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「エレミヤ、不自由はしていないか?あまり顔を出せずに申し訳ない」
「あなたが忙しいのは知っていますので、気にしないでください。そう言えば、お茶会の招待状を頂いたんです」
「招待状?」
「ええ」
訝しむノワールに私は招待状を渡した。招待状の主はルーフェン侯爵令嬢。
「楽しいお茶会になりそうですわ」
私が言うとノワールは苦笑した。
「手助けは?」
「必要ありません。ルーフェン侯爵は必要な方ですか?」
「いいや」
「では、やり過ぎても問題はありませんわね」
「ああ」
ノワールの許可も貰ったことだし、お茶会には参加すると返事を書こう。
「今度、一緒に王都を観光しないか?」
「あら、デートのお誘いですか?」
私が冗談交じりに聞くとノワールはあっさりと頷いた。からかうつもりだったのに、あっさりと肯定されて逆にこっちが恥ずかしくなってしまった。
「お前のことだ。お忍び用のドレスぐらい持っているだろう」
普通の王女は持っていない。買い物は王宮に商人を呼びつけるのが普通だし、王宮の外に興味を示すこともない。
でもノワールの言う通り、数着ほど持っている。
「よくご存じで」
「お前のことだからな」
「っ」
どうしてそんな恥ずかしいことを真顔で言えるのだろうか。
それとも王族や貴族の男はそういう生き物なのだろうか。私が慣れていないだけ?
「に、日程が決まったら教えてください。その日は予定を空けておきます」
「ああ。頼む」
ノワールは仕事がまだ残っているとのことだったのでお茶の時間が終わるとすぐに執務室に戻っていった。
◇◇◇
「エレミヤ様」
ノワールが出て行った後、マクベスが私の前に降り立った。
「先ほど、我々と同じ暗部の者が様子を見に来ていました」
「様子を見ていただけ?」
「はい。敵意は感じませんでした」
立場上、私のことを知りたいものは大勢いるので仕方がない。一人一人相手にしてはそれこそキリがないだろう。
「どこの家の者か分かる?」
「申し訳ございません」
「別に良いわ」
何かあれば向こうから接触してくるだろう。
「それよりもルーフェン侯爵家について調べてくれる」
「畏まりました」
マクベスがいなくなった後すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干す。
「どこに行っても退屈しないわね」
蛇が出るか。あるいは別の何かか。
マクベスの調査結果。
ルーフェン侯爵はどうしようもないクズだということが分かった。
下位の者を人間とは思っていない典型的な上級貴族。欲しいものを手に入れるためなら手段は選ばない。そうやって潰された店が幾つもあった。
令嬢と奥方や侯爵自身も散財が激しく、家計は火の車。借金を返す為に借金をしている状態だ。
そして令嬢はフィグネリアの取り巻きの一人。
マクベスに調べてもらったお茶会の参加者全員、フィグネリアの取り巻き。
フィグネリア。どういう人なのかまだはっきりとは分からない。
ノワールは聡明な人だと言った。私もそう思う。そしてとても食えない人。何となくノワールと同類のような気がする。
敵か味方かもはっきりしない。調べようにも向こうのガードが固くてなかなか調べられない。
ノワールの元婚約者候補。