今宵呑み交わす酒は如何なる味か
懐中時計を確認するとそろそろ夕食の時間だ。
俺の目の前には、皆で拵えたバーベキューや魚介料理。そして酒や子供には果実水が振る舞われる。
だがその前にちょっとした催しを行いその間に料理を楽しんでもらう。優勝したものには俺手製の塩そばを振る舞う。
運動能力、武力、芸術、知力の四部門で成績の良いもの八名を選ぶのだ。残りの二枠は子供たちの中から選ぶ。
俺の配下やエルフ、コボルト、ヴァネッサのところの魔物、魔族関係なく皆で競い合うのだ。ハンデとしてブルースやカミツレ、チトセなどには制限を設け皆で楽しめる様にする。
俺はハーフドワーフのホーリーが立てた上座に座ると観戦に徹した。
フライドポテト、唐揚げをつまみながら酒を飲む。隣にはセレナとモネが居り会話を楽しみながらの観戦だ。
彼らも俺の塩そばの為ではなく魔王である俺にアピールするため必死だ。
何人か即戦力になりそうな者の目星を付けていく。
ステータスを確認すると中々尖った能力の奴も多い。
そういえばブルースの姿が見えない…どこだ?
「なあ…ブルース見なかったか?」
「ブルースか?知らんな」
「えっと…確か少し用事があるって言ってましたよ?お兄ちゃんやセレナさんには言ってないんですか?」
「「いや、何も聞いてない」」
俺とセレナは声を揃えてそう答えた。
その時空間が揺れブルースが人を連れ戻ってくる。その数四人。……チッ…あいつ、余計なことしやがって。
「主殿、ただいま戻ったでござる」
「…それはお前が考えて行動した結果か?」
「そうでござる。主殿の益になると考え連れ参ったでござる。彼らの協力は必要であると判断した所存」
「……そうか、なら俺からは何も言うまい」
俺の前には冒険者ギルドマスターのカーティス、商業ギルドマスターのローアイン、クロッセア防衛軍団長のバズ、そしてベニートのおっさんだ。よくもまぁおっさんばかり連れてきたものだ。
ブルースが休日中に彼らと接触していたのは知っている。
好きにしろと言ったのは俺だからな。
だが、態々ダンジョンに連れてくるか普通?
時々ブルースの忠誠を疑ってしまうのは俺が信頼しきれてない証拠か…?
「おひさしぶりでございます、ソラト様」
「ああ、ひさしぶりだな。相変わらず元気そうでなによりだ」
「いえいえ、この老骨めもお嬢様と未来の旦那様のためならばまだまだ死ぬことは出来ませぬ。早くお嬢様のお子が見たいですなぁ…」
「そうだな…考えとく」
商業ギルドマスターローアインはユリアの執事でもある。ローアインの姿を見つけ駆け寄ってきたユリアが途中で立ち止まり顔を真っ赤にして下を向いたのが端目に見えた。
「いやぁ、流石は白金級越えの冒険者だ。人類未踏の88階層に無傷で辿り着き、酒宴まで催すとはね。いや、恐れ入ったよ」
「フンッ…その冒険者家業はもうすぐ仕舞いだよ。無事制圧したらあんたんところに挨拶くらいは行ってやる」
「これまた辛辣なお言葉ありがとう。」
カーティスに皮肉を言って答えてやると皮肉で返された。全く食えないやつだ
「お久しぶりだ、ソラト殿。いや、クロッセアの英雄とでも呼ばせてもらおうか」
「そんな大層なことはしてないさ。俺は自分の信念に従って行動しただけだ」
「それでも救われたのは真実、我々クロッセア防衛軍はソラト殿を支持しておりますぞ!」
「止めとけ、あまり俺に肩入れすると命が幾つあっても足りないぞ?」
防衛軍団長のバズはそう言い笑顔を持って手を差し出して来た。
俺はそれを握り返す。
「んじゃ、ブルース。お前が責任持って歓待しろよ?」
「それはもちろんでござるが…主殿、ベニート殿への挨拶を忘れてるでござる!」
意図的に無視したが流石にこのままじゃダメか…仕方ない、俺は椅子と机を出し顎で座るように示した。
「…」
「……」
お互い無言が続く。堪えきれなくなった俺はドワーフ火酒とグラスを二つ取り出し中に氷を入れ並々に注いだ。
流石にこの頃になると不用意にテイムすることなど無くなってきた。魔王にまでなって魔力操作が未熟だと笑われものだ。
「言いたいことはあると思うが、とりあえず飲もう。あんたと飲むのは初めてか。」
「そうだな、頂こう」
どちらからともなくグラスを口元に運びまた暫し無言が続いた。
カランと氷がグラスに当たる音が聞こえる。
やがて沈黙を破ったのはベニートだった。
「……装備の具合はどうだ?」
沈黙に堪えられなかったのか今度はベニートが声を掛けてくる。
「あぁ、良い感じだ。これのお陰で何度か命を救われたよ」
俺は偽りなく答えた。87階層では何度か危険を感じた。馴れてきた後半はゲーム感覚だったが…
「少し見せてくれないか?」
俺は左手の籠手を外してベニートに見せた。遠くや近くで眺め手でコツコツと叩きながら点検していく。
「ふむ、少し傷が目立つな」
「かなりの連戦をしたからな。この傷は確かレッドトロールキングに付けられた傷でなーー」
俺は籠手の傷を一つ一つ指差しながら教える。
ベニートはうんうんと相槌を打ちながら調子を取り戻したのか、険しい顔をしたり驚いた顔をしたりと忙しい。
一通り話終えるとベニートは何かを決心した様な顔をする。
「坊主…いや、ソラト。お前さんに貰った金貨で妻と息子を呼び戻せる事になった。感謝している。そしてお前さんの力になりたい。儂はソラトの事も息子だと思ってるからな」
ベニートは髭面をすまなそうに下げて近況を報告してくれた。手切れ金として渡した金貨がその様に遣われてることを知り俺は少し驚く。ベニートも幸せな人生を歩めそうで何よりだ。息子か…そう呼ばれるのも悪くない
「俺は魔王なんだぞ?そんな奴の事を息子と呼んで良いのか?」
「構わん!何よりお前さんの事を気に入ったのは本当じゃ。それに返しきれない恩もある。」
「俺は何もしてねえよ。それに渡したのは感謝の気持ちと手切れ金だ。なのにこんなダンジョンくんだりまで来やがってよ、ったく…まぁなんだ、これからも俺の装備の点検を頼めるか…親父?」
俺がそう伝えるとあからさまにベニートの表情が朗らかに変わる。よほど嬉しいのか俺の背中をバンバンと叩き始め笑顔になった。
「世話の妬けるバカ息子だ、良いだろう。このクロッセア一の鍛冶職人ベニートに任せとけぃ!」
「よろしく頼むぜ、クソ親父!」
俺はそう罵りながらもベニートと酒杯を交わした。
ブルースの一言報告書
ブ「主殿とベニート殿が仲直り出来てよかったでござる」
ソ「お前は余計な気を遣いすぎだ…だが礼は言っておく、、、」
ソラトはツンデレ、需要はなし
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追記、、、
次回更新は五月五日(日)になります。すみません