表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/56

2.憂界の革命家

 魔王ゲルゲ・ペッペは『ダーク・シャイニング』という新聞社の元記者だった。


 元エリート軍人でもあるペッペは、剣では魔界を変えられないことを悟り、ペンを握ったのだった。


 ペッペは魔界の将来を憂えていた。前政権から継承されている、人間界との融和路線を続ければ、やがて魔界が人間界及びその裏にいる天界の手に落ちてしまう。


 そのためペッペは、融和路線を続けるビルロ政権を失脚させ、ガリラ氏による強硬派政権の誕生を目論み、ビルロ政権の粗を探しては執拗なバッシングを続けた。


 しかし世論は、ペッペの期待には応えてくれなかった。支持率の低下という点では、一定の効果はあったが、政権交代までには至らなかった。


 そして、偏向的な報道を繰り返す、『ダーク・シャイニング』に対し、冷ややかな目を向ける読者も多かった。


 こんな読者の声があった。


「最近、貴社の報道姿勢に疑問を感じます。ジャーナリズムの原点に立ち返り、公正公平な報道を心がけるべきです」

「記者の意図が透けて見える。あんたらは魔族の生活よりも、自分のイデオロギーの方が大事なのか?」

「ダクソには糞が似合う。ケツを拭くために使用しています。毎日、ありがとうございます」


 くそがぁ! てめぇらに何がわかるんだ!


 ペッペは読者の声を引き裂き、酒に溺れる日々が続いた。


 根本の部分から魔界は腐っていると思った。魔族としての高潔な精神が失われ、快楽と安定に追従的な精神がこの世界を支配しようとしている。それは病だった。魔族を退廃的な存在へと変える、恐るべき病。この病を断たなければ、魔界は変えられない。そしてその病の主因がビルロ政権なのだ。


 どうする? どうやれば変えられる?


「わかっただろう? この世界が抱える問題がどれほど根深いものか」


 と言ったのは、魔界軍の元帥であり、ペッペの叔父でもある男だった。


「魔族は愚者になってしまった。しかし、彼らに非はない。彼らはただ騙されているだけなのだ。あのペテン師たるビルロに」

「どうすれば、いいんですか、叔父さん。俺は悔しい。この世界を変えられない自分が。あの憎きビルロを見る度に、悔しさが込み上げてくる」

「実はな、軍部でもビルロのやり方に疑問を持つ者が多く、謀反を起こせないか画策しているところなんだ」

「え、クーデターということですか?」

「クーデター? 違うな。革命だ。魔界をより良い方向へ導くためのな。しかし問題がある。カリスマが足りないのだ」

「カリスマ?」

「そうだ。今のままでは、革命を起こしたところですぐに鎮圧されてしまう。軍部も一枚岩ではないからな。ビルロ派の連中だっている。やつらを打ち崩すためには、やつらを圧倒できるだけのカリスマが必要なのだ」

「なるほど」

「なぁ、ペッペ。軍に戻る気はないか? 私は、お前こそが、革命を成功させるカリスマだと思うんだ」

「俺が? でも俺は、世の中を変えることができなかった」

「ペンの力ではな。しかし、剣でなら変えることができる。お前はそういう男だ」


 それからペッペは考えた。本当にペンで魔界は変えられないのか。自分は軍に戻るべきなのかどうか。


 そんなある日のことである。ペッペは街頭でインタビューをしていた。ビルロ政権に対する生の声を聞くためだ。ペッペは何人かインタビューした後、四人組の青年に声を掛けた。


 青年たちはペッペが『ダーク・シャイニング』の記者であること、ビルロ政権に対するインタビューを行っていることを告げると、大爆笑した。


「おい、聞いたか? ダクソの記者さんだってよ」

「俺、ビルロ政権を支持しているんだけど、どうしよう」

「おいおい、そんなこと言ったら、新聞に載らないぜ? そこはビルロのやり方は気に入りませんって言わないと」

「まぁ、支持していると言っても、どうせ、書き換えられているから心配すんなって。ね? そうでしょ、記者さん?」


 ペッペはペンを捨て、剣を握った。


 ペッペが軍部に戻ってきた。軍の幹部にとって、それは朗報だった。一方で、ビルロ政権にとっては緊急事態だった。自分たちに対し、批判的だったペッペが軍に戻ってきたのだから。


