4.出発
「起きろ!!!」
ようやく眠りに入ることができたと言うのに、無情にもカルティニにたたき起こされる。
時計の針は6時を指していた。
カルティニはとっくに起きて、いつでも出かけられる状態になっていた。
「もう・・・こんな時間なのか?」
「潜水艇の中で少しは眠れるだろう。
それよりも、SALIDがこちらに向かってきているようだ。
早くここから離れた方がいい。」
カルティニの言葉で、有騎の眠気が一気に吹き飛ぶ。
「わかった。」
有騎は飛び起きると、慌てて出かける準備を整える。
家の外には、既にサリファ達が待っていた。
「お兄ちゃん、遅い。」
そして、なぜか葵が怒っていた。
「悪い。」
有騎はそう言って葵の方を見て驚く。
葵はマスクをつけていた。
「葵、お前・・・まさか昨日の話を聞いて・・・」
「いやあ、しないよりした方がマシかなと思って。」
「私はマスクなんかしても無駄だって言ったんだけどね。」
葵の隣にいた奈央がそう言う。
でも、葵の気持ちは有騎にも十分すぎるほどわかった。
よく見ると、葵も昨日はほとんど眠れなかったので、すごい眠そうな目をしていた。
その横にいた奈央も、葵と同じだった。
それに比べて、サリファとカルティニはいつもと全く変わらない様子だった。
もっとも、いつもと言っても、有騎達はここ二日ほどのサリファしか知らないのだが。
「こんなに早くからでかけるんかね?」
昨晩家に泊めてくれた老婆も家の中から出てきた。
「お婆ちゃん、昨日は泊めてくれてありがとうございます。」
サリファが丁寧にお礼をすると、それに釣られて有騎達も頭を下げる。
「これ、お弁当だよ。気をつけていくんだよ。」
老婆はそう言うと、サリファに大きな弁当箱を手渡した。
「お婆ちゃん、本当に何から何までありがとうございます。」
サリファは弁当を受け取ると、もう一度頭を下げる。
「私も娘や孫が帰ってきたみたいで、久しぶりに楽しかったよ。
またいつでもおいで。」
老婆はそう言うと、笑顔で手を振る。
その時、老婆の腕に、DICTの注射跡が見えた。
それを見た瞬間、サリファは老婆に駆け寄る。
「ありがとう・・・お婆ちゃん。」
サリファは涙を流していた。
「サリファ様のご祖母は、サリファ様がまだ幼い時に亡くなられている。
きっと、サリファ様はその時のことを思い出されたのだろう。」
カルティニがそう言うと、有騎達もなるほどと頷く。
サリファは名残惜しかったが、いつまでもここにいるわけにもいかなかった。
カルティニがSALIDの動きをキャッチしている以上、すぐに離れないといけない。
サリファはもう一度だけお礼を言うと、老婆の家から離れることにした。
万が一自分がここにいたことをSALIDに知られたら、老婆にまで迷惑をかけてしまうことになる。
それだけは絶対に防がないといけない。
サリファは涙をぬぐうと、先陣を切って歩き出す。
そのサリファの後を有騎達もついていく。
昨日潜水艇を沈めた場所までやってくる。
有騎達は何もない海を見て、潜水艦が流されていないか不安になる。
だから、カルティニが端末操作して、潜水艦が浮上してくるのを見て、少しホッとする。
「距離的には四国まで何とか渡れる燃料はあるが、それほど余裕がある状態ではない。
今日は天気はよさそうだが、ここは潮の流れが複雑そうだから、無理だと判断したら途中の島に上陸する。
幸いにも、この辺には上陸できる島が途中にたくさんある。」
カルティニがそう言うと、サリファも頷く。
「まあ、そうなったらそうなったで、また別の手を考えましょう。」
サリファはそう言うと、潜水艇に乗り込む。
それに続いて、有騎達も潜水艇に乗り込んだ。
最後にカルティニが乗り込むとハッチを閉める。
「奈央、今日もナビ頼む。」
カルティニがそう言うと、奈央は笑顔で頷く。
そして、それを見てまた有騎は不愉快な表情を浮かべる。
「行くぞ。」
カルティニの操縦で、潜水艇は海中に沈み始める。
そして、潜水艇は海の中へと消えて行った。
その頃、大阪では、アルシアが苛ついていた。
「ええい、まだサリファとレイヴァンの遺体は見つからないのか!?」
「全力で捜索していますが、まだ見つかったという報告は・・・」
