ダンジョンを駆け上がれ
「ソラトー…!疲れたぁ!」
「プルちゃん!我が儘を言うもんじゃありませんよ?ね、お兄ちゃん!」
「いや、プルの言う通りそろそろ休憩しよう。ジビエも疲れただろ。」
プルメリアの家を出てから正確な時間は分からないが体感で約二日、俺たち三人は86階層から79階層まで上がっていた。食事と休息を最低限しか取っていないのでプルメリアが泣き言を言うのも分かる。モネは弱音を吐かず馬上もとい鹿上の人となり必死に俺にしがみついている。少し無理をし過ぎだこの辺で大休止をしてもバチはあたらないだろう。
「【マップオン】!この先に五分ほど行ったら川があるからそこで大休止を取ろう。プル、それまで頑張れるな?」
この二日間、常に【地図】スキルを発動していた為、精度や範囲が広がった。どうやら使えば使うだけ能率も上がるようだ。
「うんッ!やったー!ソラト優しいから好きー!」
「わ、私の方がお兄ちゃんのことを好きです!負けませんよプルちゃんッ!」
「おいおい、何を張り合ってんだか…はぁ。」
この約二日間の移動の際プルメリアからプルと呼んでほしいと進言され、俺もモネもそれに同意した。
本人は満足そうに何度か頷くと俺の前にちょこんと座り実質グレートトライデントホーンのジビエが三人を乗せ移動する形となったのが今朝方だった。
まぁ、ジビエがどう感じてるのかは分からないが羽根のように軽いヴァンパイアプリンセスのプルが加わったところで速度は落ちるどころか何故か少し上がっていた。
朝からずっとジビエは走り続けてる訳だし、この辺で休みを挟んだ方がいいだろう。
「なぁ、プル。ジビエ以外に騎乗出来そうな眷属っていないのか?」
「んー…足が一番早いのはジビエだけど少し遅くて良いなら別の子が居るの!」
「それは下位種のトライデントホーンか?」
「んーんなの。見た方が早いの。おいでなの、タマ!」
川辺で休んでいた俺はプルにあまりにも負担がジビエに掛かってしまうため他の騎獣が居ないか訪ねた。すると光が集まりその場に体長四メートル、体高二メートルの黒い虎が現れた。タマと呼ばれたその黒い虎はプルを見た瞬間じゃれつくように寝転がった。
一見して可愛い様に思えるが実際に見ると恐い。虎が人に懐くというニュースを前世に見たがやはり猛獣なのだから。
この世界ではテイムや眷属召喚などの魔法やスキルがあるため魔獣を飼うというのはポピュラーなことだが前世ではほぼありえないことだ。
「タマ、ソラトとモネにご挨拶するの!」
『我が名はタマランテ、姫の呼び掛けにより参上した。眷属一の爪と牙を持っていることを自負している。そこな猿共、よろしく頼むぞ』
「うおっ!喋った!」
「はい、私も驚きました。」
「こら、タマ!ダメなの!次ソラトとモネに猿なんて言ったら口聞いてあげないの!」
『姫…そ、それだけはご勘弁を…ぐぬぬッ…!』
プルに叱られたタマことタマランテが俺の事を威嚇している。その目には涙が溜まっているのが分かった。
「まぁ、馴れるまで少し時間が掛かるだろうが仲良くやろうぜ。俺はソラト、こっちはモネ。一応お前のご主人のプルの主って事になってる。よろしくな。」
『ふんッ!』
手を差し出したがタマはそっぽを向き俺の手は空しく空を切った。
「プルちゃんの眷属って皆喋るのかな?」
「喋るの。皆、高位種の魔物だから知性もあるし、念話のスキルがあるから意思疎通も出来るの!」
「でもジビエさんやポチ…でしたっけ?は、全然話しませんが。」
『すまない…私は口下手なんだ。…改めて自己紹介しよう。私はジビエール、よろしく頼む。』
「うおぉっ!ジビエ、メスだったのか!全く気付かなかった!」
『ふん、三本角。貴様も姫に呼ばれてたか…!気付かなかったわ!』
『久しぶりね、タマランテ。変わりなさそうで安心したわ。』
『我は変わらん。そして姫もあの頃のままだ。』
『ええ、そうね。』
なんか眷属同士で遠くを見つめながら話し始めた。百年振りの再会なんだろう、少し悲しみの中に喜びの感情が伺える。自分たちの世界にはいらないで~!
「タマ、プル達はダンジョンの外に向かってるの。そこまで乗せて運んで欲しいんだけど大丈夫?」
『はっ!姫の願いとあらばこの老骨、例え死ねと言われようと従う所存!』
「ありがとうなの!タマは昔から優しいの!」
『……』
なんか二人(一人と一匹?)の会話を聞いていると親子とか、祖父と孫のやりとりを見ているようだ。ほんわかする。
「ありがとな、タマ!さてどう割り振るかだが…どうする?」
「タマにはプルが乗るの。モネとソラトはジビエに乗るの!」
「いや、モネもプルと一緒にタマに乗ってもらおう。俺とジビエで先行して安全を確保するからゆっくり後を着いてきてくれ。プルとモネが一緒なら俺も安心だ。」
「お兄ちゃん…!」
「分かったの!プルはソラトに従うの!」
「よし、決まったところでそろそろ出発するか。ジビエ、疲れの方は大丈夫か?」
『いつでも構わない。私の種族グレートホーンは一日の殆どを駆けている。これだけ休息出来ればあと二日は走れる。』
「そうか、心強いな。だけどタマに乗った二人のことも考えて速度はなるべく落としてやってくれ。」
『承知した。』
ジビエに跨がり出発の合図を出すと俺たちは上の階層へと向かった。
タマランテ、たまらんて
猫科が好きな作者が通りますよ~
皆様今年一年お付き合い頂きましてありがとうございます。また来年もよろしくお願いいたします!良いお年を!
来年は二日から更新します!




