3.DICTの真実(2)
サリファが話を続ける。
「これはあくまで私の推論にすぎません。
でも、レイヴァンにリングウェル研究所が消失した映像を見せてもらって、私はこの推論はそれほど外れていなかったと思うようになりました。
衛星写真で観測されていたように、リングウェル研究所が消失するところを、誰かに観測される危険性はありました。
第一、リングウェル研究所を消失させる理由が、私には思い当たりません。
父がそうする理由も・・・」
「ゼウス・ステーションと同じように、リングウェル研究所も別の空間に切り離して守りたかったんじゃないの?」
有騎がそう言うと、サリファは首を横に振る。
「私の母は、消失当時、リングウェル研究所にいました。
ウウン、私の母だけじゃない。
大勢の優秀な研究者がリングウェル研究所にいた。
父が研究者ごと消失させる理由が私にはわからない。
それに、リングウェル研究所が消失したおかげで、DICT研究が遅れたって言われてるけど、空中のナノマシンは今でもバージョンアップし続けている。
それがクルサード派によるものでないとしたら、一体誰の仕業なのか?
得体のしれない何かが、DICTを支配しようとしている。
私はそれが心底恐ろしいと思った。」
サリファの話に、全員言葉を失う。
「それでは、今回の作戦を説明するね。」
サリファは気を取り直すと、さっきまでカルティニが持っていた日本地図を開く。
そして、地図を開くと、種子島の位置を指す。
「種子島って、確かサリファ様が今回イベントで行く場所だったんですよね?」
「ええ、5日後に種子島でディルスターが開発したマスドライバーシステム・アマテラスの完成式典イベントがあります。
それに伴い、実際に打ち上げも行われる予定になっています。」
「でも、サリファ様の事件があったから、式典は中止されるかも。」
有騎がそう言うと、サリファは首を横に振る。
「それは絶対にありえません。
アマテラスの完成式典のことは、既に世界中に報道されています。
加えて、式典には世界中の要人を招待しています。
その中には、クルサードと対立する最大派閥のバスパグスフ派の要人も招いています。
アマテラス自体は完成しているのに、クルサードの身内の問題が原因で式典が中止になるなんてことになったら、クルサードの面目丸つぶれです。
絶対に式典は行われるでしょうし、打ち上げも予定通り行われるでしょう。」
「なるほど、式典を中止できないように、敵対勢力のバスパグスフ派まで招待していたってわけか。
やるねえ、サリファ様。」
有騎はそう言うと、ニヤリと笑う。
でも、それを聞いてサリファは苦笑する。
「本当はクルサードもバスパグスフも同じディルスターなんだから、派閥対立なんてする必要ないのにね。
ディルスターは合併して大きな会社になったけど、結局一つの会社になりきれていなかったってことだよ。
だから、アンティルの作戦にバスパグスフ派が手を貸したりするわけで。」
「俺達の計画にバスパグスフ派が手を貸したって、まさかあのトンネルを作ったのって・・・」
「レイヴァンの話だと、明智秀秋さんがバスパグスフ派と通じていたそうです。」
サリファの話を聞いて、有騎達は驚いた表情を浮かべる。
「アイツ、ディルスターは一枚岩ではないって言ってたけど、そう言うことだったのか。」
だとしたら、秀秋はとんでもない連中と手を結んでいたことになる。
有騎はそう思った。
アンティルの立てたサリファ誘拐計画は、バスパグスフ派の協力がなければ実現不可能だった。
でも、もしあの大虐殺の仕業が、アルシアの仕業ではなくバスパグスフ派の仕業だとしたら・・・
そして、サリファの計画が全てバスパグスフ派に渡っていて、バスパグスフ派が何らかの目的でそれを利用しようと考えていたとしたら・・・
「もしかして、俺達はとんでもない間違いをしてきたんじゃないだろうか?」
有騎はこれまでのアンティルの行動を思い出して、思わず頭を抱える。
「話を戻すね。」
サリファはそう言うと、種子島の話に戻す。
「5日後、アマテラスが打ち上げるロケットの行き先が、実はゼウス・ステーションなんだよ。
その時だけ、ゼウス・ステーションが種子島上空に姿を現すことになっている。」
「なるほど、そのテスト打ち上げを利用して、ゼウス・ステーションを破壊するってことか。」
有騎がそう言うと、サリファは小さく頷く。
「でも、それってなんか変じゃない?」
黙って話を聞いていた奈央が、突然声を上げる。
「えっ、一体何が?」
サリファが尋ねる。
「ゼウス・ステーションって、ゼウス・ネットワークの中心で、異次元に隠すほど大事な場所なんでしょ。
いくらアマテラスのお披露目だからといって、ゼウス・ステーションの位置を特定するようなことするかな?
