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転移大学生のダンジョン記~拳一つでフルボッコだドン~  作者: 如月 燐夜
四章 攻める者と護る者
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心を闇に染めて…

クロッセアから飛び立ちエルフの里に辿り着く。


着く頃には既に日は暮れ始め、段取りを行っているうちに完全に夜の帳は落ちた。


現在は全員で火を囲みながら食事を共にした。


戦争前だと言うのに皆笑顔だ。


強いな、エルフの里の人々は…。


何百年も前から北と南から侵攻を受けても屈せず戦い続けた。


エルフは寿命が長い、当時の事を知っているであろう長老達も若者たちに色々とアドバイスをしている。


何も関係のない俺を英雄だと持て囃し信頼を置いてくれている。


だけど俺は英雄でも何でもない。


ただ、俺には過ぎた戦う力を持っているだけなんだ。


この人たちの笑顔を守るためなら俺は殺戮者だと罵られても良い。


俺に出来ることをやってみるさ。



「皆楽しそうだな。笑っている。」


後ろからセレナが話し掛けてくる。


「あぁ、本当に。」


「私はソラトと会ったばかりの時、祖国と戦争するとは思いもしなかったよ。」


隣に座るセレナ。その表情は何処か悲しげだ。


「当たり前だろ。誰も未来なんて分からない。予測が着かないさ。」


「そう…だな。予測が着かない…か。まったくその通りだよ。」


「あぁ、だがセレナ。これは受け売りなんだがな…予測なんかしなくても自分で掴み取れば良いんだ。未来も生きることも精一杯もがくんだ。」



『貴方の未来はこれからだから…生きることも希望も貴方の手で掴んで…!』


ふと昔の事を思い出してしまった。まだ地球にいた頃…いや、認めよう。俺は一度死んだけど、何の因果か生きている。まだ未来は続くんだ。


別れた元カノと同じ言葉を言われるとは…少し気恥ずかしいな…


「絶対…勝つぞ。俺達の日常を取り戻す為に。」


「あぁ、ソラトには私が着いている。ソラトの帰る場所は私達の側だ。」


「あぁ。」



宴会は遅くまで続いた。


出来る事はやった。


思い付く限りの策は練った。


後は天運に任せるってか。


俺はその場に寝そべると無い頭を絞ったからか、気だるさを覚えそのまま目を閉じて眠った。




▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「…じ…の…!主殿!そろそろ時間でござる。」


微睡みの中から聞き慣れた声が脳内へ響く。もう朝か…。


向こうに動きがあったらしくブルースに起こされる。


何で分かるのか不思議だがそろそろ起きよう。


「あぁ、おはよう。」


あまり良く眠れなかったが、文句は言ってられない。


最初の斬り込み役は俺だからな。



『良いか皆?最初の斬り込みは俺が行う。本陣は里から二キロの場所にあるこの川だ。俺はチトセに乗って空から敵の中心部に飛び込み内部から撹乱する。大丈夫、絶対死なねぇよ。安心してくれ。皆は絶対に本陣を死守してくれ。その隙に速度に特化したブルース、カミツレ、セレナの三人で陽動し合流後、敵将を討つ!他の皆はそれの援護だ。』



昨日の夜、里に着いて早々軍議をした内容を思い出す。


当然反対意見は(主にブルースから)出たがこれでいい。


一人で特攻し、撹乱。その間に本陣を守りながら別動隊と俺で敵将の首を取る。アンリエッタさんが言ってたけど第二王子だったか。下手すりゃ王殺しの大罪人になっちまうが…どう転ぶかは分からないな。


まぁ、ケースバイケースになるがそれが基本指針だ、イレギュラーはあるだろうけど単純な方が皆も分かりやすいだろう。



我ながら単純すぎる作戦だな…。


だが分かりやすくて良い。


「よし、ブルース。あれを出してくれ。その後チトセと見回りに行ってくる。お前は皆を纏めて指揮してくれ。」


俺の考えてる事が分かるブルースならば察してくれるだろう。あとは運任せだな。


「御意!」



ブルースの出してくれたのはプルネリアの家から持ってきた親父さんの黒いコートとクロッセアでベニートのおっさんに作って貰った仮面。


俺はそれをマジックバッグにしまうと龍化したチトセの上に跨がる。


昨日突貫工事で作ったチトセ用の鞍は玉座の様な仰々しさだ。俺はチトセの尾から玉座の様な鞍に座ると声を掛ける。



「チトセ、頼むぞ?」


「ふん、ぬしに言われるまでもないわ!わらわは与えられた働きをしてその働き分の糧をもらうだけなのじゃ。正直こんな木屑を背中に乗せられるだけでも気に食わないんじゃがのう。これもクレープの為じゃ。」



龍化してもキンキンと響く幼女声は相変わらず煩いが嫌いじゃない。


それは兎も角、頼もしい奴だ。


「あぁ、来る時も言ったが報酬はお前が好きなだけ食わせてやるよ。だけどこれだけは守ってくれ、生きて帰るぞ。」


「ふん!主は誰に口を聞いておる?わらわは五龍王が一体、地龍の娘、グラネリアぞ!猿ごときにやられるタマではないわ!」


自信家でふてぶてしい態度。


だがその分かりづらい蜥蜴面には余裕さえ感じられる。


誰一人として犠牲を出さない。


「あぁ、知ってる。お前だけが頼りだ。頼むぞ?」


「ふん!」


照れてそっぽを向いたのかチトセはゆったりと、だが力強くその翼をはためかせる。


一分も経つ頃には遥か上空に飛び立っており本陣、里がどんどん小さく見えた。


遠くに見える白い城、あれが王城か…。あそこに馬鹿な戦争を企てた王族貴族が居る…!


そこから視線を移すと土煙を上げ行進する軍隊が見えた。


思ったよりも侵攻は早く大分近い…!


マップで距離を確認する、昼前には交戦する事になるか。


ふと考えが過る。


何故俺は他人のためにこんなに命を張るのだろう。


アリシアの為?違う、俺は正義の味方なんかじゃない。


出来る事は限られている。


俺はそんな公正明大な人間じゃない。


愚かで盲目で間違いを起こす普通の人間だ。


人の上に立つような人間じゃない。


だけど…だけど決めたんだ。


俺は俺の大切な人を守るため戦い続ける、この世界で生きていくんだって。


蹂躙?されてたまるか!


その前にこっちが食い破ってやる!


沸々と怒りが込み上げてくる。


五万人の兵?


関係無い、蹴散らしてやる!


恐れなんかない。


不要だ。



それ以外の感情を食い潰すほどの…怒り、…激情、…憤怒!!


仮面を被り、コートを羽織り、準備は万端だ!


俺は卑屈な人間だな。


目の前の敵は全て叩き潰す。


人殺しの汚名を被ろうともどうだっていい!


守りたい人達を助ける為に!


冷酷になれ、自分の中に眠る獣を呼び起こせ!俺は戦士になる!


『スキル【???】が覚醒しました。以降常時発動します。トリガーは…』


脳内で電子音が響く。奴等が目標圏内へと入った。時間か…!


「チトセ、突撃だ。」


驚くほど低い声が出た。だが動揺や恐れはない。


俺に出来ることを全力でやる、それだけだ。


行くぞ、結城 空人…お前は出来る男だ…!


こんな時に臆病風に吹かれてる場合じゃない!


俺を乗せたチトセはぐんぐんと速度を上げ五万の兵のど真ん中に降り立った。



ソラト、まさかの闇堕ちか…?!


次回ユキヤ視点です

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