表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔的サーチメモリア  作者: 涼ミ音エイ
序章 悪魔の誕生
1/27

プロローグ Welcome to Different World

読みやすくするため文の変更をしました。

読みやすくなっているといいです。

「俺が何をしたって言うんだ」


森の中に作られた幅の狭い道を高校生くらいの男子が駆けていく。

道のわきは急な斜面になっていて落ちたら擦り傷では済まないだろう。

後ろには弱い者いじめを楽しむ子供のような、ニヤけた笑みを浮かべ、自分の身体ほどもある大剣を掲げた、緑色の化け物が追いかけて来る。


彼は今、森の中での追いかけっこ中なのである。

最も、普通の鬼ごっこではない。

追いかけて来るのは学校の友達でも、近所の子供達でもなく、緑色の本物の鬼なのだから……。


彼は口元に自嘲の笑みを浮かべると斜面に飛び込んだ。

彼の体は制御を失い山の斜面を転がっていく。

視界は二転三転と回り、体には鈍い痛みが走る。

最後に強い痛みが後頭部を襲い、彼は気を失った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


彼は都内の高校2年生だった。

学校は中堅どころで彼自身、ものすごく勉強ができるわけでもない。いじめられたりもせず、友達も普通にいて、十分に充実した学校生活を送っていたと言えるだろう。

そんな彼があんな行動をしたのはほんの気まぐれなことであった。


「最近つまんねぇーな」


学校帰り、駅に続く道にある公園が見えてきたところで彼はつぶやく。

ここらは道が入り組んでおり、背の高い住宅に囲まれているため、少し薄暗くなっている。

普段から人もあまり通らず閑散としていて、駅へと向かう生徒も進んで通ろうとはしない。

そんな道を三人の高校生くらいの少年が歩いていく。

三人の真ん中にはスクールバックを肩に担いだそこそこの顔の少年、つまり〈彼〉が歩き、その隣を気の弱そうなメガネの少年と人の良さそうな少年が歩いている。

真ん中を歩いている彼は最近、梅雨も明け熱くなってきた影響か、ネクタイを緩め、長袖の袖をまくり、シャツ出しをしている。


「行事も全部終わって、あとは期末だけだもんな。憂鬱にもなるよな」

人の良さそうな少年が彼に答える。


「海斗もそう思うよな……。ラノベみたいに異世界とか行けないかなぁ~」

それを同意と受け取った彼は人の良さそうな少年——海斗にさらに愚痴をこぼす。


海斗と呼ばれた少年は校則を守るくらいの真面目さは持ち合わせているのだろう、制服のシャツは出していない。当然シャツ出しは校則違反である。


「それは逃げだよ、逃げ」

空を仰ぎながら愚痴る彼をメガネの少年が諫める。


「いや、そう言うのも分かるな。陸だって読むでしょ、ラノベ」

しかし、海斗にはよくわかる話だったようだ。海斗は彼を挟んで陸の方を見る。


陸と呼ばれた少年はずれてきたメガネを上げた。ガリ勉がやるようなしぐさだが、その年に似合わない幼い容姿と合わせて、大人ぶっている子供みたいになってしまっている。


「そりゃ読むけどさ、逃げてもしょうがないでしょ。やることはやらなきゃ」

「ああ~わかったわかった。それ以上言うな、気分が悪くなる」


彼は陸の言葉に苦い顔をする。

彼だってこのままいけばまずいことは分かっている。

高校に入学した当初は調子のよかった勉強も最近は遊んでばっかりで、おろそかになっている。

このままでは第一志望の大学どころか第二、第三志望の大学ですら合格が危ういだろう。

一人っ子で後に続く兄弟がいない彼でも、できる限り国公立の大学に行き両親に楽をさせてあげたいという親孝行心くらい持ち合わせているのだ。

最も、めんどくさがり屋の彼は私立の学校に行きおこずかいをもらえなくなったり、地方の学校に行き生活費を自分で稼ぐことになるのが嫌という打算もあるのだが。


「話を戻そう。そうだ、もしも異世界に行ったらってのはどうだ?  お前らだったらどうする?」


彼の言葉に二人の目が光を帯びた。

やはり三人は男子高校生なのだ、なんだかんだ言って勉強の話よりもこんな話の方が好きなのだろう。


