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転移大学生のダンジョン記~拳一つでフルボッコだドン~  作者: 如月 燐夜
四章 攻める者と護る者
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犬耳おっさんの主人公力 ベテラン冒険者、愛娘への苦悩




二階、三階と見回り特に異常は見当たらなかった。

部屋数も四十は有るし、必要ならば庭にもう一棟建てるか近隣に買うか考え中だ。まぁ、それは後の話か。

俺達は一階に戻り、食堂で一息吐いた。

ブルースが持参したエルフの里の特産品の緑茶に似たお茶を飲みながら一服する。

俺はほぼほぼ買っても良いかと思うが、あとはセレナや他の者達の意見も確かめなければいけない。


「で、でもソラト…ゆ…幽霊が居るんだろ?私は嫌だ…!」


「じゃあ先に浄化しちまうか。ブルース、結界を頼む。」


「承知したでござる!」


ブルースは食堂を出て更に屋敷を出ると屋敷の周囲に浄化結界を張る。

まぁ、浄化というよりも敵性を持った奴を消滅させる意味合いがあるのだがどう転ぶか…俺も屋敷を出てブルースの隣に立つ。

すると人の顔の様な半透明な奴が沢山天へと昇っていくのが見えた。

あれが幽霊だろうな…。

すげえ安らかな表情をして昇天していった。

セレナを屋敷内に置いてきて正解かもしれない。

多分見てたらぶっ倒れてたんじゃないか?



「主殿、終わったでござる。しかし…何か妙な勘がするでござる。この屋敷の地下…からでござるな…」


「そんな事も分かるのか。流石だな!しかし、地下なんて有ったか?」


そうローアインに教えられたのは三階建てだということだけであり地下はないらしい。


それとも、この屋敷が建つ前に何かあったのか?


「とりあえずローアインに相談してみよう。」


俺とブルースは屋敷へと戻った。


「とりあえず浄化は終わった。物凄い数の幽霊が天に召されたのを俺とブルースで確認したよ。」


「うむ。拙者もなるべく強く魔力を込めた故、この地に媚びり付き、縛り付けられた霊の類いは全て消えた。拙者が保証しよう。」


ブルースのやつ、幽霊を汚れかなんかと勘違いしてないか?

俺は金貨300枚が入った袋をローアインの前に出す。


「確かに受け取りました。…そうですか、それはよう御座いました。何度か徐霊を光魔法使いに頼んだのですが、それでも数体が限度でして…ソラト様のお仲間に聖魔法使いの方が居てくださり助かりました。」



「ソ、ソラト…本当か?もうお化けは居ないんだな…!?」


俺の襟首を掴み前後に揺らすセレナ。


能力上がってるからその動きだけで俺は吐きそう……


「あ、あぁ…だから…止めてぇ…!」


はぁはぁ…あのままシェイクされてたら色々出してしまいそうだった…。

セレナがやっと落ち着いてくれたので俺はブルースが施した浄化結界の説明をした。


「なるほど…敵性のある霊は全て排除したが、地下に何かの反応があると…上下水くらいしかないと思うのだが…」


ユリアンが口許に手を当て悩んでいる。

こうゆうのすげぇ似合うよなこいつ。


「あぁ、とりあえずブルースに探ってもらうとして今日からここで寝泊まりする。皆を連れてきたら飯でも食いに行くか。」


俺は立ち上がり、食堂の扉に手を掛け従魔を集めに大通りに向かった。


「お待ち下さい、馬車でお送りしましょう。」


「悪いな、セレナ、ブルースとユリアンと留守番頼む。」


「分かった。ソラトが戻る前に私とソラトの寝室を決めておくとしよう。ユリアン、行こう」


「あぁ、私の部屋も決めなければならない!セレナと相談しておく。」


あ、そこは一緒なの決定事項なのね。ユリアンも当然とばかりに住む気満々だ。

まぁ、俺は書斎とか個室が1つあれば問題ない。

ここはセレナに任せとこう。

俺はローアインとその従者を連れ大通りに戻った。

マップを出し大通りまでの道を覚える。

屋敷の位置に触れるとピンが現れ、homeと表示された。


おぉ…!これはすごい。

今まで試した事はないが他にも色々出来そうだな!

後で試してみよう。



やがて皆と別れ、集合場所にしていた噴水前にはひぃふぅみぃ……

うん、28人全員集まっていた。


既に王族の子供たちはローアインの部下がユリアンの屋敷に連れて行ってるらしいからこの数で合ってるな。


ピーちゃん、キーちゃんとブルースに呼ばれているスライムは王国の勇者監視の任務をブルースから受けているらしい。ブルースが有能過ぎて辛い…。


というか色々言いたいんだけどさ…犬耳おっさん、あんただよ!


ジンの奴、どっから酒樽買ってきた。

しかも似たような犬耳獣人のおっさんと肩組んで楽しそうに昼間から飲んでやがる。

いや、酒屋から買ってきたんだろうけど、数が多すぎないか?

