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本完霊師  作者: 鵜梶
第2章【天邪鬼な少年】
10/15

9ページ目

急に口元を離された優斗は、勢いよくコンクリートの地面へと落下した。落下した拍子に、真面に息が出来るようになり咳き込む。


魔夢バクと名乗ったバケモノは後ろへと飛び退いて、目を血走らせる。しかしその血走った眼は優斗に向けられる事はなく、優斗の目の前に立つ人物へと向けられた。



「・・・アカザ先輩!?」


「君は何でこうも厄介事に巻き込まれているんだい!?」



何故何時も、この様なナイスなタイミングで助けに来るのだろうか。狙ってやっているのではなかろうかと、正直疑う。



「ついさっき変死体が浮上したって報せがあって、嫌な予感がしたから君の家に行ったんだよ。そしたら鍵掛かってるし、隣の住人に話を聞いたら仕事に行ったって言うじゃないか・・・どんだけ探したと・・・何考えているんだい全く!」


「・あ・・・あんたには関係ないだろ!」



まるでお決まりの台詞の様に優斗は言葉を吐く。



「君にとっては関係無くても、僕は君には用事があるからね・・・だから、関係無いからって助けない訳にもいかないんだ!」



優斗はいつの間にか髪留めがどっかに無くなっており、前髪がまた目の前の視界を狭めた。



アカザは学ランを投げ飛ばし、ワイシャツと薄手の学校指定のセーターを羽織っている状態だけとなった。そしてワイシャツの胸ポケットから何かを取り出した。


かなり分厚い生徒手帳が出て来た。





「ふ・・・ふふふふふっ、貴方本業の方々とは知り合いじゃないって言ってたわよね?どういう事かしら?」


「ぇ?」



優斗はバケモノが何を言っているのかわからなかった。



「優斗君・・・これは厨二病を拗らせた人達じゃない。」


「アカザ・・せんぱ」





「今、本当に起こってることだよ。」





本完霊師ほんかんれいしぃ!!!!」





「かの者を打ち払う力を。我は十綱つなしアカザっ!!」





生徒手帳から小さなメモ帳台の本が現れる。


青白い光と共に、メモ帳台の本が魔法陣らしき何かを展開させて、徐々に形状を変換させていく。



そして、昨晩アカザが使っていた青色の日本刀が現れた。


優斗は愕然とした。

目を疑う様な光景だった。しかし、余りにもの奇怪な事態に言葉が出なかった。



「昨日から随分と魔夢バクが活発に活動してる様だけど、本来君達は人1人で数ヶ月持つ筈だろ。なのに今じゃ世界中の魔夢が今までの何倍も襲ってる。何が起きてるか聞かせてくれないかな?」


「ははっ、そんなの言いたくはないわね!言った所で貴方達は私達を止められはしないわ。第1に、貴方達は私達魔夢バクの事を誤解しているのよ。」



不敵な笑みを浮かべた。



「何千年とあなた達から逃れながら、私達は増え続け、世界中に戦力を増やして来た。それは食物連鎖のごとく、捕食しては捕食され、それと同時に、人間が増え続ければ、当然私達も増え続ける。自然の設備そのもの。」


「君達は自然な者か?僕等は違うと思うけど」


「・・・話が逸れたわね。つまり私達はただただ闇雲に増え続けた訳じゃないの。ある目的があって今の今までなりを潜めていた・・・所謂いわゆる考えあっての行動だったのよ。」



アカザは魔夢バクに刀の刃先を向ける。



「それが考えあっての行動にせよ、僕等人間を捕食しているのは変わりないだろ。今だってそうやって平然と人を喰べているじゃないか。」


「仕方がないでしょう?私達は喰べないと消滅するか、はたまた誰か他の魔夢バクに吸収されるかなんですもの。それなら生きたいじゃない。愚問ねその質問は」


「僕は質問しているつもりはない!」



アカザがいきなり地を蹴った。



アカザが先に相手に向かって走り、切り込んで行く。

刀を腰に掛けるような形で持ち、勢い良く水平に斬り掛かる。居合斬りと呼べる様な一太刀だったが、相手はその一太刀を軽々と躱す。

相手の魔夢バクは躱すと同時にアカザの真上に高々く飛び上がった。そのまま手をピンと張り、まるで手刀の様に振りかざした。


アカザは少し斜めに擦れ、躱してから身体を1回転した後に持ち手の柄頭でカウンターを仕掛ける。魔夢バクの頬をかすめたが、距離がかなり近いせいもあり直ぐに相手の反撃を喰らう。

