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異世界転生おっさん、帰還して元いじめっ子の娘に惚れられる  作者: 三口 三大
帰ってきたおっさん(リメイク版)
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8 お節介?

リメイク版です。


美術館に行く理由+展開が違います。

 翌日。宿題を解いていると、声を掛けられた。


「なぁに、難しい顔してんのさ」顔を上げると、笑顔の菜穂がいた「おはよう、真治」

「おはよう。宿題をしているからさ。ってか、名前呼びなんだ」

「うん。いじってもあんまり反応ないからね。真治も私のこと、名前で呼ぶし、これで落ち着こうと思って。あ、勘違いしないでよね。べ、べつに特別な意味はないんだから」

「さいですか」

「人がせっかくツンデレしてあげたのに、その反応ってひどくなーい?」

「だって、べつに、菜穂さんのツンデレなんていつものことじゃん」

「は?」

「あれ? 自覚は無かったの?」

「はぁ? ツンデレなんてしてないし」

「まぁ、冗談だけど」

「……真治のくせにぃ、むかつくー」


 菜穂はむくれた調子で席に戻り、真治が体を向けても、顔をそらした。


「すまん、すまん。たまには、いじる側にもなりたいのさ」

「……クピィのアイス」

「え?」

「クピィのアイスをおごってくれたら、許してあげる」

「わかった。おごるよ」

「本当? なら許してあげる」


 ちょろいな、と思ったが、当然口にはしない。わざわざ不機嫌にするほど真治も馬鹿ではない。


「んじゃ、いつ行こうか。今日は無理だしなー」

「何か用事があんの?」

「うん。やえっちたちとA美術館に行くの」

「A美術館? あぁ、あの屋上で、『変なオブジェ展』をやってる?」

「そう、よく知ってるね。やえっちが見たいんだってさ」

「へぇ」ふとそこで真治は気づく。「ニャースのメンツで行くの?」


 ニャースとは菜穂が属する仲良しグループのことで、名前の頭文字をとると、N、Y、A、Sだからニャースらしい。


「うん。真治も行きたい?」

「いや、べつに」


 ムッとした菜穂の顔を見て、言葉のチョイスを間違ったことを悟った。





 その日の昼休み、真治は玲央と快斗の三人で昼食を食べていた。二人は、アニメとソーシャルゲームが好きな平均的な男子高校生で、今のところ、一番仲が良い男友達だ。


 昨夜の深夜アニメについて喋る二人に真治は言った。


「あのさ、今日の放課後、二人は暇?」

「暇だけど。どうして?」と快斗。

「A美術館で『変なオブジェ展』をやっているらしいんだけど、観に行かないか?」

「え、俺、そういうの興味ないんだけど」と玲央。

「うーん。俺はべつに、行っても良いけど、何でまた急に」

「何となく、興味があってね」


 真治は玲央に目配せする。取りあえず来いと目で合図。


 玲央は渋い顔で言った。


「まぁ、二人が行くなら」

「よし、それじゃあ決まりだな!」


 快斗がトイレに行ったタイミングで玲央が言う。


「で、どんな企みがあるんだ?」

「今日の放課後、すみれさんがA美術館に行くんだ」


 すみれとは、菜穂と仲が良い女の子で、ニャースの一人だ。


「ああ、なるほどね」


 玲央がニヤリと笑う。すみれの名前を出しただけで、玲央は企みがわかったようだ。


「真治も悪い事を考える」

「悪い事? むしろ、キューピットになるつもりさ。こういうことは若いうちしかできないからな。玲央も気になる子がいるなら、俺は協力するぞ?」

「何だよ、お爺ちゃんみたいなことを言って」


 お爺ちゃんなんだよ。と思ったが、真治は笑ってごまかした。





 という経緯があって、真治は快斗と玲央の三人で、A美術館に向かった。表向きは友達と遊ぶ高校生だが、中身は元勇者である。【気配感知魔法】を使って、菜穂たちの位置を確認しながら進んだ。人が密集し、遮蔽物も多いため、異世界のときよりも精度は下がるが、半径一キロ圏内だったら、対象の場所を完璧に把握できる。


 真治は菜穂たちを追いかけるように進んだ。A美術館は、真治の通う高校から、乗り換えなしで三駅ほど離れた場所にある。真治は菜穂たちから遅れて改札を抜け、約500メートルの距離を保って追いかける。


 途中、四人の動きが止まった。何事かと思い、【幻視虫】を飛ばす。プライバシーの観点から、【幻視虫】の発動は控えているが、演出のために仕方なく発動する。四人は若者向けの衣料品店で服を見ていた。彼女たちの表情を見るに、しばらく時間がかかりそうだ。真治は迂回して、先に美術館に行くことにした。


