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ディストピア・ディルスター  作者: レトリックスター
第2章 ディルスターの反撃
14/26

1.葵

今回の話から新章に突入です。

 その廃れた村は、十年ほど前までは人が住んでいた村だった。

 しかし、ディルスターの政策により、電気、ガス、水道などのインフラが完全に切り捨てられて、そこに住んでいた人達は移住せざるをえなくなったのだ。

 ディルスターがコンパクト・シティと掲げたその計画は、大都市に過剰なインフラを集中させる反面、地方を次々と切り捨てていった。

 そのおかげで、日本中にはこのような廃村が溢れかえっていた。

 こうした誰も住めなくなった地域に、有騎達のようなアンノウンは隠れ住んでいた。

 有騎達のアジトも、こうした切り捨てられた地域にあった。


 有騎達は車から降りて、廃村に来ていた。

 武器を携帯して、しばらく廃村を調べるが、どうやらこの辺にはアンノウンは潜んでいないようだった。

「しかし、すっかり廃れちゃったね、この街も。」

 廃村の荒れ果てた光景を見ながら奈央がそう言うと、有騎は驚いた表情を浮かべる。

「奈央、お前、この村に来たことがあるのか?」

「あっ、そっか、あの時、有騎いなかったんだっけ。

 確か、当日になって熱出しちゃったんだよね。」

 奈央がそう言うと、有騎はようやく昔のことを思い出す。


 有騎が小さい頃、アンティルに住む子供達を、遠足に連れて行こうという話が上がったことがあった。

 アンティルは、組織本部に多くの子供を抱えていた。

 その多くは、アンティルのメンバーの子供達だったが、中には親が殺されて引き取った子供達もいた。

 ただし、引き取るには、DICTがないことが前提になる。

 DICTをつけた子供が一人いるだけで、アジトがゼウスネットワークに補足されてしまうからだ。

 しかし、DICTをつけた子供も、近くの警察の近くに置いたりと、できる限りのことはしてきた。

 こんな世界でも、子供は将来を担う大事な存在である。

 一人とて無駄な子供などいないのだ。


 アンティルが子供を保護している理由もそのためだった。

 ディルスターとの戦いが長期化することは、誰にでも容易に想像できた。

 多くの大人達がSALIDに虐殺された中で、次代のアンティルメンバーを育成する目的もあった。

 そんなわけで、アンティルのアジトには多くの子供達で溢れていた。

 当時の上層部は、子供達に外の世界の状況を見てもらうことは重要なことだと思い立って、遠足を計画したのだった。

 もちろん、子供達もDICTをつけていないので捕まれば極刑は免れない。

 従って、州都や大都市から遠くの寂れた街を中心に、遠足の計画は立てられた。

 当時子供だった有騎や奈央は、アジトの施設以外の場所はほとんど行ったことがなかったので、その遠足を非常に楽しみにしていた。

 しかし、遠足当日に有騎は38度の高熱を出してしまい、泣く泣く遠足を休むこととなった。


「あの時の遠足で、こんなところまで来てたのか。」

 有騎がそう言うと、奈央は小さく頷く。

「あの時はここもまだ結構人が住んでいたんだよ。

 まさかたった10年で、こんな廃村になるとは思ってなかった。」

 奈央はそう言うと、近くに建っている朽ちかけている建物の扉に軽く触れる。

 扉は力なく、ギーッと少し不快な軋み音を立てながら、ゆっくりと開く。

 しかし、中からは誰も出てくる気配はなかった。


「そういや、あの遠足の時、葵が怪我したんだよな。」

 有騎が思い出したかのように、奈央に尋ねる。

 葵とは有騎の2つ年下の妹で、今は16歳になる。

 まだ16歳と言うこともあり、今回の作戦には参加しておらず、アンティルの拠点で待機している。

「葵ちゃん、熱を出したお兄ちゃんに何かおみやげを買うって郊外まで出て、その時にガラの悪い連中に襲われたんだよ。

 そいつら、何日も何も食べていなかったアンノウンで、たまたま通りかかった葵の持っていたおやつを盗もうとしたらしい。」

