夏雨の差し伸べる
あの日の夕立は記憶の中ではひどく静かだ
いま耳を打つ大粒の雨音は
低気圧の鈍い酩酊感さえ連れてくる
空気は鉛のように重く
湿気て見通しを閉ざす
いるだけで痛い部屋
この大雨で忘却の川は氾濫し
水浸しの小さな箱の中から
出る術を知らない者から心を流されていく
誰かがそれを救いだと叫ぶ
GIVE is TAKE
ほんとうの愛のことを
ここでは誰も知らない
小さな窓の向こうに向ける
偽善と罵倒がネジを巻き
からくり仕掛けの人生劇場
傷と傷との等価交換で生きている
マイナスの存在たちが
そこが進化の先頭だと信じ込んで
都合のいいことだけ忘れてしまえば
楽にはなるし後悔もするだろう
水に流せと恫喝する獣たちは
見ないようにしていても目の端に入り込む
赤いフレーム
いるだけで痛い部屋
悪意も善意も溶け込んだ
その泥水をかき集めて
すすればなにかを証明できるのだろうか
夏雨の差し伸べる救いの手は
雨あがりの虹に期待などさせはしない
淡くなく重だるい熱の塊のかたちをして
奪われたのではない
与えたのだと、思えたならば
それ自体が生命の灯の洪水だ