私がアルシアの立場だったら、絶対にそんなことしないよ。」
「まさか、アルシアの罠か?」
有騎がそう言うが、奈央は首を横に振る。
「サリファ様は、ゼウス・ネットワークは重要な施設だから、ディルスターが異次元に隠したって言ったでしょ。
じゃあ、ゼウス・ネットワークは、ディルスターでも最高レベルのセキュリティがかかっているはず。」
奈央はそう言うと、今度はサリファの方を見る。
「サリファ様はアマテラス・プロジェクトの最高責任者だったそうですね。
サリファ様は一体どうやって5日後にゼウス・ステーションを種子島上空に現れるようにしたんですか?」
「そ、それは・・・えっと、ちょっと今は話せない。」
サリファはそう言うと下を俯く。
さっきまでと違い、サリファは明らかに動揺していた。
「ゴメンなさい・・・」
サリファは小さな声で謝る。
どうしてサリファの歯切れがいきなり悪くなったのか、有騎達にはわからなかった。
ただ、サリファの様子から、何となくわかったことがある。
有騎は、そのことをサリファに尋ねてみることにした。
「サリファ様が言わなくても、何となく話が見えてきた。
つまり、サリファ様は何らかの手段でゼウス・ステーションを種子島に来るように設定した。
しかし、それはクルサード派が知らない方法で行なれた。
しかも、クルサード以外の存在がDICTの改良も行っている。
そのことを後からサリファ様は知って、これは大変なことだと思ったんだろう。」
有騎がそう言うと、サリファはさらに下を俯く。
「ゴメンなさい・・・」
そして、もう一度サリファは謝る。
これ以上追及しても、サリファは何も答えないだろう。
有騎と奈央は、これ以上の追及を諦めることにした。
「それで、結局私達はどうしたらいいんですか?」
「ロケットは5日後の14:38に打ち上げられる予定になっています。
ロケットが打ち上げられるまでに種子島まで行かないといけません。
そして、宇宙センターと宇宙ロケットを制圧します。」
サリファが小さな声でそう言う。
「宇宙ロケットを制圧して、それからどうするんだ?」
有騎がサリファに尋ねると、またサリファは下を俯く。
「えっと・・・それからは・・・」
「ミサイルでゼウス・ステーションを撃ち落とす。」
サリファの代わりに答えたのは、部屋に入ってきたカルティニだった。
「カルティニ・・・」
サリファがカルティニの方を見る。
「種子島には、別の事業部が持ち込んだファエトン・ミサイルが置いてある。
それを使って、上空に現れたゼウス・ステーションを撃ち落とす。
宇宙ロケットの代わりに、ミサイルをお見舞いしてやるんだ。
それで、DICTとゼウス・ネットワークは壊滅だ。」
力強くそう言うカルティニは、明らかにいつもと様子が異なっていた。
その有無を言わせない凄まじい迫力に、有騎達はそれ以上何も言えなくなってしまう。
しばらく部屋の中は静寂に包まれる。
「有騎達にはもう一つ話しておかないといけないことがあります。」
静寂を破ったのは、サリファだった。
「な、何でしょうか?」
凄まじい迫力で立っているカルティニの方をちらっと見ながら、有騎は恐る恐る尋ねる。
「あなた達のリーダーの園山零さんのことです。」
サリファがそう言うと、有騎達の表情が変わる。
「しまった。あの人のこと、すっかり忘れてた。」
奈央が頭を抱える。
その隣で、葵は微妙な表情を浮かべていた。
「園山氏は、空母イスファールの一室に閉じ込められていたそうです。
ところが、しばらくして門兵が覗き込んだら、部屋の中から忽然と姿を消していたそうです。」
サリファがそう言うと、全員驚いた表情を浮かべる。
「あの爺さん、壁抜けでもやったのか?」
有騎が冗談交じりでそう言うが、誰もクスリとも笑わなかった。
「園山氏はリングウェル研究所の生き残りだったのですが・・・」
「えっ、そうなんですか?」
奈央が驚きの声を上げる。
有騎も驚いた表情でサリファの方を見ていた。
「もしかして、知らなかったの?」
「全然知らなかった。」
有騎が答える。
「まあ、リングウェル研究所の存在も知らなかったみだいだしね。
きっと、園山氏は私が合流するまでは何も話さない方がいいと思ったのでしょう。」