 その話を聞いた時、有騎は熱で寝込んでいた自分に腹が立って仕方がなかったことを思い出した。

 妹が危険に晒されていると言うのに、何もできずに寝ていただけの自分が許せなかった。

 幸い、その時、葵を救出してくれたのが一馬だった。


「今思えば、アンタがアンティルの活動に参加するって言い始めたのは、あの遠足の後だったよね。」

 奈央がそう言うと、有騎の方を見る。

「父さんも母さんも死んで、もう俺には葵しか家族がいないんだ。

 葵は絶対に俺が守る。

 そのためには、早く強くならないといけなかった。」

 有騎はそう言うと、力強く拳を握る。

 だが、それを聞いて、奈央は少し寂しそうな笑みを浮かべる。

「有騎の家族って、葵ちゃんだけなのかな?」

「えっ!?」

「私じゃ・・・有騎の家族に・・・ウウン、何でもない。もうすぐ出発だから、早く戻って来てね。」

 奈央は少し表情を赤くしながら、ハロルド号の方へと戻っていく。

「ああ、わかったよ。」

 有騎はそう言うと、奈央が扉を開けた廃屋に入っていく。

 中は、もう何年も誰も住んでいないからか、生活感は全くせず、埃まみれになっていた。

 わずか10年で、日本のどれだけの町や村が滅びたのだろう?

 州都を中心とした大都市だけが栄えて、それ以外のところは全部消えていく。

 まるで都市という点だけが日本で、それ以外は日本ではないみたいだった。

 しかし、ディルスターの力はあまりにも強大だ。

 普通に戦っても、ディルスターにはビクともしないだろう。

 だが、今はディルスターのCEOアルシアの娘サリファが自分達と一緒にいる。

 サリファも何やら目的があって自分達と一緒に行動している。

 ディルスターは悪でそこに属している連中は悪人ばかりと思っていたけど、サリファは美しくてとても優しい女性だった。

 それに車内での会話を聞く限りでは、サリファはDICTとゼウスネットワークを問題視していた。

 だから、多分我々と目的の方向性はそう違わないはず。

 全く何の確証もないが、有騎はそう確信していた。

 ディルスターのトップの娘がこちらにいる今こそが、ディルスターに勝つ最大にして最後のチャンスだ。

 恐らく、このチャンスを逃したら、ディルスターに勝つ機会は永遠に失われるだろう。

 だから、サリファが目的を話してくれて、自分達に協力を求めてきたら、その時は全力で協力しよう。

 朽ちた廃村を歩きながら、有騎はそんなことを考えていた。


「へえ、有騎って妹がいるんだあ。」

 しばらくしてハロルド号の停車している場所に戻ってみると、サリファと奈央がなぜか妹の話をしていた。

「その頃は、葵ちゃんは極度のお兄ちゃん子で、遠足の時もお兄ちゃんが行かないんだったら私も行かないってゴネて、みんなを困らせてたものだよ。」

 奈央の話からして、どうやらさっきの遠足の続きの話をしているようだった。

「そんなかわいかった葵ちゃんも、こんなに立派に成長しました。」

 奈央は手持ちの端末を取り出すと、画面に最近撮った奈央と葵の写真を表示する。

 それを見た瞬間、サリファは驚きの声を上げる。

「わー、有騎の妹さんって、すごいグラマラスなんだね。」

「これでまだ16歳なんだよ。」

「私や奈央より全然大きいよね。」

 サリファが自分の胸に視線を移してそう言うと、奈央は思わず苦笑する。

「ねえねえ、カルティニも見てよ。こういう胸の大きい女の子が男の子は好きだって聞くけど、カルティニもそうなのかな?」

 サリファは奈央の持っていた端末を取り上げると、カルティニに見せる。

「いえ、私は胸の大きさには特に興味はありません。」

 カルティニは重い表情でそう答える。

 さっき、サリファとカルティニは、二人っきりでどこかに姿を隠して何やら話していたみたいだった。

 恐らく、サリファの目的を、まずはカルティニだけに話したのだろう。

 カルティニだけに話したのは、それだけ重い話からなのか、それとも自分達がまだ信用されていないからなのか?

