前篇
この作品はフィクションであり、実在の人物や出来事とは全く関係ありません。
(やっと、着いた・・・・。)
平成26年4月1日、深山は、クラスメイトの、上野の別荘の玄関の前に立ち、地図を広げていた。
(それにしても、この別荘、寝殿造り、だったんだなぁ・・・・。)
深山は、生れてはじめて、実物の寝殿造りの家を見た。
この、上野の別荘で、柚木高校1年F組の打ち上げが行われる。
(しかし、誰もいないんだよな・・・・。)
この時、深山は2時間ほど早く来ていたのだが、携帯電話を持っていなかった彼には、時間の感覚などはなかった。
(ちょっと、近くにコンビニがあったよな。まだまだ時間はありそうだから、行ってこようか?)
しばらく、色々なことを考えながら、深山は道を歩いていく。
もう、1年F組とは、お別れなのだ。すでに、深山は、学籍上は、2年生である。
楽しかったクラスの思い出が、こみ上げてきた。
(今日の打ち上げには、いったい、何人が参加するのだろうか?)
色々なことを思う。
クラスには、何とか、なじむことができた、とは思っている。だが、釈然としないものも、あった。
今回の打ち上げの連絡も、深山には、上野から直接来たわけでは、なかった。上野と親しい女子の湯口から、ツイッターのDMを通じてきたのである。
しかも、「私は来んけどな」という、湯口のコメント付きで。
(どうして、上野からは直接来なかったんだ?普通、こういう連絡は、同性からくるもんだろ?それとも、僕は上野を怒らせるようなことでも、したのか?)
実際には、深山が携帯を持っていないため、連絡網から抜けていただけであったが、若干、深山はいじけてしまっていた。
(誰も来てないし、もしかして、これ、エープリルフールか??)
深山は、実は、湯口からのDMで打ち上げの存在を知ったのは、今日のことであった。3月31日の夜に連絡が来ていたのであるが、携帯がないので、確認が遅れたのである。
しかし、さすがに、そこまで意味のない嫌がらせをするバカはいない。
そうこう考えているうちに、コンビニにやってきた。
(うわっ、値札、気色わるっ!)
これが、深山の第一印象であった。
(消費税増税って、こういうことだったのか・・・・。一気に、実感がわいたなぁ。)
等と思いながら、ペットボトルのお茶を手に取って、コンビニの時計を見てみる。
(集合まで、あと、1時間半もあるやんか!まぁ、いいか。)
そう思いながら、一円玉を用意しながらレジに並んで、お茶を購入した。
(男が一円玉を出すのは、昔は恥ずかしいこととされていたようだが…。まあ、どうでもいいか。)
どうでもいいことを考えながら、上野の別荘の前の門まで、再び来た。
お茶を飲みながら、ぶらぶらと周囲をうろつく。この辺りは、かなりの田舎である。
テントウムシや蟻が、地面を張っているのが分かる。面白い、と深山は思った。
近くの道を二回ほど往復すると、男性複数の低い笑い声が聞こえてきた。もしや、と思ってみてみると、上野と、上野と仲が良い橋田と、あとは、1年F組を代表するコンビである、北谷と栗田だった。
「あれ?深山、来たん?」
上野が言った。
「はい、湯口さんに呼ばれましたから。」
深山がそう答えると、北谷が余計なことを言った。
「深山は、なんやかんやで、湯口が好きなんやな~。」
深山は、返答に困った。しかし、北谷は冗談でそれを言っており、深山を除く周囲は、それに気づいていた。
「湯口のツイッターは、ちょっとうざいわ。」
柔道部のエースである、橋田が、静かに、しかし、はっきりと、言った。
「そうやな、湯口はDMでどんどん絡んでくるもんな。」
上野がそういうと、北谷がそれにこたえていった。
「まあ、やけど、それをキャラにしとるから、湯口は相手にされるもんな。あれは湯口のええとこやろ。だけど、俺、前、湯口のことを『かわいい』というと、芳樹に『お前、B専かよ!』と言われたぞ。」
深山は、話を変えようとした。
「あのう、この四人だけですか?」
「男子はな。あとは、女子が四人。」
「それって、僕の存在、浮いているって、ことですか??」
「まあ、深山は、別に浮いとってもええやんか!安心しろ!」
そんなセリフに安心する人がいたら、顔が見たいものである。
「ああ、女子は広瀬が来とるのが救いやな。」
北谷が、またまた問題になりそうなことを言った。こいつは、女子の目線がなければ、暴走する男であるが、誰もこいつを止めないのが、柚木高校の長所であり、短所でもある。
遠回しに、広瀬以外の女子を全員ブスだと言っているのだが、その自覚は北谷にはないのであろう。
「広瀬のことは、みんな可愛いというよな。」
自衛官志望で北谷の親友の栗田がそれに乗っかる。
そうこうしているうちに、黄色い声が聞こえてきた。
そこにいるのは、クラスメイトの女子である、広瀬と、石田と、山村と、山下と、そして――もう一人、深山の知らない女性がいた。