5.作戦決行
前作からしばらく時間が空いてしまいました。
「そろそろ時間だ。」
向かいのビルに用意した部屋にいた有騎達のところに、一馬がやってきた。
「今、ニュースを見たが、あと30分ほど遅れて到着するらしい。」
秀秋がそう言うと、部屋中に緊張が走る。
この段階に来てもなお、有騎は葛藤していた。
本当に誘拐するのか?
いくら、クルサード家の人間だからと言って、大の大人が集まって女の子を誘拐するなんてやりたくない。
しかし、もう作戦決行まで時間がない。
こうなったら、せめてサリファと言う女性がひどい目に合わないように俺が彼女を守ろう。
この時、なぜか有騎は一度も会ったことのない女性に対して、そんな感情を持つようになっていた。
「それにしても、まるでアメリカ大統領が来日したかのような報道っぷりだな。」
「ああ、それに警備体制もな。」
「さっき、奈央から連絡があって、待機部隊は準備完了したらしい。」
「そうか・・・」
一馬から奈央の名前を聞いて、有騎は奈央のことを思い出す。
奈央もこの任務には、俺と同じで反対していた。
しかし、今はなんだかんだ言いつつも、しっかりと準備をしている。
わかってる。
これが、この日本を救うための戦いの第一歩になるってことは・・・
多分、奈央もそう信じて作戦準備を行っているのだろう。
奈央をことを考え込んでいる有騎の両肩に、突然激痛が走る。
一馬が有騎の両肩を力強くつかんでいた。
「イテテテ・・・ちょ、一馬、痛いって。」
一馬のバカ力に捕まれて、有騎は思わず悲鳴に近い声を上げてしまう。
一馬はアンティルのリーダーとして数多くの任務をこなすために、いつも体を鍛えていた。
そんなこともあり、一馬の怪力は半端なかった。
「ハハハハハ・・・スマンスマン、ちょっと力を入れすぎたようじゃ。」
一馬は豪快に笑いながら、有騎に謝る。
一方、有騎はあまりにも痛かったのか、両肩を手でさすっていた。
「いい加減、その馬鹿力を制御しろ。鎖骨が折れるかと思ったぞ。」
「だから悪いって謝ったじゃないか。
まあ、でも、これでお前の肩の力も少しは抜けただろう。」
「えっ!?」
「ちょっとナーバスな表情してたからな。少し心配してたんだが、この様子だと大丈夫のようだな。」
一馬はそう言うと、笑みを見せる。
それを見て、有騎はようやく一馬が自分の心をほぐそうとしてたことに気づく。
単に無鉄砲でガサツで馬鹿力だけしか能がないと思ってたが、なんだかんだで周りの人間のことを見ているんだな。
有騎は少し一馬のことを見直した。
「最初から俺は冷静だっつーの。」
有騎がそう言うと、一馬は有騎の背中を軽くたたく。
だが、それがまた結構なバカ力で、有騎はその衝撃でよろめく。
だから、力の加減をしろと言いたくなったが、一馬のおかげでさっきまでの不安な感情は消えていた。
とにかく、任務を成功させる。
まずは、そのことだけを考えよう。
有騎が不安を感じていたのは、待機時間中に作戦の詳細な内容を秀秋から聞いたからだった。
聞けば聞くほど、やはり違和感しか感じられなかったのである。
ディルスターの警備体制をかいくぐって、ここまでの大規模な作戦の準備ができるとは、到底思えない。
しかし、もうそれを気にしている暇はなかった。
「よし、俺達も行くぞ。」
一馬の号令で、俺達は待機室から出る。
いよいよ作戦決行の時である。
有騎は、奈央から渡された武器を持ち、一馬達と一緒に地下トンネルを渡って、向かいのビルの駐車場へと向かう。
それにしても、本当にこれだけの通路を、一体どうやって作ったのだろうか?