 だが、カルティニの表情が厳しいことからも、サリファの話はかなり深刻な話だったことは容易に想像できた。

 一方、明るく振る舞っているサリファも、どこか無理をしている感じがする。

 

「本当に?」

 サリファは笑顔で、カルティニの顔を覗き込む。

 だが、カルティニは顔色一つ変えずに答える。

「はい、全然。」

 カルティニが無表情にそう答えると、サリファはつまらなそうな表情を浮かべる。

 だが、そのサリファの視界に有騎の姿が見えてくると、再びサリファの表情が輝き始める。

「有騎、今、奈央からキミの妹さんの映像見せてもらったんだけど、キミの妹さん、ものすごい胸大きいねえ。」

 サリファが有騎にそう言うと、奈央が「あっ」と小さな声を上げる。

 こちらに近づいてきていた有騎の表情が変わる。

「悪いけどその話はやめてほしい。」

 そして、有騎はぴしゃりと強い口調でサリファの話を遮る。

 奈央が慌てた様子で、サリファに声をかける。

 そこで、ようやくサリファは、さっきまでと空気が違うことに気づく。


「サリファ様、お願いだから、妹の胸のことだけは触れないでほしい。」

「えっ、どうして?」

 サリファはわけがわからないといった様子で有騎と奈央の方を見る。

「えっと、実は・・・私も関係ない話じゃないんだよね。」

 奈央は苦々しい表情で、昔あったことを話し始める。


「実は、昔ね、私が12歳で葵ちゃんが10歳の時だったと思う。

 当時、私の胸は全く発育がなかったのに対して、葵ちゃんはこの頃から胸が大きくなりだしてね。

 そのことで葵ちゃんに散々バカにされて、そのことでケンカになって、一時期、葵ちゃんと口も聞かない時期があったんだよ。」

「まあ、女の子の思春期にとって、胸の発育の問題は深刻だしねえ。」

 サリファが納得したように頷く。

「もしかして、サリファ様もぺったんこで悩んでたのか?」

 いつの間にか近くに来ていた一馬がサリファにそう尋ねると、有騎と奈央は慌てる。

「アンタは、本当にデリカシーのかけらもないわね。」

「そういうことを女の子にズケズケと聞くのはどうかと思うぞ。」

「何だよ、お前ら、いい子ぶりやがって。こんなにきれいな人なんだから、聞いてみたくなるだろ。

 本当はお前だって興味あるんだろ、有騎?」

 一馬は半ギレしながら、有騎の方を見ると、有騎は慌てた表情を浮かべる。

「い、いや・・・そ、その・・・興味がないかと言われたら、その・・・」

 そんな二人のやりとりを見て、サリファはクスッと笑う。

「そりゃあ、胸の大きさを気にしたことないと言えばウソになるけどね・・・でも、男の子って本当に胸の大きい女の子が好きなんだね。」

 サリファはそう言うと、有騎と一馬の方を見る。

 一馬は「おうよ。」と笑顔で応えるのに対して、有騎は気まずそうな表情を浮かべる。

「い、今はサリファ様の胸の話じゃなくて、葵の話だろ。奈央、さっさと続きを話せ。」

 有騎が慌てて抗議するのを見て、奈央とサリファはクスクスと笑い出す。


「ハイハイ、わかりましたよ。じゃあ続きを話すね。

 そんなわけで、絶交して半年近く葵ちゃんと口も利かなかった時期があったんだよ。

 私達のいるアンティルって少人数だから、みんなで助け合って生きていかないと大変で、子供達にも色々と仕事が割り当てられてるんだよ。

 そんな状況だから、こういったケンカでメンバー間に溝ができると、将来グループを分裂させる危険性にもつながっていっちゃうんだよね。

 DICTを持たない私達が生きていくには、ある程度の組織の規模を保っていないといけない。

 だから、何かもめごとがあったら、みんなで早めに解決しようってのが、私達の暗黙の決まりみたいになっていた。

 私と葵ちゃんのケンカは、最初はただの子供のケンカで、3日もすれば仲直りすると周りは思っていたみたいなんだけど、その時の私は、胸のことでバカにされたのが相当ムカついていて、それ以降ずっと葵ちゃんのことを無視し続けた。

