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「ふぅ。連日のお茶会は疲れるわね」
お茶会を終えた私の着替えをカルラが手伝う。その間にノルンがお茶の準備をしてくれる。
するとドアがノックされた。
部屋の外で待機しているシュヴァリエかキスリングのどちらかだろう。
お茶の準備をしていたノルンが対応してくれる。
「妃殿下、リーゼロッテ王女殿下がお見えです。いかがいたしましょう?」
疲れているので休みたいがあまり王族を門前払いするのもよくはないだろう。
リーゼロッテは対応を間違えるといろんなところに飛び火して、結局はこちらが災難に見舞われるのだ。
ならば全てを把握して可能な限り回避もしくは被害を最低限に抑えたい。
「客間にお通しして。カルラ、そういうことだから急いで着替えるわよ」
「「畏まりました」」
お茶会用から普通のドレスに着替え、装飾品も最低限の物にして私は客間に行く。
「お待たせしてごめんなさい、リーゼロッテ様。それで急にどうしたのかしら?」
来る前に先ぶれを出さなかったことを暗に責めてみたけど、彼女は気づいてすらいない。分かっていたけど。
「ちょっと相談があって」
「・・・・・」
謝罪もしないままリーゼロッテは本題に入る。
「最近、お友達が冷たいの。お茶会に誘っても全然だし」
アヘンの一件でリーゼロッテは百害あって一利なしと自分の行動で明らかにしてしまったからね。こうなるのは当然。
「それで私にどうしろと?」
「え?」
きょとんとするリーゼロッテ。
私に相談してきたということはそのお友達と取り成してくれと私にお願いしていることになる。
彼女は今まで周囲に甘やかされて育った。願えば何でも叶う環境にいた。
だからこそ、計算ではないのだ。
無意識に願いは口にすればなんでも叶う。自分の思いをくみ取って周囲が動いてくれると思ってしまっているのだ。
残念ながら私は彼女の都合のいい道具ではないのでこの件で動くことはないけど。
「お友達が冷たいのはあなたが知らない間に何かしてしまったのではないの?」
私が聞くとリーゼロッテは悲し気に目を伏せた。
「そう思って聞いたんですけど、みんな教えてくれなくて」
「言えるわけないじゃない。王族相手に本心なんて」
私の言葉にリーゼロッテはとても驚いた顔をする。
「でもお友達」
「その前に身分が存在するわ。利益があるから彼らはすり寄って来るのよ。彼らが微笑むのは私たちに対してではないわ。私たちの価値よ。私たちに価値があるから微笑むのよ」
リーゼロッテは信じられない物でも見るような目で私を見つめる。そして哀れみをその目に宿す。
「そのような方ばかりではないわ。そんな考え悲しすぎる。エレミヤ様、カルヴァン陛下とのことは私も知っています。とても悲しいことだと思います。きっと身を裂かれる思いだったでしょう。人間不信になるのは仕方がないこと。でも心を閉ざしてしまわないで」
何を言いだすのかと思えば。
私はあまりにも滑稽なことを彼女が訳知り顔で言うものだから開いた口が塞がらなかった。
「そんな人ばかりではないわ。エレミヤ様、最近楽しそうにお茶会をたくさんしているじゃない。そこに集まっている人たちは純粋にエレミヤ様を慕っているのよ」
「ふっ。ふふふふ」
「エレミヤ様?」
笑いが止まらない。マナー違反だとは分かっているけど。
「あ、あの。どうしたの?私、そんなにおかしいこと言ったかしら?」
戸惑うリーゼロッテの声が聞こえた。
さて、この夢見がちなお子ちゃまに何と説明したものか。
「お茶会はお友達と楽しく過ごすものではないわ。あれも一種の政治よ。彼女たちの自領の特産物に興味があったから、役に立つと判断したから近づいただけ」
「では友達になるつもりはないと?」
彼女の言う友達はどういうものを指しているのかと疑問に思うが、彼女の周りにいた令嬢たちがどういう種類のものだったかを思い出してすぐに納得いった。
うわさ話好きでおべっかしか言わない連中ばかりだったわね。
「私の友達の定義は役に立つということよ」
「そんなの酷いわ。彼女たちが可哀そうじゃない。エレミヤ様、人を騙すのはいけないことよ」
そう言ってリーゼロッテは怒りながら部屋を出て行った。
「ふん。お友達、ね。王族に本当の意味でのお友達なんてできるわけないじゃない」
私は知っている。
社交界デビューを果たした頃から大人の世界に触れて私は学んだのだ。
みんな私に笑いかける。
みんな私を褒める。
でもその誰も私を見ていなかった。
確かにそこに居るのに誰の目にも私は映っていなかった。まるで幽霊のように。
彼らが私を利用するなら私だって彼らを利用する。世の中、ギブアンドテイク。
「願うだけで全てを無償に与えられたあなたとは違うのよ、リーゼロッテ様」