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悪魔的サーチメモリア  作者: 涼ミ音エイ
序章 悪魔の誕生
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第二話 midnight

人を探すにはこの森をでなければいけない。


そんな事に今更ながらも気付いた彼は、森の出口を探して、歩き出す。

しかし彼には、重大な問題があった。


俺、方向音痴なんだよね。

部活のコンクールで行った会場でも、後輩を引き連れて真逆に進んでしまい、顰蹙を買ったのはわすれられない思い出だ。

それからというもの、誰も俺に地図を持たせてくれなくなった。

あの時はコンクールに遅れそうになって、大変だったな。

また、吹奏楽部のみんなと一緒に演奏できる日が来るんだろうか?

センチメンタルになってしまったな、とにかく今は、この森から出て人に会いたい。って言いたいんだけど、やばいな……。


いつの間にこんなに時間がたったのだろうか?

さっきまではあんなに明るかったあたりは、夕焼け色に染まってきていた。

この調子では、あと数時間で暗くなってしまうだろう。


夜の森は危ないって何かの本に書いてあった気がするからな、できれば本格的に夜になる前に寝床を確保したい。


そんな事を考えながら彼は寝床を探して歩く。


目標は見通しの良い場所か、洞窟とかかな?


しかし、すぐに見つかるだろうという彼の甘い考えは否定された。


見つからねぇー!

なんで、歩いても歩いても木、木、木……。景色、さっきから変わってなくね?


それもそのはず、彼の今いる森。いや、樹林は、迷いの樹林と言われていて、近くの街では入ったら最後、絶対に戻ってくる事はないという事で有名なのだ。最も、彼がその事を知るのはもっと後のことなのだが……。


そんな樹林を自他共に認める方向音痴の彼が抜け出せるはずがなく、彼は今、同じ所をぐるぐると回っているのであった。


そろそろ本当にまずいな、


昼間には、うるさく聴こえていた鳥のさえずり——怪鳥の鳴き声は、嘘だったかのように止み、その代わりに夜の魔物の鳴き声が聴こえてくる。

空には満月があり、暗くなった辺りを照らしてくれている。


満月なのは本当にラッキーだった。

だけど、辺りは見え辛くなったのに変わりはない……。

あまり動き回るよりも、そこらの木の下で横になった方がいいか。


彼は辺りの手頃な木の下に座った。

緑色の落ち葉のクッションが、疲れた彼を癒す。

背もたれ代わりの木の幹は少し冷たく心地いい。


グゥ〜〜〜〜


腹が減ったな。

最後に食べてからどのくらい経っただろう?

スマホ、捨てなければ良かった。

一人で、どこかもわからない森にいるのがこんなに辛いなんて思いもしなかった。


彼は木に身体を預け、目を瞑った。

耳を澄ますと、夜の静けさの中にフクロウのような「ホー」という鳴き声や、ガサガサと葉の擦れる音が聞こえてくる。

頭には、こんな事になるとは思ってもなかった、ちょっと前の日々が思い浮かんだ。


母さんも、父さんも俺の事を心配してるかな?

いや、まだいなくなった事に気付いてないか……。友達と、ゲーセンに行ってるって思ってるのかも。

いつ帰れるかな? 出来ればあのラノベは、最後まで読みたいんだけど。

明日学校はどうしよう。でも、もう残りテストだけって時に、転移したのはついてたな。


一人でいる心細さからか、彼は自嘲気味に笑った。

両親のこと、ラノベのこと、学校のこと、目を瞑った彼の脳裏に次々と浮かんでは消えて行く。そして、最後にここにくる原因になったあの光、そして、その場にいた二人について思い浮かんだ。


あの光はなんだったんだろう。

あの光に包まれた人が転移してしまうのだったらみんなもこっちに来てるのかな?

あいつらとはいつから一緒にいたっけ?

中二の時に同じクラスになったんだったか?