「そうだな俺はやっぱハーレムだな、かわいい女の子に囲まれるなんて最高過ぎるでしょ」

海斗が言った。


「僕は勇者として魔王を倒す冒険を楽しみたいな。圧倒的強さで魔王を倒してみんなに英雄としてちやほやされたいよね」

陸が少し興奮して言う。


「そうか~確かにどっちもいいよな」

彼は二人の答えを聞くと、大げさにうなづきながら答えた。


「お前は何がしたいんだ?」

そんな彼に海斗が聞く。


「俺はな、旅がしたいんだ。何にも縛られず刺激にあふれた冒険をするんだ。最高だろ?」


彼はそれを想像すると、うきうきした表情を作る。

これも思いっきり現実から逃げているのだが、未知の世界を想像している彼は気付かない。

そんな時だった。


「おい、もう終わりかぁ~」


人を馬鹿にしたような声とともに数人の笑い声が聞こえてきた。

彼らはもう公園の入り口を通り過ぎ、入り口の反対がわのほうへ回ってきていた。

こっちの方に来ると、さっきまで少しはいた通行人も誰もいなくなり、薄暗かった通りは、公園の木々の影になったせいで余計に暗くなる。


声は彼らがいるところから少し離れた、公園の奥の方にある防災倉庫の方から聞こえてきて、そこには何やら殴られたように倒れ伏す少年とそれを囲む三人の男がいた。

少年を囲む三人は彼らの同じか一つ上くらいの歳で彼らの通う学校の制服を着崩している。

顔を見た覚えがないので他クラスか先輩なのだろう。

囲まれている少年は見覚えがあった。確か文芸部の一年生だったはずだ。

彼は休み時間、図書室に入り浸っているのだが、その時によく見る子だ。


「助けに行こう」

「おい、待てよ」


彼は一言つぶやくと海斗の制止も聞かずに駆け出した。

その声には少し、喜びが込められているようだった。


少なくとも彼は普段、話したことも無い様な後輩を状況もよくわからないのに助けに走ったりするような人間ではない。

後日先生に相談をするくらいはするかもしれないが、危険そうな三人を見るにそれもどうかは分からないだろう。

それなのに彼が飛び出したのはこの状況を退屈な毎日から逃れるための一つの手段としてちょうどいいと思ったからなのだろうか。


「おいっ。やめろ、何してんだ」


彼はするっと出てきたセリフをまくし立てた。


「どんな理由があろうと年下を殴ってるんじゃねーよ。大体お前ら学生だろ?こんなところで油打ってねーでとっとと家に帰って勉強しろ。馬鹿どもが」

「おい、止めろよ。この人たちは喧嘩が強いことで有名な伊達さんたちだよ。お前がかなう相手じゃないよ」


慌てて追いかけていたか海斗が早口で告げる。

今にも逃げ出したいのだろう、言葉には全く余裕が感じられず、少し震えた手は彼の腕をつかみ恐怖を伝えていた。

つられてきてしまったのだろうか、後ろに見えた陸はすでに涙目になっていて、じりじりと後退している。


「でも俺が助けなきゃ誰が助けるんだよ」


彼は二人の方へ振り返りながら言った。


「誰だてめーら」


二人の返事を待たず、〈伊達さん〉たちの一番強面の少年が言った。彼が〈伊達さん〉なのだろう。

制服のズボンのすそは折れていて、シャツ出しをし、大きく開いた胸元には銀色のネックレス、耳には丸い金のピアスをしている。

金色に染められた髪とその鋭い目は何者も寄せ付けない雰囲気を出していた。


「俺らが誰かは関係ねーだろ! ちゃんとこの子に謝れよ!」


伊達は彼の言葉を気にしていないかのように、ゆっくりと彼らを見回した。

そして、海斗、陸を見て止まると短く話しかけた。


「で、お前らは?」

「おい! 無視すんな!」


伊達は彼の言葉には反応せず、静かに海斗を見ている。

全く相手をされていないにも関わらず、わめき散らす彼の姿は海斗の目にさえ、すでに滑稽に映っていた。


「俺は別に……関係無いし」


海斗は彼の腕をとっさに離すと距離を取った。


「なっ、おい海斗!」


海斗の言葉に彼はとっさに海斗へと視線を向けるが海斗は視線を下に向けたまま、離れている。

何勝手なことしてんだよ、伊達さんに勝てるはずがないだろ。急に変な正義感出しやがって。

海斗は心の中で考える。

どうすればうまく切り抜けられる?

