後篇
更新遅れてすみません。次回がエピローグです。
「え?深山君も、来てたの!?」
(広瀬さん、そんなに驚くとは、失礼じゃないですか!?)
「え?深山君、きとったん?」
「深山君、来たの?」
「深山君、来たの?」
(4人そろって、同じ反応ですか!?)
「え?深山君も!?」
「あの、貴女は、誰ですか?」
深山がそう聞くと、上野が言った。
「深山、こいつは幸村の彼女の菊井さんやぞ?」
菊井美代、で、ある。
「ああ、幸村君の彼女の・・・名前は聞いたこと、あります。」
「名前しか、知らんのか?」
「だってねぇ・・・・。というか、どうして、この方は、僕のことを知ってるの??」
そういうと、菊井が、笑いながら深山に言った。
「だって、深山君、有名なロリコンやんか!政治家志望のロリコン高校生、でしょ?」
「ええと・・・・・。誰が、その情報を流した?」
菊井は、笑ったまま、直接は答えずに、言った。
「犯罪だけは、したらあかんで??」
「しません!」
そのあと、深山は疑問をぶつけた。
「ところで、菊井さんって、明らかに同じクラスではありませんよね?」
「ああ、それな。近くの店で四人で食事しとったら、美代と会ったんや。」
広瀬が、あっさりといった。
食事しとったら、たまたま会う??近所にある岡本財閥の某ショッピングモールで油でも売っていたのか?という疑問は、聞かないことにした深山であった。
その後、一同は、この寝殿造りの建物で、男女別に寝室を決めた後、バーベキュー大会を行った。
大自然の中にいると、落ち着く。
山の中の寝殿造りの建物とは、いい趣味である、と、深山は思った。
(こんな変な趣味を・・・・。)
逆に、上野は違和感を感じていた。
(手入れに金がかかるだけで、こんな時ぐらいしか役に立たない。うちのじいさん、変わりもんだな。)
そんな上野の気持ちも知らず、北谷が言った。
「上野、ここ、いい感じやなぁ。」
すると、深山も続けた。
「落ち着いて、いい雰囲気やな。」
(こいつら、ここを維持する大変さを自覚しているのか??どれだけ管理費がかかると思ってるんだ!フェラーリをもう一台買うほうが、はるかに役に立つんだぞ!)
「また、こういう感じで集まりたいなぁ。僕ら五人で。」
そこのテーブルには、男子しか集まっていなかったので、深山はそう言った。
(ほんとに、こいつらは、金はないくせに、世間知らずのお花畑だ・・・・。)
上野は、先ほどから、同級生が流す無責任な言動に、内心で愚痴をこぼしていた。
(大体、このバーベキューの食材の半分は俺の小遣いからだぞ!)
残りの半分は、女子たちが買ってきて、そして、焼いているのも主に女子であるのだが。
「お、深山が珍しくいいことを言うなぁ~。」
逆に、北谷は、深山にの発言に首肯するしぐさを見せた。このことが、かえって、上野の心を苛立たせたが、彼は、顔には決してその感情を表さず、ただ、
(こんな、能天気な男が、俺を超えることなど、絶対に認められない。)
と、内心で、硬く決意しただけであった。
「ちょっと、俺も、肉を焼いてくるわ~。」
上野は、女子たちが肉を焼いているところへ向かった。
「石田~!どうや、お前らばっかで食うつもりか?」
「え?まだ焼けてないで~」
「そおれじゃあ、俺も、手伝うわ。」
そこへ、北谷もやってきた。
「俺も手伝う!」
ほかの三人は、黙ったままテーブルを囲む折り畳み椅子に座っていたが、しばらくすると、何を思ったのか、深山は椅子から立ち上がって、バーベキューに参加するわけでもなく、この屋敷の広い庭をうろつき始めた。
残された二人が、そろそろ退屈になって、肉を焼くのに加わろうとした時――
「焼けだぞ~!」
そういって、北谷が焼けた肉と野菜を皿にのせて、テーブルへやってきた。
見てみると、焼けた肉の9割ほどを、北谷は持って行ったのである。
なんとなく、上野の悪意を感じて、心地が悪くなり、気分転換に散歩していた深山だが、あまり席をはずしていると自分の食べる分もなくなってしまうかもしれない、と思い、戻ってきた。
いざ、戻ると、上野が笑顔で、
「深山、どこいっとんたんや!まっとったぞ!ようさん焼けとるから、食べろ!!」
と、勧めてくれた。
