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本完霊師  作者: 鵜梶
第3章【悲惨な過去と少年】
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14ページ

「事情を説明して下さい。」



アカザは優斗の寝ている近くまで足を運び、優斗の額に手を置く。優斗の額は少し熱を帯びて降り、少々熱が出ているのが手から伝わって来た。

呼吸は荒々しく、冷や汗が止まらないのか、髪の毛が汗で濡れている。



「前髪が・・・っ、何をしたんですか。内藤さん、丸市さん。」


「悪りぃ、アカザ副班長。その餓鬼が余りにも」


「すいませんアカザ副班長!私が内藤をちゃんと見ていなかったばかりに、申し訳ありません!!!!」


「いや、謝るのはもういいです。恐らくこの感じからして内藤さんがやったんだと思うんですけど・・・・何故優斗君が倒れているんですか?」



アカザは内藤を睨むと、内藤は一瞬身体を跳ねらせて目線を逸らした。内藤自身言いにくい事をしたのは見た限り分かるが、以前にも何度かこういった事のを思い出し、頭を抱えた。


何故こういう時に限って内藤が尋問官だったのかと、アカザは溜息を吐いた。



「俺が悪いんだよ。この餓鬼が何も話さないから頭にきて・・・それで、前髪越しで何時も俺らを伺うような目付きで見て来たもんだから、つい、その・・・本当にごめん!!!」


「殴ったんですか?」


「違う!」



内藤は怒鳴る様な反論をして、一回後ろに下がり咳払いをして落ち着かせた後、再び話し始めた。



「・・・前髪を切ったら何か・・倒れて」


「・・・えっ?それだけ?」



内藤は頷きながら話を続けた。

まるで内藤すらもまだ状況を把握出来ていないかの様にも見え、アカザとツルボは2人で顔を見合わせる。


内藤の話によると、優斗は質問には余り応えなかったそうで、ずっと内藤達を伺うように程無言で見ていたそうだ。そして身体検査を行った際、全ての透視が出来ずに優斗に当てた瞬間に消えてしまったのだとか。

他にも質問中に内藤が優斗の手を取って、上級の記憶消去魔書を行った。しかし、其れすらも無効化されてしまったのだとか。

優斗自身気が付いていなかったらしい。


そこまでは良かった。

そのまま質問を続けようと思ったが、内藤のイライラがピークに来ていたらしく、優斗の髪を切った。何故そこで髪を切るに至ったのかは、彼女の性格上優斗の態度が頭に来たのだろう。


髪を切られた優斗はその瞬間、狂信してしまった。


その怯え用は尋常じゃ無かったそうで、今にも殺されるという様な有様だった。


アカザは昨日の夜の出来事を思い出す。

昨晩もアカザは優斗は眼を髪を掻き分けた時、泣きそうな顔で怯えていた。アカザに対して怯えていたのもあるだろうが、今聞く限りではもしかしたら髪を掻き分けて眼を見たというのにも、恐怖で怯えていたのかもしれない。

今日の朝もその様な状態だった。

最初はアカザ達の事が気になったのか、質問をして来た。その時の優斗は昨晩の事を忘れているかの様な印象にも取れた。


しかし、優斗の眼が露わになると、優斗の発言が一変した。

拒絶にも似たその逃げっぷりに、アカザも流石に何かあるとは踏んでいた。


まさか、髪を切られただけで気絶してしまう程とは思いもしなかったが。



「髪に執着すると言うよりかは、眼を見られる事への多大なる恐怖を私達は感じました。」


「そこまで眼を見られたくない何かがあるって事だろうけど・・・・でも、まさか気絶されると思わなかった。本当にすまん。」


「いや、僕らに謝っても仕方がないでしょ・・・」



アカザは思う。


何故栗原優斗はそこまで眼を見られたくないのか。


調べれば出て来るだろうが、彼からも直接聞いたほうがいい気がしてならなかった。優斗を見るとまだ寝ていて、顔色も優れない。下手をしたらこのまま数時間は眠られる可能性もある。