すでに海斗の中で彼の事は切り捨てられていた。

伊達は陸の方へ視線を移した。


「ひっ」


陸は小さく悲鳴を漏らすと、首が取れるんじゃないかと思うほどの勢いで首を縦に振った。

なんでここにいるんだろう? 早く家に帰りたい……あったかい布団で寝たい。

焦る気持ちとは別に彼の頭の中はなぜか他人事で、早くも心が折れかかっていた。


「逃げるなよ」


伊達は二人の反応を見て満足したようにくぎを刺すと、馬鹿にしたような目で彼を見る。


「で、君のお友達はこう言ってるけど、どうする?」


なんで助けるのを手伝ってくれないんだ?

彼は二人の行動に少しショックを受け、必死に二人の事を見ていたが、二人は一向に視線を合わせようとしない。

いや、二人は俺の事を止めたんだ。ここで二人が手を貸してくれなくても仕方ない。二人は正しい。

やがて、彼はそう考え二人に向けていた視線を伊達達に戻す。


「二人は関係ない」


彼は力強く言い切った。


「はっ、さっきから聞いてりゃ関係ない関係ない。それを言ったらお前が一番関係ないじゃねーか」


伊達は鼻で笑うと取り巻きの二人に視線で合図をすると彼の方に歩き出した。

伊達はだてに不良をやっているわけではない。

今までだって、こんな正義感いっぱいのお節介野郎にはちゃんとオシオキをして、自分のやったことを後悔させてきた。

それも二度と自分に逆らう気持ちも出させないように。

伊達に逆らって、性格が変わった奴はごまんといる。その逆らうものには徹底的にするところこそ、伊達が〈伊達さん〉である理由なのである。


「大体な、俺はこの勇輝君にお金を借りようとしていただけだよ。それを後からきてごちゃごちゃと。謝るのは君の方なんじゃないか。なぁ?」


伊達は身構える彼の隣を通り過ぎると、縮こまっている勇輝の肩に腕をかける。


「おまえっ」


彼が突っかかろうとすると伊達は手のひらをこっちに向け止める。


「まぁ落ち着けよ、なんか勘違いしてるようだけど、俺たちはめちゃくちゃ仲良いんだよな?」

「う、うん」


肩に腕を掛けられた勇輝は小さくうなづく。


「そんなの言わせてるだけじゃないか!」


彼は声を張り上げて言った。


「勇輝君?もそんな奴の言う事なんて聞くことないよ」


彼は勇輝に優しく語り掛ける。


「おいおい、そんな奴ってひどい言い草だな、被害を被ってるのはこっちなんだぜ。お前らもそう思うだろ?」


芝居がかった調子で伊達は言うと、取り巻きに逃げ道をふさがれている二人に視線を向けた。


「は、はい」


海斗の言葉に合わせ陸もうなづく・


「そんなに緊張するなって。リラックスリラックス、じゃあ二人ともこっちにこい」


二人は一度顔を見合わせたが、動かない。

そちらも相手が先に行ってくれるのを待っているようだ。


「大丈夫何もしやしねぇーよ」


伊達の言葉に二人は恐る恐る同時に伊達の取り巻きの前を伊達の方へ向かって歩き出した。

二人が伊達の前に行くと伊達は意地の悪い目をし、二人に語り掛けた。


「俺はさ、仲のいい友達に金を貸してもらおうとしてただけなのにさ、君らの友達は俺が悪い奴だって言ってどなってくるんだよ、悪いのはどう考えても君らの友達だよね?」


二人が伊達の言葉になんて反応すればいいのか困っていると伊達は大声で怒鳴りつけた。


「どっちなんだよ! 悪いのはこいつか俺か!」


悪いのはお前に決まってるだろ。二人もそういうはずだ。俺は正しいんだ。

そんな彼の淡い期待は次の瞬間に砕け散った。


「伊達さんが正しいですっ」

「そうですっ」


彼には二人がはっきりと言ったように聞こえた。

は?なんでだよ悪いのはあいつだろ?俺は正しいはずだろ?


