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原点回帰

作者: 鈴音

バリバリとネタ書き出し用スケブ(殴り書き専用)に目の粗い話と台詞を書き出して、それをルーズリーフに軽く清書する。

万年筆のインクが尽きるのが面白くなって現在アナログ街道まっしぐら。

時折作業の邪魔をしてくれる蚊を電気が走るラケットで捕獲&デストロイしながら筆を走らせ続ける。文章の続きが脳内で整う合間に同じ姿勢で強張ってくる肩をメキゴキ鳴らして回し、猫背の影響で負担を強いているのだろう腰が違和を訴える前に背筋を伸ばす。座りっぱなしで体重の影響をもろに受けているお尻をクッションで労わりつつ、曲げていると文句をすぐに言い出す膝を組み替えては伸ばす。


書き出しているのは連載物だけで三種、その世界内の視点別書き分けで更に分岐。

本筋の補足に別視点を書き出していたらコレを載せなきゃ意味不明なところ出て来るんじゃないかとなり、そうなると別視点のワンクッション前がいるのではないかと思い至ったところで脳内から煙が出そうで一旦放棄しクールダウン。別の物語へ向かう。


そうして手を出した物語は説明文が横行していて制度説明に今後の予定説明とかが入り組んでおり、それを混乱しないように分解し始めて書いては書き直してのボツ嵐。何の説明をしたいのかわからなくなり始めて一旦放棄。次へ行こう。


Word内に書き出しているものを眺めて添削。ついでに気まぐれで書き出した小ネタの肉付けをし始めて時間経過は大惨事。これの需要は何処にある?少なくとも私にはあるのかもしれないがと気まぐれで書き出したが故に低い重要度、忘れる前にあらすじを書き殴ってファイルを閉じる。

遅筆のくせに同時に何作品の中身を考えているのかと我ながら呆れるが、出てくるのだから仕方がないのだよとまだ書き出してすらもいない物語の構想に思考は走って行く。


ふと、脳内を過る言葉がある。そして音。

私は元々絵を描いていたのだが、ある日漫画を描くより文字を先に書き起こした方が早いと思い至り、拙く文章を綴り始めた。それはもう拙い拙い代物で、ほとんどの説明は我が脳内に収納されっぱなしのもの。理解できるのは書いている本人だけという小説とは何かと思われる代物だ。


ぽつぽつと思考に、室内に点在するそれらの作品。記憶の中にある印象的な言葉、シーンを思い出す度に過去の私の脳内を観察するように埃をかぶっている紙面を捲り、眺める。拙い上に残念な筆跡で書き出された文字だが、そこにはその時の想いが込められていて、仕舞い込まれていた記憶に色が付く。懐かしい世界観が息を吹き返す。鮮やかに回り出す。


絵を描くのは趣味だ。物語を綴るのも趣味だ。描いて、書いて、それで満足する類のもの。人の目に触れようが触れまいが、どうでもよい程度のものだった。

それが変わったのは一つの夢小説に出会ってから。


手当たり次第に個人サイトの二次創作物を読み漁っていた時期があった。読んでいた作品は主にゲームのもの。最初に読んだものはなんだったのかちょっと自信がないが、長いものを読みたかったのでどれも連載物長編もの。サイトマスターのお気に入り様サイトへ飛んでいき、同じジャンルの物語を読んではまた飛んでいく。

失礼ながらに当たりと評する物語を綴られたサイトマスター様の描く別ジャンルの物語に手を拡げ、今度はそのジャンルの物語を追いかけてまた飛んでいく。

それを繰り返していた時に、出会ったのだ。


当時原作であるゲームはまだ未プレイ。その内やるだろうと思っていたその物語。一サイト目の物語を読み終え、原作の本筋は何処かと複数の物語を読み込んでいった。

そうして、原作ゲームのとある部分のアニメーションを動画サイトで見かけて凍り付いた。本当に息が詰まった。美しい映像のそれに、声もなく震えた。頭蓋を割られるような衝撃に、お腹の奥が冷えていくような感覚に、泣き叫びそうな悲鳴が体の何処からか聞こえた。


こんなのは嫌だ。このエンディングを、私は認められない!