刄の反りの部分で防いだが、余りにもの馬鹿力で横に吹っ飛んでしまった。



「ちっ!」



直ぐに体勢を立て直し、着地する。

アカザは直ぐに間合いに入り込み、相手の脇に刀を沈めた。しかし、相手の指先で止められてしまう。



「それなりに強いみたいね。私の間合いに入って来るのは久しく見てないわ。」



刀がキシキシと音を響かせ、これ以上相手にどれだけ力を入れても刃が通らないと伝わって来る。アカザは一度後ろへ下がる。優斗は身体を起こし、座りながらアカザに向かって叫ぶ。



「おい!何やってんだよ!昨日は簡単に倒せてたじゃないか!」


「そうだね。昨日の奴はレベル1だったしね・・・」


「は?レベル?」



アカザは刀を深く構えた。

目の前の敵を見据え、刀を目の前に構える。



「魔書緊急展開!!」





アカザがそう叫ぶと、刀が青紫の光を帯び始めた。



双風雷斬そうふうらいざんっ!!!」





アカザが刀を振り回す度に、無数の青白い斬撃が相手に向かって走る。

しかし、その斬撃はいとも容易く避けられてしまう。斬撃を避け切ると、アカザがいつの間にやら相手の背後に回り込んでいた。



(斬撃の後ろに回ってっ・・・!!)



