12.ジャンクションでの決戦
「そろそろ来るようだな。」
カルティニの読み通り、伊織の乗ったワイバーンはジャンクション後方の山影に隠れていた。
伊織は敵が明石海峡大橋の方を抜けると思い、そこで待機していたのだが、予想は外れ、敵はまっすぐ西へと突き進んでいた。
(レジスタンスが潜伏するなら、絶対に四国だと思ったのだが・・・)
伊織の変な思い込みのせいで、トンネル明けの絶好の攻撃機会を失い、伊織は次の攻撃を考えていた時だった。
いいタイミングで来たライーからの連絡で、ジャンクションにアークライダーが集結していることを聞いて、ここで勝負しようと判断したのだ。
「途中でバイパスから降りるかもしれないと心配していたが、まさか一直線に突き進んでくるとはね。」
伊織はまっすぐこちらに突き進んでくるハロルド号の様子をじっと見ていた。
とその時、突然、ハロルド号の速度が徐々に遅くなると、なんとジャンクションの少し手前で停止した。
「何だと!?」
伊織は驚く。
まさか、こちらの待ち伏せがばれたのか?
しばらく様子を見ていたが、ハロルド号は全く動く気配がなかった。
「まさか、トラブルでもあったのか?」
伊織はもうしばらく様子を見てみるが、やはり全く動き出す気配がない。
「どうする?アークライダーを接近させるか?」
だが、アークライダーが近づいたところで、一気に加速されて追い越されたら、ジャンクションは逆に手薄になってしまう。
となれば、ここはワイバーンが動くしかない。
ワイバーンで背後から接近して、ジャンクションまで誘導するか。
そのまま動かないのであれば、バズーカーで破壊するだけだし。」
伊織はワイバーンを動かすと、大きく旋回して、ハロルド号の後方に回り込もうとする。
だが、その時だった。
同じくハロルド号も後方に向きを変えようとしていた。
「なっ!?、まさか奴ら、こっちに向きを?」
正直、伊織には敵の意図がわかりかねていた。
まさか、ワイバーンに向かって突進してこようと言うのか?
だが、それはそれで目的を達成できる。
伊織の目的は、あくまでもサリファ達の抹殺なのだから。
「面白い、アークライダーとワイバーンで挟み撃ちにして、叩き潰してやる。」
伊織はニヤリと笑うと、ジャンクションに待機させていたアークライダーに発進命令を出す。
自立型アークライダーを操作することはできないが、命令をすることはできるのだ。
ハロルド号は停止していたので、速度が上がっていない。
今なら、容易に奴らの前に回り込むことができるだろう。
「奴らを・・・サリファを殺すのは、あくまでもこの私だ。」
伊織はワイバーンの旋回をそのまま行い方向転換したハロルド号の前方へと回り込む。
だが、敵はワイバーンの姿が見えるや否や、再び方向転換を行ない、今度はジャンクションの方へと向かう。
「なっ!?」
伊織は驚く。
ハロルド号の速度が上がってなかったのは、最初からこうするつもりだったからなのか?
ハロルド号は反転して一気に速度を上げると、前方から向かってくるアークライダーの方へと突進していく。
ハロルド号が突進してくるのを見て、アークライダーは一斉に前方に装備している小型ミサイルの発射準備を行なう。
このままでは、あのミサイルで・・・
だが、ハロルド号とアークライダーは正反対のベクトルで加速していた。
双方が時速150kmを出しているとしたら、接近速度は300kmにも及ぶ。
そんな中で、しかも左右に不規則に動くハロルド号をとらえるのは、アークライダーといえども至難の業だった。
アークライダーは元々同じベクトルの車を追いかけるのが目的で作られたものだから、こうした正反対のベクトルまで考慮されているとは思えない。
カルティニはそう読んだ。
また、量産型アークライダーの命中精度はそれほど高くない。
そして、カルティニの読み通り、アークライダーが最初に放った数発のミサイルはことごとく外れる。
ハロルド号はさらに速度を上げると、向かってくるアークライダーにどんどん近づいていく。
「全員、何かに捕まれ!!!」
車内にカルティニの大声が響く。
次の瞬間、車内に凄まじい衝撃が発生する。
ハロルド号がアークライダーを弾き飛ばしたのだ。
万が一の命中を想定して、前面に電磁バリアを張っていたので、アークライダーと直接衝突するよりは遥かにマシだったが、それでも車内に凄まじい衝撃が発生する。
ハロルド号に弾き飛ばされたアークライダーは、横を走っていた他のアークライダーと衝突すると、ドミノ倒しのように次々と倒れていく。
「バリアエネルギーがもう限界だ。」
運転手が悲鳴を上げる。
「アークライダーが突進してきてくれたおかげで、こっちはあらかた片付いた。」
それに、カルティニのもう一つの予想も当たった。
(敵のアークライダーは、ミサイル発射準備をしながらも、全部が発射することはなかった。
恐らく伊織が命令を出したのだろう。)
あくまでも自分の手で仕留めたい。
そう考えた伊織が途中でミサイル発射を止めると、カルティニは予想していた。
だから、前方にかけるバリアエネルギーは必要最小限に抑えられると読んだのだ。
「よかった・・・まだ生きていてくれた。」
伊織はハロルド号が健在であることを見て喜ぶ。
アークライダーの包囲網は突破されてしまったが、そのおかげでハロルド号の速度を下げることには成功した。
そして、そのおかげでバズーカの照準を定めることができたことも・・・
「これで終わりだ。」
伊織はニヤリとした表情を浮かべると、バズーカ―の引き金を引こうとした、まさにその時だった。
ダーーーン!
