4.包囲
その頃、ハロルド号は有騎達のアジトのある出雲に到着していた。
ここには出雲大社という由緒正しき伝統ある大社があるのだが、街ごと放棄されてからは荒れる一方だった。
アンティルは出雲大社の近くに拠点を構えていた。
アンティルのメンバーは毎日神社の清掃などを行ない、ここに参拝するのが日課となっていた。
元々、出雲大社は縁結びで有名だったが、もちろんアンティルのメンバーがお願いすることは縁結びなどではなかった。
ディルスターによって滅茶苦茶にされた日本を、元の日本に取り戻したい。
アンティルのメンバーの願いはただそれだけだった。
各人色々と仕事を持っているので、全員が同じ時間にというわけにはいかなかったが、時間を見てはここに参拝に来たり掃除に来たり、時には仲間達の社交場にもなっていた。
暇さえあれば、出雲大社に来るような場所になっていた。
また、ここは広いので、子供達の遊び場にもなっていた。
だから、出雲大社に仲間の気配が全くいないという光景は、アンティルのメンバーにとってひどく違和感のあるものだった。
先程、襲撃を受けたという情報を受けていたので、恐らく外出を控えているだけなのだろう。
みんなそう思いたかった。
だが、まだ近くに奴らの仲間が潜んでいるかもしれない。
その考えは払しょくできず、アジトに近づくに連れてメンバーの緊張感が徐々に高まっていった。
しばらくすると、ハロルド号はアジトに到着する。
アジトのゲートは固く閉ざされており、周囲には見張りもおらずに静まり返っていた。
「見張りが一人もいないのはどういうことだ?」
一馬が首を傾げる。
「先程の襲撃で見張りが手ひどくやられたようだが、それにしても代わりの見張りを立てないとか不用心にもほどがある。」
秀秋はブツブツ文句を言いながら、アジトに連絡を入れる。
「こちらハロルド号、おーい誰かいるか?」
秀秋が基地に通信を発信する。
主力はこちらにいるため、アジトの方は人が不足していた。
そのため、通信室に常時人がいることはなく、おかげで前回作戦成功の知らせを入れた時には、5回も通信する羽目になった。
今回もきっと時間がかかるから、直接アジトに行った方がいいかも。
通信を送りながらも、秀秋は仲間にアジトに向かう準備をするように指示する。
だが、その必要はなかった。
今回は、通信を入れて1分も経たないうちに、仲間の一人が応答してきたからだ。
「こちら、アンティル本部。どうぞ。」
通信士は秀秋のよく知っている男だった。
だから、その通信士の応答に、秀秋は違和感を覚えた。
というのも、この通信士はとにかくしゃべるのが大好きで、いつもペラペラたわいもない話を勝手に始めるからだ。
そんな通信士が、今日に限って、非常にシンプルな応答しかしない。
違和感を覚えつつも、秀秋は通信士に要求を伝える。
「今アジトに到着した。ゲートを開けてくれ。」
「わかった。」
通信士はそっけなくそう答える。
いつもとあまりにも態度が違うことに、秀秋だけでなく周りのメンバーも違和感を覚え始める。
「なあ、アジトが襲撃されたみたいだけど、お前は大丈夫だったのか?」
気になった秀秋は、思い切って通信士に尋ねる。
「・・・・・・」
だが、通信士からの応答はそれっきりなく、通信も切れてしまった。
しばらくすると、アジトのゲートが開き始める。
そして、そのゲートの向こう側の光景を見た瞬間、全員が言葉を失った。
ゲートの向こうでは、大勢の人達がハロルド号の帰還を外で待っていた。
ただし、その待っていた人達は、アンティルのメンバーではなかった。
「これは・・・ディルスターの兵士達だ。」
周辺の建物にも潜んでいたらしく、いつの間にか車の周囲はディルスター兵で包囲されていた。
「アンティルのメンバー諸君、そしてサリファお嬢様。長い旅路お疲れ様でした。」
そう言いながら一人の男がハロルド号に近づいてくる。
「私はSALIDの一人ジルク・サムウェル。
サリファお嬢様の身に危険が差し迫っているとのことで、レイヴァン様の命によりサリファ様を保護しにまいりました。」
ジルクはそう言うと、部下達に合図を送る。
すると、部下達は何人かを引き連れてハロルド号の前にやってくる。
兵士達が連れてきたのは、アジトにいたアンティルのメンバーだった。
「あれは、零さん。」
その中にはアンティルの現リーダーである園山零もいた。
零達は兵士に連行されると、ハロルド号の前で無理やり座らされる。
そして、兵士の一人が大きな鉈をジルクに手渡した。
「私はあまりここに長居したいとは思っていません。
グズグズしていると、カルティニが来てしまうからね。」
ジルクはそう言うと、鉈を持って零たちの方へと向かう。
