5. サリファ救出作戦
前に話から随分と時間が経ってしまいました。
というのも、どういう展開にしようか悩みに悩みまくったので。
結局、こんな感じで落ち着きました。(笑)
「どうやってサリファ様を救出するつもりだ?」
有騎がカルティニに尋ねる。
「なんだ有騎、お前、随分とそのサリファって子の救出に熱心だな。さてはお前・・・」
響がニヤニヤしながら有騎の方を見る。
「ち、違うよ。そんなんじゃあ・・・」
有騎はそう言うと、首を背ける。
「もう響さんは何でも恋愛に持っていかないでください。」
代わりに奈央が有騎のフォローに入る。
奈央の言うように、響はこういう男女間の仲を茶化す癖があった。
そのため、みんなから恋愛脳と揶揄されることが多かった。
「だって、姉貴は恋愛とは無縁だったからなあ。他人の恋愛がよっぽどうら・・・」
一馬が言い終わる前に響のラリアットがきれいに炸裂していた。
ちなみに、一馬は響のことになるとなぜか失言が多く、そのたびに響にひどい目に合わされることが多かった。
「ってそんなことどうでもいいだろ。今はサリファ様の救出のことを考えないと。
カルティニ、俺達は一体何をすればいい?」
有騎が話を元に戻す。
「お前達は、本当に仲がいいんだな。」
カルティニは俺達のやりとりを見て、思わず苦笑する。
しかし、すぐに元の引き締まった表情に戻ると、話を続ける。
「お嬢様をさらったのは、レイヴァン様の護衛のジルクという男だ。
だから、お嬢様の連れていかれた場所は、呉に停泊中の空母イスファールで間違いないだろう。」
「呉か・・・また厄介な場所に連れていかれたな。」
有騎がそうつぶやく。
「元々、州都広島から近い上に、ディルスターの海軍基地がある場所だからな。
その上、今は空母イスファールとSALIDがいるんだろ。
厄介どころの話ではないぞ。」
響の表情がいつもの険しい表情に戻っていた。
「だから、お前達が来る必要はない。
あのハイウェイスターとかいうバイクを貸してくれればいい。
あとは俺一人でやる。
多分、その方がいいだろう。」
カルティニがそう言うと、仲間達もその方がいいと頷く。
「ダメだ、ハイウェイスターは俺のものだ。」
一馬が一人反対するが、響に睨み付けられると静かになる。
だが、
「いや、俺達も行く。」
有騎がカルティニを止める。
「おお、さすが有騎、同じハイウェイスターを乗り回す仲間だ。」
一馬が再び声を上げるが、
「いや、俺は別にハイウェイスターはどうでもいい。」
と有騎が言うと、一馬はショックを受けて再び静かになる。
カルティニは有騎の方を見る。
「なぜだ、この潜入はさっきの中継基地の侵入とはわけが違う。
下手すれば本当に死ぬぞ。」
「それはわかっている。でも、俺達の仲間だって捕えられているんだ。
カルティニ、お前はハイウェイスターでどうやって3人を救出するつもりだ?」
有騎がそう尋ねるが、カルティニは何も答えない。
そのカルティニの表情を見て、有騎の言いたいことに奈央も気づく。
「それって、まさか・・・」
「そうだ、カルティニは、多分サリファ様しか救うつもりがないんだ。
だから、ハイウェイスターなんだろ?」
有騎がそう言うと、周囲がざわめき出す。
「じゃあ、リーダーと秀秋は見殺しにつもりだったのか?」
「随分と冷たい奴だな。」
「せっかく仲間だと思っていたのに。」
それを聞いた瞬間、カルティニの表情が変わる。
「仲間だと!?
俺が貴様らの仲間にいつなった?