原作にケチをつける日が来るとは思わなかった。何様だよと思いながらも、それでも絶対にコレは嫌だと認められなかった。

あぁ、だからサイトマスター様方はこの物語を綴ったのだと思い至った。

こんなのは悲しい。辛い。だからせめて、この場所でだけは幸せであれと願い、祈ったのだと。誰か、誰かと祈ってしまった。誰でもいいからと縋りたくなった。

彼を、彼女を、あの物語に登場する皆を助けてくれと。誰一人欠けることなく、皆を助けてくれと、滑稽なくらいに願ってしまった。


所詮は誰かが生み出した創作物。二次元の世界の作り物。これだからオタクは、なんて笑われるのだろう。いい歳して夢を見過ぎだと呆れられるのだろう。その物語によって芽吹いた自分自身でもどうにも出来ない複雑で難解な感情を取るに足らないものだと貶められるのだろう。

私だってわかっている。これは結局のところただの物語だ。現実の私になんの影響ももたらしてはくれないただの読み物に過ぎない。


それでも、思ってしまったのだ。想ってしまった。物語の世界がなんだ、空想でも妄想でも何だっていい。笑いたければ嗤えばいいさ。だって、だって私にとってあの世界は、あの場所を駆け抜けた彼らは、まぎれもなく生きている人間だったのだから。救いたいと願って何が悪い。守りたいと思って何が悪い。幸福であれと祈って何が悪い!


誰にも言えない想いが燃え広がって、消化しきれなくて、泣いて叫べたならとどうしようもない感情に何かが焼き切れてしまいそうだった。

そんな時、あるサイトにたどり着いた。MIDI音源に写真素材、そして物語を抜粋して作られたflash playerの映像。どんなものだろうかと何気なしに開いて、泣き出しそうになった。イヤホンから流れる荘厳な音色が、映し出される風景が、浮かび上がる言葉が、言い表せない何かを叩いて震わせた。


誰が紡いだ言葉なのかがわかる台詞が脳裏に浮かび、その映像を色鮮やかに再生する。頭の中で聞こえる声は切なくなる程に哀しくて、同時に愛おしい。鳴り響く音源が紡ぎ出そうとした世界の美しさと脆さを鼓膜を通じて肌に感じさせる。この物語を綴った人は、どれ程の想いでこの世界を描いたのか。

誰もかれもが疑問に思い一生をとして考え続ける命題、自分の生まれてきた意味。


安穏と、そしてどうしようもなく怠惰に過ごし、一体自分が何をしたいのかがわからなくて、けれど何をしていいのかもわからなくて陸の上で溺れていたその時、目にした言葉。


誇れ。


その生は、誰よりも何よりも美しいのだと、告げる。その一言に魅せられた。泣きたくなった。そう在りたいと、思わせてくれた。後悔することはある。自分ではどうにもならないことだってある。何かをしようと思っても何も出来ない事だってあるのだ。

けれど、その想いは、何かを成そうと思ったその気持ちは、動き出そうとした行動は、何一つ、無駄なことではない。駄目なことじゃない。何処にも行けない想いを肯定することが許された気がした。


気付いた時にはペンを手に取っていて、紙に物語を書き始めていた。原作ゲームは、出来ない。私にはあのエンディングを見ることが出来ない。代わりに公式で書籍になっているものを集め、資料にした。

描きたい結末は決まっている。その過程で通りたい道筋も見えている。後は形に残すだけ。


そうして始めた物語は一人のイレギュラーを原作の中に埋め込んだもの。夢小説と呼ばれる作者が生み出した登場人物を主人公として原作物語の中を進んで行く物語。主人公は、私だ。

正直どこまで妄想脳と我ながら思うが、こればかりは別の名前を使う訳にはいかなかった。何せ私ならこうしたいと思う、こう言うを実行する為に物語を綴り始めたのだから。他の誰かでは駄目だったのだ。