「おめぇら」


伊達がそう言うと取り巻きの二人は黙って頷き彼の両腕を取り後家なしようとする。


「やめろ!触るな!」


彼は抵抗したが体格の違う男が二人、抵抗むなしく捕まってしまった。

せめてもの抵抗にと彼は伊達をにらみつける。

伊達はそんな彼の視線を意にも介さず二人に命令する。


「殴れ」

「「え?」」


唐突に短く言われた言葉に陸でさえ怖いのを忘れ呆けた顔をする。

そんなこと二人がやるわけないだろ。

彼のそんな思考は突如感じる鼻の痛みに遮られる。


「言葉の意味が分かんないのか?こうするんだよっ」


言葉と同時に繰り出されたこぶしは正確に彼の鼻を打ち抜いた。

鋭い痛みと、血の匂い、そして目にあふれ出る水。


「あ゛あ゛っ!」


何をされたか理解する前に彼は悲鳴を上げていた。

怖い怖い怖い怖い

にげようにも腕を二人で腕をつかまれ逃げられないようにされているので逃げられず、ただ熱くなりマヒしていた恐怖だけが頭を支配する。


「ほらほら」


彼の目の前でボクシングのフォームを取った伊達は、彼をサンドバックのように殴っていく。

すでに鼻の骨は折れ、歯も二、三本折れているだろう。

腕、足、腹も全身を余すことなく殴られて、蹴られて、全身が痛いのになぜか頭はよく回り。


「やめ……」


なんでこんなことに……余計なことをしたから?……俺が間違っていた?……俺は正しい?……いやだ……こわい……


「よしお前からだ」


伊達は海斗を指さした。

なんでそんな顔してんだよ、止めろ来るな。

嘘だろ? 友達じゃなかったのかよ?


「悪い」


腹に軽い衝撃が来る。


「違う、こうやるんだ」


今度はすごく強い衝撃が来る。


「ほら、やれ!」


そう言う伊達の顔はひどく楽しそうで、海斗の表情とはとても対称的に見えた。


「次はお前な」


陸が歩いてきて目の前で止まった。


「わぁーーー!」


振りかぶったこぶしはマヒして痛みを感じないはずだった顔に痛みを思い出させる。

何だこの世界は……俺は二人にとって何なんだ?……いやだ……早く終わって……

いつの間にか彼の体は取り巻きの手を離れ地面にはいつくばっていた。

伊達は彼の髪をつかむと自分の顔のとこまで持ってきて言う。


「どうだ?お前の友達はお前が悪いって思ってるみたいだが……はっ、みじめだなぁ、ほら、さっきの威勢はどうした?」

「お゛れが悪がっだがら、ゆ゛るして」


彼は涙と血でぬれた顔で言った。


「わかった、いいぜ」


意地の悪い笑顔で言った伊達に彼は安堵した表情をする。


「なんてな」


伊達は彼の髪をつかんだ手を地面に向け振り落とした。


「がっ゛」


彼は地面から伊達を見上げる。

伊達の顔は人を見下す優越感に歪んでいた。

その顔を見たとき、彼の何かがはじけた。

ふざけんな……ふざけんな……ふざけんな……ふざけんな……こんな世界なくなってしまえ!!!


「てめ゛ぇら全員ぶっごろ゛じてやる゛!」


彼は伊達の手を振りほどくと伊達に向かって殴り掛かった。伊達は笑って余裕の表情を崩さない。

彼の決死のこぶしはあえなく捕まり伊達の右手が彼の顔に迫った。


くそッッッ!


迫るこぶしに彼が目をつむった瞬間だった。

突如、まぶたの裏にも映るような白い閃光が走る。

その鋭い白色の光はあたりを照らし、暗いはずの公園を一寸先も見えないように白く染め上げる。

前後左右どこに誰がいるのかも分からない。


「なにがっ……」


伊達の焦ったような声を最後にあたりは急に静かになった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


さっきまで遠くに聞こえていた人々のざわめきや、電車の通る音がまるで嘘だったかのように聞こえなくなり、代わりに静かな木々のざわめきや、鳥の鳴く自然の音が聞こえてきた。

光の眩しさが収まり、恐る恐る目を開けた彼の目の前にあったのは空まで緑に囲まれた空間に広がる大きな湖だった。


「ナニコレ?」

2018/06/27 文の改善をしました。

主な変更点:情景描写。伊達さんの髪型、服装。いじめられてた恭介君の名前、恭介→勇輝。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