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勇者ドラフト会議

 異世界に召喚された翌日、俺達被召喚者は大きな広間に集められた。


 広さは昨日の空間より少し狭いくらいだが、あの何もない空間とは違い華やかな内装が施され、幾つもの丸テーブルが設置されている。まるでパーティー会場だ。


 昨日はステータス測定の後、数時間に渡ってこの世界で生活する上での説明を受けた。地理や貨幣価値。それに勇者としての生活についてなどだ。

 それが終わると地上に上がり(この空間は地下にあった)、広い部屋へ男女別に入れられて泊まったのだが、硬いベッドと監視らしき騎士の存在のためよく眠れなかった。

 食事も出たのだが、意外なことに地球と変わらないようなパンにスープ、サラダ等だった。過去にも召喚された地球人が大勢いるという話だから、彼等に合わせたのかもしれない。


「これから、今回の召喚を行った14ヵ国の代表による『勇者選択会議』が行われます。昨日説明させて頂きましたが、会議ではあらかじめ定められた順番に従い皆さまを一人ずつ指名させて頂きます。各国の代表は指名した方との独占交渉権を得ることになり、基本的には指名された国以外に所属することはできません」


 勇者選択会議というのは、スポーツにおけるドラフト会議のようなものらしい。

 日本のプロ野球のドラフト会議と大きく違う点は、一巡目でも入札抽選を行わないこと。各国代表が事前に取り決められた順番で勇者を指名し、その指名した勇者との交渉権を確実に獲得出来ることになる。


「昨日、家族や恋人等で同じ国へ行くことを希望する方々の申請を受け付けましたが、他に居られませんか?居られましたら今のうちに申し出てください」


 三嶋さん達のように家族がいる場合は、別々の国に行くことにならないよう配慮してもらえるらしい。その場合、指名する国は家族全員を指名する形になる。家族の人数分指名したことになるため、もし一巡目で三嶋さん一家を指名した国があればその国は6巡目までの権利を行使したことになるわけだ。


「万が一、指名された国との交渉が締結されなかった場合やいずれの国からも指名されなかった場合、どこの国からも支援を受けられずに独力で生活して頂くことになります。皆さんが地球に御帰りの際はしかるべき場所に申し出てくだされば一緒にお帰り頂けますが、見知らぬ土地で自力で生活することは大変だと思われます。極力指名を受けた国に所属した方がよろしいでしょう」


 どこからも指名されなかったりした場合、僅かな金や装備だけ渡されて放り出されるらしい。その場合、モンスターを狩る等して生活する自営業(冒険者というらしい)になる者が大半だそうだ。まあ実際、異国の地どころか異世界の地でまともな働き口を見つけ、生活することは困難だろう。



 酷い話だ。やはりこの召喚を計画した連中は信用できない。



 しばらくすると、入口からぞろぞろと人が入ってきた。その人々は服装どころか顔つきも身体つきもバラバラで、中には明らかに地球には存在しないような種族も交じっている。耳の長いのはエルフだろうか?


 全員が丸テーブルの席に着くと、昨日から俺達に付いている女が演台に立った。彼女が司会らしい。


「各国代表の皆さま、お待たせいたしました。これより第8回勇者選択会議を開会いたします!」


 パチパチパチと大きな拍手が鳴り響く。この辺りの文化も地球と同じなのだなと、どうでもよい事を思った。


「それでは1巡目の指名を、今回の指名順1位である『ジガ帝国』からお願いします」


 係員らしき者が丸テーブルの一つに駆け寄り、そこに座っていた人間から紙を受け取る。あのテーブルに座っているのがジガ帝国とやらの代表で、渡した紙に希望する勇者が書かれているのだろう。


 紙を受け取った司会の女がそれを読み上げる。


「第1巡選択希望勇者、ジガ帝国。……ジンナイ・シンジ!」


 最初に指名されたのは陣内だった。あいつシンジなんて名前だったのか、すっかり忘れていた。


 ざわめく会場。各国の代表がそれぞれ思い思いに喋り始める。


「いやぁ、やはり取られましたな」

「今回の会議では最注目でしたからね。何せ『聖剣召喚』のスキル持ちだ」



 『聖剣召喚』というスキルは余程凄いらしい。多くの国が狙っていたようだ。



 ざわめきが収まらない中、次の国も先と同じように紙を提出し、それを司会が読み上げる。


「第1巡選択希望勇者、ガストン王国。……スギイ・ヒロシ!」


 陣内に続いて指名されたのは杉井だ。陣内とは別の国に行くことになる。


「ガストン王国はやはりスギイを選択しましたか」

「あの国は国全体が戦士好きですからな」


 会場はがやがやと騒がしい。まあ、此処に集まっているのは競い合う国々の代表で、行われているのは各国の戦力選びだ。話す内容などいくらでもあるだろう。



「第1巡選択希望勇者、ダミア王国。……ミズハラ・ケイタ!」


 指名は続く。三番目に選ばれたのは水原だ。


「ダミア王国はミズハラですか。順当ですね」

「魔法国家を自称する国ですからな、当然と言えるでしょう」


 どうやら陣内達馬鹿3人は別々の大国に行くことになるらしい。あいつ等で潰し合ってくれた方が周りは平和だろう。


 その後も次々と地球人達が指名されていく。だが俺や三嶋さん親子を指名する国は一向に現れない。



「ジガ帝国、選択終了」

「ガストン王国、選択終了」


 5巡目の頃には選択を終える国が出てきた。八十人程居た被召喚者の大半が指名を受け、残っているのは俺や三嶋さん達を含めた僅かな者達だ。


 この勇者選択会議では各国が指名できる被召喚者の人数に制限は無いらしい。全ての地球人が指名されるか、全ての国が選択終了を宣言するまでは続くということだ。なので残りの国が三嶋さん達を指名することもあり得るのだが……


「ウェスタ公国、選択終了」

「ロンド王国、選択終了」


 残った国が3つ、2つと減っていく、やがて……



「オーグ王国、選択終了」



 全ての国の選択が終わった。




 このとき、俺と三嶋さん親子が異世界に放り出されることが決定した。

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