「それで、零おじさんは一体どこに消えたのかわからないんですか?」
奈央が尋ねると、サリファは首を横に振る。
「部屋には監視カメラをつけていたけど、SALIDの襲撃で、結局映像を確認できずじまいだった。
もしかしたら、SALIDに連れていかれたのかもしれない。
父もリングウェル研究所について知ってることを園山氏から聞き出したいでしょうからね。」
「あるいは、レイヴァンがかくまってる可能性もある。」
有騎がサリファに言う。
「もちろん、その可能性もあるでしょう。
ただ、いずれにしても、今すぐに園山氏が殺される心配はないと思います。
リングウェル研究所の貴重な生き残りですからね。」
「そう・・・信じるしかないか。」
「とにかく、まずは種子島まで行かないといけません。
でも、ここからどうやって種子島まで渡ればいいのか。」
サリファはそう言うと、紙の地図を見る。
「今いる場所がここで、種子島がここかあ。
随分離れてるなあ。」
サリファは地図を見て位置を確認すると、思い切りため息をつく。
飛行機が使えればすぐなのだろうが、もちろんアンティルに空路が使えるはずはなかった。
「とりあえず、愛媛のアジトに行こう。
あそこは大きな船があったから、それで種子島までいける。」
有騎がそう言うと、サリファの表情が明るくなる。
「それって、今でも無事なのか?」
カルティニが尋ねる。
「船の停泊場所はアジトからかなり離れているそうだから、アジトは無事でも船が無事かどうかまではわからないな。
俺も船を持っているって話を聞いたことがあるだけで、それが今でも無事なのかどうかまでは・・・」
有騎はそう言うと、奈央と葵の方を見る。
だが、奈央も葵もわからないと首を横に振る。
「そのアジトに行ってみるしかないな。
あれば使えばいいし、なければその時に別の手段を考えればいい。
どうせ、明日にはここを発たないといけないのだからな。」
このカルティニの発言が、結局結論だった。
「明日朝早くに出発する。
とにかく今日はもう寝た方がいい。」
カルティニはそう言うと、時計を指す。
気がつくと、もう深夜2時前になっていた。
いつの間にか、日が変わっていた。
確かに、今日はもう早く寝た方がいい。
全員そう思い、今日は解散となった。
「ねえ、サリファ様の話、どう思う?」
解散後、有騎と奈央は少しだけ部屋の外で会話をした。
「正直、俺の想像以上だった。」
「私も・・・」
2人はそう言うと、思い切りため息をつく。
「今この辺にも、ナノマシンがいるってことなんだよな。
でも、空気吸わないと生きていけないし。」
「例え呼吸を止めても、皮膚から入っていくから、無駄な抵抗だよ。」
「えっ、奴ら、皮膚からも入っていくの?」
有騎が驚いた声を上げる。
「そりゃあ、ナノマシンだからね。
皮膚からも余裕で入れるでしょうね。」
「あーもう、こんな話聞くんじゃなかった。
まさか呼吸するのが怖くなるなんて思わなかった。」
有騎はそう言うと、自分の頭をグシャグシャかきむしる。
「ねえ、有騎、サリファ様のことどう思ってる?」
奈央が有騎に尋ねる。
すると、有騎は何を勘違いしたのか、慌てふためく。
「サリファ様のことって・・・お、お前いきなり何聞くんだよ。」
「絶対に、まだ私達に隠していることがあると思うんだ。」
「あっ、そっちか。」
奈央の話を聞いて、有騎は冷静さを取り戻す。
「それは、多分カルティニは知ってるんだろうな。
俺達に話せないのは、これ以上のさらに衝撃的な内容だからか?」
「これ以上の衝撃はもういらないよ。」
奈央がそう言うと、有騎も同意する。
「まあ、サリファ様のことだから、多分、種子島につくまでに話してくれるだろう。
だから今はとりあえず、愛媛に渡ることだけを考えようぜ。」
有騎がそう言うと、奈央は「ウン」と笑顔で頷く。
結局、その晩、有騎も奈央もほとんど眠ることができなかった。
サリファから聞かされた話はあまりにも衝撃すぎて、自分達ではもうどうすることもできないことだと思い知らされた。
有騎達にできることは、サリファの計画をサポートすることだけ。
だから、今大事なことは、明日に備えてしっかり眠ることだ。
何度もそう言い聞かせてみたが、結局ほとんど眠ることができなかった。