 ビルロ政権はすぐにペッペへの対策を講じようとした。が、軍部の方が早かった。ペッペの力を持ってして、軍内部のビルロ派の魔族を抹殺後、議事堂を包囲。ビルロ政権は武力に屈する形で解散した。


 その後、不透明な投票が各地で行われ、ペッペ率いる魔界復活党が圧倒的な票数で議席を獲得し、ペッペ政権が誕生した。この選挙結果に異を唱える者もおり、ペッペの最初の仕事は反対派の鎮圧だった。


 反対派の鎮圧にも成功したペッペは、民主制から君主制への移行に尽力し、初代魔王として、魔界の権力を手中に収めた。


 そして、自らが先頭に立ち、人間界への侵略を始めた。


 快進撃だった。人間からの抵抗もあったが、それ以上の戦力をもって、蹂躙した。帰る度に凱旋である。一億と言われた人間の人口を三千万にまで減らし、100はあったと言われる人間界の国々を20にまで減らした。


 このままいけば、確実に人間界は滅びる。そしたら次は天界だ。リンゴをかじり、茶を楽しむあのジジイども如何にして殺してくれようか。そんなことを考える日々が続いた。


 だから、負けるはずがないと思っていた。人間なんかに、自分が。


 

 

 ――しかしペッペは、四肢を切断され、這いつくばり、地面を舐めていた。




 なぜ、こんなことになってしまったのか。ペッペは顔を上げた。


 男が立っていた。黒髪の、若く、精悍な顔立ち。勇者シンジである。そしてその後ろには、魔導士ウェンツ、格闘家ミーナ、老兵士ガンゴが控えている。魔王軍を次々と撃破し、四天王や三柱といった魔王軍の精鋭たちを葬った猛者たちだ。


 ペッペの目じりに涙が浮かぶ。順調に進んでいたはずだった。それなのに、齢15の若造に負ける。その事実に、ペッペは奥歯を噛んだ。


「終わりにしよう、魔王」シンジは言う。「お前はもはやここまでだ」

「待ってくれ! 最後に聞かせてくれないか。お前はどうやってその力を手に入れた。その圧倒的な力を」


 自らが望み、手にしていたと思っていた力を。なぜ、人間であるお前が。


「シンジ殿、そいつの言葉に耳を貸す必要はありませんぞ。時間稼ぎかもしれませぬ」

「黙れ、ジジイ! 誰もお前に言ってねぇんだよ!」


 ガンゴはむっと剣を抜こうとする。が、シンジは手で制した。


「いいだろう。教えてやる」

「シンジ殿」

「せっかくの機会だ。皆にも聞いてほしい」シンジはガンゴたちを見回し、ペッペに視線を戻した。「俺は元々、異世界の人間だった。で、そっちの世界で死んでしまったんだが、救国の戦士になる資質があるとかで、この世界に転生することになったんだ。その際、チートな、えっとつまり理不尽とも言えるような能力が付与されたんだ。だから、俺は強い。当然、その能力を最大限に発揮するための修行も積んだんだが」

「転生だと? そうか、やはり天界の連中が一枚噛んでいたのか。くそがぁ! よってたかって俺の邪魔をして」

「それは違うな、魔王。お前が善良な王であったなら、天界の神々も俺を呼んだりしなかったさ。まぁ、今さらだけど」シンジは剣を構えた。「さて、話はここまでだ、魔王。終止符を打とう。俺たちの戦いに」

「待ってくれ! 俺にはまだやることがある! だから、見逃してくれ!」

「そいつは無理な話だ。お前は、人間を殺し過ぎた」


 シンジは躊躇いなく、剣を振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