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真理の戦い(二)

「……しかし、キリが無いな」

「そうですね……」


 手榴弾によるトラップを含めて、既に100匹以上を倒してる。だが森からはまだゴブリンが次々と出現し続け、途切れる気配が無い。


 手榴弾の爆発や銃撃を浴びて最初は大いに混乱していたゴブリン達も、背後の森から響く恐ろしい声に押されてどんどんと前進してくる。彼等は倒されても倒されてもジリジリと前進を続け、とうとう外柵まで辿り着いた。


 村の外柵は木柵と鹿砦で構成されており、小柄で非力な下位のゴブリンはもちろんのこと、成人男性と変わらない体格と高い身体能力を持つゴブリンリーダーであっても簡単には越えられない。そのため外柵に取り付いたゴブリン達は手にした棍棒やナイフでまず鹿砦を破壊しようとした。


 だがそこへ、


--真横から飛んできた『宗吾の機関銃の弾』がゴブリン達を薙ぎ倒した。


 ダダダダダダダダッという大きな発射音。外柵のラインに沿うようにして飛来した機関銃の弾丸は、外柵へ群がるゴブリン達の体を容易に貫いた。


「ギィイィ!?」

「ギャアっッ!」


 突然横から銃撃を浴びせられたゴブリン達は再び混乱し、そのまま倒れていった。


 そう、これは宗吾が外柵と射線が平行するように配置した軽機関銃による射撃だ。


 真理達と離れて行動していた宗吾は柵の外側、真理達から見て左に少し離れた場所に陣取っていた。柵に迫るゴブリン達に対して真横から軽機関銃による射撃を行い、敵正面の盛土から射撃する真理達と連携して『十字砲火』を浴びせるためだ。


 外柵を構成する鹿砦によって足を止められていたゴブリン達を、無数のライフル弾が嵐のように襲う。外柵の前にはあっという間に血まみれの死体が積み重なった。


「……凄いな。これがソウゴの新しい銃の威力か」

「……宗吾は前から『軽機関銃が欲しい』って言ってましたけど、これは凄いですね」


 拠点の防衛で機関銃は大きな威力を発揮する。今も、新たにやってきた十数匹のゴブリンが1秒と掛からずに死体へと変わった。連射は出来ても貫通力が遥かに低い機関短銃ではこうはいかない。


「よしっ、このまま押し返すぞ!」


 ティアーゼの激が飛ぶ。真理も機関短銃に新たな弾倉を刺して狙いをつけ、引き金を引いた。


「ギャアアアアっ」

「ギィィイイイっ!?」


 ホースで水を撒くかのように機関短銃から浴びせられるピストル弾と、暴風のように飛来する軽機関銃からのライフル弾を前に、密集して突撃するという単調な攻撃しか出来ないゴブリン達は只々損害を増やすだけだった。下位種を盾にして何とか柵を越えようとする上位種達も、防ぎきれずに弾丸の嵐に巻き込まれるか、狙いすましたエルフの矢で射貫かれるかのどちらかだった。


(……この分なら凌げそうね)


 外柵まで迫っていたゴブリン達が粗方倒され、真理の気は少し楽になった。


 だがその時、ゴブリン達の後方から2つの青い影が現れた。


「ゴブリンキャプテンだ!」


 ティアーゼが鋭い声を上げ、すぐに火精石の矢を取り出してつがえた。


 ゴブリンキャプテンはこのゴブリンの群れの中では2番目に強いモンスターだ。熟練のDランクパーティでも討伐の際は十分に対策して連携しなければならない相手とあって、真理の少し緩みかけた気も一気に引き締まった。


 現れた2匹のゴブリンキャプテンは左右に分かれて突進してくる。


 ティアーゼが左の個体に狙いを付けたのを見て、真理は右側のゴブリンキャプテンに照準を合わせた。そしてすぐに引き金を引く。


 だが、


「っ、止まらないっ」


 正面から何発もの弾丸が命中しているにも関わらず、ゴブリンキャプテンはまるで止まる様子が無い。両腕で顔を庇いながら柵へ向けて走って来る。


 驚愕する真理に対して、そのゴブリンキャプテンは腕の間からはっきりと目を向けた。


「…っ!」


(私を狙ってる!?)