「僕もここまで想定していませんでした・・・すいません。判断不足です。」


「俺らが悪いだろどう考えても・・・ともかく、俺等は多分この餓鬼に嫌われただろうから、もう行くわ。すまないけど、後はお願いする・・・お願いします。」



最後に敬語に直したのは恐らく彼女らしい反省の形なのだろうが、ここまで内藤のメンタルにダメージを与えるとなると、かなりの怯え方だったのだろうと推測出来る。

内藤は先に退室し、丸市はまだ少し報告があると残った。丸市は内藤が退室したのを見計らい、アカザに耳打ちする様に話し始めた。



「すいませんでした。こんな事になってしまい・・・あの、私からも一つ宜しいでしょうか?」


「はい。些細な事でも構いません、あと、敬語はやめて下さい。丸市さんは僕よりも年上なんですから」


「無理にでも敬語を使ってないと、私もボロが出そうなので・・・両省のほどをお願いします。」


「・・・わかりました。で、なんでしょうか?何か話があるのですよね?」


「はい」



丸市は少し後ろへ下がってからツルボとアカザを交互に見やり、静かに冷静に話し始めた。




「栗原君は恐らくDV・・・家庭内暴力、またはそれに似た事をされていた可能性があります。」




アカザはそれを聴き、薄々の感が当たっていた事に気が付いた。


そして『されていた』と言う言葉に、ツルボも聞き返した。



「彼の反応、言動、そして身体の尋常じゃない程の痙攣に似た震え。私が尋問をしたのは数十分と短い時間ですが、これだけは、あの光景を見た限り予想は出来ました。」



アカザは何も言わない。

ツルボも同じく何も言わなかったが、大方同じ事を考えているのは分かる。



「身体の傷とかは見られましたが、全て塞がっており目立った外傷はありませんでした。今は何かの事情により、それがなくなったと思われます。」


「・・・家庭内暴力か」



苦い顔で下を俯く。

そういった家系は少なからず多くあると、アカザ自身知っていた。しかし、それらに首を突っ込んでいいものかと正直戸惑う。



「確定ではありませんので、そんな顔しないでください・・・ですが、可能性は高いので、そこは悪しからずに。」


「・・・報告ありがとうございます。それ以外で何かありますか?」


「いえ、ありません。私は今から総帥の所へコーヒー牛乳を届けに行って参りますゆえ。」


「あぁ、そういえば頼まれていたのは丸市さん、貴方でしたね。」


「すいませんそれだけは伝えたかったので。では、私は失礼します」



丸市は、頭を何度も下げながら医務室を退室していった。



それを見てアカザは緊張が抜けたかの様にため息を吐く。するとツルボが優斗に触れるのが見えた。



「何してるの?ツルボ。」


「いや、試しにちょっとやってみたい事があってな・・・」


「・・・?」



ツルボは背中に背負って居る己と同じ大きさの巻物に手を触れ、優斗の露わになっている手首に優しく触れた。一体何をするのだろうかと、アカザはツルボの行動を見やった。

ツルボはぼそりとある言葉を吐く。





「魔書展開」




「なっ!ツルボなにし──────」



いきなりツルボが魔書を発動しようとしたので、アカザは慌てて2人に駆け寄る。



「・・・え?」


「成る程な、本当に無効化されてしまうのか。」



何も起こらなかった。

いや、起こる筈の事が起きなかったのだ。ツルボの巻物は何も反応はしなく、何時もの光も発しない。それどころか、まるで普通の巻物の様にそこに存在するだけだった。


アカザは自分の推測と、今起きた出来事、そして内藤が言っていた『無効化』を重ねた。



「まさか記憶消去だけじゃないって、その場凌ぎで言った事が・・・本当だったって事か。」


「みたいだな。」



ツルボは優斗の手首を離す。



「アカザ、彼は今まで誰にも気付かれずに此処まで来れたのだろうが、もう後戻りは出来ないだろう。」



アカザの目を見て来る。

包帯越しだが、ツルボの目は確実にアカザを捉えていた。



「お前が考えそうな事だ。栗原君を何とか普通の暮らしに戻したかったんじゃないか?彼を追い詰めるフリなんて事までして。相変わらず悪役に向いた行動だな。」


「・・・別にそこまで考えてないよ。」


「そうだろうな。恐らくお前自身無意識でそれをやってたんじゃないか?」



優斗の頬に触れるツルボは、まるで赤子を触る様に優しい手つきだった。



「アカザは慎重に見えて、実は慌てたら周りが見えなくなったりもするからな。栗原君を助けてから、彼に異常に関わっていたし、変死体が出たって聞いてから学校も飛び出して行くし。」



