調子に乗ると良いことはない
アダマンタイトの鎧の購入費用金貨十枚という大金を稼ぐため二十七階層へと潜り殆どを(ブルース、カミツレが)倒した後一度換金しに地上へと戻った。だが換金した素材はせいぜい金貨三枚だったのでもう一度潜る事になった。行ったことのある階層に転移する石板の前でブルースが俺に話しかける。
「主殿、とりあえず二十八階層で良かったでござるか?」
うーん、どうしよ…狩り場として連れて行かれた二十七階層は明日まで魔物が湧かないらしいからな…。他に良い狩り場は無いか一応聞いてみるか。
「うーん……あ!それなら三十階層でござろうか…あそこも二十七階層と同じ平原でござるし階層主も居るでござるから中々お手頃でござる!」
ほほう、それはそれは…有りかもな
聞けば二十八階層は洞窟型で鉱物系の魔物が多いらしい。二十九階層は森林だとかで見通しも悪く動きの素早い獣系が多く素人の俺では危険だと判断したらしい。まぁ、俺にはプライドとか意地なんてないしブルースに言われるままホイホイ着いて行くことにした。
「そんで三十階層にはどんな魔物が居るんだ?」
ブルースが石板に手を当てようとした時セレナがそう呟いた。そうそう情報収集は大切だからね!
「確かハイオーガにケンタウロス、それとハーピィやユニコーンだったか…階層主はギガンテスだったと思うでござる。はっきり覚えてなくてかたじけない…」
まぁ、二百年以上前の記憶だしね…そりゃ仕方ない。ちょっぴり落ち込んだブルースの肩を叩き気にするなと声を掛けると頭なでなでを要求してきた。こいつまさか…謀ったな?
「ブルースずるい。オレもなでろソラト!」
カミツレまでもがそう要求してきた。
セレナをちらと見れば物欲しそうな目をしている…うっ
「と、とっとと行くぞ?ほら、ブルース頼む」
ここは戦略的撤退だ。ブルース、カミツレ、セレナ連合軍と我が軍の戦力差は明らかだからな。べ、別に照れ臭くなった訳じゃないぞ?ただ、今は鎧の代金を稼ぐことを優先しなくちゃいけないからな。
頬を膨らますカミツレを横目に見ながらブルースの後を着いて行くことにした。
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ー三十階層ー
転移の光が収まり視界を埋め尽くすのは繁茂した草原に輝く太陽、澄みきった快晴の空、そしてオーガ同士が縄張り争いか殴り合ってるのも端に捉えられた。右や左を見渡せば魔物同士で争ってる姿があちこちで見える。あ、オーガが倒されて何かドロップしたぞ!それを倒した方のオーガが拾い上げ、え?食べたぞ!どういうことだ?
「ブルース!あそこでオーガ同士が争ってて負けた方のドロップ品を勝った奴が食べたぞ?」
「あぁ、あれはダンジョンモンスター流の能力上げの方法でござる。ああやって切磋琢磨して自らの能力を上げること、侵入者を排除することだけを奴等ダンジョンモンスターは命令されてるのでござろう。拙者の推測ではあるが概ね間違ってはないだろうかと」
寄ってきたケンタウロスを分身して平然と切り刻むブルースさん、マジぱねぇっす!