素早くアカザは相手の後頭部から刀を突き刺す。しかし、その剣先は頭を掠める事はなかった。

アカザの腹部に相手の肘が深々と刺さっていた。



「かっ!?」


「動きはそこらの奴とは段違い。けど、もう少し考えた方がいいわよ?私は接近戦が大得意なの❤︎」


「アカザ先輩っ!?」



優斗の方にアカザは投げ飛ばされ、地面に激突した。



「っ!!!・・かはっ!」


「おい!何なんだよ!お前強いんじゃないのかよ!?」



優斗はフラフラになりながらアカザの近くに近寄り、肩に手を置こうとした。が、その前にアカザは起き上がり立ち上がった。



「ははっ、僕はそこまで強くないよ。簡単に言っちゃうと中の中くらいの実力だ。僕は強くない・・・」


「私が強すぎるのよ❤︎」



優斗は目の前の敵を見る。

昨日のバケモノと同じく、身体が徐々にボコボコと変形して行く。



「貴方は私の足者にも及ばない。いいえ、それだけの実力があればそれなりの地位はあるのかしら?」


「黙れ。」



アカザはもう一度相手に向かって刃先を構える。



「僕は君からも聞きたい事が山済みだ。だから此処からは本気で行かせて貰う!」


「威勢がいいのね・・・悪くないわ。」





その時、魔夢バクの背後から人影が現れた。





「アカザっ!!!」


「ツルボ!!援護を頼むっ!!!」



その人物は、優斗が朝アカザに連れられて出会った蔓穂ツルボだった。ツルボは直ぐに状況を判断したのか、身構えるポーズをして、背中から大きな何かを取り出す。


それは小柄のツルボと同じくらいの、大きさの巻物だった。




「魔書展開!!」



先程のアカザと同じ言葉を発し、勢い良く巻物を開く。さすれば、ツルボの周りを解かれた巻物がまるで生きているかの様に舞う。


ツルボが巻物を開くと同時に、アカザは魔夢バクに向かって脱兎の如く走る。敵もさっきまでとは違い、目を細め、脇を締め身構えた。



「仲間がいたって同じよっ!!!」



すると相手の爪が伸び、アカザの顔面に向かって一直線に攻撃して来た。



「防壁魔書!!!!」



アカザの目の前に小さな魔法陣がいくつも展開される。



鎧盾アミュ・ブグリエっ!!」



爪は弾かれ、折れ曲がった。

魔夢バクは一瞬驚いたように見えるが、直ぐに次の動作に移る。


片脚を少し上げ、地面を蹴った。地面にヒビが入り、辺りにコンクリートの破片が飛び散って行く。それを躱しながらアカザは着々と相手に接近する。



「アカザ!急かすなっ!確実に狙え!」


「分かってる!」



アカザはツルボの指示に従い、相手の肩を切り落とす事に成功した。



「ぐっ!!」


「まだだっ!!!」



そのまま何度も切り続ける。が、致命傷になる傷は作れなく、途中で回避されてしまった。

回避され、そのまま脚を引っ掛けられ、アカザはバランスを崩す。アカザは焦りもせずそのまま倒れると、相手に向かって一直線に斬撃を放った。



「双風雷斬っ!」



金髪の長い髪が無惨にも切られて行く。だが、やはり大きな痛手にはならない。

そこへツルボの援護が入る。振り袖から細い長めの針を複数取り出し、魔夢バクに向かって投げた。すると一つが相手の太ももに深く突き刺さった。



「動きは止める!!脚を切断しろ!!」





魔夢バクの両足に動物が巻き付いて見えた。



優斗は目を見開いた。


鋭い口を持った、2匹の巨大なミミズだったのだ。




「ぱぱっと終わらせるつもりだったんだけど・・・そうも言ってられないわね!」


「双風雷斬!!!!」



見事に躱された。


刹那、



金髪の女性から変貌を遂げ、本当のバケモノと化した。その姿はまるで蜂の巣の様な見た目に、穴という穴から人間の眼球がギョロギョロと動いている様な見た目であった。

そしてとても巨大で、大型トラック一台半分の大きさのはある。


眼球が血走っていて、血走った目の直ぐ横から人間の手の様なモノが生えて来た。



はっきり言って、吐き気がする程気持ち悪い見た目だ。




「ドウカシラ?ワタシノ本体❤︎とても美シイデショ?」




いつの間にか2匹のミミズは木っ端微塵に千切られ、地面へと落下していた。





「相変わらず、気持ち悪いな魔夢バクの本体は・・・それに、この大きさ。レベル5以上か?」


「変形する前に捕らえられなかったか・・・アカザ!一旦引け!!私達じゃこのレベルの魔夢バクは手に負えない!!」



ツルボはアカザに向かって撤退をしようと、意見を出した。大きな見た目とは裏腹に、何故か少し宙に浮いているバケモノに何か危険なモノを感じたのだろう。



しかし、アカザはゆっくりと刀を構えていた。



「アカザ!?」



ツルボは困惑した。

優斗も困惑する。




「このまま逃げたら被害が更に出る!ツルボは優斗君を連れて応援を呼んで来てくれ!!優斗君は安全な場所に!!」




優斗は目の前の事が衝撃的過ぎて、言葉が出ず、その場でへたり込んでいた。


アカザの身体を見ると擦り傷が酷く、衣類越しから所々血が滲んでいる。そしてアカザが恐らく死を覚悟している事は、目を見ればわかった。


優斗は信じられなかった。


何故自分をここまでして助けてくれるのか。



命まで掛けられるのだろうかと。




ストーカー扱いまでして、


アカザ自身を否定して来た。



なのに何故・・・こんな死んでもいいような人間なんか助けるのだろうか。



死ぬのは怖い。



しかし、自分は死んでもいい人間だとは思っている。





そこまで自分には価値がない。

価値すらない代物を、何故助けるのだろうか。


昨日も思った事だった。


助けてくれたことには感謝する。


しかし、



助ける必要性を感じなかった。




だけど、




自分のせいで、誰かが死ぬのは・・・・









「・・・おい」


「え?」



ツルボは優斗に駆け足で近寄った。すると急に優斗は立ち上がり、アカザに向かって言った。




「いい加減にしろよ!!!!!」




「!?・・・優斗君!?」


「あんたそうやって勝手に人を助けてるけど、正直迷惑なんだよ!何偽善を振りまいてんだよ!!!そんなお前なんかに助けられても嬉しくないからな!」


「ちょ、栗原君!?」



魔夢バクの動きも一定の動きをしているが、動きはしなかった。優斗は弾丸の様に言葉を吐き出す。




「俺が狙われたのは偶々にしろなんにしろ!!

結局あんた等のせいでもっとややこしい事になってんじゃん!!

なんかバケモノの形変わってんじゃん!!

気持ち悪くなってんじゃん!!!!

悪化してんじゃん!!!

この前だって、助けたら助けたでデコピンとかしてくるし!!

なんか厨二病みたいなフレーズとか叫んじゃって、日本刀とか出てくるし!!

てか痛いから!!!

ここは二次元とは違うから!!!

なんなの!!??

あんた等馬鹿なの!!??

本当意味わかんねぇ!!

厨二病なら俺抜きでやってくれよ!!

何が魔書展開だよっ!!

ありきたり過ぎるし、ダサい!!!

それに敵も敵でなんでオカマ口調の奴多いんだよ!?

