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14.彼女の目的は?

 その日の学校は、朝の事故の話で持ちきりだった。


 警察の事情聴取を終えてから登校した真治の周りに多くの同級生が集まった。真治は事故の様子を聞きだそうとする同級生の好奇心に辟易した。何度も同じ話をさせるなよ、と思ったが、渋い顔で話した。


 そのため別のクラスの生徒である寺田が来たときは、お前もか、と思ったが、どうやら違う要件らしい。「ここでは何だから」と寺田が言うので、二人で空き教室へ移動した。


 寺田は、青春っぽいという理由で、真治が色々な部活に仮入部していた時に出会った男だ。


「杉下は、どこの部活に入るか決めた?」

「部活には入らないことにした」


 本気を出せば、どんな競技でも、三ヶ月で世界の頂点に立ててしまうことを、仮入部を通して学んだ。


「そうなの? もったいない。ちなみに、俺はサッカー部に入ることにしたよ」

「そうなんだ、頑張れよ」

「おう」


 寺田は、わざわざこんな話をするために二人きりを望んだのだろうか。部活の話など、立ちションをしながらでも話せる。だから、きっと、他の要件があるはず。寺田が言いだし辛そうにしているため、真治から声を掛けた。


「で、俺に用事って何? 他に目的があるんだろう?」

「ああ、それなんだが……」寺田は逡巡し、諦めたように口を開く。「杉下ってさ。彼女いる?」

「いないけど」

「あ、そうなの?」

「うん。何で、ちょっと嬉しそうなの? 嫌味?」

「あ、すまん。ただ、彼女がいるって言われると、色々と厄介な事になりかねなかったから。好きな人とかはいる?」

「……いないけど」

「そっか。ならさ、武森って五組の女の子知ってる? 武森宏子。髪の長い、気の強そうな、綺麗な女の子なんだけど」

「知らん」

「その子がさ、杉下と仲良くなりたいんだってさ」

「何で?」

「さぁ、それは知らない。本人に聞いてよ。だから、彼女と話す場を設けたいんだけど、杉下っていつ暇? できれば、早い方がいいんだけど」

「いつでも、と言うと語弊があるけど、基本的には暇かな。早い方がいいんだったら、今日でもいいよ」

「わかった。なら、今日の放課後、校舎裏でどうだ?」

「いいよ」

「ありがとう。恩に着る」

「何で寺田が感謝するんだ?」

「……生活が懸かっているんだ。彼女の父親が俺の父親の上司なんだ」

「なるほど。そいつは、ご愁傷さま」

「まぁ、でも、うまく事が運びそうで良かったよ。それじゃあ、放課後、よろしくな」

「わかった。ってかさ、さっきの話の流れ的に、その武森さんは俺に対し、特別な感情を抱いているってこと?」


 さぁな、本人に聞いてくれよ。と寺田は肩をすくめた。





 寺田と別れた後、昼食をまだ食べていなかった真治は、学食でうどんを食べた。今日は面倒だったので弁当ではない。混雑のピークが過ぎていたため、真治は余裕をもって、昼食を食べることができた。


 次の授業の5分前に真治は教室に戻った。席に着こうとして、菜穂の虫の居所が悪い事に気づく。事故があってから、徐々にいつもの明るさを取り戻しつつあった彼女に何があったのか。気になるが、そっとしておいた方が良さそうな気もする。元気がないのではなく、不機嫌なのだ。そのため真治は、沈黙を選択する。


 触らぬ神に祟りなし、といった態度で席に座る。そんな真治の背中に、「ねぇ」と声が掛かる。振り返ると、不快感を露わにした菜穂がいる。


「何?」

「今日の放課後。行きたい場所があるんだけど」

「今日の放課後?」

「何? 何か用事でもあんの?」

「まぁ、その、色々」

「……嘘つき」

「え?」

「頼れって言ったくせに」

「だから、行かないとは言ってないよ。ただ、ちょっとだけ待ってて」

「ちょっと、ってどんくらい?」

「……30分」

「全然、ちょっとじゃないんだけど」

「んじゃ、15分」

「やだ」

「やだって、そこを何とか」

「嫌なもんは嫌」

「えぇ、んじゃ、何分だったらいいのさ」

「3分」

「3分って、カップラーメンを作るわけじゃないんだからさ。難しいよ」

「そもそも用事って何?」

「……人と会うんだよ。五組の人。何か、俺に話したいことがあるらしい」

「話したいことって?」

「さぁ、知らん。……ただ、もしかしたら、サッカーチームの話かも。その人と俺の共通の知人がいて、その知人に俺が好きなサッカーチームの話をしたんだ。そしたら、その知人が、『そのサッカーチームが好きな奴を知っている』とか言ってて、それで、会うことになったんじゃないかなぁ」

「本当?」

「Maybe」

「嘘だったら?」

「そんときは、どんな話をしたか、ちゃんと話すよ」

「……5分。5分だけだったら、待ってあげる」

「ありがとう」


 国語の教師が入ってきた。真治は黒板の方へ向き直る。


何なんだ一体、面倒くせぇな。と思いながら、教科書の準備をしていると、「ばか」という呟きが聞こえた。


振り返ると、菜穂は机に突っ伏していた。

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