2.アルシア・クルサード
先日、旅行に行ったため、少し投稿が遅れました。
日本に来るのは何年振りだろう?
「相変わらずデザインセンスのかけらもないビルだ。」
目の前にそびえ立つディルスターのビルのデザインセンスのなさは、おそらく世界一だろう。
まあ、これが日本のお国柄かもしれない。
よく言えば、真面目で誠実で勤勉な民族。
悪く言えば、遊び心がなくて頭が固く柔軟性に欠ける。
まあ、そう言った連中の方が、操る側としては非常に助かるのだが。
経済大国から転落したとはいえ、日本はまだまだ大きい市場である。
だが、ここ数年、なぜか日本に来る機会がなかった。
実に不思議だが、今回もアマテラスの完成がなければ、日本に来ることはなかっただろう。
本当は種子島の式典に出て帰ればいいのだが、せっかく日本に来たのだから、日本のディルスターの近況も知っておきたい。
というわけで、明日は、久々に日本市場の戦略会議に参加することになる。
だが、私が来たせいか、日本支社の役員達はピリピリしているようだ。
憂鬱な気分で、デザインセンスのない自社ビルを眺めていたが、ビルに入るとまたため息が出てきた。
一階の受付で待っているスーツを着た男達が視界に入ってきたからだ。
「あれはどこの陳情だ?」
付き添いの通訳を通して、日本支社の役員に尋ねると、役員も慌てて受付に向かう。
まあ、あの身なりからして、恐らく政府関係者に違いないだろう。
最近、どこの国に行っても、あの手の政治家が私の元に来ることが多い。
そう言った連中は、大抵ディルスターのサービス改善を要求してくる。
まあ、私が直接要求を聞くことはないのだが、後で話を聞くと、最近は、電気料金や水道料金に関する苦情が多いらしい。
知ったことか。
我々の提供するサービスに不満ならば、使わなければいいのだ。
ディルスター以外のよそのサービスを使えばいい。
まあ、そんなサービスが存在すればの話だが。
「ミスターアルシア。」
突然、私の方に、さっきの政治家どもが大声で私の名前を呼びながらやってくる。
当然ながら、ガードに止められる。
「待て、貴様ら何者だ?」
ガードの凄まじい迫力に、男達は圧倒されて、声も出なくなったようだ。
この程度で言葉も発せなくなるとは、実に情けない連中だ。
だが、あの情けない姿を見ていると、逆に直接からかってやりたくなった。
「まあ、待て。」
珍しく私が制止したのを見て、ガードは少し驚いている。
まあ、いつもは気にもかけないからな。
ガードが驚くのも無理はないだろう。
ガードが驚く顔が見れて、少し楽しい気分になった。
やはり、声をかけたのは正解だったようだ。
私はこみあげそうになる笑いを必死に抑えながら、情けない政治家どもに声をかけることにした。
「私のガードは選りすぐりの精鋭部隊なのだが、それ故に一般人に対しての対応が苦手でね。
どうやら驚かせてしまったようだな。
で、私に何の用かな?」
私が穏やかに話しかけると、男達は安心したのか少し表情を緩めた。
本当に、予想通りの表情を見せてくれて笑わせてくれる。
実に楽しい連中だ。
「ハ、ハイ、私は中国州の州長を務めている須山と言います。」
「私は四国州の州長の坂東と言います。」
男達はそう言うと、私に向かって挨拶をする。
なるほど、2人は中国州と四国州の州長らしい。
今から10年ほど前に、日本は道州制を導入し、北海道、東北州、北陸信越州、関東州、東海州、北関西州、南関西州、中国州、四国州、九州の10個の州に分かれた。
それぞれの州で独立採算性が採用されて、国の権限の多くが道州に委譲された。
各道州は国と同様に道州議会を持ち、選挙で選ばれた州長の元で、様々な政策を行っているそうだ。
道州制に合わせて、ディルスターも道州ごとに戦略を変更したから、その辺のことはよく覚えている。
だが、道州制の結果、道州ごとの激しい格差が生じてしまい、そのおかげで州によってはディルスターの業績も悪化していると聞く。
恐らく、中国州と四国州は、かなり厳しい状況なのだろう。
それで、私のところまで、わざわざ州長が直々に来たと言ったところか。
「中国州と四国州の電気料金が、この北関西州よりも高くて、私達の州の企業が、次々と倒産もしくは他州に移転を行っています。
このままでは、私達のから企業がいなくなってしまい、税収も入ってこなくなってしまいます。
せめて、北関西州と同じ料金水準にしてもらえないでしょうか?」
須山と坂東は懸命に私に電気料金の高さを訴えかけていた。
