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運命の番?ならばその赤い糸とやら切り捨てて差し上げましょう  作者: 音無砂月
第1章 夫には既に運命の赤い糸で結ばれた相手がいました
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5

婚姻式から暫くして、私はいつも通り一人の朝を迎えた。そう、一人だ。

結婚初夜、彼は来なかった。来ないという知らせもなかったので私は寝ずに彼を待つことになった。何て気の利かない男だ。

寝不足のせいで気分が悪いので朝食はお茶だけもらった。

そろそろ王妃として陛下に会ってもいいんじゃないかと思う。

「ねぇ、陛下に会いたいのだけど」

「申し訳ありません、陛下は忙しくて」

視線を向けたエウロカからはお決まりの言葉が出てくる。

「そう。愛人と会う時間はあっても正妃と会う時間はないのね」

「愛人だなんて!」

私の言葉にヘルマが反応した。視線を向けると彼女からは怒りの感情がひしひしと伝わって来る。

「ユミル様は陛下の番です!陛下の唯一の存在です。そのようなお言葉は慎んでください」

番は王妃よりも格上だと思っているのだろうか。名前を呼ぶことさえ許されないなんて何様。

それにしてもヘルマは番を名前で呼べる仲なのね。確かに宰相も他の侍女も「番様」と言うだけで名前呼びはしていなかった。

独占欲の強い獣人の中には自分以外の者が番の名前を口にするだけでも許さない獣人がいると聞いたことがある。まぁ、番が名前呼びを許したら仕方がなく許可するとも聞くけど。

そして竜族は獣人族の中でも独占欲が強いと聞く。早くもヘルマがボロを出したと考えてもいいのかしら。

「ヘルマ、あなたこそ口を慎みなさい。誰に歯向かっているのか分かっているの?」

威圧するように言えば、ヘルマは僅かに後ずさる。

「愛人でなければ側室ね。ヘルマ、他の侍女たちも肝に銘じておくことね。あなた方が陛下に命令されて仕えることになった主人はこの国の王妃よ」

「っ」

ヘルマは悔し気に唇を噛み締めた。

カルラは瞠目をして、エウロカはヘルマの無礼を謝罪した。彼女が侍女の中で一番上だものね。統括する立場にいるのだろう。

観察する限り、エウロカが指示をだしているようだし。


◇◇◇


侍女たちを下がらせた後、私は貴族の勢力図を確認しながらお茶会に招待するメンバーに手紙を書いていた。

すると、ドタバタと騒がしい足音が3人分聞こえてきた。

「いけません、陛下。王妃殿下の部屋を訪ねる前には先触れを出さなくては。王妃殿下に対して失礼に当たります」

「うるさい!ここは私の城だ。なぜ許可などいるんだ」

最初に聞こえたのはフォンティーヌの声。次に聞こえたのは初めて聞くけど内容からして陛下だろう。

私の前で止まった3人分の足音。

バンッと荒々しくノックもなしに開けられた扉。真っ先に入ってきのは婚姻式で初めて会った夫カルヴァン。

右横に顔を真っ青にしたフォンティーヌ。左横には私が嫁いできて以来姿を見ていなかったクルトがいた。

「ご機嫌よう、陛下」

私は立ち上がり、礼儀に則った礼を取る。

「陛下っ!」

挨拶もせずにズカズカと私の前まで来る陛下にクルトは黙って従い、フォンティーヌは切羽詰まった様子で私と陛下の間に立つ

「どけ、フォンティーヌ」

「できません」

「これは命令だ!」

「承服できません。陛下、まず落ち着いてください。今、あなたの目の前にいるのはあなたの妻であり、テレイシアの王女です」

「私の妻はユミル、ただ一人だ」

「陛下っ!」

フォンティーヌが陛下の言葉を咎めるが、彼は言い直す気はないらしい。

このままでは埒が明かない。

「構いませんわ、フォンティーヌ。陛下は私に用事があるのでしょ。私も陛下に用事があります」

私の言葉で渋々ではあるがフォンティーヌは体を横にずらした。

それでも直ぐに対処できる位置取りはしている。

余程、陛下が私に何かすると思っているのでしょうね。

陛下は私に暴力でも振るう気かしら?

そうなれば国際問題ね。今までの態度だけでも十分、国際問題に発展しかねないけど。

でも大丈夫よ、フォンティーヌ。すぐに国際問題にしたりはしないから。

まだ国内の掌握ができていないもの。

「早速おねだりか?」

何を勘違いしているのか陛下から訳の分からない言葉が飛んできた。

私が首を傾げると陛下は私を鼻で笑った。馬鹿に馬鹿にされるというのはかなりイラつくものね。

「それで、一体何が欲しいんだ?宝石か?ドレスか?」

おねだりとはそういうことか。勘違いも甚だしいことだ。

「そのような珍妙なドレスまで用意せずとも王妃用の予算がある。そこから好きなだけ使えばいいだろう。私はお前のように遠回しにおねだりをする女が大嫌いだ」

勝手に思い込んで勝手に決めつけて。これが一国の王か。

お姉様の言う通りね。先がしれているわ。

「これは我が国のドレス・・・・民族衣装です」

私のドレスは左右に分かれている襟を前で合わせているもの。

一体型ですとんと落ちるようなこの国のドレスとは違い、帯と呼ぶ太めの布を腰に巻いているし、露出度もあまりない。

「この国の王妃になったのだから、自国の物は全て捨て、この国に染まるのが道理だろう」

礼儀知らずに道理を問われる筋合いはない。

それに何が王妃だ。後宮にも入れず、王妃の寝室も使えず、初夜すら迎えていないのに。

「お互いの国の文化を尊重するのも婚姻の目的の一つではありませんか?」

「それ程までに自国が好きならカルディアスに来なければ良かったんだ」

「陛下っ!」

フォンティーヌに咎められ、カルヴァンは不貞腐れた子供のようにそっぽを向く。

この人相手では本当に疲れる。

「陛下、お茶をどうぞ」

カルラにいれてもらったお茶とついでに席を勧める。

さっさと用件をすませて帰ってもらおう。

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