いや、それは今はもう考えるのはやめよう。
有騎は仲間達と一緒に、地下トンネルをくぐり、駐車場の裏側まで到着する。
作戦決行までもうすぐだ。
「あと5分ほどで到着するらしい。」
秀秋が小さい声でそう言うと、その場の緊張が一気に高まる。
だが、しばらくして、秀秋の元に別の通信が入ってくる。
その通信内容を聞いた秀秋の表情が驚いた表情に変わっていく。
「どうした?」
驚いている秀秋に、小声で声をかける。
「難波にいる仲間から、さっき連絡があった。
あと5分で来るのは、どうやらダミーらしい。」
「つまり、5分後に来る大集団には、本物のサリファはいないということか?」
「そういうことだ。
本物は別の車でこっちに向かってきているそうだが、少々やっかいなことになりそうだ。」
秀秋は、怯えきった表情を浮かべていた。
「やっかいなこと?どういうことだ?」
話を聞いていた一馬が、秀秋に尋ねる。
「今、サリファを護衛しているのは、一人だけらしい。」
「一人だったら、むしろそっちの方が助かるだろう。
あの大集団相手じゃ、とてもじゃないが俺達だけで突破できなかったぞ。」
一馬はそう言うと、駐車場の方を指さす。
駐車場には多くの車両が入ってきていた。
そして、それに伴い、周囲は州兵で厳重にガードされていた。
「ちょっと話が違うじゃないか?駐車場は警護が手薄じゃなかったのか?」
一馬が秀秋の方を睨み付ける。
「い、いや、その・・・俺のもらった情報は、確かに警護が手薄だって話だったんだよ。
こんなはずでは・・・」
秀秋自身も、駐車場の警備に動揺を隠せずにいた。
これでは、とてもじゃないが、俺達が突入したところで、ハチの巣にされて終わりだろう。
「お前に情報渡した連中って、本当に信用できるのか?」
一馬が、ネチネチと秀秋を責めていたが、有騎は別のことを考えていた。
秀秋は、ディルスター内部にコネクションがあると言った。
そのコネクションは、反クルサード体制の人間であると言うことも聞いた。
だが、そこから得た情報は、全くのデマと言ってもいいほどの、厳戒な警戒態勢だった。
ここから考えられることは2つだった。
①コネクションの情報がクルサード側に漏えいした
②コネクションは、最初からウソの情報を教えた。
しかし、①だったら、本物のサリファにたった一人の護衛しかつけていないというのがわからない。
普通はもっと警護をつけるだろう。
しかも、どうして偽物の方にあんなに多くの護衛をつけているのか?
わけがわからない。
わかりやすいのは、②の方だ。
つまり、自分達はまんまと敵の罠にはめられたということだ。
だが、こっちも疑問が残る。
アンティルをつぶすためだけに、こんな手の込んだことをする必要性がわからない。
ここまで来るトンネルを掘るだけでも、莫大な費用がかかっただろう。
しかも、わざわざ自分達をディルスターのビルに侵入させるというリスクを冒している。
知っていたのであれば、待ち伏せして捕まえることだってできたはずだ。
しばらくすると、駐車場にいた兵士達は、偽物のサリファと一緒にビルの中へと入っていった。
罠であれば、俺達の居場所を包囲できただろうが、そんな気配は全くない。
「じゃあ、罠ではないということか。」
有騎は自分でも気づかないうちに、いつの間にか口に出して考えていたらしい。
そんな有騎の方を、秀秋と一馬がじーっと見ていた。
「失礼な。俺のコネクションが嘘をつくとでも思っているのか?」
秀秋は少し不機嫌な表情を浮かべる。
「あっ、いや、そう言うつもりでは・・・ただ、少し変というか・・・」
「そうか?そうでもないぞ。」
秀秋はそう言うと、駐車場の方を指さす。
「ほら、だって今は誰もいないじゃないか。」
さっきまでの大軍が嘘のように、今は誰もいなくなり、ひっそりと静まり返っていた。
確かに、今ここでサリファが帰ってきたら、秀秋の言った通りになる。
しかし、本物のサリファがまだ帰ってきていないのに、どうして州兵は警戒態勢をといたのだろうか?
