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「ごきげんよう、殿下」
フォンテーヌと別れた後庭を散策していたら客人であるドミニカと遭遇した。
「殿下も隅に置けませんわね」
にっこりと笑うドミニカには明らかな毒が含まれていた。
「どういう意味でしょうか?」
その毒に気づかないふりをして私はこてんと首を傾げる。
「ついて早々に殿方をお部屋に招き入れるなんて。私、殿下を誤解していましたわ。真面目なつまらない方だと思っていたけど、とても楽しい方だったんですね」
他国の王女に対してそのような言葉を言ってくるとは思わなかったので私は目を丸くした。
後ろに控えていた侍女のノルンとシュヴァリエも驚いている。
ドミニカは楽しそうにくすくすと笑う。無邪気な子供のような笑みだけど、私を見るその目には確かに嘲りがあった。
レベッカ公爵は他国の王族でも簡単に手が出せないほどの財力や権力を持っている。その妻となった自分も同じように敬われ、多少の不作法には今まで目をつぶられてきたのだろう。それ故の傲慢さか。
すっと目を細めた私は滲み出そうになる殺気を抑えてにっこりと笑った。
「あなたも面白い方ですね。フォンテーヌとは以前からの知り合いだったので招き入れたまでですわ。それに開放的なテラスでいったい何ができると言うのかしら?現に庭を散策していたあなたにも見られているし。疚しいことなんて何もないわ。陛下も許可してくださっていることよ」
私の言葉にドミニカはなぜか納得したような顔をする。
「そう言えばあなた方は番ではありませんでしたわね。しかもあなたは二人目の夫。緩くなるのは当然ですわ」
私がバツイチだと言いたいのかしら。
私が年下だからって随分と馬鹿にしてくるのね。
「あなたと公爵は随分と年が離れているわね。あなたの方は公爵が寛容なのかしら。公爵は女遊びが派手で有名ですし。いつ誰があなたにとって代わるか分からないわね」
「っ」
ばきりと黒い羽根をつけた赤い扇子が音を立てた。
何か心当たりがあるのだろうか。表情は強張り、目には焦りの色が滲んでいる。
ああそう言えば、公爵が平民の子を寵愛していると少し前に噂になったわね。そういう場合は妻であるドミニカに虐め倒され、駄目になるのが常でしょうけどレベッカ公爵はかなりのやり手。
ドミニカが起こす行動などすぐに予測して上手く隠しているんでしょうね。
何せ彼女は単純そうだもの。
私の言ったことがいつ現実に起きてもおかしくないのだ。まぁ、平民の娘に公爵夫人なんて荷が重すぎて無理でしょうけど。
公爵が本気なら全力でサポートして完璧な公爵夫人に仕立て上げるぐらいはしそうだ。




