだ女だ。あれには自分を守るだけの術がある。それに、俺がそんな雑魚をやすやすとエレミヤのところまで辿り着かせるわけないだろ。そんな脳みそでよく皇后になろうと思えるな。ああ、だからか。だから平気でこんなものを俺のエレミヤに送りつけて来れたのか」
そう言ってノワール陛下が侍女の横に放り投げたのは私が以前から懇意にしていた暗殺者だ。エレミヤを殺すように命じていたのに、あれだけの金を払ってやったのに失敗しやがった。
「誰よこいつら、そんなの知らないわよ」
「お前が雇った証拠は既に押さえている。レベッカ公爵家とオズワルドには報告済みだ。お前が否定しようが喚こうがお前の未来は変わらん」
「っ。どうして、たかが箱入りの王女相手に」
私の言葉をジェイは鼻で笑った。
「本当の箱入りならここにはいませんよ。それにエレミヤ様には常時、陛下がつけた影がいますから。彼女についている護衛、シュヴァリエたちに辿り着く前に処理されていることの方が多いんですよね、実は。彼らは最後の砦のようなものです。それを務めるだけの実力はあるので。どのみち影がついていなくてもシュヴァリエたちが止めていたでしょう。皇帝陛下の婚約者をあなたが今まで殺してきた貴族令嬢たちのように簡単に殺せると思ったんですか。その頭は本当に何も入っていないようですね。振ったらカラカラ音がするんじゃないですか」
そう言ってジェイは私の頭を足で小突く。
その態度も私を見下したような視線も本当にむかつく。
「で、この女の処理をどうするかなんだが」
「はいはい。ワタシに任せて頂戴」
第三者の野太い声が地下に響いた。がたいの良い体。明らかに男なのに着ている服はフリルだらけのドレス。何こいつ、気持ちが悪い。
「ちょうど実験動物が欲しかったのよ。新しい新薬の為のね」
「そうか。好きに使え」
「ありがとう、陛下。おら、行くぞ。小娘」
「ちょっと、放しなさいよ。痛い、髪を引っ張らないでよ」
私はまた髪を掴まれ、地面を引きずられるように連れて行かれた。