確か、席替えの時に席が近くなって、趣味が合ったんだった。

それから、高校も近くの所に行って……もう、三年ちょっとつるんでいたのか。

最後に会ったのは数時間前なのになんか、懐かしく感じるな。


「こっちに来てるなら会いたいな」


そんな言葉をつぶやいた時だった。


本当にそうか?

あいつらは俺を見捨てて、殴ったぞ?


突如暗い思いが溢れる。

その暗い思いは考えまいとするほど、そんな彼に「自分の思いに気付け」と言うかのように溢れてくる。


いや、あれは仕方なかった。俺が不用意に助けようとしたから。


何でだ?弱者を助けることの何が悪い?

悪いのは強者の言いなりになって、俺の事を見捨てた二人なんじゃないか?


でも、一回くらい……。


今までだってそうだ、あの二人は本当に必要な時、俺を助けてくれたか?

今だって、俺は一人で、食事も取れるかどうかわからない。

来ているなら何で、助けに来てくれない?

大変な時、辛い時、助けてくれなくて何が友達だ?


でも……


それに俺はあいつらと合って本当に信頼できるのか?

また見捨てられるんじゃないか? 裏切られるんじゃないか?


一度溢れた暗い思いは闇が光を埋め尽くすようにドロリと彼の心にのしかかった。


辞めよう、腹が減ってて、不安だからこんな考えになるんだ。

今日はもう寝よう。

明日になって明るくなればきっと気持ちに整理がつくさ。


そんな風に目をそらした彼は、地面に横になった。

暫くすると、そこには静かな寝息が聞こえてくるのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

眩しい。

瞼の裏が明るい。

もう朝か?

身体が痛いな……。


彼は目を開け身体を起こした。


「うぉっ!!」


彼の目の前には蛍のように淡い光を放って飛んでいる、蛍とは似つかない蜂のような姿の虫がいた。

そのお尻には鋭い針が付いており、淡い光に反射し、キラキラと、輝いている。

蛍蜂達は、制服についている血に集まっているようだ。


「気持ちわりぃ!」


見ると辺りはまだ暗く、彼の周りだけ異様に明るくなっていた。

彼は、虫を手で払うと立ち上がり、その場から逃げ去ろうとする。

しかし、虫は彼にたかり、離れようとしない。


明るくて寝れやしないし、こいつらが毒を持ってたらやばい。

逃げなきゃ。


彼はずっと握りしめていたナイフを振り回しながら走り出した。

後ろからは「ブーン」と嫌な羽音が追いかけてくるのが聞こえる。


鬱陶しい!

何で異世界に来てまでマラソンしなきゃいけないんだよ!

俺は吹奏楽部だぞ! 体育会系じゃねぇんだよ!


彼は落ち着けない苛立ちを心の中で発散させながら走る。

口に出さないのは、他の魔物が寄ってくるかも知れないなどと言う、気の利いた理由ではなく、ただ単に息が上がるのが早くなるからだ。


「ハァ、ハァ、」


やばい、息が上がって来た。

毎日、筋トレとか走り込みとかしとけば良かった。


そんな後悔もすでに遅く、もう蛍蜂はすぐ後ろに追いついて来ている。


「うぁっ!」


今まで忘れていた空腹からか、異世界に来てからの疲れからか、彼は木の根に足を引っ掛け、転んでしまった。


「来るなぁ!」


尻もちをついた彼は、後退りながら、闇雲にナイフを振るう。

一匹一匹の蛍蜂は小さく、しかし、集まって出来た光の塊はバスケットボール大の大きさをしている。

彼の振るったナイフが運良く一匹の蛍蜂を切り落とした時だった。


『ジョビースヂギハコヒョケエゼスゴ』


不意に彼の頭に謎の声が響いた。

その声は機械的でありながらも、どこか優しく、包み込むような声をしている。


なんだ?


『ギヌギハーヂネゼスゴ』

『ヌギデエヌケヌスゴ』

『ジョビーヌギ【ビビエシヤエキョノぺビビエシヤエキョ】デエヌケエスゴ』


続けて、頭の中に声が聞こえる。


誰だ?

