表と裏
ユキヤ視点です!
殲滅戦前日、夕方過ぎに俺は軍と合流した。五万の兵、総大将はミンストレイル第二王子バーストレウス、王族の中ではまだ話が出来るマシな奴だ。
「おお!勇者ユキヤよ!来てくれたか!」
「はっ!至急召集せよとの命により参上致しました。」
俺は無表情でそう言った。基本王族は信用するなというマルスさんの教えだ。
それでもこいつだけは別格だ、頭も良いし将来を見据えている。
この戦争の総大将に拝命されたのも彼の人脈や根回しが実り、結び付いた結果だろう。
次代の王にもっとも近い男と言われている。
「ふむ。そなたの忠誠、しかとこのバーストレウスが見届けたぞ!そなたが入れば百人、いや千人力ぞ!共に王国の未来を作ろうではないか!それと外行きの言葉遣いは良い、楽に話せ。」
「……あぁ。」
トト、ワタメ、ネムの勇者パーティメンバーが裏だとするならば、公式の表向きであるパーティには四人の仲間が居る。その中には王公貴族からの身内や息の掛かった者ばかりだ。
そのうちの一人が目の前のバーストレウスその人である。
「よぉよぉ、ユキヤ!元気そうじゃねえか!迷宮籠りで少しは強くなったかぁ?まぁ、それでも俺様の足元にも及ばねえんだろうがよ!」
バーストレウスの後ろから大剣を背負った一人。
肩で揃えた蒼い髪の女が現れる。
女にしてはデカい身長に片目に眼帯を着けガサツな口調でその体を揺らしながらクツクツと笑い、俺の前に歩み出た。
「あぁ…ソフィさん。お久しぶりです。二人が居るってことはあいつらも来てるんですか?」
そう、彼女も勇者パーティの一人である。【龍殺し】のソフィ、それが彼女の通り名だ。
文字通り竜種専門の冒険者で上位種にあたる龍まで一人で殺したという記録が残ってるヤバイ人だ。
この大陸に八人存在する白金級の一人。
もしも俺が本気で戦えばどちらかが死ぬことになるだろう。
三ヶ月前よりも俺は強くなった、だが今は話に乗っておこう。
勝手に舐めてくれてるならその方が良い。
相変わらず声がデカくて胸に駄肉をぶら下げた露出の多い人だ。
これで公爵家の令嬢ってんだから驚きだよ、全く。
「…呼んだか?」
「お前さんも変わんねぇな。よぉ、元気か?あいつら呼ばわりはちとばかしひどかーねえかい?」
「クリマ、ソルダ!来てたのか…!」
俺の背後から二人の男女が現れる。
先に声を掛けてきたのは外套を羽織り、白銀の髪をした女。その顔は表情が抜け落ち白磁の肌を持ち美しい。
もう一人は魔術師のローブを羽織って杖を肩に担いでにやにやと笑う、前者と似た様な顔をしているが少し幼い顔をした男だ。
二人とも特徴的な白磁の肌、長い耳をしている。
エルフの兄弟、姉の暗殺者クリマと、その弟の魔導士ソルダである。その胸は平坦だった。
姉のクリマは弓とナイフの腕は超一流、隠密行動が得意で冷静沈着な性格。
生きるために貴族達から暗殺や誘拐の依頼を受けていたという。
弟ソルダは姉とは正反対で楽天的、付き合いやすい性格をしている。
付与、攻撃、守備、治癒を全て修める秀才だが物事を軽く捉えてしまうのが珠に疵である。
【虚無】のクリマ、【必撃】のソルダ姉弟である。
「奇しくも全員揃った様だな。さて軍議を始めるぞ。天幕に入れ!」
天幕内の議卓には八人の人間が揃う。
天幕の奥、上座には第二王子、総大将【天智】のバーストレウス、その副官のカボンテ、エルフの殺し屋姉弟【虚無】のクリマ、【必撃】のソルダと王子を中心に右回りに並ぶ。
ソルダの隣、丁度バーストレウスの正面には俺、隣には騎士団長【護光】の英雄マルス、白金級冒険者【竜殺し】のソフィ、軍内の参謀ラーベイが座っていた。
「司会進行はこの私、カボンテが務めさせて頂きます。まず現状把握ですが我が軍は予定通り進行を進めており明日の昼頃には到着するでしょう。兵科割り振りとしては歩兵三万、騎馬兵一万、騎竜兵三千、魔法兵二千、輜重兵五千となります。」
「ふむ!どうだ、ユキヤ!素晴らしかろう!我が軍の最高兵力を動員した!これでクロッセアのギルドなど簡単に落とせるぞ!ところでユキヤ、お前ならエルフの里、クロッセア、どう落とす?」
王子が俺に話を振ってくる。こいつはいつもそうだ。自分で結論を出しているのに、無茶難題を人に吹っ掛けその反応を楽しむ下衆。胸糞が悪い。
「ええ、そうですね。しかし正確さを追求するなら速度を上げましょう。日の昇らない早朝に軍を進めるべきだと俺は具申します。」
「ほう。何故だ?理由を申してみよ。」
「まず、昼頃に着いたとしてそれでは遅すぎます。先に落とすエルフの里を確実に占拠するならば、まだ気の抜けている昼前が良いでしょう。里から着かず離れずの位置に里人が居り、且つ伝令をクロッセアに出す可能性を潰せる。要は電撃戦だ、けどクリマ、ソルダ本当に良いのか?お前達の生まれ故郷なんだろ?」
