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優斗は前髪を戻す。
指先だけではなく、身体全体が震えた。
昨日から優斗はこんな事を何度も繰り返している。
昨日の夜の事。それをただ聞きたかっただけなのに、優斗自身の秘密の方が何故かバレてしまった。優斗は焦りを隠せない。手足が震え、頭が真っ白になった。
「その瞳って・・・裸眼でそうなのか?」
ツルボの質問に答えられない優斗は、立ち上がり保健室を出ようとする。
「何処に行くんだい?」
直ぐ様アカザに扉を塞がれた。
「退いてください・・」
「退かないよ。理由聞いてないもん。」
「あんた達の事がどうでもよくなった。それだけだ。昨日の事は誰にも言わないし、聞かれても答えない。それでいいだろ。」
「さっきまでの君の意見とは全く違うけど・・・やっぱり君の眼は」
アカザが最後まで言い切る前に、優斗は保健室から出て行く。乱暴に扉を開けた為、廊下に居た生徒が此方を振り向く。それを無視し、優斗はある場所に歩き始めた。
徐々に歩いていたのから駆け足に変わり、最後には走っていた。身体中から汗が溢れる。まるで悪寒が止まるのを知らないかの様に、心臓の音が鳴り止む事をしない。
何故聞きたがったのだろうか、
今までこんなにも興味が湧く事など一度も無かった。
前髪をたなびかせながら、優斗はある記憶を思い出す。
タバコの匂い。
酒の匂い。
ゴミが山になり、異臭へと変わってしまっているリビング。
怯える妹。
テレビを見て笑う父。
何もかもが恐怖が募る日々。
何故だろうか。
今この状況でこの事を思い出すのは。
「─────・・・くそっ」
優斗はある場所に到着した。
今までの空気が一片変わって静寂が包まれる。
胸ポケットに入れておいた鍵を取り出し、目の前の扉の鍵穴に差し込む。
図書準備室第二保管庫室。
ここは優斗以外は余り立ち寄る者はいなく、教師ですら煙たがる曰く付きと言われる教室。暦書物もあるが、中には明らかに読んではいけないような代物もある、本のゴミ捨て場と言われる場所。
優斗はそこの管理を任されていた。
体育の授業を出ない代わりに、何故だか書物絡みの仕事を押し付けられた。優斗自身も然程気にしていなかったが、このような非常事態に備えてのある意味逃げ場所ともなっていた。
扉を開けて中に入る。
鼓動の音がやけに五月蝿く聞こえた。
「・・・ちくしょう」
優斗は腰から崩れ落ちた。
保健室。
二人は沈黙を続けている中、蔓穂から藜に話し掛けた。
「アカザ、いきなり何事かと思ったが・・・これはどう言う事だ?何故黙ってた?」
「言えなかったんだよ、別に黙りたかったから言わなかったわけじゃない。確信が欲しかったから言わなかった・・・だけど、正直僕も驚いてるんだ。」
「・・・だろうな。」
「偶々そんな“ 力,, を持ち、しかし見えてしまっていたのは事実。けど、僕はこの後どうしたらいいのかわからないんだ。」
「そうだろうな・・・事例がない。私も色々な文献を読んで来たが、そう言った記述は無かった。」
「・・・どうしたらいい?」
アカザを顔を伺うと、焦りの色はあるものの、何処か楽しむ子どもの様な表情を浮かべてツルボに視線を送る。
「・・・先ずは、何故記憶が消えないか確認してみよう。恐らくあの眼が原因だと推測は付くけどな・・・」
「うん・・・でも何で──────魔書が効かないんだ?」
「記憶消去魔書・・・詠唱系とは言え、かなり即効性もあって効果はある筈の物だ。なのに彼はその“魔書,,が効かない・・・」
「あの子は一体何者なんだ?」