またしても有騎の頭の中に、新しい疑問が生まれる。
「てことは、俺達はここで本物のサリファが到着するのを待っていればいいってことだな。」
一馬がニヤリと笑いながらそう言う。
ただ、秀秋の表情はすぐれない。
「どうした?何か気になることでもあるのか?」
秀秋の表情が気になったので、声をかけると、秀秋はため息を一つつく。
「実は、サリファを警護している男なんだが・・・どうやらSALIDらしいんだ。」
秀秋がそう言うと、その場にいた全員の表情が一斉に青ざめる。
「それ、本当か?」
いつもは能天気な一馬ですら、青ざめた表情を浮かべていた。
「なあ、SALIDって、ディルスターの特殊部隊のことだよな?」
有騎が知っているのは、その程度のことだったので、周りが怯えている理由が今一つピンとこない。
「いくらSALIDと言っても、たった一人だろ。じゃあ、何とかなるんじゃないか。」
有騎がそう言うと、一馬は青ざめた表情で首を横に振る。
「俺達は一回、SALIDの戦士と遭遇したことがあったが、あれは人間じゃねえよ。
あの時、こっちは100人以上いたんだ。向こうはたった2人だけだった。
でも、アイツらに俺達の仲間の半数以上が殺された。」
一馬の話を聞いて、有騎の背筋にも寒いものが走る。
あの能天気な一馬が、ここまで怯えるなんて、今まで見たことがない。
それに、その話なら、少し前に聞いたことがあった。
調達部隊の半数以上が死亡または行方不明になったということで、アンティルで大騒ぎになったことがあった。
あれは、SALIDの仕業だったのか。
その頃、有騎はまだ子供だったので、その遠征には参加してなかったが、一馬は参加していたらしい。
いや、恐らくここにいるメンバーでは、有騎以外の全メンバーが参加していたのだろう。
「冗談じゃねえぞ。SALIDが相手なんてどうするつもりだよ?」
メンバーの一人は、今にも泣きそうな表情で一馬の方を見る。
一馬もどうしたらいいかわからないといった表情で立ち尽くしていた。
とその時だった。
一台の車が駐車場に入ってくる。
どうやら、本物のサリファが到着したようだ。
しかし、周りのメンバーは誰一人動こうとしなかった。
いや、今はそれで正解だったかもしれない。
駐車場に何人か人が下りてきたからだ。
「あれは州兵じゃない。どうやら関西支社の社員のようだな。」
SALIDだけでも厄介なのに、この上社員まで出てくるとは、ますます面倒なことになりそうだ。
「幸いなのは、あそこにいるのはただの社員だけだってことだ。
さっき、顔を確認したが、関西支社でも役員クラスの人間が多いな。
大方、サリファに顔見せして、点数でも稼ぎたいんだろう。」
秀秋の分析は概ね正しいと思われる。
年齢は40~50歳ぐらいが多く、デスクワークをしてそうな連中ばかりだ。
「あれなら、予定範囲内だ。問題ないだろう。問題はあっちだ。」
一馬はそう言うと、車の方を見る。
駐車場の中にある降車口で、サリファともう一人体格のいい男が車から降りる。
それを見て、有騎達は一斉に予定の位置に動き始める。
「サリファお嬢様。」
車から降りたサリファを待ち構えていたのは、ディルスターの社員達だった。
おおよそ社長令嬢ということで、自分に媚びを売っておきたいのだろう。
社長令嬢も大変だなと有騎は思った。
こちらからサリファの表情は見えないが、多分うんざりしているんじゃないだろうか?
「すみません、ちょっと通してください。」
それでもサリファは、やんわりとした口調で、社員達に下がるように頼む。
それにしても、本物の社長令嬢が到着したというのに、あまりにも無警戒じゃないか?
いくらSALIDの護衛がいると言っても、このガラガラの状態はあまりにも不自然すぎるような気がした。
「オイ、貴様ら、サリファお嬢様が下がれと言ってるのだ。いい加減にしないと・・・」
大柄の男が、サリファの前に立ちはだかっていた社員達に怒鳴りつける。
(あの大男が、おそらくSALIDのメンバーのようだな。
なるほど、見るからに強そうな漢だ。
だが、俺達全員でかかれば、何とかなるんじゃないか?)
有騎はそう思ったが、次の瞬間、その考えを改めることになる。
カルティニはすかさず振り返ると、有騎達の待機する方を睨み付けた。
(まさか、俺達の存在に気づいたのか?)