王子への回答はこれで正解の筈だ。これくらい【天智】‥天からの智を授かりし者と表されるバーストレウスならば簡単に思い付くだろう。
俺はそれよりも白銀のエルフ姉弟が心配である…。だがクリマは淡々と答える。
「あの里は私達姉弟を拒んだ。今更何とも思わない。…それに報酬を貰っている以上これは私の仕事だ。依頼主に従うのは当然だろう。」
「おねえがそう言うんでおいらはそれに従うよ~、たはは!」
姉はつんけんとしながら、弟は手をヒラヒラさせながら呑気な笑い声を上げて軽い口を開いた。
「だが…!」
食い下がろうとしたが、バンッと議卓を叩き音を響かせる。【龍殺し】、ソフィである。
「あーもうごちゃごちゃうるせぇな!クリマもソルダもこう言ってるし、ユキヤは少し心配しすぎだってんだよ!話が進まねえじゃねえか!あんたからも何か言ってやりな、マルス!」
隣に座る英雄マルスに話を振る【竜殺し】のソフィ。
「あ、あぁ。ユキヤ、この話はもうおしまいだ。」
妻の言葉にたじたじな英雄ともあろう男はそれだけ発すると黙り込んだ。
そう、ソフィは師匠の亡妻ユフィの妹であり、師匠の幼馴染みである。
ユフィとソフィは母親が違い髪の色も異なる。ユフィは朱色をしておりソフィは蒼色だ。
彼女の父である公爵が亡くなった長女ユフィの後釜にソフィを捩じ込んだのである。
片や騎士団長を勤める男、片や世界を股に駆け龍さえ殺す伝説の女。
ソフィの義娘にあたるトトもあまり懐いてないらしく、幼い頃の苛められていた記憶が師匠に苦手意識を生んでしまいそれであまり夫婦仲も良くないらしい。
「師匠…分かったよ。」
強く生きてくれ、師匠。
「採決を取ろう。ユキヤの進言、早朝に兵を出すことに賛成する者は手を挙げよ。」
この軍議は挙手制だ。進行を務めるカボンテ以外七人で採決を取り最終的に軍師と二人で作戦を事細かく提示する。
手を挙げたのは五人。俺、師匠、ソフィ、ソルダ、バーストレウスだ。
クリマと軍師ラーベイは沈黙を保ったままだ。ここで反論の場となる。その反論で味方を増やし、二次採決で最終決定だ。
「私は反対だ。事を急げば仕損じる。私の観点から言えばユキヤの提示した策は穴だらけだ。何よりも歩兵が主体だ。疲労も蓄積され歩みを止める者も出てくる筈だ。」
「私も反対だ!勇者ユキヤの主張は無理がある!兵を消耗させるだけだ!」
「おねえ、それは違うよ。歩兵の件はおいらが何とかする。大賢者に最も近いと言われているこの…おいらがね!」
大賢者…それは過去五百年間現れた事のない魔法の真理を解いた者に与えられる称号だ。全ての魔法に精通し扱うことの出来る逸材。
賢者に足を踏み入れる者は五百年の間に数名居たがそれでも全ての魔法を扱える者は現れなかった…らしい。
正直俺はこの世界の人間じゃないから詳しくはないしな。
だがその大賢者に一番近しい男が俺の隣に座っている。
ソルダは俺の話を補強してくれる。
「おいらの意見はこうだ。まず、騎馬半分、歩兵、騎竜半分の順で進ませる。他は全部ごっちゃで構わない。騎馬の持つランタンの灯りを追いかける様に命令しておいらは夜目の利く数人最後尾に陣取る。そうそう、ユキヤんとこのおちびちゃんにも力を借りようか!特大の魔力タンクだからな、あのおちびちゃんは。足の遅い輜重兵や脱落していった者から随時おいらの速度上昇と定期回復魔法を掛けて突っ走る。それでも無理そうな奴は騎竜に乗せる。こうすりゃ脱落者は出ねえはずだ。」
ソルダの言うおちびちゃんとはワタメの事である。ワタメの持つ莫大な魔力量を知っているソルダはちゃっかりワタメの魔力を充てにしている所を見ると実に強かである。普段のちゃらけた様子は無い。
まぁ、これが妥協案だろう。正直これより良い案が浮かぶとは俺には到底思えない。
これには流石のクレマも納得してくれるかな。
「はぁ…全くお前は…!あれほど他人を信用するなと言い聞かせたのに私の言葉を聞いて無いのか?」
「わりぃ、おねえ。でもおいらはユキヤのことは信用してるからさ。たはは!」
「チッ…私も支持をしよう。ラーベイお前はどうするんだ?」
「くっ…!良いでしょう、勇者ユキヤの意見を実行しましょう。」
全員手を挙げたことによって早朝進行は可決された。
だが俺の挙げた案はなるべく死人を出さない為に俺が動きやすくするための策だ。バーストレウスは気付いてるはずだ。
後はどう動くかだが、間違いなくバーストレウスは俺に見張りを立てるだろう。
何とか突破しエルフの里長に逃げる様に伝えなければ…!
ユキヤが何やら動き始めました。
また新キャラ増えましたね…
何とか活躍させられる様に頑張ります。