 そうしたら、葵ちゃんも私に話しかけてこなくなって、半年ぐらい全く会話しなくなっちゃったんだよね。

 本当は、私は2週間たったらどうでもよくなってたんだけど、何か葵ちゃんに話しかけづらくなっちゃっただけなんだけどね。

 後から聞いた話だけど、実は葵ちゃんの方も、私に声をかけづらくなっちゃっただけらしいんだけど・・・

 で、さすがにこれは放っておけないと思ったのか、子供の教育に熱心な園山零おじさまが、私と葵ちゃんの仲介役になったんだよ。」

 奈央が少し皮肉っぽい口調で零のことを話すと、有騎は不愉快な表情を浮かべる。


「その時の零おじさんの一言で、葵は深く傷ついた。」

 有騎がそう言うと、サリファは驚いた表情を浮かべる。

「えっ、私は園山零さんと以前お話ししたことがあるけど、優しそうな人だったけどなあ。」

 サリファはそう言うと、驚いた表情を浮かべる。

 サリファが零おじさんとどういう交流があるのか少し気になったが、今は聞くべきではないと有騎は思った。

 きっと、今回の作戦について話してくれる時に一緒に話してくれるだろう。

 有騎はそう思い、話を続けた。

「あの人は、時々笑顔で人を傷つけることを言うことがあるんだ。」

 有騎がそう言うと、奈央は苦笑する。

「零おじさんは、きっと私を慰めるためにあんなことを言ったんだと思う。

 胸の大きさで人間の魅力は決まるものではない。

 それに、奈央はまだ12歳だし、これから成長するよってね。」

「ここまでは普通のことを言ってるよね。」

 サリファがそう言うと、有騎の表情がさらに険しくなる。

「ここまではね。」

 奈央が続けて話し始める。

「ここで終わっておけば、私も葵ちゃんも傷つくことはなかった。

 でも、この後、零おじさんが笑いながらね・・・


『この年頃はすぐに服が合わなくなっちゃうけど、奈央みたいに胸が大きくならないのはコストパフォーマンスがよくて、みんな助かるんだよ。』


って言ったんだよ。

 私はその一言にカチンと来て、零おじさんにボロクソ言いまくったけどね。

 でも、葵ちゃんは、その一言でショックを受けちゃってね。」

 奈央の暗い表情を見て、サリファもただ事では済まなかったことを察したようだった。

 続きを有騎が話す。

「俺達アンティルはDICTを持たないから、ただでさえ物資を手に入れるのは非常に難しい。

 服とかを手に入れるのも苦労していて、自分達で仕立て直したりして、何とかやりくりしてるんだけど、葵は自分の胸の成長で周りに迷惑をかけていると思い込んでしまったらしくて、それ以来、胸のことを言われるのを極度に嫌うようになった。」

「葵は気にしすぎなんだよ。」

 一馬がそう言うと、有騎が一馬を睨み付ける。

「零おじさんの一言の後、葵が食事をとらなくなって、倒れたことを忘れたのか?

 アイツは、みんなに迷惑をかけることが何よりも嫌なことなんだよ。」

 有騎はそう言うと、サリファとカルティニの方を見る。

「だから、2人とも、アイツの胸のことには触れないでやってほしいんだ。頼みます。」

 有騎はそう言うと、サリファとカルティニに頭を下げる。

「まあ、そういう事情があるなら仕方がないね。それにしても、零さんは・・・」

「全く、デリカシーのかけらもない御仁のようだ。」

「でも、零おじさんのおかげで、あの後、葵ちゃんと話すきっかけができて仲直りできたから、私はちょっと複雑な気持ちなんだけどね。」

 奈央は苦笑しながらそう言う。

「わかったよ。じゃあ葵ちゃんと会ったら、胸の話は禁止ってことで。カルティニも気をつけてね。」

「なぜ私に?