「というわけで、10分だけ時間をやろう。
さっさとサリファお嬢様を解放しろ。
さもないと、この鉈がコイツらの首を切ることになる。」
ジルクはニヤリと笑みを浮かべながら、怯える零の喉元に鉈を突きつけた。
「今すぐ私を解放してください。」
それを見たサリファが、アンティルのメンバーに話す。
「でも、今、お嬢様を解放しちまったらさあ。」
一馬が答える。
サリファがどういう計画を立てているのか未だにわかっていないが、サリファを手放してしまったら、ディルスターに二度と対抗できなくなる。
こんなチャンスはもう二度と来ないだろう。
それは一馬だけでなく、みんなが思っていたことだった。
だから、サリファの解放にどうしても躊躇してしまう。
だが、そんな一馬の肩にサリファの小さな手が触れる。
「一馬、大丈夫。レイヴァンの手の者であれば、まだ私達に勝機はあります。
だから、今は私を信じて、お願い。」
サリファはそう言うと、身につけていた高そうなネックレスを一馬に手渡す。
「これは?」
「カルティニが戻ってきたら、これを渡して。
それと、カルティニには私が謝っていたと伝えてほしい。」
サリファはそう言うと、ハロルド号の扉を開けるように一馬に頼む。
「わかった。」
一馬は渋々頷くと、ハロルド号の扉を開けさせる。
扉が開くのを見て、一瞬外にいた兵士達の緊張が高まったが、扉の向こうから出てきたのがサリファであることを確認すると、すぐに緊張感が和らいだ。
サリファは扉からゆっくり外に出ると、ジルクの元へと向かう。
「おお、サリファ様。
このようなならず者どもに誘拐されたと聞いた時には、レイヴァン様もかなり心配しておられました。
全く、カルティニは何をやっていたのか。」
「そんなことより、さっさとこの人達を解放してあげて。
私はもう救出できたのだから、この人達は関係ないでしょ。」
だが、サリファがそう言うと、ジルクはニヤリと笑う。
「またまた御冗談を。
反逆者を一網打尽できるチャンスをみすみす逃すわけないじゃないですか。」
ジルクはそう言うと、カッと目を見開きサリファの目をじっと見つめる。
すると、突然サリファはその場で意識を失う。
サリファが倒れそうになるところを、ジルクが抱きかかえる。
「これはお嬢様、随分とお疲れのご様子ですね。ゆっくりとお休みになってください。」
ジルクはそう言うと、兵士達にサリファを預ける。
「お前ら、サリファお嬢様は丁重に扱えよ。
何か粗相があったら、レイヴァン様に殺されるぞ。」
ジルクがそう言うと、サリファを運ぶ兵士達の表情が強張る。
「さあて、用事も済んだことだし、このまま皆殺しでもいいんだけど、色々聞きたいことがあるんでね。
あと二名ほど俺達と一緒に来てもらおう。」
ジルクはそう言うと、すぐ近くに座らされている園山零の頭に触れる。
「この爺さんが、このアンティルとやらのリーダーらしいな。
この爺さんには色々と吐いてもらいたいことがあるんで連行しろ。」
ジルクの命令により、園山零も兵士達に連行される。
「あとは・・・そこの車の中に明智秀秋という人物はいるか?」
ジルクが秀秋の名前を出すと、車内のメンバーは全員驚いた表情を浮かべる。
「えっ、どうして俺の名前を奴が知ってるんだ?」
秀秋も驚きを隠せない。
「貴様が、ディルスターの反クルサード派とつながっていることはわかっている。
貴様にも色々と聞きたいことがあるので、こっちに来てもらおうか。」
ジルクがそう言うと、秀秋は納得した表情を浮かべる。
「なるほど、俺達の作戦は奴らに筒抜けだったってことか。」
今回のアンティルの作戦は、秀秋がディルスター内部にいる反クルサード勢力の協力を得て行ったものである。
だが、その内容は、レイヴァン達には筒抜けだったらしい。
恐らく、秀秋と通じていた反クルサードの勢力も、今頃は既にレイヴァンの手に落ちているのだろう。
「つまり、俺達は奴らに踊らされてただけじゃないか。」
悔しさのあまり、一馬が壁を拳で力強くたたく。
「どうする秀秋?」
仲間が秀秋に尋ねる。
「どうするって言っても、他に選択肢の余地なんてないだろう。」
秀秋は諦観の境地でそう答える。
秀秋は怯えた表情のままハロルド号を出ると、すんなりとジルク達の元に投降した。
「他に何かやっておかないといけないことはあるか?」
ジルクが部下に尋ねる。
「いえ、後はここの大掃除だけです。」
「ああ、それはお前達に任せるわ。
俺達はワイバーンで一足先に呉に戻る。
レイヴァン様が首を長くして待っておられるだろうからな。」
ジルクはそう言うと、傍にいた幹部とおぼしき人物の肩を叩くと、その場から去っていった。
一番危険なSALIDの戦士はこの場から去った。。
