2巡目
彼女が死ぬのは2ヶ月後
死因は、交通事故
大げさに決意を固めたばかりだが、条件を見れば彼女の死を回避するのは簡単なことに思えた
ゆえに俺は巻き戻った当日から彼女の死の当日まで特に変わった行動をすること無く、前回と同様に過ごした
「なあ、ちょっとコンビニ寄っていかない?」
「いいけど、急にどうしたの?」
「いや…ちょっと、甘いものが食べたくなっちゃってさ」
「ふーん」
彼女の死、その当日
俺は彼女をコンビニに誘うことで、彼女の行動を変化させることに成功した
単純なことだ、前回の今日、あの時間あのタイミングで彼女がひかれたのなら、タイミングをずらせばいいのだ
普通に生活していれば、そう簡単に交通事故なんて起きたりはしない
ゆえに、彼女をコンビニに誘い出せた時点で彼女の死は回避できたものと思われた
「なんだ、意外と簡単だったな」
部屋に帰って思わずそんな事を呟いてしまう
主人公が目的を達成するために何度もやり直すのはループものではお約束だが、これは現実だ、小説と同じ様なことなんて起きたりはしない
まあ、そんな事を言ってしまえばそもそも過去に戻るなんてことが起きるはずは無いのだが
とにもかくにも、彼女の死は回避できたのだ
この2ヶ月で、俺は始めて安心して眠りにつくことが出来た
そして翌日、文化祭の当日
バンドの演奏も順調に終わり、その帰り道、彼女は昨日以上に楽しそうに歩いていた
「今日の演奏、今までで一番よく出来たよね!本当に自分でも最高だったと思う!」
「ああ、そうだね、特に俺のギターが冴え渡ってた」
俺は片目をつぶって言う
彼女は少し顔をしかめて
「またそうやって、茶化すんだから。でも、確かにあんたの演奏もよ────」
彼女の声は、暴力的な金属音に遮られた
その瞬間、俺は動くことができなかった
呆然として、何が起きたのか理解出来なかった
目の前には鉄骨、その下には血溜まり、頭がそれらの後景を受け入れることを拒否する
遠くで救急車の音がして、今まで嗅いだこともないような匂いが鼻をつく
無限にも思える時間、俺はそこに立っていた
彼女の葬式はその2日後に彼女の家で執り行われた
彼女の親戚や友人が次々と彼女の遺影の前に立つ
段々と俺の番が近づいてきて
近づくにつれて吐き気がこみ上げてきた
今回俺は、過去に戻ることは無かった
ぼんやりとその事に疑問を抱く
だってループものなら、なんどだってやりなおせるはずだ
俺が彼女を救い出すまで、何度でも繰り返すことが出来るはずだ
────俺の番が、来た
目の前には、彼女の遺影
死因は、頭上から落ちてきた鉄骨に押し潰されたことだった
俺の目の前で楽しげに歩いていた彼女の肉体は、一瞬で弾けた
その時のことが克明に思い出される
あの時嗅いだ匂いは、血の匂いだった
ほかの匂いで誤魔化すことが出来ないほどに濃厚な、死の匂い
鉄骨の下には彼女の死体からはみ出した腸が覗いていて────
唐突に吐き気が襲ってきた
彼女は、死んだのだ
取り返しは、つかない
彼女は死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ…
「そんな事…あっていいはずが無いだろう」
だって彼女は、死にたくなかったはずだ
楽しげに道を歩いていて、希望に満ち溢れていて
だからそんなことはあってはならない
こんな世界は…嘘だ