「少し遠回りしないか?」


 真治の提案に快斗は眉をひそめる。


「このまま、まっすぐ行けば美術館に着くんだろ?」

「うん。でも、何となく、河川敷を歩きたくなってね」


 何か考えがあるのか? 玲央の表情は語る。


 真治は首肯するように瞬きした。


「おお、いいね、河川敷。俺も歩きてぇわ。よし、行こう!」


 半ば強引に、快斗を連れて河川敷へ向かった。雑居ビルが林立する道を抜け、河川敷に出る。ランニング中の中学生やキャッチボールを楽しむカップルを眺めながら美術館を目指した。


 10分ほど歩き、美術館に到着する。菜穂たちも動き出した。思ったより早い。これならロビーで待った方が良さそうだな、と真治はロビーで四人の到着を待つことにした。


「ちょっと、トイレに行ってくるわ」

「あ、俺も行くわ」


 玲央と二人で連れションする。


「で、これからどうすればいいんだ?」

「時間を稼ぎたい。すみれさんたちは多分、もうすぐ来ると思うんだけど」

「OK。なら、俺に任せておけ!」


 トイレから戻ると、玲央はトイレ前のソファーに座った。


「入らねぇの?」


 快斗はムッと眉間にしわを寄せる。


「ガチャを引いてから。ほら、館内って基本的にスマホ禁止だろ? 快斗も引いたら、どうだ?」

「俺はべつに……」


 と言いながらも、引ける時間となっていたらしく、玲央と並んでガチャを引いた。


「やべぇ! めっちゃ良いの引いた!」


 と喜んだのは、玲央だ。ただの時間稼ぎのはずだったが、思わぬ収穫があったらしく、二人は盛りあがる。真治はソシャゲをやっていなかったが、楽しそうな二人を見ているだけで微笑ましく思った。そんな状況をヤバイとは思う。思考が保護者になっている。


 ロビーに女子高生の元気な声が聞こえる。菜穂たちの到着だ。真治は玲央と顔を合わせ、にやつき、そのままの顔で快斗を見る。


 快斗は呆然と菜穂たちを、とくに、髪の長い、お淑やかな雰囲気のあるすみれを見ていた。ハッとして、真治たちに目を向ける。二人のにやけ顔を見て、色々悟ったのか、顔が赤くなる。


「お前ら、もしかして!」

「まぁまぁ、そんなにカッカするなよ。青春っていうのは、快斗が思っている以上に短いもんなんだぜ」


 真治はしみじみと語る。その顔には不思議な説得力があって、快斗は言葉に詰まる。


「だから、後悔のない青春を送って欲しいと思ってな。安心しろ、俺たちがうまくやってやるさ。な?」

「おう!」


 玲央は元気に答える。


「ほら、行くぞ」


 渋る快斗を連れ、真治は偶然を装って、菜穂に声を掛ける。


「あれ? 菜穂さんじゃん?」

「え? あ、真治?」


 菜穂が怪訝な表情になって、じぃと見つめる。


 真治は、合わせてくれと目配せする。一瞬、嫌そうな顔をした菜穂だったが、受付嬢めいた明るい笑みを浮かべる。


「どうしたの? こんなところで」

「『ヘンなオブジェ展』ってやつを観たくてね」

「そうなんだ。一緒だね」

「菜穂さんたちも観に来たんだ。なら、一緒に観ようよ」

「私は別に構わないけど」


 菜穂は振り返って他のメンバーの意見を求める。二人のやりとりをしげしげと眺めていた、こけしヘアの小柄な女生徒、弥恵は言った。


「我は別に構わないよ」


 すみれともう一人のメンバーである愛花も首肯する。


「いや、ごめんね。突然の申し出なのに」

「こういうのは大勢の方が楽しいものさ」


 弥恵が微笑む。


 それから七人で受付まで言って、チケットを買う。


 生徒手帳を見せ、学割を懐かしく思っていると、菜穂が横から言った。


「その写真の真治、老けてない?」


 菜穂の生徒手帳を盗み見て真治は言う。


「人のこと、言えなくね?」

「なにをー!?」


 不意に真治は、眉をひそめて辺りを見回した。


「どうかしたの?」

「……何でもない。気のせいだ」


 真治は蚊に刺されたような不快感を覚えながらも、何事もなかったように微笑む。


 こんなやりとりをしつつ、七人は一階と二階の展示物を観ながら、屋上のヘンなオブジェ展を目指した。


 真治は集団から少し離れて、快斗と玲央のやり取りを眺めた。快斗が緊張しているのはわかるが、真治や快斗の前では饒舌の玲央も少しぎこちない。女の子と喋るのはあまり慣れていないようだ。一方の女性陣もどこか固い。こちらも男子と喋るのは慣れていないようだ。しかしながら、そんな状況でも、楽しそうにはしている。そんな光景を見て、真治はやはり、微笑ましく思うのだった。


