休日の風景
新居に越してから一週間が経った。
家具などを取り揃えゴタゴタしていたが必要なものは全てローアインが揃えてくれた。
落ち着いた頃ローアインが孫娘を連れてきた。
ユリアン付きのメイドらしい。
うちで住み込みで働かせてほしいと言うので許可した。
名前はマリサ、18才だという。
整った可愛らしい顔をしており、銀髪に全く動かない表情でティアと良い勝負だ。
このマリサ、料理以外は完璧で掃除洗濯雑用まで難なくこなせる完璧超人。唯一の欠点は料理が出来ない事だろうか。まぁしょうがないのでセレナ隊の皆で交代制で料理して貰ってる。
皆この屋敷での生活に最初は手間取っていたが、何となく打ち解けてきたらしく、今では自由に生活している…少し自由すぎないか?
俺が広間に顔を出すと、部屋の隅では犬耳おっさんが葉巻を吸いながら何処から連れ込んだのか数名のベテラン冒険者と昼間から酒飲みしてるし、その横ではチトセとカミツレが大食い対決をし、その横ではシアが元締めになり賭けをしている。
あちこち食べ滓や酒の臭いで昼から気が滅入る…。
今日は休みにした俺が悪いのか、それともこいつらの正気を疑えば良いのか…!
昨晩寝室に行くと毎夜の事ながらセレナとモネが徒党を組んで我が領土(俺の身体)を侵略してきた。
まぁ、俺の勝ちだったんだけどさ。
前までは俺の負け越しだったんだが、大罪スキル【色欲】の効果か、何ラウンドでもこなせる身体になってしまった。
その代価か、翌朝には疲れが襲ってくるという仕様なのだ…
何が言いたいかと言うと俺は物凄く疲れている。
そんでこんな騒ぎを朝から昼になっても、ずっと繰り返すこいつらに少々腹が立ってきたのだ。
「てめえら、いつまで騒いでんだ!!休みなんだから外で遊んでこいっ!」
俺は銀貨が百枚入った袋を投げ付けると嬉々として皆集まる。
これと同じことを四日前にやったからこいつら狙ってたんじゃねえか?
「皆ー、旦那からお情け貰ったぞー!全員に配るから並んで並んでー」
何故か仕切り始めた犬耳おっさんが全員を纏め上げている。
クソッ…腹立たしい奴め…!俺のこと舐め腐ってやがる!
まぁいいや。怒ったって何も始まらない。
俺はシャワーを浴びて服を着るとまだ寝ているセレナとモネを起こし着替えさせると三人で出掛けることにした。
屋敷の前に居る、雇った門番係の貧困層に挨拶し俺とセレナ、モネは大通りの方へ向かう。
この門番係の者以外にも馬車の御者や庭師、馬の世話係、屋敷内の清掃係なども雇用し、産業を増やしている。
皆二十~三十代の所帯持ちで今日を生きる食料も得る手がない者達だ。
最初は哀れみを持って接したが手を差し伸べていくうちに信頼関係が生まれ今に至る。
まぁ何人かは盗みを働こうとして現行犯でブルースが捕まえ衛兵に付き出したのだが…その家族には銀貨を数枚手渡し、事情を説明した。
人間、欲に忠実な奴ばかりだ。
他者を陥れ自らの自己保全を確立しようと躍起になる。傲慢で欲望に逆らえない。
せいぜい上手く使ってやる。
中には無欲なやつも居ることは居るが、誰彼構わず皆信用しても破滅を招くだけだ。
俺はそんな風にはならない。
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会話をしながら大通りへ向かうとまずは適当な店で食事を取る。
俺、セレナ、モネは何も食べてないからな。
そろそろ腹が減ってきた。紅茶とサンドイッチを食べながら今日の予定を確認する。
「ソラト、今日は武器屋に行こう!前から約束してただろ?」
「ダメです~!セレナお姉ちゃんの順番は私の後ですよ!これから雑貨屋さんに行くんです!」
なんて言い争いをしながら二人を眺めている。
てかさ…俺の意見は聞こうとしないんだよね…別に良いんだけどさ…
ははっ…男ってのは立場が弱い生き物だよな…
「ソラト聞いてるのか?」
「お兄ちゃん聞いてるのッ?」
「んあッ?!お、おう。すまん、二人に見惚れてた…!」
ほとんど聞き流してたが、こう言っておけば大抵機嫌は直る。
フフッ、完璧な作戦だ!
「もうその言葉は通じないぞ?」
「そうです、これで27回目ですよ!流石に騙されません!」
マジか…!