二十樽はあるだろうか。

だがそんな大金渡した覚えはないんだがな…


「お前ら荷物纏めろー。これから俺が買った屋敷に移動するから着いて来い。小さい奴は大人と手を繋ぐ様に!」


「「「はーい」」」


「はははー、んじゃあまた一緒に飲もうぜー!あー重てぇ…嬢ちゃん、これ仕舞ってくれるか?」


「はい、有り難う御座いました!」


なんかペコペコ頭を下げられてるし。

ほんとジンの奴何したんだ?

当の本人はブルースの分体に酒樽を仕舞わせて、ハイコボルトの子供を肩に乗せている。


「おい、ジン。ちょっと来い!」


「あいよー。旦那どうしたんだい?」


少し歩いた先でジンに声をかける。

軽い口調で流暢に喋る隻眼の犬耳おっさん。

里では腰簑だけだったがエルフの人たちに仕立てて貰った服が様になってて腹が立つ。


「あの酒樽どうしたんだ?俺は銀貨一枚しか渡してないよな?とてもあの数を買えるとは思えないんだが…」


「困ってた酒屋の親父を助けただけさ。何も悪いことはしてねえよ。俺が買ったのはこれだけさ。吸うかい?」


と、子供を他のアークコボルトに手渡し、懐から一本の葉巻を取り出し、煙を燻らせる。

クソッ…やること成すことダンディすぎるぜ…!

俺の視線に気付いたのか、新品の葉巻とマッチを此方に渡してきた。


前世では付き合いで吸うことは有ったが好んで吸う程ではなかった。


クッ…こうゆう気遣いを自然にされるとは…!

俺は火を付け葉巻を一服。乱れた心を静めるとジンに話を振った。


「詳しく話せ」


ジンが言うには大通りを散策している際妙な声が聞こえてきたという。

現場に駆け付けると柄の悪そうな男数人が先程の獣人に絡んでおり、話をする前に勝手に体が動き、獣人のおっさんを助けたという。

話を聞くと獣人の親父さんは妻に先立たれ年頃の娘を養う為に頑張っていたが、経営が上手くいかず常連によって保たれているような経営状態をチンピラに足元を見られ高額の貸付により娘が借金の形にされ連れ去られたんだとか。


多額の利息分を支払っているにも関わらず搾取する地上げ屋に我慢ならず口論に発展。

その隙を突かれて娘を誘拐されたという。


話を聞いたジンは思う所があったのか、男数人が逃げた先を自慢の嗅覚を使い、追い掛けアジトを突き止める。

西門のスラム近くにあったアジトを急襲。捕縛し、証拠品の書類と共に衛兵に付き出したという。

そのアジトのグループは恐喝や高利貸しでクロッセア市民への悪事を牛耳っていたゴロツキ共で衛兵に感謝され金一封を貰ったとのこと。このゴロツキ共、頭は回る様で中々尻尾を出さずに衛兵たちも手をこまねいていたとか。


ジン自身嫁さんには先立たれてるし、幼いカミツレを育てる為必死だった様だし自分と重ね合わせたんだろう。



更に酒屋の親父からも酒樽を二十樽ほどもらいお礼まで言われたとか。

時間になり荷車に酒樽を乗せ親父と飲んでいると俺が現れて現在に至るという。娘さんも元気だったそうだ。


俺と居なかった三時間ばかしで何やってんだこいつ。

俺はジンの主人公力に少し…いやかなり焦りを感じた。


「はぁ…全く。そうゆう時は誰かに相談しろ。一人で解決しようとするな…まぁ無事だったからこんくらいで済ませてやる。」


「へへっ、ありがとよ旦那。っとそうだ、こいつぁ旦那に渡しとくぜ?」


ジンが俺に渡したのは先程の件で衛兵から得た金一封。

かなりの量が入ってるみたいだな。

俺はそれをジンに突き返し言った。


「これはお前が自分で働き稼いだ金だ。だから自由にしていい。それと今後勝手にこうゆうのは止めてくれよ?」


「了解ー」


まったく、娘にそっくりな自由さだ。返事まで同じと来た…

カミツレの能天気さは確実にジンから受け継がれてるなこりゃ。

俺はそのまま足を進め屋敷へと辿り着く。



「「「おぉー」」」


ふふん、どうだ。少し遠いが中々の屋敷だろう!

俺は腰に手を当て誇った。


「どうだ!ここが今日からクロッセアでの活動拠点になる屋敷だ。あまり汚すなよ?ーーってどこ行った?」


「お兄ちゃん、もう皆行っちゃったよ?」


残ってるのはモネ一人だけだった。他の奴等は既に屋敷の入り口まで向かっている。


「そ、そうか。行こうか、モネ。」


「うん、お兄ちゃん!」


モネの手を引き屋敷へ入る。

部屋数足りてるかな?

