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ディストピア・ディルスター  作者: レトリックスター
第3章 瀬戸内攻防
23/26

1.束の間の休息

 瀬戸内海の潮の動きが激しく、しかもこの辺は複雑な地形をしており、なかなか思った方には進めなかった。

 しかも、この辺は地形が複雑で、カルティニもなかなか操縦に苦労しているようだった。

 カルティニは、とりあえず呉から離れようと操縦するが、なかなか苦戦しているようだった。

「お嬢様、この辺には小さな島がいくつかあるようなので、今晩はとりあえずどこかで休んだ方がいいでしょう。」

 カルティニがそう言うと、サリファは小さく頷く。

「カルティニに全部任せるよ。」


 カルティニはレーダーで近くに島があることを確認すると、そこに向かって操縦する。

 とその時、潜水艦内のランプが突然点滅する。

「なんだこれは?」

 有騎がカルティニに尋ねる。

「どうやら空母イスファールが沈没したらしい。

 これは沈没時に空母から発信される信号を感知したものだ。」

 カルティニがそう言うと、全員が驚いた表情になる。

「レイヴァン・・・大丈夫かな?」

 サリファが不安そうな表情を浮かべる。

 例え、恋愛感情はなくても、サリファにとって弟であることには変わらない。

「レイヴァン様にはジルクがついています。おそらく我々と同じように脱出していると思います。」

 カルティニがそう言うと、サリファは不安な表情のまま小さく頷く。

「それより、イスファールが轟沈した以上、アルシアの部隊は残党狩りを始めるでしょう。

 敵の最大の標的は、お嬢様とレイヴァン様です。

 その2人を仕留めそこなったとなれば、周辺地域に兵士を送り込んでくるでしょう。」

 カルティニがそう言うと、船内は再び緊張に包まれる。

「じゃあ、もっと遠くに逃げた方が・・・」

 奈央がカルティニにそう言うが、カルティニは首を横に振る。

「これはあくまでも脱出用の潜水艇だ。

 燃料も限られている。

 これでそう遠くには逃げられない。」

「四国に渡るぐらいはできないかな?」

「それくらいなら可能かもしれないが、今は潮の流れが激しすぎて無理だ。

 それに全員疲労困憊だろう。

 どこかで休んだ方がいい。」

 カルティニはそう言うと、潜水艇を近くの島の岸につける。


 周囲はすっかり暗くなっていた。

「気をつけて降りろよ。」

 カルティニは潜水艇を防波堤の横につけると、有騎達を潜水艇から降ろす。

 そして、全員が下りたのを確認すると、カルティニは潜水艇のハッチを閉める。

「これどうするんだ?こんなところにあったら目立つぞ?」

 有騎が尋ねると、カルティニは携帯端末を取り出す。

 そして、カルティニが端末操作をすると、小型潜水艇は海の中に沈んでいく。

「なるほど、海の中に隠しておくわけね。」

 奈央は海の中に沈んだ潜水艇を見ながらそう言う。

「じゃあ、どこか休める場所を探しましょうか?」

 サリファがそう言うと、カルティニも頷く。

「まずは、ここがどこなのかを調べる必要があります。」

 カルティニはそう言うと、手がかりになりそうなものを辺りから探す。


 上陸した島は小さな村があるようで、どうやらそう離れていない場所に上陸したようだった。

 しばらくして古びた看板を見つける。

「ようこそ御手洗へ」

 その看板にはそう書かれていた。

「おてあらい?近くにトイレでもあるのかな?」

 葵はそう言うと、きょろきょろ辺りを見渡す。

 一方、カルティニは潜水艇にあった古い紙の地図を広げる。

 GPSを使えば、ディルスターに逆探知される可能性があるから、ジルクが紙の日本地図をわざわざ入れておいてくれたのだろう。

 しばらく地図を見渡して、カルティニはその地名の場所を見つける。

「見つけた。ここはどうやら大崎下島というところらしい。」

