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ディストピア・ディルスター  作者: レトリックスター
第2章 ディルスターの反撃
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6.サリファの苦悩

「お前の意見は理想論だ。」

 父親のアルシアがかつて公開討論会で自分に言った言葉だ。

「ディルスターは営利企業だ。

 企業が利益を追求して何が悪い?」

 これも公開討論会で父の言ったことだ。


 どうして公開討論会時の父の発言ばかり、思い出しているのだろう?

 そう思い、ふと気づく。

 そうか、これはきっと夢だ。

 でも、どうして今、あの時のことを夢に見ているのだろう?

 それは多分、今でもどうしても忘れることができないからだろう。

 あの公開討論会が、父アルシアとの決定的な亀裂を生んだ瞬間なのだから、忘れられるわけがない。

 やっぱり親子だし、父とは何とか和解したい。

 私はそう思い、公開討論会が終わった後で、何度も話をしたいと父に呼びかけたことがあった。

 でもその後、待ち合わせ場所で突然発砲されたり、待ち合わせ場所が突然爆発したり、とても偶然とは思えないことがたて続けに起こった。


 最初は信じられなかった。

 いや、信じたくなかった。

 父が私の命を狙っているなんてことは。

 これはきっと偶然なんだ。

 その時の私はそう思い込もうとした。


 でも、ある日突然、気分が悪くなって倒れたことがあった。

 しばらくしたら回復したけど、その後、父から電話があって、電話に出たらひどく驚かれたことがあった。

 その後、色々と調べて、私は悟った。

 父は恐らく私にデス・シグナルを送ったのだろう。


 私がデス・シグナルを受けても死ななかったのは、私の母のおかげだった。

 私の母リノア・クルサードはDICTの研究者の一人だった。

 DICTを人類の発展のために活かしたいと考えていた母は、同じ志を抱いていたアルシアと知り合い結婚した。

 でも、時が経つにつれ、ディストピア構想の道具としてDICTが使われるようになると、父と母の距離は次第に離れていった。

 その後、父アルシアの構想に反対した母は、DICT研究のメンバーから外されてしまう。

 でも、母はその後も極秘に研究を続けて、デス・シグナルを防ぐDICTの開発に成功し、私や弟達のDICTに密かに細工をしてくれていたのだ。


 元々、クルサードの人間には護衛がつくことになっていた。

 ディルスターの勢力が高まるにつれて、クルサードの人間は常に命を狙われる危険があったからだ。

 私にもまだ小さい頃から、2人のSALIDの護衛がつくことになった。

 一人はジェイルという大人の戦士で、そしてもう一人が私と同じ年齢のカルティニだった。

 ジェイルは父が選んだ優れたSALIDの戦士だった。

 父はもう一人は私に選んでいいと言ってくれた。

 SALIDはベテランの戦士と若い戦士のペアにすることで、戦士の育成も兼ねているらしい。

 あと、子供には同年代の戦士をつけた方が護衛しやすいというSALID側の事情もあったらしい。


 私がもう一人選んでいいと言われた時、私は迷うことなくカルティニを選んだ。

 どうして、あの時カルティニを選んだのか、今でもよくわからない。

 あの日、SALIDの訓練所で、たまたま目が合ったからだろうか?