なるほど、これがSALIDなのか。
その男の鋭い視線に、有騎も得体のしれない恐怖を覚える。
一方、カルティニは、駐車場に潜んでいる気配に気づいていた。
カルティニは、SALIDで戦闘の訓練を積んできた戦闘のプロフェッショナルである。
駐車場に潜んでいる気配を読むことぐらい容易なことだった。
しかし、そこに潜んでいる気配が一人や二人ではないことに気づくと、表情をこわばらせる。
(マズいな・・・この状況は・・・)
カルティニの戦闘力であれば、一般人が束になっても余裕で倒せるだろう。
しかし、それはカルティニ一人の場合である。
ここには、サリファがいる。
サリファを守りながら多人数と戦うのは、さすがにカルティニと言えども困難である。
(奴らが、もしサリファお嬢様を狙ってきたとしたら・・・)
とその時、気配がこちらに向かってくることを察知する。
「お嬢様、こちらへ。」
大男はサリファを自分の背後に隠すと、何やら構えを見せる。
「マズい、俺達が隠れていることが完全にバレているぞ。」
どうやら一馬も気づいたようだ。
一馬達が前方に移動したのを、カルティニが察知したらしい。
「アイツの名前はカルティニ。
SALIDでも5本の指に入るほどの戦士らしい。
気配で人がどこに潜んでいるかを見抜くことができるらしい。」
「お前、そういうことは早く言えよ。」
冷静に説明する秀秋を、有騎は小声で非難する。
わかっていたら、もっと離れたところに隠れるということもできただろう。
「こうなったら、一斉に突撃するしかない。
俺があの化け物を引き付けるから、有騎、お前はサリファをさらってさっさと逃げろ。」
「一馬・・・お前、まさか・・・」
「おっと、俺は死ぬつもりはない。
心配しなくても逃げ切って見せるから、お前はサリファをさらうことだけ考えていろ。」
「わかった・・・」
有騎達が決死の覚悟で、作戦決行に突入しようとしたその時だった。
「おっと、動くな。」
いつの間にか男が、サリファに背後からナイフを突き立てていた。
「しまった。まさか、この中に・・・」
不覚にも、カルティニは背後の気配に気を取られて、目の前の冴えないサラリーマン連中を気にもかけていなかった。
まさか、あのサラリーマンの中に敵が潜んでいたとは夢にも思わなかった。
というのも、何の殺気も感じられなかったからな。
(コイツ・・・相当訓練した戦士だな。)
カルティニは直感で、サリファを人質に取っている社員が強いと直感する。
「何だ?一体どうなってるんだ?」
目の前の状況に、有騎達も驚いていた。
あれは自分達の仲間ではない。
ということは、他にもこの機会を狙っている連中がいたということか。
「貴様はバスパグスフの手の者か?」
カルティニは、サリファを人質に取っている男に尋ねる。
だが、男は何も答えない。
「バスパグスフって何だ?」
有騎が秀秋に尋ねる。
「バスパグスフはディルスターが最後に合併した巨大企業スコアリーのCEOだった。
そして、今ではディルスターの第3勢力になっている。」
つまり、これはディルスター内部の抗争のようである。
クルサード家の人間は絶えず命を狙われているという話を思い出す。
だが、サリファの命を狙う人間だったら、一思いにさせばいいのに、どうして人質に取っているのだろうか?
「サリファ様、さあこちらへ。」
男は、サリファの喉元にナイフを突き立てたまま、サリファを連れて行こうとする。
とその時だった。
「ゴメンなさい。私はあなたと一緒に行くわけにはいかないのです。」
次の瞬間、サリファは男のナイフを持った手を掴むと、一瞬でねじ伏せる。
男の腕に激痛が走る。
男の方が力があるため、サリファの手を力づくで振りほどくと、後方へと突き飛ばした。
だが、それだけの隙をカルティニが逃すはずがなかった。
男が気づいた時には、カルティニは既に目の前まで来ていた。
そして、
ズドーーーン!!!