 そして、カルティニの表情は険しくなる。

 どうやら、かなり東の方に流されたらしい。

「どうしたの、カルティニ?」

 その様子に気づいたサリファがカルティニに尋ねる。

「残念ながら呉からあまり離れた場所ではないようです。ここにもSALIDがやってくるかもしれません。

 朝にはここから離れた方がいいでしょう。」

 カルティニはそう言うと、地図を見る。

 今晩、どこか身を隠せそうなところを探しているようだった。

 その地図に、奈央がライトを照らす。

「こんなに暗いと地図も見えないでしょ。」

「ああ、頼む。」

 奈央のライトに照らされた地図を、カルティニは見る。

「ここの展望台とかどう?」

 サリファが地図の一か所を指す。

 それは、この島を見渡せる展望台のようだった。

「ここだったら、島の周りの様子が見渡せるんじゃない?」

「その代わり、こちらの存在も上空から丸見えです。

 おまけに下から山狩りでもされたら、退路を完全に断たれてしまいます。」

 カルティニはそう言うと、サリファの提案をやんわりと却下する。

「できるだけ、ここから近い場所で、人があまり来ない場所がいい。」


 とその時だった。


「おたくら、もしかして今晩の宿に困ってるのかい?」

 遠くから見知らぬ老婆が声をかけてくる。

 全員に緊張が走る。

「もし泊まる場所がないんだったら、うちにでも泊まっていくかい?」

 どうやら、今晩の宿を提供してくれるらしい。

 しかし、見ず知らずの人を信用していいものか、カルティニは老婆を見る。

 外見は人の良さそうな老婆だった。

 しかし、人は見かけによらない。

 カルティニは、これまで多くの戦場で嫌というほどそういった経験をしてきた。

 だから、慎重に対応しないといけない。

 だが、

「えっ、泊めてもらえるんですか?ありがとうございます。」

 サリファが老婆にあっさり返事する。

「実は今晩どこに泊まろうか困っていたところだったんです。本当に助かります。」

 サリファがもう一度お礼をすると、老婆は自分についてくるようにこちらに促してくる。

「さ、サリファ様、見ず知らずの人間を信用しては・・・」

「あのおばあちゃんが悪い人には、私には思えない。」

 サリファがカルティニの言葉を遮るように返す。

「大丈夫だよカルティニさん。私もあの人は悪い人には思えません。」

 奈央もサリファに同調する。

「まあ、万が一のことも考えて、俺達は警戒しておこうぜ。」

 有騎がカルティニに向かってそう言う。

 こうして、有騎達は見ず知らずの老婆の家に一晩泊めてもらうことになった。


 老婆の家はとても大きな家だった。

 しかし、家の中には老婆以外の人の気配が全くしなかった。

「何もない家だけど、ゆっくりしておいき。」

 老婆はそう言うと、有騎達を客人用の部屋に案内する。

「おばあちゃん、もしかして一人で住んでるんですか?」

 奈央が老婆に尋ねる。

「まあ、近所に知り合いがたくさんいるし、昼間はそんなに寂しくなんだけど、夜一人でこの広い家で過ごすのはさすがに少し寂しいのよね。」

「そうですか・・・」

 これ以上話を聞くのは、なんだか気がひけたので、奈央はそのまま案内された部屋の中に入る。


 結局、この日は夕食までごちそうされることとなった。

 カルティニが自分が最初に毒見をするとサリファに話すが、

「そんなことしなくても大丈夫だよ。」

とサリファは煮物を箸でつまんで口にふくめる。

「んーおいしー。」

 サリファの表情が緩む。

 外国の人なのに、箸の使い方が見事だと有騎は感心する。

「お嬢様、体に異変はありませんか?」

 なおも心配するカルティニを見て、サリファはため息をつく。

「カルティニ、私も人を見る目はそれなりに養ってきたつもりですよ。

 それとも、私の人を見る目は信用できませんか?」