 よくわからない。

 でも、今ではカルティニを選んでよかったと思っている。


 しばらくして母が家に帰ってきたことがあった。

 母は家に帰ってきた時は、いつも私達に優しかったけど、その時の母はひどく疲れているようだった。

 DICT研究から外されて、相当ストレスがたまっているのだろうとその時はそう思った。

 でも、その日の夜、私は母の部屋に呼ばれた。

 そして、そこで私は母からDICTの真相を初めて知らされた。

 それを聞いた私は、カルティニのDICTにも細工してほしいと頼んだ。

 後日、母は、カルティニに会って何やら話をした後、私の願いをすんなりと受け入れてくれた。

 母とカルティニが、あの時何を話していたのかはわからない。

 カルティニに聞いても、いつも話を濁される。

 よほど私には聞かれたくない話のようだ。

 ちょっと気になる。


 もっとも、実際にカルティニのDICTに細工が施されたのは、それからしばらくしてカルティニが入院した時だった。

 中東訪問で銃撃を受けた時に、私を守るためにひどい怪我を負ったのだ。

 その時、もう一人の守護者だったジェイルは、私とカルティニを逃がすために、自らの命を犠牲にしてくれた。

 ジェイルは、私に世界の状況を色々と教えてくれた。

 見た目は怖そうだったし、ちょっぴりエッチな人だったけど、私にはとても優しかった。

 そして、カルティニを立派な戦士に育ててくれた。

 だから、死んでしまったのがとても悲しかった。

 ジェイルの死を聞いても、カルティニは感情を表情に出すことはなかった。

 でも、今思えばこの頃から、カルティニの様子が少し変わったような気がする。


 私は15歳で大学を卒業して、ディルスターの宇宙開発事業部に入社した。

 幼いころから宇宙に興味のあった私は、宇宙のことを勉強したいと思って、大学でも宇宙のことばかり勉強していた。

 もちろん、クルサードの人間なので、宇宙のことばかり勉強していたわけではない。

 たくさんの国の言葉や、経済学、経営学、政治学、帝王学なんかを学ばされた。

 宇宙のことが勉強したかったから一生懸命他の勉強も頑張ったけど、正直他の勉強をやってる時はつらかったなあ。

 特に経済学と経営学は、ディルスター理論と呼ばれたものであり、私は学べば学ぶほど疑問に思うことばかりだった。

 一度、そのことを父に尋ねてみたことがあったが、その時の父はもう少し勉強すれば理解できるようになると言うばかりだった。


 父は私が優秀な娘に育ったことを喜んでいた。

 だから、多分、公開討論会で私を世間にお披露目したかったのだろう。

 でも、その時の私は、どうしてもディルスターのあり方に疑問を思うようになっていた。

 ディルスターが繁栄すればするほど、世界中で苦しむ人が増えるようになった。

 私もディルスターの一員だし、ディルスターの繁栄を願ってはいたが、世界中の人々を不幸にするようなやり方は間違っていると思った。

 それに、母から聞いたDICTの話も父から直接確認したかった。


 公開討論会では、父の期待に反して、私は経済や政治の話で父と衝突することになった。

 父はいつもの持論を展開していたが、私には到底納得できなかった。

 最後には私が反論するたびに、父は私のことを理想主義者だとか共産主義者などとレッテルばかり貼ってきた。

 自由競争を否定する社会に未来はないと父は言う。

 しかし、ディルスター一強の今のどこに自由競争があるというのか?

 多くの国の権力よりも強い権力を、一企業が持っているこの状況を健全な競争社会と言えるわけがない。

 父は、それが自由競争の結果だから、何の問題ないと言う。

 でも、問題があることは、誰の目から見ても明らかだと思う。

 自由競争の結果、問題のある結果になったのであれば、誰かがその問題を是正しなければいけない。

 でも、ディルスターに問題を是正するよう、問題提起できる人が、今の世界のどこにいるというのか?

 DICTを導入しなかったロシアや中国ぐらいしかいないのが現状だ。

 DICT・・・その単語が頭の中に浮かんだ瞬間、私の頭の中は母から聞いたDICTの話で一杯になった。

 そして、母の話が頭に浮かんだ瞬間、ついさっきまで話していた経済の話も政治の話もどうでもよくなってしまった。


 正直、この話を公開討論会でしたことが正しかったのかどうか、私にはわからない。

 母は私の判断に任せるとだけ言ってくれた。

 もし話せば、自分の身に危険が迫るかもしれないのに、それでも母は私に任せると言ってくれた。

 多分、公開討論会で話すべきことではなかったのだろう。

 でも、私の胸の中だけに閉まっておくには、母から聞いた話はあまりにも恐ろしすぎる内容だった。

 だから、私は父に確認したかった。

 母の言ったことは、何かの間違いだったと。

 でも結局、公開討論会での私のDICTの話の途中から放送が中止されたらしく、DICTの真相が世間に広まることはなかった。

 でも私の発言の断片から、その後DICTに関しては、ネット上で様々な恐ろしい情報が出回り始めた。

 そのほとんどの情報は、ディルスターが公式に否定したり、有名な学者やコメンテーターがただの陰謀論とかSFなどと言ったレッテルが貼ることで、世間では信ぴょう性の低い情報として認識されていた。

 しかし、陰謀論やSFが全て嘘ばかりとは限らない。

 特に、有名学者やコメンテーターがやっきになってレッテル貼りを繰り返している場合は、逆に真実ではないかと疑ってみた方がいいかもしれない。

 DICTに関する噂についても、その中には真実が結構含まれていた。

 例えばデス・シグナル。

 著名な科学者達がこぞって、「衛星から発した信号で人が殺せるなんてSFの見すぎだ」「ICチップで人が殺せるわけがない。」といい嘲笑しているけど、デス・シグナルがDICTの機能の一つであることは疑いようのない事実である。