「なっ!それは本当か?!」
今度はセレナがその話に食い付き始めた。
「それが本当ならダンジョン研究者達の推論が根底から覆される案件だ。だがしかし…いやーー」
危険な場所でブツブツ何かを唱えるセレナを放置し警戒に入る俺とブルース。カミツレ?ご機嫌斜めみたいで着いた瞬間魔物の方へと走り去っていったよ。本当、何処ぞの戦闘民族なんじゃないか?いや、ただの人狼か。
「セレナ殿、研究熱心なのは良いでござるがここは一つ切り替えて欲しいでござる」
「ーーだが…むっ?すまない、ブルース。お前の言う通りだな!魔物を狩ろうか」
切り替えてくれて何よりだ。さて俺の方もそろそろ動こうかな。っと!空から鳥の翼を持った醜い顔の魔物が襲ってきた。そういやハーピィなんてのも居るんだっけか?俺が思ってためっちゃ可愛いハーピィとは雲泥の差でとにかく不細工だ。
痩せぎすな体躯に薄汚れた羽を持ち鉤爪状の足で襲いかかってくるのを軽く避けアイシクル・ブロウで殴りつけると煙が上がり麻袋がドロップした。
回収は後回しでとりあえず襲ってくる魔物を対処することにする。セレナを見ると土の円錐状の柱や風の刃などで対応しているのは流石部隊長と言うべきだろう。流麗に剣を振るい舞っている様にも見える。
はえー、セレナかっこいい…!
なんて思ったのは決して口には出さないんだからね?!
俺も負けてられない。記憶の中のボクシングを思い出してステップをし相手に近付き、殴る!殴る!殴る!次々と殴った部分が爆散するが構わず魔物に接近する。倒した相手のドロップ品は分身ブルースが回収していく。あれ、なんか調子が良いぞ?まだまだ行ける!前世ならプロボクサーにでもなれたんじゃないかってくらいの調子の良さだ!だが人生そんな甘くない。絶好調ってのはそこが天辺で後は落ちるだけなわけでして…
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数時間後ーー
ダンジョンを出た俺はブルース、カミツレ、セレナの前で正座をしていた。何故かと言うとーー
「主殿!何故一人でボスに挑んだのでござる!?確かに主殿は強くなられた。しかし、トロールの群れに突っ込むほどの力量はないでござる!」
「ソラトのばか。オレの獲物盗んだ!怒るぞ!」
「ソラト殿があんな勇敢だったとはな。だが無茶し過ぎだ。我々はパーティだ。もう少し頼って欲しい…。」
はい、調子に乗ってボス部屋というかエリアに足を踏み入れてしまい現れたトロールの群れに突っ込んだら数の暴力に遭い気絶。たまたま分身ブルースが着いてきてくれたから事無きを得たけどマジで死んだかと思いました。
「反省してます……」
「反省してるならいいでござる。主殿も疲れたでござろう。夕餉にして早く休もう」
「はい…」
「ソラト、ドンマイ」
「おう」
「仕方ないな、私が手取り足取り腰取り看病してやろう。夜は長いからな」
「それは遠慮する」
全く油断も隙もないぜ…!
「あ、ブルース!換金所へ寄って行こう。少しでもプラスになれば良いんだが」
「ふむ、そうでござるな!では換金所へ行くとしよう」
ブルースの同意を得て換金所へと向かう。日は既に落ちてるからか、繁忙期は過ぎ店の中はガラガラだった。ここは元冒険者が引退後にギルドから雇用され営業している為いつ来ても空いている。夜間に稼ぐ者や遠征でダンジョンに寝泊まりするパーティも居るためだとギルド受付嬢のシャニアさんに教わった。
「らっしゃい」
扉を開けカウンターへと歩み寄ると髭面の強面が無愛想に出迎える。荒くれものの冒険者相手な訳だからそれなりに実力も有るのだろう。
「換金をお願いしたい。少しばかり量が多くてな。ここで出して良いか?」
「ほう…。とりあえず出して見ろ」
俺はそう伝えると男の許可を得たのでブルースの方を見て軽く頷くとブルースが空間魔法から取り出したドロップ品をカウンター回りに出していく。
「なっ?!」
男は唖然とした表情をしたが直ぐに立て直し俺に話し掛けてきた。
「これは三十階層の素材か?見ねえ顔だと思ったが最近ダンジョンの魔物を倒し尽くして暴れまわってる新人ってのはお前らか。ご丁寧に空間魔法まで持ってやがる…!いいか?あまり魔物を倒しすぎるとダンジョンが氾濫して魔物が街に出てくるんだ、実力に見合った階層で十数体。それがここでの暗黙の了解だ」
え…嘘!そんなん知らなかった…!
