127.フォンティーヌ視点
久しぶりに会ったエレミヤ様は少女のようによく笑う、カルヴァン元陛下の時には決してみられることなかった表情ばかりだ。
庭を散策するエレミヤ様を時折見かけることがあった。
「順調のようだな」
今はノワール陛下の執務室で打ち合わせをしている。
「ええ。膿も出し尽くしました。国の平定にはまだ時間がかかりますがそれも問題はないかと。現王も王妃様もとても優秀ですから」
因みにクルトは騎士見習いからやり直しだ。新しい騎士団長が根性を叩きなおすと言っていた。
「そう言えば、女狐の鳥にだいぶ苦労させられているようですね」
ノワール陛下は机にあった書類を取ろうとしていた手を一瞬止めて私を見る。
「何のことだ?」
「ドミニカ・レベッカが昔、エスイルで妹のセシル嬢を殺そうとしたのは事実ですよ。暗殺者を雇い、襲撃させたとか。王族の婚約者になりたいが為にね。恐ろしい話です。けれど、セシル嬢に返り討ちに合い、セシル嬢によりオズワルド国に追いやられたとか。それで懲りればいいのに彼女の様子から現皇后の座を狙い、エレミヤ様を排除しようと考えているようですね」
ここに来てからドミニカはノワール陛下だけではない。私も含め、大国の関係者に近づこうとしている。豊満な胸を押し付け、何人かと体の関係を持っているとの情報も手に入れている。節操のない女性だ。
「随分と関心が深いな」
「エレミヤ様の害となる可能性が出てきたので急遽、情報を集めました」
私の言葉にノワール陛下は口元は笑みを刻んだままだけど目は鋭くなった。殺気だけで人を殺せそうなほどだ。
良かった。エレミヤ様を大事に思われているのは事実のようだ。少し寂しくはあるけど。けれどどんなにノワール陛下がエレミヤ様を大事に思われていてもそれが幸せに繋がるとは限らない。それが王宮の恐ろしいところだ。
「フィリップ王子の気性は少しカルヴァン元陛下に似ています。欲しいものは必ず手に入るのだという傲慢さが。厄介なところは彼よりも頭が回るというところでしょうか。ドミニカ・レベッカとフィリップ王子はここ最近よく会っているそうですよ。ドミニカ・レベッカは皇后の座が欲しい。フィリップ王子はエレミヤ様が欲しい。利害の一致というやつですかね」
「だろうな。人の物を欲しがるなんてどいつもこいつも躾がなってねぇな」
「人のことを言えますか。あなただってエレミヤ様を我が国から奪ったではありませんか」
王族ってみんなどこか図々しいところありますよね。と、嘆息する私を見てノワール陛下はケラケラと笑った。
育った環境ゆえかノワール陛下には王侯貴族のような気品というものがあまりない。まぁ、それをカバーできるほどのカリスマ性があるので何も問題ないようだが。
「あまりエレミヤ様を不安にさせないでくださいね。私が言えた義理ではありませんが。もし泣かせるようなことがあれば遠慮なく今度は私があなたから奪います」
ノワール陛下の殺気を笑顔で受け流して私は執務室を出た。