 DICT開発に携わっていた母から聞いた話なのだから間違いない。

 しかし、ディルスターはDICTに関する悪い事実を、メディアと言う武器を使って、次々ともみ消して行った。

 だから、今でもDICTは素晴らしい発明だと疑わない人達が世界中に多く存在する。


 父にデス・シグナルを送られて以降、自分の身は自分で守らないといけないと強く思うようになった。

 もう父の周りの人間をあてにすることはできなかった。

 だから、私が頼れる人間は、母とカルティニだけだった。

 でも、公開討論会から数か月経ったある日、突然母と連絡が取れなくなった。

 もしかしたら、父アルシアによって、母は殺されたのかもしれない。

 最初はそう思った。

 さすがの父でも、母まで殺すことはないはず・・・

 そう考えたことは一度もなかった。

 自分に従わない者は、娘であってもデス・シグナルを送るような人だ。

 母がDICTの改良手術に携わってることを知ったら、父は絶対に許さないだろう。

 だから、その時は父が母を殺したと思い、父のことを随分と憎んだ。

 そして、公開討論会でDICTの話をした自分の愚かさを嘆いた。


 でも、色々と調べるうちに、どうやらそうではないと思うようになった。

 なぜなら、消息を絶ったのは、母だけではなかったからだ。

 リングウェル研究所にいた全員が忽然と姿を消したことを知ったのは、母と連絡が取れなくなって半年が経過した頃だった。

 リングウェル研究所とは、DICTを初めとした様々な技術開発研究を行っているディルスター最大の研究所だ。

 そのため、リングウェル研究所は一般にはどこにあるかも公表されていないし、その存在自体すら明かされていない。

 リングウェル研究所は、ディルスターの中枢と言っても過言ではない巨大な研究所だ。

 だから、そんな大事な研究所を、父が丸ごと消すなんてことは考えられない。

 そんなことをしたら、ディルスターの損害は計り知れないからだ。

 ディルスターでのトップの地位を守りたい父が、自らの首を絞めるような真似をするとはとても思えなかった。


 リングウェル研究所で一体何が起こったのだろうか?