アカザは何も言えなかった。



「相変わらず、お前はお人好しだ。」


「・・・その、相談とかしなくてごめん。僕もまさか彼が本当に・・・」


「別に責めてない。私はアカザらしいと思っただけだ。」



ツルボは薄く笑って、手を軽く仰いだ。


アカザはホッとし、優斗の顔色は大分良くなった事に気が付いた。

アカザは未だに寝ている優斗に、どうにも居た堪れない気持ちになる。

今の今まで、彼が何者なのかだけが気になっていて、彼自身の心の状態を軽度に考えていたのかもしれない。

彼と関わる前に、学校での彼の噂は生徒会でも議題に出ていたので耳に入っていた。授業を無断欠席に続いて早退を繰り返し、制服の乱れ・・・主に前髪の事を注意されても直さない。成績も良くなく、だが普段は大人しい生徒。

そう書かれた彼は学校のブラックリストに入っていた。



「学校での彼は、余り評判は良くなかったから、何か良からぬ事をやっているのかと思ってたんだ。だけど・・・」


「関わったら関わったで、苦虫を噛んだ・・て、感じだな。」


「どちらかと言えば僕等が巻き込んだようなものだけど・・・」




部屋の扉からノック音が聞こえ、アカザとツルボは扉の方に顔を向ける。アカザが返事をすると扉がゆっくりと開き、1人の男が入って来た。




「栗原優斗の調査が終了しました。栗原優斗を連れて大広間に来いとの事ですが、内藤戦闘員と丸市戦闘員が先程彼が倒れたと報告を受けて居ます。なので、アカザ副班長か、ツルボ様のどちらかに来て貰いたいのですが、宜しいでしょうか。」


「ツルボ、僕が行くから優斗君を見ててくれる?」


「お前、本当に何も考えてないだろうな?」


「え?何が?」


「・・・総帥を怒らすなよ。」


「わかってるよ・・・行ってきます。」



アカザは男に連れられて、部屋を退室した。



「・・・栗原君」



ツルボは優斗に声を掛けたが、一切反応は無くまるで死んでいるかの様に眠っている。呼吸は浅く、深い眠りに付いているのだとわかった。

それでもツルボは優斗に話し掛け続けていく。



「私は君が得体の知れない人物にしか見えない。ふと湧いて出た、悪い菌にも感じる。いや、悪い菌どころか異物にも感じる私がいるんだ。」



優斗は反応しない。

それでもツルボは優斗に話し掛け続けた。



「アカザはもしかしたら・・・・君が私達兄弟ととても似ていたから、此処まで君を気にしていたのかもしれない。まぁ、恐らくアカザはいつも通りの義務とかで自覚はないだろうが。それに、君を前から気に掛けていたのは嘘じゃないだろう。