「ということは、あの二人はまだ生きているってことじゃないのか?」
「しかし、あの爆撃の中で生きているなんてことは・・・」
部下の報告の後半の話をアルシアはほとんど聞いていなかった。
アルシアには気がかりなことがあった。
ほんの1か月ほど前に受けた報告のことを思い出していた。
「ほう、アマテラスの式典で、ロケット発射か。
面白い趣向ではないか。
サリファにしては上出来だ。」
サリファのことだから、もっと堅苦しいイベントになるかとアルシアは思っていた。
正直、サリファの作ったものに、アルシアは興味がなかった。
マスドライバーなど、今の状況では不必要だと考えていたからだ。
だが、ロケット発射を間近で見られるとなれば話は別だ。
この式典も、少しは楽しめるかもしれないと、アルシアは思った。
だが、次の報告を聞いて、全てが覆った。
「ですが、ロケット打ち上げ地点の目標地点が、ゼウス・ステーションになっているのです。」
「何だと!?」
部下の報告を聞いて、アルシアは目を丸くする。
「ゼウス・ステーションの軌道変更を許した覚えはないぞ。」
「管理局の方でも軌道変更の申請はなかったので、軌道変更の設定すら行っていません。
でも、先程予定の軌道を確認したところ、確かにアマテラス完成式典の日に、ゼウス・ステーションは種子島上空で2時間静止することになっています。」
「そんな変更は認めん。
すぐに修正しろ。」
アルシアはすぐに軌道修正を命じる。しかし、
「それが、管理局で軌道変更を行なおうとしても、こちらの命令を一切受け付けない状態になっており、修正不可能です。」
「バカな!?」
アルシアは驚いた。
ゼウス・ステーションは全て管理局で完璧に制御される。
そして、それ以外の制御は一切受け付けない。
そのはずなのに、外部からの変更を受けるなんてありえない。
「誰が、軌道変更したのだ?」
「修正者の名前は記録されていません。」
そんなはずはない。
軌道変更を行なう場合、必ず修正した者の情報が記録されるようになっている。
名前が記録されないことなどありえない。
「またか・・・またなのか。」
アルシアは頭を抱える。
最近、ゼウス・ステーションが管理局の制御外の活動を行っている。
何らかのサイバーテロ集団の仕業かと思い、SALIDにも世界中を徹底的に捜査させたが、ディルスターのSL5のセキュリティを破れるようなテロ集団は存在しなかった。
だとすれば、誰が一体どうやってゼウス・ステーションの制御を行っているというのか?
いや、冷静に考えれば、怪しい人物が一人いるではないか。
「アマテラスのロケット発射計画は、サリファが立てた計画だったな?」
「ハイ、そうですが・・・まさか・・・」
アルシアの言いたいことを察した部下が、驚いた表情を浮かべる。
「一体、何を企んでいる、サリファ?」
アルシアの表情が引きつる。
サリファが何を考えているかはわからないが、ゼウス・ステーションの位置が特定される状況はマズい。
いや、サリファは以前からゼウス・ネットワークとDICTに反対していた。
となると、式典を利用して、ゼウス・ステーションを破壊するつもりなのかもしれない。
「種子島に、SALIDを派遣しておけ。
サリファが何を企んでいるかわからないが、絶対に思うようにはさせん。」
アルシアはそう言うと、拳を握りしめた。
それ以降、アルシアはサリファの動向を徹底的に監視させた。
日本に来た時、カルティニと2人で観光すると聞いた時は、動き出すのかと思った。
だが、結局はただの観光に終わった。
では、種子島に着いてから何らかのアクションを起こすつもりだろう。
そう思っていた矢先に、サリファが誘拐された。
それを聞いた瞬間、サリファが動き始めたとアルシアは察した。
しかも、最悪なことに、レイヴァンまで日本にやってきた。
事前に種子島はSALIDによって厳重警戒態勢にしておいたのは正解だった。
しかし、敵にはカルティニがいる。
SALIDでも最強クラスの戦士に成長したカルティニを葬ってしまうのはもったいない。
サリファだけを殺して、カルティニをこちらに引き込む方法はないものだろうか?