まぁ俺は書斎と個室だけありゃ十分なんだけどさ。

そこはしっかり者のセレナとユリアンを信じよう。


「二階の角!そこ私の部屋!」


「じゃあその隣は私!」


「待て待て!そこは私の!」


「残念でしたー!早いもの勝ちだよー!」


屋敷の中はまるで動物園みたいな騒ぎだった。

普段は頼りになるティーダさんまで一緒になってはしゃいでいる。


戦争やその後のゴタゴタで疲れてるんだろうな…

まぁ…いいか。色々あったからな…。

静かなのよりこっちの方が俺達らしいよな。

俺はそれを眺めながらモネの頭を撫でた。


「行かなくて良いのか?」


「私の部屋はお兄ちゃんと一緒ですから。」


モネ、お前もか…

まぁ良いや、どうにでもなれ。


「はいはい、静かに。部屋割りは私が決めた。まずはソラトの従魔達だがーー」


セレナが部屋の割り振りを始める。

部屋数が足りないため何人かは同室になるらしい。


三階から中央に主寝室、ここが俺とセレナ、モネの部屋で両脇にブルースとカミツレ、チトセとシノン、プルネリアとティアが一緒らしい。


ジンは一人部屋で他四つほど空いているが、三階はおしまい。

ジンの部屋には幼いコボルト達も寝るらしい。

部屋は余ってるんだがな…


二階も三人~四人部屋になっており、なるべく部屋を明けているらしい。セレナは何を考えているのだろうか。

俺の書斎もあるらしい…助かった…!ここで色々と計画を練るとしよう。特に練る計画もないけど。

あと和室が欲しいな…畳に似たものがあるし、それは追々かな。

足りない家具などは明日数人で手分けして買うらしく、広間に集まった皆は思い思いの場所で寛ぎ出す。



そろそろ日が傾き、夕食に丁度良い時間になった。

手頃な酒場へ赴き好きなものを食べさせる。

アンリエッタに頼んでおいて正解だ。


料理も酒も美味い。

それと俺を救出しに来てくれた冒険者たちにも声を掛け、その時の感謝を改めて伝え酒と食事を楽しんで貰った。

うん、良い奴等だ。

今日は戦勝会も兼ねている。

カインさんも後から訪れ、隣に立つ幸が薄そうだが綺麗な女性と七歳くらいの女の子を紹介してくれる。


「うちのカミさん、クラリアと娘のターニャだ。」


「初めましてクラリアさん、ターニャちゃん。よろしくお願いします。」


「いえ、うちの穀潰しがご迷惑御掛けしてないか心配で…この人のこと宜しくお願いしますね。」


「任せてくださいクラリアさん。まだ冒険者として経験の浅い俺にカインさんは色々と教えてくれますよ。」


「あら、そうなの?それは良かったわ。今後とも宜しくね。そろそろ冒険者なんて辞めれば良いのに頑として辞めないのよ。全く…良い年して夢見がちなんだから」


うん、この恐妻ぶり…あの戦場では誰よりも敵兵を寄せ付けず一騎当千していたカインさんが一人の女性の横で震え縮こまっている…。可哀想に…



「お兄ちゃん…!パパのことよろしくおねがいします!あと、お仕事いっぱいください!」


おっと、娘のターニャちゃんがエンジェルスマイルで微笑む。

なんて健気で強かな子なんだ…!

カインさんには全然似てないぞ…なんて言ったら失礼か。


「ありがとうターニャちゃん。今日はジュースもご飯もいっぱい食べて良いからね?お菓子も有るよ。」


「やったー!ありがとぉーお兄ちゃん!」


そう言ってしゃがみ頭を撫でるとターニャちゃんは

俺の頬にキスをしてテッテッと料理の方へ走っていった。


「あらあら、あの子ったら…ふふ…。」


クラリアさんが娘を優しい表情で見守っていてそのまま後ろを着いていった。

カインさんがしゃがんだ俺の頭を掴む。


「坊主……ターニャちゃんは絶対ぇやらねえからな?!」


おいおい、なんでそうなる?


腕を振り払い立ち上がる。

俺は軽くカインさんの腕を握り返す。


「ただでさえ二人居るのにこれ以上は俺の体が持ちませんよ。まぁもう少ししたら一人は確実に増えますけど…」


そろそろユリアンとの関係も前向きに考えないとな…あいつに悪い。


「英雄…色を好むってか。まぁいいや、たまに面倒見てやってくれ。ターニャちゃんも嬉しがる。」


「あぁ。ほら、いつまでも拗ねてないで飲みに行こうぜ、カインさん!」


一応まだ俺がカインさんを雇用している形になってる訳だからカインさん一家が路頭に迷うかは俺次第だよな。

頑張ろうと決意を固め、俺は皆の元へもどるのだった。

多分今日飲む酒は美味いはずだ。

新しい目標も出来た。

出来る事を頑張ると改めて心に刻んだ。

ジンから漂う主人公臭…。

負けるなソラト!頑張れソラト!


次週からは『犬耳おっさんの冒険記~ちょい悪パワーで悩殺だドン~』をお送りします。


嘘です、まだ続きます。


もう一人のおっさん、カインも忘れずに!


感想ブクマレビュー評価、お待ちしています。

作者の励みになりますので気になる事が有れば感想などに書いて頂ければ嬉しいです。

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