俺はサリファ様がおられたから手を貸しただけだ。」
カルティニはそう言うと、一瞬で視界から姿を消す。
と次の瞬間、奈央の背後に回る。
カルティニは奈央を捕まえると、奈央の首を自分の腕でロックする。
「奈央!?」
有騎が慌てて奈央の元に駆け寄ろうとするが、
「近寄るな。俺の腕力のすごさは知ってるだろう。
本気を出せば小娘の首なんか一瞬でへし折ることができる。」
「カルティニ、貴様!!!」
有騎の表情が怒りの表情に変わる。
「この子を殺されたくなければ、今すぐハイウェイスターを引き渡せ。
あと、園山零が持っていた七色の小箱もだ。」
「な、七色の小箱って?」
奈央が怯えた表情を浮かべながら、カルティニに恐る恐る尋ねる。
だが、カルティニは答えなかった。
七色の小箱・・・
恐らく、それは何かの合言葉のようなものなのだろう。
知る人が聞けばわかるといった感じの合言葉。
そして、それこそがサリファが危険を冒してまで、園山零に接触しようとした理由だったのだろう。
有騎は、今のカルティニの言葉から瞬時にそこまで察することができた。
だが、七色の小箱なんて聞いたこともない。
恐らく、アンティルでも園山零と幹部数人しか知らないことなのだろう。
「残念だったな。
お前の目的物である七色の小箱は、園山のおっさんと一緒にジルクという男が持って行ってしまったらしい。」
響がカルティニに話す。
どうやら響は、七色の小箱のことを知っている数少ない一人だったようだ。
「貴様は中継基地にさらわれていて、何も知らないはずだろうが。」
カルティニが響に向かって怒鳴る。
「アジトに残っている仲間から聞いたんだよ。
どうやらジルクの目的も、七色の小箱だったらしい。」
響がそう言うと、カルティニは驚いた表情を浮かべる。
「何だと・・・じゃあ、まさかレイヴァン様の目的は・・・」
カルティニの表情がさらに険しくなる。
「なあ、どういうことだ?
七色の小箱とか何のことだよ?
サリファ様と一体何の関係があるんだ?」
有騎がカルティニに尋ねる。
だが、カルティニに有騎の質問は全く届いていなかった。
カルティニは、ポケットにしまったサリファのネックレスを手に取ると、ほんの少しの間だけ、そちらに視線を落とす。
だが、すぐに気を取り直すと、ネックレスを再びポケットにしまう。
「どうやら本当にここにはないようだな。
じゃあ、もうここには何の用もない。」
カルティニはそう言うと、奈央を連れて、ハイウェイスターのある地下駐車場へと向かい始める。
「カルティニが逃げたぞ、追いかけろ。」
仲間達は武器を手に取ると、カルティニの後を追いかける。
だが、奈央を抱えているにも関わらず、カルティニは凄まじい速さで、あっという間に見えなくなってしまった。
「奴の行き場所はわかっている。地下駐車場で食い止めろ。」
だが、仲間達が地下駐車場についた時には、既に補給班はカルティニに倒されており、カルティニは既にハイウェイスターに乗っていなくなった後だった。
「俺のハイウェイスターが・・・」
本来、ハイウェイスターが止まっている場所に、それがないことを確認すると、一馬はその場にがっくりと膝まずく。
ハイウェイスターの停車場所には、ぽつんと奈央が座っていた。
「奈央、大丈夫か!?」
有騎が奈央の元に駆け寄る。
そこで奈央が泣いていることに気づく。
あんな大男に二度も誘拐されたのだから、泣くのも無理はないと有騎は思った。だが、
「違う・・・違うの・・・」
奈央は首を横に振る。
「何が・・・違うんだ?」
「カルティニさんは、ずっと私に謝っていた。
カルティニさんにとって、サリファ様は本当にとても大事な人なんだよ。」
「それは俺達だって同じだろう。
零おじさんも秀秋も、俺達にとってかけがいのない仲間だ。
だからこそ、助けないといけない。」
有騎がそう言うと、奈央は首を横に振る。
「だから、違うの。
カルティニさんは私達のことも考えてくれたの。
呉に行ったら、絶対に無事では済まないことがわかっていたから。
だから一人で行ったんだよ。
私達を危険な目に合わせないために。」
有騎には奈央が何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
それじゃあ、零おじさんと秀秋は見殺しにしろってことなのか?
「カルティニさんは言ってた。零おじさんと秀秋のことは心配いらないって。
カルティニさんはきちんと2人のことも考えてくれていたんだよ。」
「なん・・・だと!?」
でも、ハイウェイスターはオートバイで、2人乗りが限界である。
一体どうやって、サリファと一緒に零おじさんと秀秋も救うつもりなのだろうか?