「ねぇ」不満げな菜穂が隣に並ぶ。「何でいるのさ。べつに、行きたくなかったんじゃないの?」

「快斗がさ、すみれさんのこと、好きなんだよ」

「えっ、そうなの?」

「まぁ、好きというか、気になるって感じかな。本人は否定しているけど」

「なるほど。だから、そういう機会を作ったってわけ?」

「そんなところ」

「人が悪いなぁ。だったら、言ってくれたらいいのに。そしたら私も協力したのに」

「それはすまないと思っている。ただ、他にも驚かせたいと思っている人がいてね」

「え、誰?」


 意味深なことを言えば納得してもらえると思ったが、そう甘くはないらしい。真治は笑ってごまかした。


 追及があると思ったが、そんなことはなかった。


「ふーん」と、菜穂はどこか上機嫌に鼻を鳴らし、そばに掛けられたキャンバスに目を向ける。「あ、これ、真治に似てる」


 苦しむ人、というタイトルの絵だった。


「似てるか?」

「似てるよ」


 真治がわざとらしく、苦悶の表情を浮かべると、菜穂は笑った。


 屋上へは階段を使って上った。屋上へ続く扉を開けると、小高い丘が見え、丘の頂上にある金色の球に目を奪われた。


「何だ、あのオブジェは」

「変なオブジェだね」


 先行する五人に続き、真治と菜穂もそのオブジェを眺めた。


 金色の老若男女が、半径二メールはある大きな金の球の下敷きになっていて、もがき苦しむ様子が表現されていた。『金未来』というのが、そのオブジェのタイトルであるようだ。


「金玉だこれ! 金玉! 金玉!」


 小学生たちがそのオブジェを見て、はしゃぐ。そのネーミングに、一同は苦笑した。


「他のオブジェも見てみようぜ」


 玲央の提案で、他のオブジェも見て回った。変なオブジェ展だけあって、芸術なのかガラクタなのかよくわからない物が多く、すぐに飽きてしまった。


 火事現場に残されていたような、ぐねぐね曲がったベンチに女性陣が座って、快斗と玲央がそばに立って談笑する。最初にあった緊張はほぐれ、わざわざ俺が口を出すまでもないな、と思った真治は、手すりの前に移動した。そこからは岸の向こう側に広がる街並みが一望できた。


 真治が街を眺めていると、隣に菜穂が立った。


「良い感じだね、あの二人」

「ああ。これをきっかけに仲良くなってくれればいいなと思うよ」

「真治は、どうしてあの二人をくっつけたいの?」

「べつに、くっつけたいとは思ってはないよ。ただ、後悔だけはしないようにして欲しいなと思っている。もちろん、付き合うことになったら応援はするけど。青春というのは、思っている以上に短いものだから」

「ずいぶんと優しいんですね、真治お爺ちゃん」

「そうじゃよ。わしは優しいんじゃ」

「ぷぷっ、変なの」


 菜穂は笑い、真治も笑った。


「でも、後悔しないように、か……」菜穂は遠くを見るような目つきで、手すりに肘をついた。「真治は、ないの? そういうの?」

「そういうのって?」

「だから、えっと、つまり――」

「きゃああああ!」


 突然の悲鳴! 真治は振り返って、目を見開く。金未来の金の球が、下敷きのオブジェを押しつぶし、真治たちの方へと転がってきた!


 状況が呑み込めず、茫然とする菜穂。


「しゃがめ!」


 真治は、そんな菜穂を庇うようにしゃがみ、【念動魔法】を発動する。猛スピードで迫りくる金の球! 真治は丘を下りきる前に金の球を跳ねさせ、放物線を描きながら、川へ落下させた。大きな水飛沫があがる。


 屋上にいた人々は、手すりに駆け寄って、興奮した調子で川に浮かぶ金の球を指さした。


「菜穂!」


 弥恵たちが駆けつける。真治は気遣いながら、菜穂を立たせた。


「菜穂、大丈夫だったかい?」

「うん。まぁ、真治が守ってくれたから」

「待て! おい!」


 丘の上から怒号が飛んだ。丘の上から逃げる男があって、大人たちがその男を追う。真治もすぐさまその男を追った。魔法を使い、転ばせる。男はごろごろと丘を転がって、立ち上がろうとしたところを取り押さえられる。男は清掃員の格好をしていた。


「お前、何をしたんだ!」

「知らない! 俺は何も知らないんだ!」

「金玉を押すところを見たよ!」と小学生。

「お前があれを押したんだろ!」

「違う! 俺は何も知らないんだ! 本当だ!」


 男は自分の無実を主張するが、誰も信じなかった。男が金の球を押すところを他の人たちも目撃していたからだ。しかし真治には、男が嘘を言っているようにも見えなかった。

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