なんて言ってる?


彼は混乱しながらも、目の前の光の塊にナイフを振り回し続ける。


ん?


さっきよりもナイフが振りやすい。

何と無くだが、何処にどう振れば蛍蜂達に当たるのかが分かる。


気付けば目の前の光の塊は徐々にその大きさを小さくしていく。

彼の足元には切られ、光を発しなくなった。蛍蜂の死骸が少しづつだが、溜まっていっていた。


よしっ! 減ってきた。

けど、流石にこの量は対処しきれねぇな。


彼は手をつき、勢いよく立ち上がると、光の塊から、反対方向に走り出した。

少し走ると、目の前に木々の途切れ目が見える。


やった! 出口だ!


彼は見えて来た樹林の終わりであろう所に向かって走る。

後ろからしつこく追いかけて来ていたはずの羽音も小さくなり、彼に蛍蜂を引き離し始めていることを実感させた。


「抜けた!」


念願の樹林の終わりを果たしたことに彼は喜びを表す。

しかし、思わず叫ぶほどの喜びに満ちていた顔は、次の瞬間絶望に染まる。

彼の目には一本の大きな川と、その向こう岸に見える、樹林の続きが映っていた。


まだあるのかよ……。


後ろからは引き離していたはずの蛍蜂の羽音が、近づいてくる。

このままでは追いつかれ、全身をその針で刺されてしまうだろう。


何より、虫にたかられるのは嫌だからな……。

やるしか無いか。


彼はそう、覚悟を決めると、川に向かって走り出す。

そして、そのまま川に飛び込んだ。


深い!

それに冷たい……。


彼の飛び込んだ川は、深さが彼の身長の、二倍もあり、彼の身体は頭まで水に浸かる。

まだ気温が低く無いとはいえ、暗い中、深い川の中に飛び込むことは、本来なら自殺行為だ。が、運の良いことに、今日の川は流れがあまり早くなく、温度も耐えられる温度だった。


あとどれくらい息が持つかな……。


上を見ると、薄っすらと蛍蜂の光が見える。それはまるで暗闇に輝く、小さな星のようだった。


普通、人は水中で息を止めてから3分ほどで、全身に痙攣が起き始め、5分後には、呼吸が停止し、静かになると言われている。

もちろん、訓練次第でいくらでも時間を伸ばすこともでき、世界記録保持者は、22分息を止めることが出来るらしい。

しかし、それは訓練を受けた人の話だ。どう考えても、一般人が、いくら異世界の虫から逃げるためだとしても、いつ蛍蜂が諦めてくれるか分からない状況で、水中に逃げるのは悪手である。

運動不足の高校生が息を止められる時間なんて、せいぜい1分30秒が、限界なのだから……。

しかし、異世界となれば勝手は違う。

本人も気付かないうちに、この世界に順応させられた彼の身体は、ゆうに5分以上水中で呼吸を止めることを可能にしていた。

そして彼がついていたのはそれだけではなかった。


もう、どれ位経っただろうか?

いつもだったらとっくに息が尽きているだろう。

長いようにも感じるし、短いようにも感じる。


彼は息が切れた時のため、岸の近くへと移動しながら考える。


俺の息が尽きてもまだ、水上をうろついてたら、今度こそ死ぬだろうな……。

流石にあんな虫の大群に全身を刺されて生きてられる気がしない。

まだ、死にたく無い……母さんに、父さんに、みんなに会いたい。


暗い水の底、沈んだ彼を励ますように、それは変化した。

最初はほんの少し、しかし、確実にあたりは変わっていく。


朝日だっ!


暗かった水の底にまで、明るい光が差し込んだ。

それと同時に彼の息の限界がくる。


「ぷはっ」


思い切り息を吸い込んだ彼の目には燦々と光り輝く太陽が見えた。


辺りに虫の気配はない。

長かった夜が終わった。


目標 一週間で一話!


文の改善をしました2018/07/15

主な変更点:森表記を樹林に変更。水があれば三日は生きられる→一週間。

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