「アジトが見つかった時点で、衛星でこのアジトの動きはディルスターに逐次監視されてる。
だから、カルティニさんは一人で飛び出して行ったんだよ。
敵が一番恐れているのはカルティニさんだから。
そのカルティニさんが呉に向かったとわかったら、敵の全軍が呉に向かう。
そうなれば少なくとも、みんながここから逃げるだけの時間が稼げる。」
奈央の話を聞いて、有騎は言葉を失う。
自分達が仲間の救出のことを考えていた間、カルティニはここの仲間のことまで考えていたのだ。
自分達がここから逃げるの時間を稼ぐために、カルティニは囮になったというのか。
ハロルド号ではなく、ハイウェイスターに乗って行ったのもそれが理由なのだろう。
全員を避難させるには、全ての車を使うしかない。
「じゃあ、それを俺達に説明してくれればよかったのに。」
「説明しても、有騎達は納得しなかったでしょう。」
「それは・・・そうかもしれないけどさ・・・」
「それに、空母イスファールは、明日の朝に呉港を出港するらしくて、もうあまり時間が残されてないそうなの。」
奈央がそう言うと、有騎は驚いた表情を浮かべる。
「カルティニさんが私に言い残して行ったことを、みんなに伝えるね。
自分が派手に暴れるから、その間にこの基地を放棄して、別の場所に逃げろって。
衛星からでは森の中とかは監視しづらいから、できるだけ上空から見つかりづらいルートを使ってここから逃げろって。
自分達の置かれた状況が危機的状況であることを強く意識しろって。」
奈央の話に、有騎も後から来た響達も言葉を失っていた。
「今は私達にできることをしよう。」
響が有騎と奈央の肩を叩く。
有騎と奈央は小さく頷くと、響と一緒に作戦司令室へと戻って行った。
今度は、避難計画を立てるために。
奈央は、響にカルティニの話した内容を全て伝えた。
「そうか・・・ここは既に安全じゃないってことか。」
響はそうつぶやくと、困った表情を見せる。
これだけの大人数をどうやって移動させればいいのだろうか?
そして、どこに逃げればいいのだろうか?
響にはすぐにいい考えが思い浮かばなかった。
「とにかく、カルティニが呉に向かっている今しか脱出するしかない。
とりあえずの脱出先だが・・・」
響は日本地図をパネルに映す。
「アンティルは日本各地にアジトを作ってきたが、今でも無事が確認できているのは、愛媛と宮崎のアジトしかない。」
「どっちも海を渡る必要があるな。」
有騎はため息をつく。
「陸路だと、どっちも橋渡らないとダメだからな。」
すかさず響がそう言う。
「関門海峡は州境だから元々警備が厳重だけど、今はディルスターの警戒態勢で特に厳しくなってるだろうって。
私達を絶対に九州には行かせないようにするために、絶対にそうしてるってカルティニさんが言ってた。」
奈央がそう言うと、響は改めてため息をつく。
その辺のことは、響にもわかっているようだった。
「同様に、四国に渡る道も封鎖されてるだろうな。となるとだ。」
響は瀬戸内海を指さす。
「海を渡るしかないってことか。でも、どうやって?」
奈央が響に尋ねる。
「そりゃあ、船を使って渡るしかないだろ。
船はどっかで手に入れるとしてだ。問題はどこに向かうかだ。」
「海を使うんだったら、四国の方がいいんじゃないか?」
有騎がそう言うと、周りの人間も同意する。
「だが、そうなると、広島の方に南下するしかなくなるぞ。
広島より西から海を渡ると、空母イスファールと遭遇する可能性が高くなるからな。
アイツラ、多分あの空母でサリファ様を連れて種子島に向かうつもりだろうからな。」
「ということは、広島より東に行くしかないな。」
「じゃあ、やっぱりこの辺かな。」
響が地図上のある点を指す。
「三原か・・・まあ、その辺だろうな。
問題は、そこまでどういうルートで行って、そこからどうやって船を手に入れて四国に渡るかだな。」
響が地図をじっと眺めると、周りの仲間達が一斉に話し始める。
どういったルートで、これだけの人数を移動させるか。
これはなかなかの難題で、なかなかいい案がでてこなかった。
その一方で、有騎は別のことを考えていた。
「どうしたのお兄ちゃん?」