(僕の被害妄想だったかな?この世界には、ほとんどいい人しかいない。――善人でも、不完全だから、善人同士で激しく争うわけだけど。)
深山は、すぐに直前に上野から感じた敵意を忘れてしまった。
上野も、深山に感じた敵意はすっかり失っていたが、その感情は、深く、彼の潜在意識に残ることとなる――。
肉と野菜を深山がお皿に入れて、席に着くと、北谷が、
「深山!お前、これもいるか?」
と、たくさんの肉を進めてきた。
宗教を信仰していて肉を控えている深山には、大量の肉はきつかったが、断ることもできずにゆっくりと食べていると、次第に日が暮れてきた。
「また、この五人で集まりたい」――これは、北谷にとって、心の底から首肯できる言葉でもあった。
(この五人以外のやつを連れてくると、台無しになる。)
なのに、だ。
深山が、無神経なことを言った。
「そういや、釣本はこんかったんか?」
「あいつは、来るわけがない。」
思わず、北谷は、言ってしまった。
その次を、発言するものは、いない。
別に、気まずい空気が流れているわけでは、ない。
みんな、食べることに熱中して、誰かが面白いことでも言わない限り、話が続かないだけなのだ。
「なあ、F組って、クラスみんな仲良しや、って、先生とかも言っとるけど、本当はそうじゃないやんか。」
北谷のこの発言に、深山が、一瞬、「?」という感じの顔になった後、再び食事に戻った。
「ああ、そうやな。」
北谷の親友の、栗田が、反応する。
「このクラスって、断層?みたいなのがあったやろ?」
そう、北谷は言った。
(米田に、釣本――あいつらは、確かに表向きは親しかったが、俺たちの友達じゃない。)
それが、北谷の感想であった。
(親が春風財閥幹部の上野は、金持ちで、まじめで、信用できるいいやつだが・・・・。俺たちが頼んだらバーベキューの金も出してくれるし。対して、釣本と米田は、その頭脳をふざけたことにしか使っていない。こういう打ち上げにも協力的でないし…。それでいて、成績は俺よりもいい。)
そう思いつつ、さすがにクラスメイトをdisることは、憚られたため、
「俺や栗田とかのほうのグループ――まあ、深山もそこに入れてもええけど、そこと、他の、あっちがわのやつらとは、全然違うからなぁ。」
「ほんなら、女子のほうはどうなん?」
栗田が突っ込んだ。
「広瀬とか石田とか、こっち側やろ。まあ、広瀬は彼氏居るけどな。」
北谷がそう答えると、話の流れが変わってしまった。
「そういや、山下杏樹、あれ、彼氏が年上の偉いやつっていうの、ほんまなん?」
栗田がそう言うと、深山が、
「ああ、春風財閥の御曹司の春風祐樹ですね。ちょっとしたスキャンダルになりましたね。」
と答えた。それに対して、栗田は、
「オンゾーシ、って、なんなん?」
と答えたので、一同は驚いた顔をした。
(おい!御曹司も知らないのかよ!)
語彙量の少ない、歴史ある進学校の同級生に驚きつつ、北谷が答えた。
「春風財閥の未来の社長候補ということやで!」
「なんで、そんなに偉いやつの彼女がおるん?というか、年の差半端ないやんか。」
そういう栗田に、北谷は突っ込みを入れた。
「世の中には、ロリコンという人種がおるからな~。同級生に興味がない、深山みたいに。」
「ああ、そうやった、そうやった、ロリコン、ここにおるわ!」
そう言って、栗田が深山の肩を叩こうとすると、そこに、深山の姿は、なかった。
「あれ?」
「あれ?」
北谷と栗田が、首をかしげていると、橋田が透明感のある声で、言った。
「深山は、ご飯を置いて、また、散歩に行ったで。」
もう、太陽も沈んでおり、吹いてくる風が心地よい。
別荘の周囲には、常夜灯が照っているので、それほどの恐怖も感じない。
深山は、そこを散歩しながら、天下国家のことを考えていた。
もう、時は、2014年である。
(ああ、安東政権は、続いてしまった…。)
深山を襲っていたのは、そうした寂寥感であった。
泥鰌やら宇宙人やらが政権を取っていた時代が、懐かしくなるのである。
子宮頸がん予防接種の推奨、動物性集合胚の作製認可、TPPへの参加、特定秘密保護法の制定――エセ右翼政権の政策に対して、自らを右翼高校生であると自認する深山は、怒りしかわいてこなかった。
そうした中、後ろから、足音がした。
(ま、まさか、野犬――?)