26回までは騙されてたんだな、モネ。なんか泣けてきたぞ…。
「悪い悪い…それで結局何処に行く事にしたんだ?俺は両方行っても構わないが。」
「武器屋だ!」「雑貨屋さんですぅー!」
「分かった分かった。じゃあ両方行こう、まずは…ベニートのおっさんとこ行くか」
鍛冶屋のベニートんとこなら武器も鉄製の生活雑貨も置いている。
二人の望みを叶えるならうってつけだろう。
それに仮面の礼も言ってなかったしな。
俺もそろそろ腕や足回りの防具が欲しかった所だ。
ついでに頼んでおこう。
膨れる二人の手を引きながら俺はベニートのおっさんの工房へと向かった。
「よう、おっさん!元気してるか?」
「んあ?坊主か!真っ白な頭してるから気付かなかった。おうよ!ピンピンしてらぁ!」
俺の髪は段々と色素を失い半分ほど白くなっている。
これが大罪スキルの影響なのかは分からないが容姿にはそれほどこだわりがないので気にしていない。
「そうか。ちっ…相変わらずシケた店だな。客の一人も居やしねえ!」
こうして軽口叩けるのも少しは仲良くなった印だろうか。
ベニートのおっさんには色々世話になってるしな。
今回の支払いは少し色を付ける事にしよう。
「なんだ坊主?喧嘩を売りに来たのか?」
「いんや、仕事の依頼だ。俺の腕と足腰回りの防具を揃えようと思ってな。アダマンタイトで頼むわ」
「仕事ならさっさと言え!おっ?そこに居んのは坊主の彼女二人だったか?どんな弱味に漬け込んだんだ?」
店内を見て回るセレナとモネを見つけたのか、おっさんが嫌味を言ってくる。俺がそんな事するかっての!
まぁ惚れた弱味ってのがあんなら漬け込まれたのは俺の方だろうか?
「ばか野郎、そんな事する訳ねえだろーが!さっさと見積り出してくれよ」
「もうとっくに済ませてらぁ!ちょっと奥に来い。茶くらいだしてやらぁ」
文句を言いながらも仕事はきちんとこなしていたようだ。
「あいよ、セレナ、モネ。少し待っててくれ。」
俺はおっさんに連れられ店の奥へと進んだ。
火の焚かれた竈。
鉄打ち用の年季が入ったハンマー。
古びた椅子が一つ置かれたこの場所がおっさんの工房。
鍛冶屋の心臓部か。
ここから数々の名品が生まれるんだな。
職人気質のおっさんは良いものしか作らない。
一人で何十年もこの工房を切り盛りしてんだよな。
男が憧れる男って奴だ。
余計な事は語らない、これが男の背中ってやつか。
「おっさん、ずっと一人なのか?」
「あんッ!?女房も倅もとっくに出てったよ。どこで何やってんだか…」
「そうか…失礼な事を聞いたな」
「過ぎた事だ。それにお前の減らず口は今に始まったことじゃねえだろ?腕を出しな、測量する」
「あぁ」
俺は袖を捲りおっさんの前に腕を出す。
この前骨折したから防具の大切さは身を染みて分かった。
あとは信頼する鍛冶士に任せるだけだ。
「あいよ、次は足だ。」
「おう」
おっさんの表情は真剣そのものだ。
かっけえな、職人ってのはこうも真剣に何事もこなすもんなのか。
「大体分かった。フルアーマーか革で繋ぐかどうする?」
「あまり重いのは嫌だな。革繋ぎで頼む」
「あいよ、値段はオーダーメイドで少し高めになるがいいか?完成は二週間くらいはかかるぞ?金貨30枚だ」
痛い出費だな…だが、命には代えられないだろう。
ここは呑み込むしかないか。
「それで頼む。前金で良いか?」
「払えるならそれで良い。おい、坊主!少し多くねえか?」
「気にすんな。二週間後にまた顔を出す。それで美味いもんでも食え。じゃあな」
俺は有無を言わさぬようにそう突き付けて足早に工房から去ろうとした。
が、本来の目的を思い出す。
「あぁ忘れてた。仮面、ありがとな。助かった」
「坊主おめぇ…」
何も聞かないよう俺はおっさんの店を出たところで待っていた。
やがてセレナとモネはお気に入りの品を見つけたのか、支払いを済ませて店を出てきた。
セレナは長剣を胸に抱いている。
「随分機嫌が良さそうだな?」
セレナが歩幅を合わせ微笑んでいる。
「ん、まぁな」
「何を買ったんですか?」
「腕と足回りの防具だ。この前の戦争で腕を骨折したからな」
「なるほど。もうお兄ちゃん一人の身体じゃないんだから無理しないでね?」
モネの顔が記憶の中の、妹優海と被る。
『お兄ちゃん、無理しないで!』
あれはいつだったか…優海が大切にしていた帽子を風に浚われて木の枝に引っ掛かった時だった。
運動神経が良い訳じゃない俺はそれを見て無理して木登りをして帽子を取ったんだっけ。
そのまま枝が折れて俺は骨折。救急車に運ばれた。
ははっ…苦い思い出を思い出しちまったな。
モネと一緒に居ると余計な事ばかり思い出す。
…だが、それも悪くない。
「あぁ。分かってる」
あん時もこう答えたっけ。
俺はモネの頭を軽く撫でると、次の目的地冒険者ギルドへと向かった。
如月は気付きました。
そういやこの作品…
ソラトとユキヤ、ソルダ以外おっさんしか出てねえ…!
そろそろ青年でも出すかな。