空母イスファールは沈没したが、死体は見つかっていない。
サリファにもレイヴァンにもSALIDの護衛がいる以上、何らかの方法で脱出したのだろう。
でも、誰にも気づかれないで、一体どうやって?
「恐らく、サリファもレイヴァンも、空母に搭載していた緊急用の脱出潜水艇で脱出したものと思われます。」
いつの間にか、部屋に日本のSALIDの司令長官であるライーが来ていた。
「なるほど、海に潜って脱出したってわけか。」
「現在、瀬戸内海を潜水艇で調査させています。」
「さすがだな。」
「ですが、捜索範囲が広すぎるため、発見するには時間がかかるでしょう。
また、陸に上がって脱出する可能性もあるため、周辺地域も捜索を開始したところです。」
「よろしい。では、サリファを発見したら、生かしたまま私の元に連れてこい。」
アルシアの命令にライーは驚く。
「発見次第殺せとの命令だったはずですが・・・」
「気が変わった。
少し気がかりなことができたものでな。
サリファには色々と聞かないといけないことができた。」
「わかりました。レイヴァンの方はどうしますか?」
「そっちは見つけ次第、すぐに殺せ。」
「わかりました。」
ライーはそう言うと、すぐに部屋を出て行った。
今回の計画の首謀者がサリファだと思っていたから、アルシアはサリファを殺そうと考えた。
だが、ここ数時間色々と考えるうちに、少し考えが変わってきた。
「サリファは確かに優秀な頭脳を持ってはいるが、ゼウス・ステーションのハッキングができるとはとても思えない。
だとすれば、サリファの背後には別の首謀者がいる。
最初はカルティニの仕業だと思ったが、どうもそうではないようだ。」
アルシアは、サリファが誘拐された時の防犯カメラの映像を思い出していた。
首都のあちこちに設置されているカメラで、スラム街から脱出する時の映像に、サリファ達の映像が映っていたのだ。
それを見る限りでは、カルティニは最初は普通にサリファを救出しようとしていた。
しかし、サリファに何かを言われて、敵の車に一緒に乗った。
つまり、カルティニはこの段階までは何も知らされていなかった可能性が高い。
「じゃあ、サリファを誘拐したアンティルの仕業か?
いや、アンノウンごときに攻略できるセキュリティではない。
だとすれば、やはり奴らか。」
報告によると、アンティルが侵入した地下道は、事前に工事申請が出されていた。
工事申請を出して、工事を行なったのがバスパグスフ派の手の者であることは判明している。
このことから考えられるのはただ一つ。
サリファはバスパグスフと手を結んだ。
「そう言えば、アマテラスの式典の来賓にバスパグスフがいたな。
もし、サリファがバスパグスフと手を結んでいるとすれば、奴らがどういう方法でゼウス・ネットワークに侵入してきているかがわかるかもしれない。」
とはいえ、恐らくサリファとバスパグスフの目的は同じではないだろう。
サリファはゼウス・ネットワークの破壊が目的だが、バスパグスフはゼウス・ネットワークの掌握が目的だろう。
だとすれば、いずれ両者の間に亀裂が生じるはず。
アルシアは近くにいた社員に話しかける。
「明日、種子島に向かう。」
「しかし、式典は5日後ですよ。
明後日まで大阪にいる予定だったはずでは?」
「いや、明日向かう。」
「しかし、明日は船のメンテナンスを行なう予定になっています。」
「なら、できるだけ早く終わらせろ。
メンテナンス終了後、すぐに出発する。」
「わかりました。」
「あと、ライーにSALIDも同行するように言っておけ。」
「わかりました。」
社員はアルシアの命令を持って、部屋から出ていく。
「恐らく、サリファは生きている。
サリファが何かを企んでいることは間違いない。
それは恐らく、ゼウス・ネットワークの破壊だろう。
だが、そうはさせない。
DICTとゼウス・ネットワークは、この私が守って見せる。
バスパグスフもろとも一網打尽にしてやる。」
アルシアは拳をギュッと握りしめた。