 これまで目にしたことのなかった強力なモンスターが自分を殺そうと向かって来る。ピンポイントで浴びせられたDランクモンスターの殺気を前に、真理の体は一瞬恐怖で硬直してしまった。


 ティアーゼはもう1匹のキャプテンを相手にしている最中。少し離れた場所にいる1号は彼女の正面から迫って来るリーダー達を撃つので手一杯。


 そのためこのゴブリンキャプテンは真理が迎え撃たないといけないのだが、彼女の躰は動いてくれない。


 そんな真理の様子を見て取ったのか、ゴブリンキャプテンは『ニヤァ』と笑みを浮かべた。モンスターにとって人間は豪勢な食事であり、また人間を殺すことは彼等にとって代え難い娯楽でもあるのだ。


 ゴブリンキャプテンはそのまま一気に外柵を越えようと、助走をつけて跳躍した。


 だがその時、


「ギャっ!?」


 横から飛来した軽機関銃による弾丸が、空中にいるゴブリンキャプテンの肩と足を貫いた。


 バランスを崩して落下し、地面に激突する青いモンスター。


 致命傷ではないが、動きが止まった。


( っ、ここで仕留めないと!)


 真理は瞬時に判断した。体は硬直したままだ。だが、 


「ッああああ!」


 真理は声を上げて体の硬直を無理矢理解くと、落下したゴブリンキャプテンに銃を向け、思いきり引き金を引いた。


 弾丸を躰中に浴びせられるゴブリンキャプテン。如何に威力の劣る拳銃弾といえど、近距離からこうも集中して撃ち込まれては無事ではいられない。彼は最初何とか弾丸から逃れようとしたが、


「ゴァッっ!?」


 弾丸が頭に命中すると流石に効いたようで、再び動きを止めた。


 真理はとにかく撃ち続ける。弾倉が空になるが真理はすぐにそれを交換し、更に撃ち続ける。


 そうして何十発もの弾丸を浴びせかけ続け、交換した弾倉が再び空になる頃になると、そのゴブリンキャプテンは青色だった全身を自らの血で真っ赤に染めて動かなくなっていた。


「はあっ、はあっ」


 どうやら仕留めたらしい。真理は荒く息を吐きながら、弾倉を交換する。


(……宗吾が助けてくれた)


 離れて戦っていても、しっかりと真理のことを守ってくれた。そう思うと、ゴブリンキャプテンの殺気を浴びて一度は恐怖に囚われた真理の心に暖かいものが流れ込んできた。口元には自然と笑みが浮かぶ。


「よし、良くやったマリ!」


 ティアーゼが笑顔で真理を労う。もう1匹のゴブリンキャプテンは彼女が連続で放った火精石の矢で倒されたようだ。その余波で他の多くのゴブリンも倒れ焼かれている。


「もう敵は200も残ってないだろう。あと少しだ!」

「はい、でもまだゴブリンメジャーが」

「心配するな、来ても私達で協力すれば倒せる」


 力強く断言するティアーゼ。


 如何にゴブリンメジャーといえど、宗吾の機関銃と真理達の機関短銃、それにティアーゼの矢で多方向から集中攻撃を浴びせれば倒れるに違いない。ティアーゼはこれまでの戦いからそう判断していた。


 「……噂をすればだ」


 ティアーゼの声を聞き真理が森の方に視線を移すと、そこには大柄な人間型のモンスターが立っていた。躰は紫色で身長は2メートル程。その体は屈強な戦士のようで、子供のように小さく頭でっかちな下位種のゴブリンとは似ても似つかない。


 ゴブリンメジャーだ。


 ゴブリンメジャーは森から出ずにじっと真理達の方を見ている。


「……? 来ませんね?」

「……ああ、何かを企んでいるのか?」


 森の入口からこちらを見るばかりで向かって来る気配のないゴブリンメジャーの様子に、ティアーゼが警戒心を高める。


 その時、ゴブリンメジャーが突然左の方へ走り出した。


 その後には10匹ものリーダーが続く。


 ティアーゼは一瞬訝しんだが、


「ッ、不味いぞっ、回り込んでソウゴを狙う気だ!」


 真理はハッとなった。


 ゴブリンメジャー達が向かった方向には宗吾がいる。森から直接宗吾の姿を見ることはできないが、これだけ機関銃を撃てば音で分かるだろう。高い知能を持つゴブリンメジャーはその見えない場所にいる宗吾が人間達の守りの要だということも見抜いたのだ。


 宗吾の危機を前に、真理は即座に決断した。


「ティアーゼさん、宗吾のところに行ってください!」

「それで大丈夫か?」

「はい、こっちにはもう殆ど上位種はいません。私と1号で守れますっ」

「……分かった」


 ティアーゼは頷き、宗吾のいる方へ駆け出した。


 それを横目で確認した真理は、視線を正面に戻す。


(宗吾とティアーゼさんならきっと大丈夫。だから、私は私に出来ることをしないとっ)



 真理は宗吾の無事を祈りながら、依然迫ってくるゴブリンの集団に向け引き金を引いた。

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