だが、依然として多くの兵士達に囲まれた危険な状況であることに変わりはなかった。
「この状況・・・どう考えてもヤバいな。」
一馬はそう言うと、車内の全メンバーに武器を持つように命じる。
「こうなったら徹底抗戦するしかない。」
一馬がそう言って、号令を出そうとしたその時だった。
突然、爆発音が鳴り響く。
「な、なんだこの爆発は!?」
と周囲に煙が充満して、たちまち視界が遮られていく。
「これは煙玉だ。てことは・・・」
と言いかけたところで、その兵士は突然倒れる。
「敵が・・・敵が近くにいるぞ。」
そう言って兵士が発砲しようとするが、
「オイ、バカ、今撃ったら同士討ちになるぞ。」
「構うか。敵殲滅が最優先だ。」
兵士はそう言うと、周囲に目がけてマシンガンを撃ちまくる。
それに気づいた別の兵士が、やはり同じようにマシンガンを撃ちまくる。
煙の内部では銃声と悲鳴、撃たれて倒れる人の音で充満していた。
しばらくして、煙が晴れてくる。
生き残った兵士達は、煙が晴れた後の光景を見て言葉を失う。
周囲は撃たれて倒れている兵士達で溢れかえっていた。
しかも、さっきまでそこに座らされていたアンティルのメンバーの姿はどこにもない。
「クソッ、なんてことだ。」
残り少ない兵士達に向かって、ハロルド号から銃撃が飛ぶ。
兵士達もとっさに反撃して、銃撃戦が始まる。
だが、数で圧倒していたはずの兵士達は、いつのまにか少数派となっていた。
多勢に無勢で圧倒的に不利な状況になっていた。
「クソッ、あの壁まで後退するぞ。」
兵士達はやむを得ず、近くの壁まで後退する。
だが、その兵士達の背後には、いつの間にかカルティニが潜んでいた。
「グハッ」
カルティニは素早く背後から当身を食らわせると、ほとんどの兵士を素手で倒してしまった。
「き、貴様はカルティニ!!」
一人だけ残った兵士が慌てて銃口をカルティニに向けようとするが、その前にカルティニの手が兵士の手を掴むとねじり上げる。
そして、あっさりとカルティニは銃を取り上げると、逆に兵士の頭に銃を突きつける。
「答えろ。サリファお嬢様はどこだ?」
「ふ、ふん、誰が貴様なんぞに・・・」
次の瞬間、兵士の顔すれすれに銃弾が飛んでいく。
「次は当てる。」
カルティニの迫力に、兵士は圧倒される。
「わ、わかった。サリファ様はジルク様と一緒に、この近くの駐車場に止めてあるワイバーンにおられる。」
とその時、上空にワイバーンが上昇していくのが見える。
「クソッ」
カルティニは兵士を殴り気絶させると、慌ててワイバーンの方へと向かうが、ワイバーンはそのまま飛び去ってしまった。
「なんてことだ・・・私のせいで、お嬢様がさらわれてしまった。」
カルティニは悔しさのあまり拳を握りしめると、壁を思い切り殴った。
すると、壁が粉々に壊れてしまった。
「あーあ、俺達のアジトを破壊しないでくれよ。」
いつの間にかハロルド号から降りていた一馬が、カルティニの元にやってくる。
そして、カルティニにサリファから手渡されたネックレスを渡す。
「お嬢さんからこれをお前に渡すように言われた。」
そのネックレスを見た瞬間、カルティニの表情が変わる。
「落ち込んでいる場合ではなかった。一刻も早くお嬢様を救出に行かないと。」
カルティニはサリファのネックレスを大事に胸元にしまい込むと、ハロルド号へと向かう。
「オイ、どこに行く気だ?」
それを見た一馬が慌ててカルティニに声をかける。
「あのヘリがどこに向かっているかは大体想像がつく。
呉に停泊中の空母イスファール、そこに向かっているはずだ。」
「わかった、じゃあ俺達も協力するぜ。」
一馬はそう言うと、カルティニは驚く。
「お前達、いいのか?せっかくアジトに戻ってきたばかりだと言うのに。」
「アイツラには俺達の仲間もさらわれてるんだ。放っておくわけにはいかねえよ。」
「そう言えばそうだったな。」
「それに・・・」
そこに有騎がやってくる。
「サリファ様が何をやろうとしているのかわからないけど、このままサリファ様を連れ去られてしまったら、きっと後悔すると思うんだ。」
有騎がそう言うと、後ろからやってきた奈央も頷く。
「それに、カルティニさんには、仲間を助けてくれた借りもあるしね。」
有騎がそう言うと、一馬の表情が変わる。
「奈央、じゃあ姉貴は?」
「全員無事だよ。」
奈央がそう言うと、一馬はホッと胸をなで下ろす。
普段は怖がっていても、なんだかんだでずっと響のことを心配していたんだ。
奈央は思わず苦笑する。
ハロルド号はアジトの地下駐車場で燃料補給を行っていた。
ハイウェイスターのエネルギー補給も含めて、全部完了するには2~3時間ほどかかる。
その間に、有騎達は中央作戦室に集まって、作戦を立てることにした。