まあ、予想はしていたことだが、全く予想通りだとつまらない。
「悪いが、そんなくだらない話は各州の電力会社にでも陳情したまえ。」
私は通訳を介して一蹴しようとしたが、意外にも二人の州長は食らいついてきた。
「電力会社には、もう何度もお願いしています。
しかし、電力会社に訴えても、ディルスターの方針で、州ごとに電力会社も独立採算性にしているので、他州と同等の利益を上げるには、我々も電気料金を上げざるを得ないと言って、聞く耳を持ってくれないのです。
だから、わざわざここまで来たのです。」
「私は電気だけではなく、ディルスターのサービス全般にお願いをしに来ました。
州都を中心に、電力、水道、警察、銀行を充実させてくれるのはありがたいのですが、他の地方都市にもきちんとサービスを届けてほしいのです。
特に電力は、地方都市は停電がひどくて、何とかしてもらいたい。
地方からどんどん人がいなくなってしまって、ブラックゾーンがどんどん増えていく状況です。
地方にも、全てのサービスをきちんと配備してほしいのです。」
2人は代わる代わる、私にあれこれ訴えかけてくる。
さすがにうっとおしくなってきた。
「我々は営利企業なのだよ。
儲かるところには投資するし、儲からないところには投資しない。
経営の基本的なセオリーに従っているだけのことだ。
そして、それは外部にどうこう言われる筋合いのことではない。」
「ディルスターの戦略で国民生活に影響が出ている以上、もはや営利企業の投資という問題で済む話ではありません。」
「国民生活など、ディルスターには関係のないことだ。嫌だったら、他のサービスを使えばいいのだよ。
もっとも、ディルスターに代わるサービスが、この日本にあるとは思えないがね。」
私がこう言うと、2人とも黙ってしまった。
今やディルスターがこの日本の経済基盤を支えていると言ってもいい。
そんなディルスターに向かって、平民風情がふざけたことをぬかす。
むしろ、貴様ら日本国民こそが、ディルスターに奉仕すべきではないか。
ディルスターがいなければ、貴様らは生きていくことすらできないのだぞ。
「どうやらわかってもらったようだな。」
無言になった二人を一蹴して、エレベータへと向かう。
だが、私の行動に気づいたのか、2人が慌てて私の後を追いかけてくる。
「ま、待ってください。まだ話が・・・」
「くどい。」
もうこれ以上、話をしても時間の無駄なので、あとはガード達に2人を拘束するように命じた。
「どうします。デス・シグナルを使われますか?」
小声でガードの一人が私に声をかけてくる。
だが、こんな小物相手に使うようなものでもあるまい。
「適当に拘束して追い返せしておけ。」
「わかりました。」
ガードはそう言うと、拘束した二人の方へと向かう。
それにしても、こんなガード風情にまで、デス・シグナルの存在は広まっているのか?
システムの存在自体は非公開のはずなのだが。
ディルスターが否定しても、あの時の反逆者の大量粛清で、噂は広がる一方だ。
実に困った話である。
エレベータには、ディルスターの役員達が既に乗り込んでいた。
「やれやれ、ああいうのがいるから、日本に来るのは嫌いなのだよ。」
私がそう言うと、周囲にいた役員達は愛想笑いを浮かべる。
「ああいった連中はしょっちゅう来ているのか?」
アルシアが隣にいた役員に尋ねる。
「ええ、まあ。もっとも、今日みたいに州長が直接来たことはありませんでしたが。」
幹部の話を聞いて、私はあきれ果てた。
「やれやれ、その程度の必死さで、何かを変えてもらいたいと思ってるとは、実に浅はかな考えだ。
本当に料金やサービスを変えてもらいたいのであれば、毎日陳情に来るぐらいのことはしてもらわないとね。」
「全く、アルシア様のおっしゃる通りです。」
「結局、あの二人は、自分達の州のことを本気で心配などしていないということだ。
心配なのは、自分達の地位と名誉だけだってことだよ。
中国州と四国州の州長には、検討しておくとだけ伝えておけ。
奴らも、我らが検討しているという返事を聞けば、とりあえず満足して帰るだろう。
日本人はそういう連中だからね。」
アルシアはそう言うと、幹部は了解しましたと返事する。
「サリファ様は、18時ごろにディルスターパレスに到着するとのことです。」
役員の言葉で、娘のサリファのことを思い出す。
今やディルスターは世界を席巻し、トップである私は何でも思うがままにできるようになった。
実質的に世界支配を完了したと言ってもいい。
