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意図したわけではない。
偶然、見かけてしまった。
ドミニカとノワールが庭園にいるのを。何をしているのだろう。
ノワールはこの時間は執務をしているはず。どうしてドミニカと一緒にいるのだろう。
私はモヤモヤする気持ちを振り払うように首を左右に振った。
たまたま気分転換に庭に出たらドミニカと遭遇しただけかもしれない。
だって相手はレベッカ公爵夫人。彼女の夫も現在、帝国に滞在している。貿易の件で話を勧めているはずだ。
そんな中、関係を悪化させるようなことノワールがするはずがない。でも、レベッカ公爵には愛人がいるという噂がある。ドミニカとは仲が良くないとも。なら、これを機にドミニカがレベッカ公爵と離縁してノワールの側室になる可能性もあるのだろうか。
ノワールはドミニカを愛しているのだろうか‥‥‥。
どうして、こんなにも心がざわつく。
「どうかしましたか?」
「フィリップ王子」
フィリップ王子は私が気にしている窓の外を見てすぐに痛ましそうな表情をする。
私を慰めようと口を開きかけたのが分かったので私は不要だと首を左右に振ることで意思表示した。
そうと決まったわけではない。
ただ一緒に庭園にいるだけだ。
「エレミヤ殿下、人族であるあなたには理解できないかもしれませんが我々には『番』と呼ばれる存在が必ず存在します。もちろん、必ずしも出会うとは限りません」
知っている。嫌と言う程。
ああ、そうか。フィリップ王子はノワールの番はドミニカである可能性を言いたいのか。
仮にそうでなかったとしてもいつか出会い、私たちの関係は終わるかもしれないことを危惧しているのかもしれない。優しい人だと思う。
それが善意かは別にして。
「私ならあなたを救えるかもしれない」
何を言っているのだろうと私はフィリップ王子を見る。彼は私の頬に触れた。
後ろにカルラとノルンがいたけど相手は他国の王族なので何もできずにいる。さすがに私に危害を加えそうになったら動くだろうけど。
「私はあなたが」
その先に続く言葉が何か分からない。でも言わせてはいけない気がした。それは本能がそう感じたのだ。
「フィリップ王子、何か誤解をされているようですね。私は今の生活に満足しています。ノワールは優しいですし、彼となら良い夫婦関係を築けると思っています。あなたの言うようにノワールに番が現れたとしても私は大国テレイシアの王女です。そんな私を蔑ろにするほど彼は愚かではありません」
自分で言って、ずきりと胸が痛んだ。
痛む資格など私にはないのに。私は姉の命令で帝国を手に入れるためにここにいるのだから。
傷ついてはダメ。
悲しんではダメ。
望んではダメ。
欲張ってはダメ。
私にはそんな資格ない。
私はテレイシアの王女。女王陛下の望みを叶えるただの臣。
でも、本当にそれでいいの?
私はフィリップ王子から離れる。
彼の手がギリギリ届かない位置まで下がって礼をする。
「お気遣いありがとうございます。それでは、これで失礼します」
立ち去った私をフィリップ王子がずっと見ていたことも庭園にいるノワールがこちらを見ていたことも私は気づかなかった。