一つ一つ原作通りのシナリオに沿って進んで行きながら、気付けば物語の主人公は限りなく私と近い思考を持った同じ名前の人物になっていた。私であって、私ではない、でも私に違いない誰か。

それがなんだか寂しくもあり、嬉しかった。世界に馴染んだのだと思えたから。

文字を紡いで書き出しているのは私なのに、同時に描き出された物語を楽しむ読者にもなっていた。それはとても不思議な感覚で、上手く言葉に出来ない。


長い時間をかけて進むそれは気付けば1600ページを超え、未完。……未完。

書き始めたのが平成21年だというのに未だ完結していないとんでも物語。これで原作シナリオの半分に足りない部分しか描ききれていないんだぜと思うとゾッとする。所謂エターナルな作品と言われるのだろうけれど、私はこれを描くことを放棄した覚えはない。続きは書ける。それこそ今すぐにでも。

だけど、なんとなく書かない。理由はあるのかもしれないが、それも追及はしない。たぶん、してはいけないのだと思う。


自分以外の誰の目にもつかないひっそりと綴られて、私の為だけにある未完の物語。それをつい先日ある台詞を思い出して読み返した。全部。一日で終わらなかった。そりゃそうだ、1000ページ超えてるもの。

物語の冒頭は駆け足で、説明文章なんてまあ見事にお空の彼方な原作を知ってその場面を覚えている人でなければ伝わらないだろうという文章に苦笑する。


拙い物語だ。だけど、何よりも想いが込もる物語だ。祈り、願い、只管に希う私の根底を記した物語。

これは私が踏み出した一歩目。誰かに何かを伝えたいと、自分だけが満足するのではなくて、私の描いたもので誰かに何かを伝えたいと思わせたはじまり。私が何よりも私らしくあれる世界の中心。物語を描き続けようと決めた瞬間だった。


そうして紆余曲折。今現在、私はこのなろうの場所にひっそりと立っている。

亀が驚き二度見の末に抜き去って、蝸牛が鼻で笑うくらいに遅筆のくせしていろんな物語をのろのろ書き綴っている。

ピコーンと頭上に電球マークが浮かぶようにして降って浮かんだ言葉を足掛かりに日々つらつらと何かを描く。時には一人の人だけに向けた言葉を、時には自分でも疑問を覚えるような書き上がりになっているお話を。出来上がった物語を最初の読者として楽しみながらお披露目するのだ。


自分が何をしたいのかなんて明確なことはわからない。きっと一生かかってもそれはわからないんだろうと思う。そしてそれでいいのだとも思う。ただ不器用でも不格好でも、こうして何かを誰かに伝えて、ほんの一瞬でもその気持ちを共有できればいいと思う。

伝える人でありたい。伝わる人でありたい。考え続けられる人でありたい。考えて考えて頭が爆発しそうになっても、悲しくて泣いて震えて叫び出したくなっても、前を向いて、立ち止まらずにいられるような人でありたい。そんな人になりたい。そう在りたい。


これは、原点回帰。私が始めた一歩目がどんな想いで何を伝えようとしていたのかを確認する為のもの。

あの日見た泣きたくなる程に美しい世界へと少しでも近づけるように、あの日決めた想いに決して背かないように、私はペンを片手に紙へ物語を書き綴る。


誇りなさい、私。例え人に笑われようとも、愚かだと誹られようとも、自分で選んだその生き方を。きっとそれは何よりも貴くて、何よりも美しいものだ。

私が私らしく在る事を、恥じることなく胸を張れ。

勢いのままに行こうと思い、辞書を引くことをせずに書いてそのまま投稿直行便。

誤字と脱字と漢字の意味違いがないといいなあと思いながらも訂正はしない。

無駄に熱い思いが伝われば、今回はそれで良し。間違ってても間違ってない。

と、いうことにしときます。欲を言えば、同士がいると嬉しいなあ、です。

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