 サリファがそう言うと、カルティニは何も言えなくなってしまう。

「ほら、カルティニも食べてみてよ。これ、とってもおいしいよ。」

 サリファは箸で煮物をつまむと、カルティニの口元に持っていくと、

「はい、カルティニ、あーんして。」

と言う。

「お嬢様・・・わかりました。」

 カルティニが口を開けると、サリファは煮物をカルティニの口に放り込む。

 カルティニは口の中に入った煮物の味を確かめる。

「これは、確かにおいしいですね。」

「でしょ。こんなおいしいものを作れる人に悪い人なんかいないよ。」

 サリファはそう言うと、さっきカルティニの口に運んだ箸で、煮物を食べる。


「なんか、あの二人、いい感じだね?」

 同じ部屋でその光景を見ていた葵が奈央にそう言う。

 一方、有騎と奈央は、その光景を見て、少し恥ずかしそうに俯いていた。

「奈央ちゃんもお兄ちゃんにあーんってやってみたら?」

 葵が小声で奈央の耳元でそうささやくと、奈央の顔はみるみる真っ赤になる。

「そ、そんなことできるわけないでしょ。」

「えーつまんない。」

 葵はそう言うと、今度は有騎に小声で話しかける。

「お兄ちゃん、サリファ様とカルティニさん、なんかいい感じだね。」

「そ、そうだな。」

 有騎は少し動揺している感じだった。

「あー、さては、自分もサリファ様にあーんしてもらいたいとか思ってるな。」

「そ、そんなこと思ってるわけないだろ。」

 動揺しすぎたせいで、有騎は思わず大声で葵に反論する。

 すると、全員の視線が有騎の方に集中して、それで有騎はますます恥ずかしくなる。

「どうしたの有騎?」

 サリファが有騎に尋ねると、有騎は「何でもありません。」と答えて、静かにその場に座り、煮物を食べる。

 それを見て、葵はクスクス笑いだす。

 動揺する有騎とその隣で笑っている葵を見て、サリファ達は不思議に思うのであった。



 食事が済むと、カルティニは周囲を見回りに行くと、外に出ていった。

 どうやらこの場所の周囲を調査しておきたいようだった。

 お婆さんは部屋に布団を敷いてくれると、自分の部屋に戻っていった。

 お婆さん曰く、老人は夜寝るのが早いんだそうだ。

 その割には、今日はかなり遅くまで起きていたようだが。

 サリファや奈央や響が風呂に入っている間、有騎はお婆さんから色んな話を聞いた。

 最近はディルスターのせいで、この辺の電力は非常に不安定になっているそうだ。

 停電が起こることもしょっちゅうあるらしい。

 だから、早寝する習慣がついたそうだ。

 ただ、今日は呉が爆撃されているという話を聞いて、さっきまで近所の家に集まっていたらしい。

 しばらく家から外の景色を眺めていた有騎だったが、しばらくすると部屋をノックする音が聞こえてくる。

 外を眺めながら、はいと小さく返事すると、部屋の中に奈央と響が入ってくる。

「お兄ちゃん、お風呂空いたよ。」

「よっしゃ、じゃあ俺も風呂に入るとするかな。」

 有騎はそう言うと、風呂に入る準備をする。

「ああ、そうだ。」

 風呂に行こうとする有騎を奈央が呼び止める。

「なんだ?」

「あのね、サリファ様から伝言。

 大事な話があるから、後で部屋に来てほしいって。」

 それを聞いて、有騎の表情が変わる。

「なあ、大事な話って、もしかして・・・」

「ウン、多分、今回の計画のことだと思う。」

「そうか、ようやく俺達にも話してくれるってことか。

 じゃあ、さっさと風呂済ませてくるわ。」

 有騎はそう言うと、小走りで風呂へと向かう。

 それを見て、奈央はクスッと笑う。


 有騎が風呂から上がると、カルティニが戻ってきていた。

「この島にはディルスター関連の施設はないようだ。

 州兵やSALIDがここに来ている気配もない。」

 カルティニはそう言うと、ようやく腰を落ち着ける。

 この短時間で、一体どこまで見回ったのだろうか。

