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悪魔的サーチメモリア  作者: 涼ミ音エイ
序章 悪魔の誕生
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第五話 Alto was born the day

「ふはは、ははっ……はぁ~」


彼はさっきまでの狂気が嘘のように、肩を落とす。


「つまんない……」


さながらドラマの殺人現場のように現実味のない惨状。

彼は血の滴るナイフを右手に、もともと血で赤黒く染まっていた制服は、新しい血が付いたことにより、真紅に塗り替わっている。

さっきまで、狂気的な笑みを宿していたその口元には今は、ただ、何も宿してはいない。

らんらんと輝き、盗賊どもの恐怖の表情を映していたその瞳には、すべてに対する飽きが見て取れる。

彼はただ、うつむきながら立っている。


壊したらなにか解るかと思っていた。

あの、いらいらが発散できるかと思っていた。

でも、何も残らない。ただ、むなしいだけだ……。


彼の心には寂しい感情がたまっていく。


今まで、殺してしまいたい。壊してしまいたい。どうしてもこの痛みを味わわせてやりたいって、思ったことは何度もある。

でも、どんなに苦しくてもそれをやったら、味方はいなくなる。

たとえ、どんなに仲の良かった友達でも、怖いものを見るような目で俺を見るようになる。

俺がそれをやられている時は気付かないくせに……。

どんな時だって多い方がルールだ。

それがどんなに理不尽でも少ない方は従わなければならない。

異世界に来て、ついに自由になって、これか……。

しょせん何にもなかったんだ。

虚しい.……。


そんな彼の思いは口をついて出る。


「ああ……。自由が欲しい。たとえ、どんな理不尽が、恐怖が、力が立ちふさがっても、それを越えられる自由が、力が……。」


彼はナイフを一度振ると何処へ行くかも決めず歩き出した。


「まって!」


そんな彼の背中に声がかかる。

彼はその足を止めるとゆっくりと振り返る。


「まだいたのか」


怪訝な様子でかけた声には、何の感情もこもっていない。ただ彼は気になったから振り向いただけだ。

なぜ、逃げなかったのか、主にその一つに集約される疑問に意味はない。ただ、それを聞かされたとしても納得するだけだ。「そうだったのか」と。

声をかけたのは蒼い髪と瞳を持つ少女だった。

その目は最初とは違い、恐怖の代わりに何もかも見透かすようなすんだ輝きを秘めていた。


美しい……。


その瞳の輝きは彼にこう思わせるのに十分な力を持っていた。

たとえるなら、絶望の淵からみた微かな光。

疲れた目にふと映ったダイヤの輝きのように……。

なぜ、そこにあるのかわからない、ふとした拍子に最初から無かったかのように消えそうな輝き。

彼にはそれがとてもはかなく美しく見えた。


「助けてくれてありがとう…」


「別に助けようと思ってたわけじゃない。ただあいつらみたいに自分が偉いと信じて疑わないような、調子に乗った様子が嫌だっただけだ」


彼は簡潔に答える。

しかし、初めとは違い彼女に少しの興味を持ったようだった。


「それでも…助けてくれたことには変わりはないわ…」

「そうかもな.……。名前は?」


彼が聞いたよくある質問。しかし返答は当たり前の返しではなかった。


「ないの…あなたは?」

「そうか、俺の名は……」


彼は予想とは大幅に違う返事に少し戸惑い、答えた。


「俺も名は無いな。今までの名は今捨てた」


この世界の名前がどんなものかわからない以上、不用意に名前を言うべきじゃないな。

母さんや父さんも心配だし、俺がどんな扱いになっているのかも気になる。でも、俺はもう人殺しだ。別にそのことでどうこう思うつもりはないが、そんな俺が元の世界に戻ったところで、元通りに生活できるとは思えない。それだったら、元の世界の名前なんて捨ててこの世界で生きていくのもいいかもしれない。

