ステータス測定
魔力の活性化とやらは一瞬で終わった。
ローブの女が取り出した水晶玉のようなものが光ったかと思うと、体の奥から今まで感じたことのない何かが沸き上がってきたのだ。これが魔力だろうか?
「これで皆さんは魔力が扱えるようになりました。それに連動して皆さんの肉体も変化し、身体能力も上がっていると思います」
確かに、何やら力がみなぎっている気がする。少し離れたところにいる男がその場でジャンプをしたが、1.5m位は飛び上がっただろうか。普通ではありえない。
「それでは、さっそく皆さんのステータスを計測させて頂きます。ステータスとは力や速さ、魔力といった皆さんの能力を表すもので、それを元に各国の代表が皆さんを指名させて頂きます」
鎧騎士達が大きな道具を幾つか運んでくる。それらは水晶玉と石板が一体となったような道具だが、あれがそのステータスとやらを計測する道具なのだろう。
「ステータスは、皆さんの持つ『力』『耐久』『速さ』『魔力』『生命力』の五項目を、それぞれAからGまでの7つのランクに当てはめます。各ランクは更に5段階に分けられ、下から『C1』、『C2』といったようになります」
なるほど。自衛隊でも隊員の能力を『体力〇級』 『射撃〇級』といった具合に表しているが、そのようなものか。ちなみに俺は射撃が最上位の『特級』だ。
「五項目のステータスの他にも『スキル』というものを同時に判定します。スキルというのは皆さんが持つ固有の能力で、この世界の一般人なら持っていても一つだけですが、地球から来た皆さまの場合多くの方が三つ程度持っています」
スキル、特技ということか? 軍事組織における特技なら『ヘリコプター操縦』 『車両整備』 『落下傘降下』といった兵士の特殊技能を示すが、似たようなものだろうか。
「スキルには主なものとして『攻撃系スキル』や『補助系スキル』などがあります。例えば、攻撃系スキルの『刺突』なら魔力を使用して通常より遥かに強力な突きを放てますし、補助系スキル『速度上昇』なら発動間動きが素早くなります」
特殊能力というわけか。なるほど異世界らしい。
「では順番に測定させて頂きますので、測定具の前に並んで頂けますでしょうか? その際、お名前と年齢も伺います」
その言葉に従い、皆ぞろぞろと列を作り始める。
「じゃあ俺達も一緒に並ぼう」
「はい。みんな、行きましょう」
三嶋さんに声を掛け、7人で同じ列に並ぶ。
しばらくして列が出来ると、早速測定が始まった。
「ええっと、アナタはスズキ・コウタさんですね?ステータスは……おお、素早さが『C3』です! レベル1で『C』があるのはなかなかですよ! 何か足を鍛えるようなことをしていましたか?」
「えっとはい、陸上部で短距離走を……」
「なるほど、それですね。地球での能力はステータスやスキルに反映されることが多いのです。必ずというわけではありませんが」
なるほど、地球で足が速ければここでの『速さ』も上がるのか。
「この世界ではレベルひと桁の時のステータスがおおむね『F』で、何十年も鍛えてレベル50近くまでなっても『E』という場合が殆どです。精鋭部隊の騎士だと『D』くらいですね。一方地球から来た方々だとより高く、レベル1で『E』から『D』という人が多いです」
地球人は最初から熟練兵以上の能力なのか。成程、国々が活用するわけだ。
「タナカさんのスキルは……『速度上昇(中)』がありますね! これは『速さ』と合わせればかなり強力ですよ!」
ステータスとスキルの組み合わせも大事らしい。『力』が強ければそれを活かせるスキルが良いわけだな。
田中さんの測定が終わると、次に並んでいたのは大柄な男。俺をいじめた三人の一人、杉井だ。
「スギイさんは……なんとっ、『力』と『耐久』が『A5』です! 初期値で『A』があるというのは凄いですよ!これは鍛えれば測定限界越え、いわゆる『S』まで到達できるかもしれませんね! 加えてスキルにも『力上昇(大)』があります。これは各国から注目の的ですよ!」
杉井はかなり良い結果だったらしい。余程嬉しいのか、嫌らしい笑みを浮かべている。
杉井に続くのは奴の仲間の小柄な男、水原だ。
「ミズハラさんですね。ステータスは……おおっ、アナタも魔力が『A5』です! しかも『魔法威力上昇(大)』のスキルもっ。……今回の召喚は凄いですね」
結果を聞いて、水原も杉井と同様嫌らしい笑みを浮かべた。あいつら実は兄弟なんじゃないか? 性根も表情もそっくりだ。
そして水原の後は連中のリーダーにして主犯格、陣内の番だ。
「ジンナイさんは……、なっ、なんと、スキルに『聖剣召喚』があります‼ これは伝説級のスキルですよ! 今回の召喚は稀に見る豊作ですっ」
やはり陣内も凄い結果らしい。
「他にも『斬撃』のスキルがありますねっ、『聖剣召喚』と合わせると凶悪な強さです! ステータスも『速さ』が『A5』に、他も軒並み『B』の上位。……ジンナイさん、ひょっとして『ヤキュウ』でかなり凄い人ですか?」
「ええ、分かるんですか?」
「はい、過去の地球人の方も、『ヤキュウ』をやっていた方は『速さ』が高く、『斬撃』や『投擲』のスキルを持っている傾向にありました。なんでも一つの斬撃の訓練を何万回も繰り返すのだとか」
バットの素振りは斬撃の練習にカウントされているのか……。
「いや~、スギイさんにミズハラさん、そしてジンナイさん。とんでもない逸材が揃いましたね~。今回の『勇者世界大戦』は盛り上がりますよ~」
あの連中は増々調子に乗りそうだな。誰かが被害に遭わなければいいけど。
そんな風に他所の測定結果を見ていると自分達の列も進み、三嶋さんの番になった。
この列の測定を担当しているのは騎士の男だ。歳は俺より少し上くらいだろうか。
「ミシマだな、後ろにいるのはお前の子供か?」
「はい」
「ではこの水晶に手を乗せろ」
三嶋さんが手を乗せる。するとその結果を見ていた騎士の顔が険しくなった。
「……『魔力』が『E』3で、他は全て『F』か。スキルも『魔法威力上昇(小)』のみ。……厳しいな」
「……そうですか」
あまり良い結果では無かったようだ。
続いて娘達の測定が始まるが、その結果は長女の真理ちゃんが三嶋さんと同じくらい、それ以外の子供達はそれより低くて、多くのステータスが『G』ランクというものだった。
「……子供は地球での経験が浅いからか、ステータスが低くなる傾向にある」
騎士が険しい顔で言う。
地球での経験や能力がステータスに反映されるということは、まだ体も成長しきらない子供だとそういうことになるのか。
「……次はお前だ」
三嶋さん達の測定が終わり、俺の番になる。彼女達が気になりながらも俺は水晶に手を置いた。
「……『力』『耐久』が『C3』、『速さ』が『D5』で、『生命力』は『C5』か、なかなかだな。魔力は……『G1』? 最低ランクとは。これも厳しいぞ」
……俺も良くない結果のようだ。
「スキルは一つだけ。しかも……スキル名が判別できないな。妙なスキルの場合稀にあることだが、どの道この『魔力』ではまともに使えんだろう。スキルの多くは行使に魔力を使うからな」
スキルとやらも無いも同然、と。
これは、三嶋さん共々困ったことになったかもしれない。