凄まじい音が駐車場内に響き渡る。
それは、カルティニが男の腹部を殴った音だったが、まるで爆発でもしたかのような凄まじい轟音だった。
男は血を吐くと、たったの一撃でその場に倒れた。
(なんて破壊力だ。あんなパンチ食らったら、絶対に死ぬって。)
目の前の凄まじいパンチを見て、有騎はゾッとしていた。
男はピクピク痙攣していたが、しばらくすると静かになった。
「おっと、おとなしくしろ。」
とその時、今度は一馬の声が聞こえてくる。
一馬の方を見ると、一馬がいつの間にかサリファを捕まえていた。
さっきの男に、サリファは一馬のすぐ近くまで突き飛ばされていたらしい。
「クソッ、やはり仲間が潜んでいたか。」
カルティニは、サリファを捕まえている一馬を凄まじい形相で睨み付ける。
凄まじい迫力だ。
そのあまりにも凄まじい形相に、全員すっかりおびえ切っていた。
「フ、フン・・・いい度胸しているじゃないか。
有騎、このお嬢さんを預けるぞ。」
一馬はそう言うと、俺のところまでサリファを連れてくる。
「オイ、まさかあんなのと戦うつもりじゃないだろうな?」
有騎は小声で一馬に尋ねる。
さすがの一馬も、そこまで考えなしではないと信じたい。
だが、
「任せとけ。」
一馬はニヤリと笑うと、持っている刀を抜いた。
まさか、本気で戦うつもりなのか?
有騎はさっきまでSALIDのことをほとんど知らないが、さっきのを見れば、アイツがとんでもなくヤバいことはすぐにわかった。
「貴様、汚らわしい手でお嬢様に触れるな。」
カルティニは、一馬ではなく、代わりにサリファを人質に取った有騎の方を凄まじい形相で睨み付けていた。
(なんて怖さだ。)
その形相に、有騎は言葉を発することもできず、ガタガタと体を震わせていた。
「有騎、俺達に任せておけ。」
とその時、四方から一斉にロープが発射されると、カルティニに絡みつく。
「よっしゃあ、かかったぞ。」
仲間達の声が聞こえてくる。
「これでトドメだ!!」
一馬はカルティニに突進すると、持っている刀を振り下ろす。
「危ない!!!」
とその時、サリファが悲鳴に近い声を上げる。
だが、次の瞬間、カルティニは、ロープを一瞬で引き裂くと、一馬の振り下ろした刀を右側から思い切り殴りつけた。
刀はへし折れると、そのまま左側に飛んでいった。
「貴様ら、一人も生かして帰さんぞ!!!」
とその時、カルティニの凄まじい怒号が駐車場内に響き渡る。
そして、カルティニはネクタイを外すと、一回大きな深呼吸をして、鋭い眼光で構える。
そのあまりにも鋭い眼光と威圧に、包囲していた一馬達は完全に怯えきっていた。
「コ、コイツは本物のSALIDだ。さすがにヤバいぞ。」
さっき刀でカルティニに襲いかかった一馬も、カルティニの殺気にゾッとなる。
「貴様がリーダーだな。」
カルティニは一馬の方を見ると、凄まじいスピードで一馬の方に突進する。
一馬はカルティニと何とか間合いを取って、別の武器を構えたかったが、カルティニがそれを許さなかった。
一馬が器を手にした時には、カルティニは既に目の前まで来ていた。
カルティニは、一馬の武器を素早く払うと、がら空きになった一馬の脇に、凄まじい蹴りを叩き入れる・・・はずだった。
しかし、
「う、動くな!!!」
その瞬間、有騎がカルティニに向かって叫ぶ。
カルティニは背後の有騎の方を振り返り驚く。
なぜならば、有騎はサリファの喉元にナイフをつきつけていたからだ。
「クソッ!!!」
有騎がサリファの喉元にナイフを突きつけているのを見て、カルティニは抵抗をやめる。
だが、有騎達は、動きを止めたカルティニを見てゾッとしていた。
カルティニの足は、がら空きになった一馬の脇に炸裂する寸前のところで止まっていた。
あと少し、俺が声を上げるのが遅かったら、あの丸太のような足で蹴り飛ばされて、おそらく一馬は即死だっただろう。
一馬は、カルティニの足の位置を見て、ゾッとしたのか、その場にへたり込んでしまった。
あの一馬がこんな状態になるところを初めて見た。
とりあえず一馬を助けることはできた。
だが、それでは済みそうになかった。
カルティニは一馬から有騎にターゲットを変更したようだ。
カルティニは無言で有騎の方へと近づいてくる。
(ヤバいヤバいヤバい・・・一体どうすれば?)