 私は母の失踪の真相が知りたくて、色々なところから情報を集めた。

 カルティニにも色々と手伝ってもらった。

 でも、父が情報を完全に封鎖しているのか、結局失踪事件の詳細については何一つわからなかった。

 あまりにも情報が手に入らないので、仕方なくレイヴァンにも頼んで調べてもらったけど、結局は同じだった。

 何が起こったのかわからないまま、数年が経過した。


 数年後、私は宇宙開発事業部の事業部長に就任することができた。

 私はその地位を利用して、研究の傍らDICTに関する情報を集めていた。

 リングウェル研究所失踪事件のカギはDICTにある。

 その頃になると、私はそう確信していた。

 リングウェル研究所の失踪事件のおかげで、DICT開発は大幅に遅れていた。

 何せDICT研究の中心メンバー全員が失踪したのだから当然だろう。

 本来なら、DICTにはもっと様々な機能が搭載される予定だったが、それも遅れに遅れている状況だった。

 私は内心ホッとしていた。

 DICTに搭載する予定の機能一覧を見たことがあったが、それを見て私は言葉を失った。

 こんなものが搭載されたら、人類にとって大変なことになる。

 DICTの研究が遅れている今のうちに、何とか手がかりを掴んでおきたい。

 私は宇宙開発事業部長としての仕事を務める一方で、DICTに関する調査を必死に行った。


 その手がかりは意外なところから出てきた。

 それは、カルティニのほんの些細な発言がきっかけだった。

「最近、私のDICT情報が化けることがあるんですが、端末が故障しているのでしょうか?」

 カルティニが端末でDICTに記録されている自分の銀行口座の残高を表示した時に、端末の表示が突然化けたのだ。

 私は最初、ただの端末の故障だと思ったけど、端末にはどこにも異常はなかった。

 しかも、カルティニの話によると、普段は正常に表示されるのに、なぜか私の警護についている時だけ化けることが多いという話だった。

 念のため、カルティニにDICT移植を行なった医者に連絡をとり、カルティニから聞いた話をそのまま話して、カルティニのDICTを調べてもらった。

 そして、そこで、私は手がかりを見つけることができた。

 母が失踪する前に医者との連絡方法を教えてもらったのは不幸中の幸いだった。

 もし、知らなかったら、私はその事実に気づくことなく、人類は巨大な闇の底に沈んでいただろう。

 カルティニのDICTには、私達のDICTとは別の細工が施されていた。

 医者に聞いた話だと、ある時期が来ると自動的に作動するプログラムが仕込まれていたそうだ。

 そして、そこには私の母リノアが私に残した文書があった。

 私はその文書を読んで、言葉を失った。

 もしこの文書に書かれていることが本当ならば、一刻も早くDICTを止めないといけない。


 私はその文書に出てくるレイという人物に連絡を取った。

 通常の通信手段は全てDICTに監視されているので、アンノウンのレイと連絡を取るのは非常に苦労した。

 カルティニに頼もうかと思ったけど、その時の私はカルティニを巻き込むわけにはいかないと思った。

 カルティニはSALIDでも最強と言われているすごい戦士になっていた。

 このままディルスターにとどまれば、きっとSALIDのトップになることだってできるだろう。

 でも、私についてきたら、カルティニはディルスターから追放されるだろう。

 それどころか、ディルスターから命を狙われる可能性だってある。

 でも、私にはカルティニのためにしてあげられることは何一つない。

 私のわがままのために、カルティニの未来を奪うようなことをしてはいけない。

 その時の私はそう思った。


 幸い、弟のカインが通信工学に詳しかったので、カインに頼むことにした。

 カインは頭はいいけど、物静かなおとなしい性格で、とても優しい子だった。

 だから父に非常に気に入られていたわけだが、カイン自身には父のような野望は全くなかった。

 私がアンノウンに連絡を取りたいと話した時には、カインは驚いていた。

 無理もない。

 世界はDICTで統べられ、DICTを拒絶したアンノウンは人間に非ずといった父の教えを散々刷り込まれてきたのだから、アンノウンと連絡を取ろうとする私が、悪いことをしようとしているように見えたのだろう。

 でも、カインはとても頭のいい子だった。

 私は、DICTの真相を隠しながら、母の消息の手がかりになることをカインに話すと、カインは快く引き受けてくれた。

 それで、私はカインも母がいなくなってしまったことを、ずっと気にしていることを理解した。

 私はカインに母の消息を絶対に探って見せると約束した。


 レイという人物の本名は園山零と言った。

 私は園山氏から母リノアから大事なものを預かっていると聞いた。

 どこかで通信が傍受されているとマズいので、私達はそれを七色の小箱という名称で呼ぶことにした。

 園山氏は私に七色の小箱を渡したいと話した。

 どうやら母から私に渡すように頼まれたものらしい。

 母は本当は直接私に渡したかったらしいが、父の監視で身動きが全く取れなくなっていたらしい。

 私は、今すぐにでも日本に行って、園山氏から母の託した七色の小箱を受け取りたかった。

 でも、この頃になると、宇宙開発事業部長としての仕事が忙しくなったことに加え、私の行動が父から逐一監視されるようになったため、なかなか日本に行く機会が作れなかった。

 そんな矢先、日本の種子島に建設中のマスドライバーシステムであるアマテラスの完成が近いことを思い出した私は、日本で完成式典を開きたいと父に話した。

 アマテラスの開発は父も乗り気だったこともあり、完成式典にあっさりと賛同してくれた。

 でも、父が自分も式典に行くと言い出したのは誤算だった。

 式典を予定していたちょうどその頃に、日本グループの会議に出る予定があったらしい。

 これだけの式典の日程変更を行なうには莫大な費用がかかるし、何より日本に上陸するまでは父に不審に思われたくなかった。

 ウウン、理由はそれだけじゃない。

 とにかく、日程を変更することは許されなかった。

 だから、日本に上陸したら、多少無理があっても行動に移すしかないと思った。

 私は園山氏と連絡を取り、日程と計画を綿密に立てた。


 計画をカルティニに隠したことが正しかったのかどうかはわからない。

 確かに、カルティニがいないと私は何もできない。

 私が日本で今でも命があるのは、カルティニが守ってくれたからだ。

 でも・・・それでも、カルティニを巻き込んでよかったのか、私は今でも悩んでいる。

 カルティニは私に絶対の忠誠を誓ってくれている。

 多分、私が危険な目に合ったら、自分の危険を顧みずに迷いなく飛び込んできてくれるだろう。

 今の私が誰よりも一番信頼できるとっても大切な人。

 だからこそ、そんな人をこんな危険なことに巻き込んでしまってよかったのか。

 今でも私は悩んでいる。


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