 銃で撃たれて肩を負傷しているというのに、そんなことを微塵も感じさせないタフさだった。

 有騎は改めて、カルティニのすごさを感じていた。

「カルティニ、風呂空いたから、よかったらお前も入ったらどうだ?」

 有騎がカルティニに風呂を勧める。

「お嬢様はもう風呂に入られたのか?」

「ああ、あと風呂に入っていないのはお前だけだ。」

「そうか。」

 カルティニはそう言うと、外の景色を眺める。

「俺はもう少ししてから入る。お前は早くお嬢様の部屋に行くといい。」

 カルティニがそう言うと、有騎は少し驚く。

「お前、どうして俺がサリファ様から呼ばれていることを知ってるんだ?」

「今話しておかないと、今後話す機会があるかどうかわからないからな。

 本当はお前達のアジトに着いてから話すつもりだったそうだが、あんなことになったしな。」

「そうか。」

 有騎はそう言うと、サリファの部屋に向かおうとする。

 だが、

「待て。」

カルティニが有騎を呼び止める。

「なんだ?」

「話を聞けば、もう引き返せなくなる。

 それでも聞くつもりか?」

「ああ。」

 カルティニの問いに、有騎は即答する。

「俺達アンティルは、もうサリファ様に賭けるしかないんだ。

 このチャンスを逃したら、アンティルは終わりだろう。」

 有騎がそう答えると、カルティニは一言「そうか」と言い、それ以上はもう何も言わなかった。

 有騎は決意を固めると、サリファの部屋へと向かった。


 サリファの部屋というか、厳密にはサリファ、奈央、葵の3人が泊まる部屋に有騎は入る。

 部屋に入ると、3人が楽しそうに雑談していた。

「おっ、ようやく来たね。」

 サリファはそう言うと、有騎に座るように、自分の隣にある座布団をポンポンと叩く。

 有騎は恐る恐るサリファの隣に座ると、隣のサリファから石鹸かシャンプーか香水かわからないけど、いい匂いが漂ってきた。

「お兄ちゃん、顔が赤いよ。どうしたの?」

 向かいに座っていた葵がニヤニヤしながらそう言う。

「な、何でもないよ。そんなことより、さっさと本題に入ろうぜ。」

 有騎は無理やり話題を逸らそうとするが、その慌てっぷりを見て葵はますますニヤニヤする。

 本当に憎たらしい妹だと有騎は思った。


「そうだね。」

 隣に座っていたサリファが、さっきまでと違い真剣な表情に変わる。

 それで、その場の和やかな雰囲気も一変する。

「本当はもう少し早くに話しておきたかったんだけど、色々あったからね。

 まずはすぐに話さなかったことを謝ります。」

 サリファはそう言うと、有騎と奈央と葵に向かって頭を下げる。

「あなた方は、私のためにわざわざ危険を冒してまでここまでやってきてくれた。

 だから、私もあなた達に全てをお話ししようと思います。」

「ありがとう。」

 奈央がサリファにお礼を言う。

「最初に断っておきますが、これから話すことは、多分、あなた達の想像を絶する内容だと思います。

 今ならまだ引き返すことができます。」

 サリファが改めて有騎達に話を聞くかどうかを確認してくる。

 有騎は、さっきカルティニにも同じことを言われたことを思い出す。

 これからサリファが話すことは、相当覚悟を決めて聞く必要があるということらしい。

 だが、有騎達の覚悟はとっくに決まっていた。

 有騎達は顔を見合わせると、小さく頷く。

「俺達の覚悟は決まっている。話してほしい。」

 そして、有騎はサリファにそう返答する。


「わかりました。

 ただし、これからお話しする内容には、一部推測も含まれています。

 完全に情報を入手することが困難なので、どうしても推測が含まれてしまうことを許してください。」

 サリファはそう前置きをすると、話を始めた。

 有騎達にとって、そしてこの世界にとって、想像以上の衝撃の真実を。


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