だが、私にとって、脅威が全くないわけではない。
「サリファは今は観光しているんだったな。」
「そう伺っています。」
サリファは、私と一緒に来ることなく、SALIDの護衛する特殊護衛船で日本までやってきた。
飛行機を撃墜されて、関係ない多くの人を巻き込むのは嫌だから、船で来たそうだ。
実にサリファらしい考えだ。
まあ、船も魚雷で撃沈される可能性はあったけどな。
私の豪華客船も、何者かが沈めようとしていたみたいだが、私の船はただの船ではない。
ディルスターの頂点に立つクルサード家は、絶えず何者かに命を狙われる。
だからこそ、我々の周囲は、常時厳重なガードで守られている。
もちろん、サリファの周囲にも、屈強のガードがついている。
特に、サリファのガードは、SALIDでも最強クラスのガードだ。
あれを倒せる人間は、そうはいないだろう。
そうこうしているうちに、ようやく最上階についた。
最上階から見る大阪の景色を眺めながら、葉巻に火をつけて一服する。
この首都も、中心地こそ華やかだが、少し離れるとスラム街とおぼしき場所が広がっている。
あのスラム街は負け犬の巣窟だ。
かつては経済大国と呼ばれた日本も、今では多くのスラム街で埋め尽くされていた。
「この日本もかつては経済大国だったが、今は見る影もないな。
ディルスター日本グループの全事業部の業績も伸び悩んでいる。」
私がそう言うと、役員達の表情が一斉に強張る。
「も、申し訳ありません。兵器産業部はそれなりに伸びているのですが、やはり日本の景気が戻らないことには・・・」
「日本の景気などどうでもいい。大事なのは、ディルスターの業績だ。」
「そ、その通りです。申し訳ありません。」
「まあいい、日本での業績をどう伸ばすかを話し合うのが、今回の戦略会議の目的だからな。
それにしても、武器兵器産業の業績だけが上昇とは、治安悪化さまさまだな。」
ふと、昔の日本を思い出す。
ディルスターの台頭や道州制による地域格差で、貧富の差が拡大すると、日本の治安は急速に悪化していた。
日本の警察が民営化された後、様々な企業が参入してきたが、結局、今はすべてディルスターが管轄している。
私は効率化を図るために、人口の少ない地域から警察を撤退させ、人口の多い都市を中心に人員を配備するように命じた。
「警察などのサービスは、人口の多い地域にこそ優先的に割り当てるべきだ。」
私の方針に従い、ディルスターのあらゆるサービスは都市を中心に重点配置し、採算の取れない地方からは次々と撤退させていった。
そのため、地方での治安は悪化していった。
しかも、犯罪が起こっても、取り締まるべき警察がいないので、治安は際限なく悪化するばかりだった。
だが、それを知った私は、これはアメリカの武器兵器産業部門を日本に輸出するいい機会ととらえた。
「もうこれからは、国に安全を守ってもらう時代ではない。自分の身は自分で守るしかないのです。」
私はテレビなどのマスメディアや国や各道州の議員を使い、大規模な自衛キャンペーンを行なった。
そして、自分の身を守るためには、武器が必要だと訴えかけた。
「武器の購入にあたってはしっかりと監視を行い、犯罪歴のある人には一定の制約を設けるので安心です。」
私は、ディルスターの総力を使って訴えかけ、ついに国会で個人による銃刀の保持を許容する法案を可決させた。
そして、武器の販売や修理、武器の使い方を教える講習などで、我々は莫大な利益を上げることができたのだ。
今では、日本人の多くが銃をはじめとした何らかの武器を所有するようになっていた。
まあ、それらの武器は、ゼウスネットワークによって管理されているから、我々ディルスターへの反逆に使おうとした場合は自動的にロックされるがね。
しかし、治安悪化による武器の売り上げの伸びも徐々に小さくなっている。
スラム街も拡大している一方だし、もうこの国でこれ以上ビジネスを続けるのは難しいかもしれん。
「そろそろ、日本の戦略も変えるべきかもしれんな。」
私は役員達にそう告げると、役員達の表情が再び強張る。
私のこの一言で、潰れた支社が多いから無理もない。
そんな彼らの慌てっぷりが滑稽で、私は笑いを抑えるのに苦労した。
心配しなくても、日本はまだ利用できる。
骨の髄までしゃぶりつくす。
それが、このアルシア・クルサードのやり方だ。
今回は、ディルスターのトップのアルシア視点で書いたのですが、何かアルシア視点は書きづらかったです。
多分、何回か修正が入ると思います。(笑)