その有騎の様子に気づいた葵が声をかける。
「ああ・・・ちょっと考え事だ。」
有騎はそれだけ答えると、再び考え込む。
「もしかして、サリファ様のこと?」
奈央がそう言うと、有騎は顔を上げて奈央の方を向く。
「どうしてわかった?」
「有騎の考えてることなんてすぐにわかるよ。」
奈央はニコッと笑うと、ルートについて議論している響に声をかける。
「響さん。」
「なんだ、奈央? 何かいいルート思いついたか?」
「いえ、そうじゃなくて・・・私と有騎を呉に行かせてくれませんか?」
奈央がそう言うと、周囲の会話が止まる。
「何をバカなことを・・・そんなことできるわけ―」
「俺、やっぱりこのままサリファ様を放っておけない。」
奈央の代わりに有騎が答える。
「でも、あのお嬢様は、カルティニが救出に向かってるだろう。
その隙に私達に逃げろと言うカルティニの伝言を伝えたのは奈央じゃないか。」
「わかってます。でも、どうしても私達も行きたいんです。」
奈央がそう言うと、
「お願いします。俺達を呉に向かわせてください。」
有騎も頭を下げる。
「お前達・・・行ったら命の保証はないぞ。それでも行くのか?」
響が有騎と奈央に尋ねる。
その響の問いに、有騎と奈央は力強く頷く。
「わかった。じゃあ・・・」
響はそう言うと、離れた場所で落ち込んでいる一馬に声をかける。
「一馬、有騎と奈央と一緒に呉に行け。」
だが、一馬の反応はない。
ハイウェイスターを取られたことが、よっぽどショックだったようだ。
響が呆けている一馬の頭を思い切り殴る。
「いってえ、何しやがる。」
「人の話を聞いてたのか?」
「ああ、何のことだ?」
「やっぱり聞いてなかったか。」
響はため息をつくと、一馬に改めて有騎と奈央と一緒に呉に行くように命じる。
一馬は嫌がるかと思いきや、響の話を聞いて元気を取り戻す。
「よし、ついでにハイウェイスターを取り戻してやる。」
一馬の目的は、どうやらカルティニに奪われたハイウェイスターのようだ。
「有騎、奈央、さっさと行くぞ。準備しろ。」
「あ、ああ・・・わかった。」
「アイツは、本当に単純だね。」
奈央がそう言うと、有騎も思わず苦笑する。
有騎と奈央は、一馬の後を追いかけようとするが、その時背後から葵の声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、奈央ちゃん、どうして?」
葵の表情は不安で一杯だった。
元々、今回の作戦に参加することにも、葵は反対していた。
幸い、無事に帰ってきたけど、また危険なところに行ってしまう。
しかも、今度はたったの3人で・・・
前回のミッションよりも、はるかに危険なミッションであることは、葵でも容易に想像できた。
「スマン、葵、でも、俺、どうしてもサリファ様を助けたいんだ。
それに零おじさんや秀秋も助けないといけないしな。
カルティニ一人じゃきっと大変だと思うんだ。」
有騎が葵に説明するが、葵は納得できない。
「だからといって、どうしてお兄ちゃんが行かないといけないの?
もし、お兄ちゃんが死んじゃったら、私どうしたらいいのよ。」
葵はそう言うと、有騎に抱きつく。
そして今まで、ずっと心に抱えていた不安が一気に溢れ出してきたかのように、堰を切ったように泣き出す。
「葵ちゃん、私達だったら、無事に帰ってきたでしょ。今回も無事に帰ってくるよ。」
奈央が声をかけるけど、奈央の声は葵には届いていないようだった。
「葵・・・」
有騎は泣き続ける葵の頭をそっと撫でる。
「お願い、お兄ちゃん・・・もうどこにも行かないで。」
葵は必死に有騎にすがりつくが、有騎は「ゴメンな。」と言うと、葵の体を自分から放す。
「サリファ様が何をしようとしていたのかわからないけど、この機会を逃したら、ディルスターを倒すチャンスは二度と来ない気がする。
俺は葵やみんなのためにも、このチャンスは絶対に逃したくないんだ。
だから・・・ゴメンな。」
有騎はそう言うと、一馬の後を追いかける。
「葵ちゃん・・・ゴメンね。」
奈央も葵に謝ると、有騎の後を追いかけていく。
葵は泣いたまま、しばらく2人の後姿を見送っていたが、涙をぬぐうと、慌てて2人の後を追いかけた。




