フロストバニア魔王国 大魔王ソラト
更新が大幅に遅れてしまい誠に申し訳御座いません。
新章開幕となります!
建国から二ヶ月、俺が転生して五ヶ月が過ぎた。
夏が過ぎ、少し肌寒い日が続く十月中旬。
氷の城壁の周囲を囲むのは一面の麦畑である。
チトセによる土壌改善、ティアによる安定した気候、シノンによる遺伝子組み換えがされた作物の種という数々の条件が揃って初めてこの異様とも言える光景はあった。
更にカミツレ、ジン親子がどこからか連れてきた猪牧場が城南西に広がっている。
新たにジンから族長の地位を受け継ぎ、自らの地位を確固たるものにするため仲の良いティアやアンリエッタが考えたものである。
それを抜きにしても同族に優しいカミツレがコボルト達に信用されているのだが更に人気が爆上げしている。
その肉は管理されているからか脂も甘く上質で俺の晩餐にも時たま出される。
南東、北東には牛や鶏なども放牧しており新鮮な牛乳や鶏卵なども取れ更に生活を向上させていた。
それら全てを囲むように五角形の堅い外壁があり辺の位置には天高く伸びる塔が五つ。
俺の魔族達、最初の配下五人が管理するダンジョンである。
それぞれ北から時計回りに
ブルースの『蒼天の塔』
カミツレの『日輪の塔』
ティアの『黄昏の塔』
チトセの『常闇の塔』
プルネリアの『暁の塔』
となっている。
魔族となり力を持ったブルース達は民から『原初の五人』と呼ばれ崇拝され語られている。
配下の評判も上がればそれを束ねる魔王である俺の評価も上がるわけで…
死ねと言えば喜んでその身を捧げるだろう。まぁ、絶対口にするつもりは毛頭無いけどな。
塔は独立したダンジョンとなっており国民だけでなく訪れてくる冒険者達を一喜一憂させ盛況だ。
城下町はエルフやコボルト、募集を掛け移民を募ったクロッセアの住民で溢れ賑わっている。
俺と仲の良かった冒険者もクロッセアを離れ、各所のダンジョンに入り賑わいを見せていた。
ここ一週間ほどで俺の国から北、帝国領の商人や冒険者等も姿を現す様になり、その賑わいは増加の一途を辿っている。
帝国皇帝ハルトは一週間後に正式に俺の国に訪問することとなっており、その後にセレナ、モネとの結婚を控えている。
そう、セレナが妊娠したのだ。
俺の子供がセレナの中に居る…。
それだけで感慨深い思いで夜も眠れない。
「ソラト、少し冷えてきた。中に入って紅茶でも飲まないか?」
「ん?セレナか。大事な体なんだから大人しくしてないとダメだろ?」
机仕事に疲れバルコニーからぼんやりと街の発展していく姿を眺めていた俺にセレナが声を掛ける。
美しい容貌に金糸のような流れる髪、グリーンの透き通る様な瞳、高身長にグラマーな肢体と非の打ち所のない俺の彼女だ。
「大丈夫。ずっと座っているのは逆に良くないとブルースに聞いたんだ。少しくらい動かなくてはこの子に悪いだろ?流石に素振りなどは出来ないがな。それにソラトのことが心配だったんだ。」
「そうか。まぁ程々にしてくれ。お前一人の体じゃないんだからな」
結婚式を一ヶ月後に控えセレナも気が気ではないのだろう。
街の発展にセレナの懐妊、良い事は続くってのは本当なんだな。
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一週間後10月27日。
この日、グランクリード帝国皇帝ハルト・グランクリードが正式にフロストバニア魔王国を訪問した。
属国の調印式と友宜の使者として使節団を率いてブルースの転移で俺の居城である魔氷城を訪れた。
「ハルト、久しぶりだな。」
「ええ、魔氷帝ソラト様。お久し振りにございます。」
属国となり俺の方がハルトよりも格上となったのを内外的にアピールすることが目的である。
意見のすり合わせをブルースとしていたのでアドリブも完璧だ。
「今回は我の招猊に応じて貰い感謝する。我が家と思いゆるりと過ごすと良い」
「過分なご配慮痛み入ります。是非お言葉に甘えさせて頂きます。」
魔王という身分になり威厳を示す為、『我』と口にした。中々恥ずかしい…が、周りが赦してくれないのでそういう言い回しを公の場でする事となった。
大勢の観客が見守る中俺とハルトは堅く握手を交わす。
その後歓待の宴を行い友好を深めた俺たちは城下街も含め三日三晩騒ぎ続けた。
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一週間後、一部を帰して残ったハルトを含め
北は帝国から南はエルフの森までを掌中に納めた俺が次に狙うのは西の獣王国。
東のドワーフ地下帝国とは帝国との戦争の際、カミツレとジン親子が力を貸した為友好的な態度を取ってくれている。
だが獣王国にはワタメが欠けた勇者一行が滞在している。
ブルースの分身体が撹乱し抑えてはいるがそのうちフロストバニア魔王国に来るのも時間の問題だろう。
目を血眼にして躍起になっているらしい。
まだ勇者と事を構える気はないが場合によっちゃ、覚悟をしなくてはならない。
俺は平和主義なんだけどな…
魔王の部分が戦闘を求めていると言うか何と言うか…俺自身でも抑えられない攻撃的な部分があるのだ。
まるで自分が自分ではない気がする。
最近ブルースにその事を話すと「主殿は冗談が上手いでござるな」と返された。
解せぬ…!
「ソラト様、獣王国に攻めるならば是非我が帝国の魔人部隊をお使い下さいませ」
「んー…あまり派手に暴れたくは無いんだよな。出来れば少数精鋭で迅速に済ませたい。それに魔人部隊じゃ勇者一行には歯が立たないだろ?」
そう、あの日俺が獣王国に足を向け魔人部隊の隊長であるクリティナを拉致した日、援軍に駆け付けた部隊に脆くも敗れてしまったとブルースから報告を受けた。
その時ブルースは静観していたらしいが勇者の名に恥じぬその強さを持って撃退したという。
俺からすればまだまだ精進が足りないんだがな。
「しかし!」
尚も食い下がるハルトに掌を向け俺は黙らせる。
「いいや、俺が一人で行く」
俺はそう言い残すと転移し、獣王国へ向かった。