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VS聖剣の勇者 そしてレベルアップ

 振り返ると、そこに居たのはやはり陣内だった。いつもの二人はいない。


 陣内はどこかで着替えてきたのか、服装が昔の貴族のようなものに変わっている。やたら派手な衣装だが嫌味な性格には良く似合っていた。


 陣内は倒れたままの騎士をちらりと見ると、小馬鹿にするような笑みを向けてくる。


「お前でも弱い現地人は倒せるんだなぁ、良かったじゃん?」

「……何か用かい? 陣内」

「いやなに、お前が弱い相手に勝ってイキがったら今後大変だと思ってな。最後になるかもしれないし、身の程を教えてやろうと思ったんだ」

「いらないよ、自分のことはよく分かってる」

「まぁそう言うなよ、あれだよ、模擬戦だよ。何だっけ? 冒険者ってのは依頼を受けたりするんだろぉ? 俺に戦い方を教えてくれよぉ」


 陣内は懐から銀貨を一枚取り出して地面に放る。チャリンッと石畳に落ちる音が響いた。


「ほら、依頼料だよ。無職になったお前には大金だろぉ?俺はこれから幾らでも稼げるけどなぁ」


 ……なるほど、こいつはどうしても俺を昔のようにボコボコにしたいらしい。或いは手に入れた力を試したいのかもしれない。


「周りも注目の勇者である俺の実力を見たいだろうからなぁ? 誰も止めてくれないぜ?」


 周囲を見ると、陣内の言う通り各国の代表が興味深そうにこちらを見ている。止めてくれる相手はいなそうだ。


 俺は溜息を吐くと、「お手上げ」とでも言うように両手を顔の高さまで上げた。


「……俺はこれから自力で生きていかなきゃいけないし、三嶋さん達のことも守らなきゃいけないんだ。手加減はしてくれるだろ?」

「もちろんだ。……でも俺もまだ力の使い方に慣れてないからなぁ、ひょっとしたらやり過ぎちまうかもしれないなぁ。そうなったらゴメンなぁ?」

「…………」


 ……こいつは俺に酷い重傷でも負わせようと思っているようだ。あるいは死んでも構わないと思っているのだろう。


「それに三嶋さん達も顔はいいんだから、家族で股でも開けば食っていけるだろぉ? 加納なんかに守られなくてもいいさ」



 ぶちりっと、何かが切れた気がした。



「……陣内、俺に何かあったら三嶋さん達の面倒を見てくれないか?」

「はぁ? なに言ってんだ、そんなの……」


--ブスリと、言いかける陣内の両目に指を突き入れた。


「ぎぃゃああああああああああああっ」


 脱力した腕からジャブのように放つ目突き。ブルース・リーが創始した武術である『ジークンドー』において『ビルジー』と呼ばれている技だ。


 絶叫しながら目を押さえる陣内。

 俺はすかさず踏み込み、相手の顔を手で掴んで大外刈りを掛ける。


「うガっ!」


 柔道では決して使えない、真下に後頭部から叩きつける投げ方。体重を乗せた手で石の床に叩きつけられた陣内は肺の空気を吐き出し硬直する。



--俺と陣内ではステータスに差がある。まともに戦ったら不利だろう。そこで俺は戦術で対抗することにしたのだ。



 突然の『奇襲』に全く対応できない陣内。普通ならこの時点でオーバーキルだが、相手は異世界で高いステータスを得た人間だ。まだ油断は出来ない。


 俺は顔を捕らえた手を離さず、陣内のみぞおちに片膝を乗せて制する。ニーオンザベリーという体勢だ。


 相手を上から制する体勢と言えば馬乗り、いわゆるマウントポジションが有名だが、競技以外では自分の動きも制限されるマウントポジションよりこのニーオンザベリーの方が有効な場合も多い。


 俺はそのまま顔を押さえた手を放すと同時に、反対の拳を顔面に叩きつけた。


「ぎぃッ」


 悲鳴を上げる陣内に対し、続けて拳を振り下ろす。その拳は魔力によって鋼鉄のように固められていた。


 昨日、新たに魔力という力を得た俺は、すぐにその扱い方を研究した。見知らぬ土地で自分の武器を確認することはとても大事だからだ。

 魔力が少ないらしい俺だが、その分扱いが簡単なのかもしれない。しばらく試行錯誤すると、体の奥に感じる魔力を拳に集中できるようになった。


「がッ、グッ、ギッ、ひぃぃっ」


 ガンッガンッガンッガンッと拳を振り下ろし続けると、陣内は悲鳴を上げ始める。鉄の拳で殴られているというのにまだそんな元気があるとは。呆れたタフさだ、まだ続ける必要がありそうだ。


 俺は殴り続けながらも周囲を観察する。陣内を指名した『ジガ帝国』の騎士らしき男が止めに入ろうとしたが、他の国の騎士に制されている。大国らしき『ジガ帝国』の、注目の勇者をここで潰してくれれば有り難いと思ったのだろう。



「陣内、お前の言う通りだ。誰も止めてくれないな」



 殴りながら、語りかける。



「お前さっき、戦い方を教えてくれとか言ったよな? いいだろう教えてやる」



 陣内の顔面は変形し、声を発しなくなった。



「--戦いを舐めるな」



 俺はいつも、命のやり取りを想定して訓練していた。

 例えば町中で通り魔に遭遇した時、一般人なら逃げても構わないだろう。だが警察官や自衛官の場合はそうはいかない。たとえ休みの日であっても『市民を守る』と誓約した身である以上、人を見捨てて逃げてしまえば一生後悔することになる。


 だからこそ俺は格闘術の訓練にも真剣に取り組んでいた。平和な日本では一番使う可能性が高かったからだ。



 陣内が完全に抵抗しなくなったのを見て、俺は殴るのを止めた。

 殴られ続けたその顔は酷い有様で、地球でやればかなり不味い状態だ。だがこいつは『生命力』のステータスも高い。優秀な治癒魔法師というのもいるらしいし大丈夫だろう。


 俺が立ち上がり離れると、『ジガ帝国』の者達が陣内に駆け寄った。


 それを尻目に俺が三嶋さん達の元に戻ると、三嶋さんや次女の美香ちゃんがビクっと体を震わせる。かなり引いているようだ。美香ちゃんなど完全に怯えている。


 ……陣内を倒すのには必要だったとはいえ、随分えげつない技を使ったからな。日本の女性達には刺激が強すぎた。


 と、よく見れば一番小さい双子達は、怯えもせず目をキラキラさせている。二人は俺が近付くと先程と同じように飛び付いてきた。


「おじちゃんスゲーっ、あのひとすごいつよいひとだったんでしょっ?」

「いっぽうてきだった。すごかった」


 先程まで慕ってくれていたこの子達にも怯えられて避けられた場合、かなりのショックを受けるところだったが、大丈夫なようだ。


「……おじさま、本当に強いのですね。さすがに予想外でした」


 続く三女の芽衣ちゃんは怯えるのではなく何やら呆れた様子だ。この子は本当にしっかりしている。


 一番年長の真理ちゃんは……相変わらず何を考えているのか分からない無表情だ。無感動ということは無いだろうから、顔に出ないだけで心の中では何かを考えているのだろう。



 その時、自分の体に異変を感じた。


「……おや?」


 悪いものでは無い、今までより力が漲ってくるのだ。

 何が起こったのかは分かった。脳裏に自然と言葉が浮かんだのだ。



 どうやら俺はレベルアップしたらしい、しかも2つも。

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