おかしいだろ!!?

あと普通に闘ってるけど、この光景普通ならあり得ないからね!!??

普通じゃないからね!!??

こんな人様が見えるような場所で何思いっきりファンタジー小説並の展開入っちゃってんの!??

まだどこでもドアとか出来てないからね!?

近未来ロボットとかいないからね!!??

俺は嫌だ!!

こんな恥ずかしいこと!!

まだ仕事をクビにされた方がマシだわ!!

現実味があるし!!!

だいたい何でいちいち俺がこんなに悩まなきゃいけないんだよ!!?

バケモノに遭遇しては殺されそうになるし!!

刀を持った先輩がバケモノと闘ってるし!!!


俺の“目,,の事もそうだけど、何で俺が何時もこんな目に合わなきゃいけないんだよ!!!

俺は自分は死んでもいい人間とは思ってる!!

だけど“自然に死ぬ,,までは生きたいんだよ!!

もうやめてくれよ!!

1人にしてくれよ!!!

俺はお前を否定してきたし!!

あんただって俺と関わりたくないだろ!!!?


これ以上は無駄だろ!!!

おい!!!!!」


「ちょっと落ち着いて!!?」




優斗は息を切らしながら、徐々にアカザに近づき相手の目を見た。優斗の目の色を知っているアカザですら、優斗の瞳を見て一瞬息を飲んだ。



優斗は最後にこう言い切った。





「頼むから!俺なんかのせいで死ぬなよ!!」





アカザは目を見開いた。



優斗は急に喋ったせいか、立ち眩みでヘナヘナとしゃがみ込んだ。



「俺は・・・自分が死んだりとか、消えたりとか、そう言うのはいいと思ってる!!」



優斗はツルボに支えられながら、アカザに向かって聞こえるように話した。





「だけど、俺のせいで誰かが死ぬのは嫌なんだよ。この先、何があっても・・・!」


「・・・優斗君。君は、何でそこまで自分を非難しているんだい?」



優斗は肩を一瞬動かしたが、直ぐに答えを述べた。





「俺は、死んでもいい人間だからだよ。」




すると今まで微動だにしなかった敵が、激しく動き始めた。



「サッキカラ何?私ヲ除ケ者ニスル何テ、酷イジャナイ!?」



魔夢バクの複数の手が、優斗達の方向に物凄い速さで伸びて来た。

アカザは直ぐ様刀で切ろうと背後を振り返る。一太刀降っただけだが、伸びて来た手は全て一刀両断された。




「優斗君・・・僕等は昨日の晩に会ってから、色々な事があった。」



アカザは優斗の方に振り返らない。

ただただ攻撃してくる手を、まるで踊るかの様に切り刻みながら優斗に話し掛ける。




「確かに否定もされた。僕等は確かに会って間もない、いわば隣人にもまだなれていない。なのにここまで片方が否定して拒んでも、また出会ってしまうのは・・・不思議だとは思わないかい?」


「・・・」


「優斗君。僕は君の瞳が何なのか、とても興味があるんだ。僕等は払い屋とは少し違うけど、霊とかにしか効かない術もあるし、人間にも効く術もある。其れ等を仕事にしている人間なんだ。・・・だから本来この様な事態には対処が出来ない。」



アカザは手を休めること無く、切り続けた。




「君は僕らからしたら、とても必要ない人間には見えないんだ。」




「は・・・?」


「君がどんなに否定しても、どんなに遠ざけても、僕等はいつかはこうしてまた出会っていたんじゃないかな?」



攻撃の手が止まる。


辺りに肉片が飛び散っているのにもかかわらず、優斗の方には一切肉片が落ちていなかった。





「だから僕は君を死なせたくない。」



アカザは背中越しに、意思を伝えて来た。




「理由はどうあれ、僕は君を死んでもいいなんて事は一度たりとも思った事はない。嘘なんて付いてない、僕の本心だ。」


鎧盾アミュ・ブグリエ!!」



アカザの目の前に防壁の魔法陣が現れる。アカザ達の後ろでツルボが発動した物だった。

発動したと同時に相手の攻撃が嵐の様にやって来る。



「出会って間も無いし、僕に至ってはかなりの君から嫌われてしまっているみたいだしね。だけど、僕から1つ言えるのは・・・」




アカザは優斗に微笑みかけた。



刀を持ち、


傷だらけになりながら、


まるで戦場に立つ戦士の様に、







「君は優しい。」






優しく笑った。




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