だけど、今回君が襲われたのは私からしたら『偶然』や『必然的』な物ではなく、意図的な何かがある気がしてならないんだ。」



独り言を言っていると自覚はある。

しかし、目の前で眠っている少年に語り掛けずにはいられなかった。



「仕組まれた。・・・君を中心に、何かが始まろうとしてるんじゃないのか?」



アカザが昨晩優斗を背負っていた時から、何かが変わり始めている。


いや、栗原優斗がアカザ達の目の前に現れて以来、何かが変わり始めていたのかもしれない。



「栗原優斗君・・・君には何があるんだろうか?」



応えの返ってこない今の相手に何を聞いても、無意味なのはわかっている。



魔夢バクも妙に動きが活発になって来ている。もしかして、これも君が関係しているのかい?」



そしてツルボは黙った。


胸の内から湧き上がる悪寒が、気のせいであってほしいかの様にただ黙り込む。


優斗が眠っているベッドにもたれかかる。



そこでツルボはまた溜息を吐いた。


















いつもの夢だ。


父親が俺と妹に暴言を吐く夢。


手を出すのは俺だけで、それでいいと思った。


妹は俺よりも身体が弱い。小さい。


理由は母の裏切りだった。


男を作って逃げた母を目の当たりにし、父が壊れた。


酒を浴びる様に飲み続け、


タバコが無いと俺と妹に暴言を吐く。


殴るのは少なからずあったが、本当にイラついてる時にしかなかった。


学校でもその噂は一人歩きしていた。


俺の目は目立つ。


だから元々ハブかれていた。


だが、父親の件がどこからか漏れたその日から、


イジメまでもが始まった。


俺は良かった。


俺はイジメられても妹に害が無かったからだ。


それでいいと思い続けた。


妹さえ無事なら俺はいい。


そしてその日から俺は、



俺自身に向けた暗示を作った。



「大丈夫。」



何度も唱えると心が落ち着く魔法の言葉。


目を閉じれば更に効果は増大した。



場面が変わった。



あの日の父親は今までよりもイラついていた。



妹すらも殴った。


俺は必死でかばった。


父親は言い続けた。



「お前の目は汚い。気持ちが悪い。反吐へどが出る。何で人間じゃないような目をしている。お前の目が不幸を呼んだ。ヒトミも巻き込んでる。厄病神。災厄のゴミ屑は生きる価値なんてない。例えあいつとの子でも、お前だけは論外だ。おまえが俺とあいつの間を切った。殺した。お前がいる限り俺はまともになれない。だけどお前は殺す価値もない。殺した所で俺の気は晴れない。」



無機物の様に言葉を綴っている父に、


俺は涙が消えた。



(俺は)



「お前は」



「要らない存在なんだよ」


(要らない存在なんだ。)



俺はその時、何かを失った。


何かは覚えてない。


だけど


とても大切なモノだった気がする。



鬱陶うっとうしい。ウザい。生きる事が烏滸おこがましいと思え。生きている事を後悔しろ。自分で死ぬ事は許されないと思え。自ら死ぬな。お前は勝手に死ぬ事は許されないんだよ。だけど周りを不幸にする。無様だな。滑稽だな。お前は要らない。存在自体が不幸を呼ぶ。無価値だな。」



生きている事を否定された。


無価値と言われた。


その時の俺は何も出来なくて、


それを何処かでわかってた気がしていた。



「・・・やっぱり、お前の目は人を不幸にする。」



外から何か聞こえてきた。


窓から赤い光が何度も点滅しているようにも見える。



「本当にお前は人を不幸にする。お前の目はそういう目だ。」



俺の目はそういう目。


人を不幸にする。


だから見せちゃいけない。


見せたら殴られる。


そうか、


そうなのか。



「せいぜい俺に怯えながら生きるんだな。クズ。」



父親は最後に俺の頬を殴った。


俺は倒れる。


ヒトミは大声で泣いていた。



父親が誰かに連れて行かれる。



俺の身体は倒れたまま眺めていた。



俺は悟った。



俺は人を不幸にする。


俺の全てが。


目が、


自分の目が人を不幸にする。




なら



俺は───────





何度でも言おう。




「大丈夫。いつもの事。」



俺は誰かに見られてはいけないんだ。


求めてはいけない。


俺に関わると皆が不幸になる。



「大丈夫。大丈夫。大丈夫。」



俺は目を隠した。


目を隠したら皆怖がって関わってこなくなった。



俺は安心した。


だけど何かがやっぱり抜け落ちている感覚になった。



「大丈夫大丈夫大丈夫。大丈夫。」



いつからだろうか。



いつからだろうか。






俺が『大丈夫』と言う度に、俺が死ぬ様な感覚になったのは・・・・いつからだろうか。



「俺を殺せば、誰も悲しまない」



見るな。


見ないでくれ。


“見ちゃ駄目だ。,,




「俺に関わってはいけない」



みんな不幸になる。



だから





「関わりたくない」



皆が不幸になるのなら、



俺から皆への繋がりを断ち切ろう。





皆を不幸にしない為に───────














「───っえ?」




そこで俺は何かに引き寄せられる様に目が覚めた。




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