 むしろお嬢様こそ気をつけてくださいよ。思春期は繊細なんですから。」

「おー、カルティニが似合わないこと言うねえ。」

 サリファはそう言うと腹を抱えて笑い出す。

 そんなサリファの姿を見て、カルティニは不機嫌になるどころか、少し安堵した笑みを浮かべた。


 そして、約2時間後、2台の全く同じワゴン車が到着した。

 ワゴン車には大勢の人が乗っていた。

「あれだけいたのに、ハロルド号に乗っている人が少なすぎだとは思ってたけど、別の車に乗ってたんだね。」

 ワゴン車からぞろぞろと降りてくる人達を見て、サリファがそう言う。

「ハロルド号がおとりを引き受けて、他の仲間は普通の車で戻ってくるという作戦だったからね。

 まあ、高速が封鎖されることは予想できてたから、下道でここまでくるのに結構時間がかかっちゃうけどね。」

 奈央がサリファに話す。

「でも、アジトで合流すればよかったんじゃないの?」

「私的にはそれでもいいと思ったんだけどね・・・

 一馬がどうしても全員揃って帰りたいって言い出して、じゃあ問題が解決できそうだったらここで合流しようって話になってたみたい。」

「問題って、もしかして私達のDICTのこと?」

 サリファがそう言うと、奈央は小さく頷く。

「でも、サリファさんがDICTを消滅させてくれたからよかったけどさあ。

 2人のDICTが残ってたら、どうやってアジトに連れ帰るつもりだったんだろう?」

 2人の会話に有騎が割って入る。

 だが、それを聞いて、サリファの表情が少し曇る。

「ま、まあ、こうしてうまく行ったんだから、それでいいじゃない。

 そんなことより、もうすぐ出発だって。」

 奈央が話題を変える。

「でも、さっきワゴン車が着いたばかりだよ。」

 サリファがそう言うと、奈央がワゴン車の方を指さす。

「だから、あのようにワゴン組が、さっきからブーブー文句言ってるわけ。

 本当はもう少し休ませてあげたいんだけどね。

 さっき有騎や一馬や秀秋とも話してたんだけど、事態は切迫しているみたいだし。」

 奈央はそう言うと、サリファとカルティニの方を見る。

 サリファは驚く。

 奈央だけでなく、近くにいた有騎も、さっきまでとは打って変わって、真剣な表情でこちらを見ていたからだ。

「サリファ様が全てを話してくれなくても、さっきの車内の会話だけで、何かよからぬ事が起ころうとしていることは、私達にも容易に察することができます。

 だから、多少きつくてもここは早くアジトに戻った方がいいと思ったんです。」

「ありがとうみんな・・・園山氏と会ったら、みんなにもきちんとお話ししますね。」

 サリファはそう言うと、有騎と奈央に向かって頭を下げた。


 結局、到着したばかりのワゴン組の文句が殺到したため、もう30分だけ休憩時間が追加された。

 その間も、サリファとカルティニは何やら色々と話をしていた。

 その2人の会話を、秀秋が盗み聞きしようと近づくが、

「コラッ、盗み聞きはよくない。」

 奈央に捕まり、秀秋はハロルド号まで連れ戻された。

 秀秋は昔から人の会話を盗み聞きする悪い癖がある。

 それで人の秘密を暴いたりするから、結構嫌われていたりする。

 確かに秀秋はアンティルの諜報部員だけど、仲間の秘密まで暴露するのだけはやめて頂きたい。

 有騎も奈央もそう思い秀秋に訴えたことがあったが、

「何を言うか。人の秘密は蜜の味ではないか。」

 そう言って、秀秋は一向に辞めようとしない。

 そんなわけで、秀秋の動きには奈央が目を光らせていたのだ。

 絶対に秀秋はサリファとカルティニの会話を盗み聞きするに違いないと。

 秀秋が奈央に引きずって連れていかれるのに気付いたサリファはクスクスと笑い出す。

 だが、カルティニの表情は厳しいままだった。

 やはり、サリファとの会話の内容は相当重い話のようだ。

「カルティニ、顔が怖いよ。スマイルスマイル。」

 そんなカルティニの表情に気づいたのか、サリファが笑顔で話しかける。

「すみませんお嬢様。私、また怖い顔になってましたか?」

「さっきからずっとね・・・ゴメンなさい。」

「お嬢様が謝ることではありません。そんなことより、あのワゴン車・・・」

 カルティニがさらりと話題を変えようとする。

「あのワゴン車がどうかしたの?」

「いや、全く同じワゴン車が2台連なって走ってるのを見たら、私は不審な車ではないかと警戒するのですが、誰も気にならなかったのでしょうか?」

「それってワゴン車が不審者ってこと?」

「いえ、違いますよ。

 ワゴン車は別に不審車でもなんでもないですよ。

 ただ、全く同じ車種で全く同じ色のワゴンが2台連なって走っていると、途端に不信感が増すというか・・・」

「そう?カルティニが気にしすぎなだけじゃないの?」

 サリファはそう言うと、カルティニもそんなものかと軽く流す。

 とりあえず、サリファが元気になってくれれば、自分の考えなんてどうでもいい。


 そして、30分が経過して、ハロルド号とワゴン車は出発する。

 アンティルのアジトがある出雲へと向かって。

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