どうせ、戻っても、俺の味方は誰もいないのは同じだ……。


そんな気持ちとともに言った言葉だったが、どうやら彼女にはおかしく聞こえたらしい。彼女は吹き出した。


「ふふっ、面白いこと言うのね… じゃあ、私があなたの名前を付けてもいいかしら…?」


突然の彼女の提案に彼は少し面食らう。


「なんで俺の名前をお前がつけるんだ?」


少し不機嫌に返した問いに彼女は薄く笑った。


「だって…あなたも一人なんでしょ?」

「……」


彼女の目はまっすぐに彼を見つめている。

ついさっきまで明るかった辺りは暗くなり、空には満月が上っていた。

月と星の明かりで照らされた広場には、昨日とは違い、冷たい風が吹き込んでいる。

彼の沈黙を肯定ととらえたのか、彼女は楽しそうに続ける。


「あいつらを殺してた時も、笑っていた時も、つまらなそうにしてた時も、あなたの目は常に寂しそうだったわ。まるで、一人にいるのに慣れているふりをしているみたいに。」


彼女はゆっくりと近づくと彼に抱き着いた。

そのまま彼女は頭を彼の胸につける。

彼は動かない。


「私も一人だもの…わかるわ」


彼女は彼の顔を見上げる。

さっきまでとは違い、まるで捨てられた子犬みたいに悲しそうな眼をしていた。


「ねぇ、これからどこ行くの?私も連れて行って、おねがい」

「はぁ~」


泣きそうな声で、告げた彼女に、彼はあきらめたような大きなため息をつき、彼女を振り払った。


「やめろ、下心が透けて見える」

「あら? ばれた?」


彼女はさっきまでの悲しげな雰囲気が嘘だったかのように笑う。

重かった空気はなくなり、その反動か、変に軽い雰囲気が彼らを包む。


「ああ、下手な芝居だ」

「そうかしら?頑張ったのだけど」


下手な芝居なんて言ったけど、少し前の俺だったら、コロッと行ってたかもしれない。

こいつは人の事を信じられないんだろう。

裏切られて、利用されて、蔑まれて、じゃないとこんな演技は身につかない。俺も同じようなもんだ、切っ掛けはどうであれもう、他人を心から信じる事なんてしないし、できない。

でも、だからこそ、こいつは信頼できる気がする。

どうせ、こいつには俺しかいないんだ。裏切られようもない。


「アクア……」


彼は唐突につぶやいた。


「えっ?」

「お前の名前だよ、一緒に行動するのに名前がないと困るだろ?」


彼女は少し間を空けて笑う。


「素直じゃないわね、どんな意味なの?」


恥ずかしいのを、うれしいのを隠すように笑う彼女は聞いた。


「俺の故郷にアクアブルーって言葉があるんだ、澄んだ水の色を表す言葉なんだが、その瞳がきれいだったからな……」


こいつは俺が悲しそうにしているって言っていたが、それはこいつもだ。

「私も一人だもの」って言った時のこいつの目には一人になりたくないって気持ちが見えていた。

別に可哀そうとか同情したわけじゃない。俺も一人なんだ、二人で協力する方が生き延びられる可能性が上がる。……楽しいだろうしな。


彼はそんな言い訳を心の中でする。

彼女は少し驚いたように彼を見つめるとそのまま涙を流した。


「おい、どうした?」


彼は少し焦って言う。


「ごめんなさい、私この目をよく言われたことなんてなくて……。アクア…いい名前ね、ありがとう!」


彼女は涙を拭うと笑顔で言う。それは心から喜んでいるように見えた。


「じゃあ、あなたの名前はアルトなんてどう?」


彼女は初めてその名を呼んだ。これから何年もの間呼ぶその名を。


「月か……」


彼はつぶやいた。

彼の持っている固有スキル【全言語理解】は一度見聞きした言語を完全に理解することができる。アルトとは月という意味のこの世界の言葉だ。


「ええ、あなたは私にとって、夜を照らしてくれる月みたいだったわ。」


そういった彼女の瞳は月明かりに輝いている。


「いい名だな。気に入った」


彼女は彼の言葉に笑顔を作ると腕に抱き着いた。


「ねぇ、これからは一緒よ? 私の名前はアクア、よろしくね!」

「ああ、俺の名はアルトだ。とりあえず離れろ」


彼、いや、アルトはアクアの腕を振りほどく。

彼らは二人で月夜の下、当ても無く歩き出した。


夜分遅くにすいません織田です。

やっと、主人公とヒロインの名前が出てき来ました!!

実は織田はいま第九話を執筆中なんですが、その中でも一番よくかけて、好きな話です。

二日? 連続投稿なのはネット小説大賞のタグを入れた記念みたいな感じです。

最近時間がとれず、どんどんストックが減っているのにもかかわらず、投稿しました。馬鹿ですね。

とりあえず、序章は十三話くらいには終わらせたいと思っています。それではまた

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