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運命の番?ならばその赤い糸とやら切り捨てて差し上げましょう  作者: 音無砂月
第1章 夫には既に運命の赤い糸で結ばれた相手がいました
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8

「ごきげんよう、エレミヤ様」

エレミヤ様?

招待されたお茶会へ行くと椅子に腰かけたままの可愛らしい少女が私に話しかけてきた。

栗色の髪と茶色の目をしている。前髪はオールバックに。左右で小さなお団子を作っている。

ユミルは主催者らしく上座に座っている。

私は侍女になりすまし、何度かユミルの部屋に訪れていたが一応これが初対面だ。侍女の時は髪の色も変えていたし、目立たないよう地味なメイクをしていたのでユミルにはバレていないはずだ。

王妃である私に対して最低限の礼儀も取れず、あまつさえ許可もなく名前を呼ぶなんて無礼にも程がある。

「エレミヤ・クルスナーです。この度はお招きありがとう。急なお誘いではありましたが予定が空いていて良かったわ。主催者であるユミルはどなたかしら?私、まだ彼女と挨拶を交わしたことがないから存じ上げなくって」

下位の者が挨拶にも来ないなんて随分な礼儀知らずね。と、事前連絡もないお茶会を皮肉ってみたのだけど肝心の方には伝わっていないようだ。

「はぁい、私よ」

案の女、上座に座っていた栗毛の少女が元気よく手を上げて答えた。貴族の令嬢とはとても思えない。ここへ来る前にしっかりと躾をされていなかったのかしら。

竜族とは番を大事にしすぎるためにダメにしてしまう方がいるとは聞いて来たけど陛下はその典型のようね。

「同じ奥様どうし、これからよろしくね」

くすりとユミルの言葉に彼女の周りにいる令嬢たちが嘲笑を浮かべている。

ここは彼女の箱庭。私に味方はいない。

彼女たちはユミルと一緒に私を貶めるために集まった愚者。ユミルには陛下がついているから大丈夫だと踏んでいるのだろう。

ここでの暮らしを私が母国であるテレイシアにチクればあっという間に開戦できるのだけど。そこまで考えが及ばない辺り、よほど甘やかされて育ったのだろう。

とはいえ、私も無辜の民を悪戯に苦しめたくはない。

「それと、私の名前を呼んでいいのは陛下だけよ」

大人な対応をしよう。相手は礼儀も知らないガキ。いいえ、赤ん坊だ。いいえ、赤ん坊のような無垢さはなかったわね。なら、微生物ね。ええ、彼女にぴったりの生き物ね。

「私の名前も気安く呼ばないでいただきたい。何かはき違えられているようですが。陛下の寵愛が深かろうと、この国の王妃は私よ。身分の上でも公爵の養女より他国の王族である私の方が上。私があなたの名前を呼ぶことは許されても、あなたが私の名前を呼ぶことは許されないわ」

私の言葉にユミルは私を睨みつける。険しくなった目からは怒りの感情がメラメラと伝わって来る。どうやら彼女はかなりプライドの高い人間のようだ。

「王妃様が身分で人を判断してはいけないわ。貴賎を重要視するなんて間違っているわ」

私の言葉を敢えて歪曲したわね。良いわ。受けて立ちましょう。

「親しき者にも礼儀ありよ。尤も私とあなたは親しくないけど(親しくなりたいとも思わない)。貴賎ゆえの判断ではないわ。寧ろ私の苦言をそう捉えることができるのは、あなたが普段からそう思っているからではなくって?」

「まぁ、そんなわけないじゃない。祖国から誰一人連れてこれなかったあなたの為に陛下に侍女をつけてあげてってお願いしたのは私よ。あなたがあまりにも可哀そうだったから。こういうのをノーブレス(貴族)オブリージュ(の義務)というのよね」 

ここまで言うと私を嘲笑していたユミルの取り巻きたちはさすがに黙ってしまった。彼女たちは私が他国の王族であり、公爵家の養女であり陛下から寵愛されているユミルでも勝てる相手ではないと判断できたようだ。

要らぬ火の粉を浴びないために彼女たちは沈黙を選んだ。

馬鹿よね。ここにいる時点で同罪なのに。

「私が哀れ?無知とは恐ろしいものね。私はこの国にならって国から誰も連れてこなかっただけよ。陛下の隣に立つことを選んだのなら自国の文化ぐらい学びなさい。あなたにその頭があればだけど」

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