途端に、深山の背筋が凍る。
天下国家のことなど、一気に、頭から吹き飛ぶ。
体が震えかけた、その時――
「深山君、こんなところに居ったん?」
「あ、はい・・・。」
振り向くと、一人の女性がたっていた。
「ええと、貴女はどなた、でしたっけ?」
「菊井、美代。」
「ああ、幸村君の――」
「さっきも、話したで?」
「そうでしたか、すみません。中々、名前と顔が一致しないもので・・・・・。」
「どうしてここにいるの?」
「ちょっと、一人になりたいというか、考え事をしたいというか――」
「あ、それじゃあ、私、邪魔やった?」
「あ、い、いえ、そういうわけじゃありませんよ?ええと、うぅん、そう、あのぉ、要するに、歩いていると落ち着くというか――」
「やけど、一人じゃ寂しくない?」
「いや、あまりうまいこと話せないし、なんか、みんな僕の気持ちを理解していないというか、変に誤解して敵視したり――。それに、そうだったら、一人で天下国家のことを考えるほうが楽しいし。」
「そうなんか。やけど、人と会話をする努力も必要やで?」
「そんなことを言っても、めんどくさいですし、友達なら、会話がうまくできなくても、私の気持ちをわかってくれるはずですし。」
「恋人にも、理解されなかったのに?」
「え?」
「そんなんやから、夏美に逃げられるんやで?」
(夏美?誰だろう―――あ!)
そこで、深山は、再び、背筋が凍り、体が震えた。
「どうして、そのことをしっているの?誰にも言っていないのに。」
相手を問い詰めようとして、声が震えて滑ってしまった。
「野口夏美ちゃんのこと、どうして、知ってるの?」
「だって、夏美は、従妹やもん。」
「それなら――野口夏美ちゃんに、会わせてくれませんか?」
「深山君、自分が何したか、わかって言ってるの?」
そう言って、菊井は、深山を置いて、立ち去った。
「待ってください!」
おもわず、深山は、自分に背を向けた菊井の肩をつかんだ。直感的に、菊井は男子に肩をつかまれたぐらいでは平気だと、察しての行動だ。
「僕は法に触れることはしていません!どうして逃げられたか、を知りたいんです!」
「小学生と付き合うって――私も驚いたわ。夏美は、そのことを、忘れたがっている。このことを、私以外の人には、言っていない。」
「え?」
「私も、このことは、誰にも言わないから。――二度と、夏美にかかわらないで。」
菊井は、淡々と言った。
敵意のない声、しかし、だからこそ、深山は、自分の感情が処理できない。
怒りをぶつけたいのに、それを、ぶつける先がない。――誰も、悪意も、敵意も、抱いていないから。
「貴女を、殴りたい衝動に、駆られますね。」
深山がそう言うと、菊井は笑いながら言った。
「私を襲って、無事でいられると思う?そんなことをしたら、泰麒が黙ってないで?」
深山の脳裏に、幸村泰麒の顔が浮かぶ。
「忘れていた、やめておくよ。」
深山から、好意と警戒の感情が、菊井に向けられる。
この、矛盾する感情は、直ちに、一つの結論にまとめられた。
(この女を、敵に回したくない・・・。味方でいてほしい・・・・。)
同時に、深山は、重要なことを理解した。
(この女は、僕とは、住む世界が違う・・・。)
このことを理解した瞬間、深山が菊井を恋愛対象として認識する余地は、なくなったのである。