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運命の番?ならばその赤い糸とやら切り捨てて差し上げましょう  作者: 音無砂月
第1章 夫には既に運命の赤い糸で結ばれた相手がいました
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9

「強がっちゃって」とユミルは笑う。

ユミルは赤い紅をのせた唇に弧を描き、テーブルの上に両肘をつける。

手を合わせて、その上に顎を乗せる。

「みなさんもそう思いません?どんなに身分が高くても周囲に嫌われている王女は哀れだと」

ユミルは当然、周囲から賛同の声が上がると思っていた。ところが、誰も何も言わない。

みんな、お互いに目配せして何とかしなさいよと無言の押し付け合いをしている。

きっと、私がユミルにやられるだけの大人しい王女だとでも思っていたのだろう。そういう王族は確かにいる。地位は高いけど、舐められたら王族でも簡単に呑み込まれてしまうのが社交界の恐ろしいところだ。

「どうしたのよ。返事ぐらいしなさいよ」

ユミルが苛立たしげに言う。

ユミルの取り巻きたちはびくりと体を震わせるだけで何も言わない。ドレスの上で手を握り締め、顔を俯かせる。

「無理強いはよくないわよ、ユミル」

「私の名前を気安く呼ばないでっ!」

「黙りなさい」

私は扇をぴしゃりと閉じた。目を細め、睨みつけるとユミルはあっさり黙った。どんなに王の寵愛深い番でも王族の威厳には敵わないようだ。いい気味ね。

あなたはゆっくりと調理して上げる。ユミル。私を侮辱した罰よ。

「今日はここでお開きにしましょう」

私の言葉を救いの手とでも思ったのかユミルの取り巻きたちは退室の挨拶をしてそそくさと出て行った。

「ユミル、これからよろしくね」

睨みつけてくるユミルに笑顔で答えて私も自分の部屋に戻った。


◇◇◇


「お嬢」

夜、ここへ来た時と同じように自室で食事をすませ、侍女たちを下がらせた後、天井から声がした。

スッと足音も立てずに長身の男が下りてきた。

老人のような白い髪に紫水晶のような瞳をした20代の青年だ。彼はハク。お姉様に仕える諜報員で魔族。因みに侍女服を調達してくれたのも彼だ。

転移魔法が使えるので私とお姉様の唯一の連絡手段。

私の身に何かあればすぐにお姉様に伝わり、同盟は反故になる。このことは陛下には言っていない。

いくら文化だからと言って本当に何の手も打たずに王族が嫁ぐわけがない。契約とは守られなければ意味がないのだから。ましてやこの同盟は対等のもの。ならば余計にそうなるように手を打つ。

あなたに染まりますという意味で自国の者を誰も連れてこないというのは聞こえはいいけど、体のいい人質のようなものだ。

「あの小童は随分と頭のねじがゆるいようですね」

「同じ王族とは思いたくないわね。残念ながらお姉様に報告できることはまだないわよ。それよりも調べて欲しい人たちがいるの」

私はユミルと今日会った彼女の取り巻きについての調査をハクにお願いした。

「分かりました。早急に調べましょう。それと話は変わりますが、護衛はどうなさったのですか?付近を見て回りましたがここの警備は緩すぎます。それに部屋の前に待機しているはずの護衛もいないようですが」

「護衛はいないわ」

「いない?」

ハクの顔が不快気に歪められる。目には怒りの感情が宿っていた。

「陛下には自分で任命すると言ってあるし、許可もいただいたわ」

「任命されるまではどうなさるおつもりですか?」

「私はここのお姫様みたいにか弱くないわ」

布団の下から愛用の刀を取り出してハクに見せる。

「自分の身ぐらい自分で守れる」

テレイシアの王族は性別に関わらず、幼い頃から武術を習う。

戦争になった時に王族として戦えるように。いつ命を狙われてもおかしくない立場だからこそ自分の身を自分で守れるように。

「お嬢、これはお守りです。一度だけですが物理攻撃を弾きます」

ハクの目と同じ紫水晶がついたブレスレットをハクは私の腕につけてくれた。

「綺麗ね。ありがとう」

「できるだけ、こまめに訪れるようにします。どうか、無理はなさらないでくださいね」

確約はできないので私は頷かなかった。そんな私にハクは困ったように笑うけどそれ以上は何も言わなかった。

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