話を聞いてみれば男は生まれも育ちもクロッセアでベテランの元金級冒険者だったらしい。名前はハイドで荒くれものが多い冒険者の治安維持活動を行っていたがハイド達の活動によりそれも大分落ち着き安心して前から声が掛かってた換金所の店主に転職したらしく換金所を営みながら色々情報を売ったりしているらしい。
「知らなかったとはいえ、不味いことをしてしまった。すまない」
「大丈夫だ。まだ話を聞いた様子だと氾濫は起きねえよ。っと換金だったな、人を呼んでくるからその辺に座って少し待ってろ。」
強面だけど対応は意外と優しいんだな…。まぁ、ガイのおっさん然り異世界の強面って結構優しいのかもしれない。二~三分すると人を連れたハイドのおっさんが戻ってきててきぱきと作業を始めた。あれ、あの女の子見たことが…
「あら、ソラトさん。こんなところで会うなんて偶然ですね」
「シャニアさんじゃないか!でもどうして換金所に?」
「一応ギルド職員ですからね。それにハイドは私の父なので」
まじか!
全く似てないぞ?多分お母さん似なんだろうな
「そうなのか、なんかこんだけ素材を持ってきて悪いことをしたな…ギルドの仕事は大変だろう?」
「ええ、そうですね。こっちは家業になりますので平気なんですが朝から忙しくて何も食べてなくてお腹が空きました…。この作業が終わったら何か食べたいなぁ…お腹空いたなぁ…」
会話の端々でちらちらとこっちを見てくるシャニアさん。視線があざとい…うっ…仕方ない、飯くらい奢ろうか
「うっ…分かった。この作業が終わったら一緒に食事に行こう。ブルース達も良いよな?」
「もちろんでござる!」
「お腹空いた…ソラト、飯ー」
「む~…私はふたりきりが良いのだが…仕方ない…か。」
「よし、全会一致したし行こうかシャニアさん!」
「本当ですか!わーい!皆、ソラトさんが奢ってくれるって!さっさと仕事終わらせるよ!」
「「「へい!お嬢!!」」」
あれれー?なんかおかしいぞー?
詐欺に引っ掛かったような変な気持ちになったが言質を取られてしまったため仕方ない。ハイドの呼んできた職員はてきぱきと素材を選別しあれだけあった素材はものの三十分で査定が終わった。
金額は約金貨八枚。これで何とか鎧の代金を差っ引いても金貨三枚が残る。
俺たち四人は職員に拐われる様に食堂へと向かう途中に大通りを歩いていたアンリエッタさん達を引き連れ、計二十名にも及ぶ団体で金貨一枚を使った豪勢な食事を取るのだった。
今日の教訓…調子に乗ると良いことなんてない。何事も控えめにの精神で望め。
ソラト心のメモ帳より抜粋
ハイド
48才 元金級冒険者 現換金所店主
顔 ☆☆★★★
武力☆☆☆★★
魔法★★★★★
器量☆☆☆☆☆
長年クロッセアの治安維持に勤めてきた功労者。若者の指導や鍛練に情熱を注いできたがそれも軌道に乗った為引退。現在はギルド公認の換金所を営むと共に長年の経験を元に情報を売ったりと冒険者引退後も大きく貢献している。シャニアの父であり娘にべったりである。娘が彼氏を連れて来ないのを心配しているがまだ嫁に行ってほしくないと願う複雑な親心を持つ。最近は頭髪が薄くなってきたのを気にし始めている。
秋ですね~!涼しくなりました!如月は冬が一番好きです。美味しいものいっぱいありますからね!皆様はどの季節が好きですかねー?
これからも作品の向上を目指し励んで参りますのでよろしくお願いします!