カルティニの凄まじい迫力に有騎はパニックに陥る。
「おっと、この女の命が欲しければ、そこから動くな。」
いつの間にか、俺のすぐ近くに来ていた秀秋が、俺の代わりにカルティニに向かってそう言った。
気が付くと、周囲に散っていた他の仲間も、俺とサリファのところに集まっていた。
さすがにこの人数を相手に救出は難しいと考えたのか、カルティニの動きがピタリと止まる。
下手に突進して、サリファの身に何かあっては困ると考えたのだろう。
「よかった・・・」
カルティニがおとなしくなったのを見て、サリファは小さくそうつぶやくのが聞こえてくる。
(えっ、これは一体どういうことだ?)
サリファのつぶやきを聞いて、有騎は首をかしげる。
どうして自分を守ろうとする人が抵抗をやめたのを見て、安堵の表情を浮かべてるんだろう。
さっきもそうだった。
カルティニが一馬に対して攻撃しようとした時のことだった。
「あのままだと、あなたの仲間、殺されちゃうよ。」
人質に取られているはずのサリファが、そう言って有騎の方を振り返る。
この時、初めて有騎はサリファの顔を見ることになる。
そして、あまりの美しさに、有騎は思わず息をのんだ。
さっきまで、あの恐ろしい男の顔しか視界に入ってなかったから、今まで全く気付かなかったけど、なんて美しい人だ。
もしかしたら、これが一目ぼれと言うやつだろうか?
未だ恋をしたことのない恋に恋い焦がれる有騎の勘違いが始まる。
「ホラ、早く。」
だがサリファは有騎のそんな感情おかまいなしに、呆けている有騎に向かってナイフを渡す。
「えっ、これは?」
「キミはナイフも知らないのかな?」
「いや、そうじゃなくて、これでどうしろと?」
「キミが私を人質に取るんだよ。」
目の前の美しい女性は、笑顔であっけらかんとそう言った。
有騎は一瞬、理解に苦しんだ。
この人は、一体どうしてこんなことを言うのだろう?
結果的にサリファの助言は正解だった。
サリファを人質に取っている限り、カルティニは手出しができない。
だが、どうしても有騎にはサリファが何を考えているのか理解できなかった。
一馬が有騎達と合流する。
これで、後は脱出するだけだ。
だが、どうやって逃げるか?
問題はそこだった。
「ねえ、早く逃げないと、すぐに追手がくるよ。」
カルティニと対峙している有騎に向かってサリファが小声でそう言う。
カルティニは、SALIDの戦士ではあるが、引き際も心得ていた。
自分一人ではどうしようもないと判断した場合、敵に隙を見せないようにしつつ、軍の支援を要請することにしていた。
「カルティニの右手がポケットに入ってるでしょ。
おそらくあの中の端末で非常事態であることを連絡しているんだと思う。」
「わ、わかってるよ。」
だが、あの凄まじい殺気を持つ男が、このまま黙って逃がしてくれるはずがない。
こういう時は、秀秋に頼るしかない。
「わかってるって。いくぞ。」
次の瞬間、一斉に催涙弾がカルティニの方に投げられる。
これでしばらく視界を断つことができる。
「今だ、全員、全速力で走れ!!!」
一馬の大声で、全員一斉に駐車場からトンネルへと入る。
一馬に言われなくても、全員全速力で走っていた。
あんなものは目くらましに過ぎない。
と、その時、後方で複数の銃声がした。
恐らく、州兵が下りてきたのだろう。
これはますます厄介なことになってきた。
「バカ野郎!!!奴らはサリファお嬢様を人質に取ってるんだぞ。
むやみに発砲するな。」
カルティニはいきなり発砲した州兵をどなりつける。
カルティニの怒りは最高潮に達していた。
ここの兵士は一体何を考えているのか?
だが、ここの兵士の武装を見て、すぐに彼らが戦闘慣れしていないことがわかる。
であれば、ここは一人で追いかけた方がよさそうだ。
「いいか、俺は奴らの後を追いかけるから、貴様らはゼウスネットワークでお嬢様を追跡して情報を送れ。」
「わかりました。」
カルティニは州兵にそう命じると、次の瞬間には催涙弾の煙幕の中へと飛び込んでいった。