一発の銃声がハロルド号後方から放たれる。
それは最初、普通の銃弾かと思ったが、その銃弾は途中で拡散すると、なんとワイバーンの手前に巨大な電磁バリアを張り巡らせた。
しまった。
そう思ったが、その時には既に伊織のバズーカ―から弾が発射された後だった。
バズーカ―から発射された弾は、電磁バリアに直撃すると、大爆発を起こす。
その爆発にワイバーンの機体は巻き込まれて、大きく体勢が傾く。
ワイバーンは体勢を立て直すことができず、グルグル回転しながら落下していく。
「ダメだああーーーーっ、脱出だああ!!!」
伊織はとっさにワイバーンから脱出するが、あまり高度を保っていなかったため、落下までそれほど時間はかからなかった。
伊織は間一髪で脱出に成功するが、今度はワイバーンの墜落の爆発で吹き飛ばされる。
それでも、なんとかかろうじてパラシュートを開くことができ、間一髪で脱出することができた。
あの状況から脱出できたのは奇跡に近いかもしれない。
パラシュートで落下しながら、走り過ぎていくハロルド号を見て、伊織の表情は険しくなる。
「クソッ、サリファを殺すチャンスだったのに・・・」
伊織は悔しそうな表情を浮かべ、拳を握りしめた。
「一体、何をやったんだ?」
有騎はワイバーンが墜落していくのを見て、驚いた表情を浮かべた。
「言われたとおりにやったけど、あれは一体!?」
奈央も驚いた表情で、カルティニの方を見る。
「バリアジャマー弾だね。」
サリファがそう言うと、カルティニは静かに頷く。
「動的にバリアを張る時に、バリアエネルギーを込めたバリアジャマー弾をああやって撃つんだ。
敵がいつどういう攻撃を仕掛けてくるかわからないからな。
もっとも、今回の警護にあたっては、バリアジャマー弾の多くを車内に置き忘れてしまい、手持ちの弾も全く充電されていなかった。」
「それでさっきバリアエネルギーの高速充電を頼んだわけね。」
奈央がそう言うと、カルティニは静かに頷く。
「バリアの補充を怠るなど、このカルティニ、一生の不覚。
お嬢様、本当に申し訳ありませんでした。」
そして、カルティニはサリファに頭を下げる。
「もういいよ。こうして無事なのはカルティニのおかげなんだし、ありがとう、カルティニ。」
サリファはそう言うと、カルティニに向かってニコッと微笑む。
そのサリファの笑顔で、カルティニは救われた気持ちになった。
(だって、カルティニが武器の補充に失敗したのって、私に原因があるんだし・・・)
サリファが笑顔の下でそんなことを考えていたとは、カルティニも夢にも思わなかった。
「これでとりあえず追手を撒けたようだな。」
有騎がレーダーで確認する。
結局、ハロルド号はジャンクションをそのまま直進すると、姫路へと向かった。
もちろん、中国道の方に行った方が早く帰ることができるが、西日本の基幹道路である中国道の警備網はこことは比べものにはならない。
配備されているアークライダーの数も、こことは比較にならない。
それに、またあのハイウェイゲートを突破したいとは思わなかった。
幸いにも、姫路から敵のアークライダーの出撃はなく、レーダーにも追手の影はまったく映らなかった。
「とりあえず、さっさとバイパスの終点に向かうぞ。」
一馬が大声で叫ぶ。
「バイパスの終点には、ハイウェイゲートはないの?」
サリファが奈央に尋ねる。
「ハイウェイゲートは元々ハイウェイに乗るためのゲートだからね。
このバイパスはもうすぐ一般道と合流するから、料金徴収用の簡易ゲートはあっても、ハイウェイゲートはないんだよ。
だから、ここをルートにしたんだけどね。」
奈央がそう言うと、サリファはなるほどと頷く。
レジスタンスが追手を振り切るには、このバイパスは理想的な交通路であった。
「とりあえず一息つけるわね。」
奈央はホッとしたのか、脱力したかのようにその場に座り込む。
「みんな、本当に頑張ってくれてありがとう。」
サリファはそう言うと、車内の人達に向かって頭を下げる。
それを見て、車内のメンバーの多くは苦笑を浮かべていた。
元々は自分達が立てた誘拐計画。
その誘拐した人に頭を下げられているのだから、複雑な気分になるのも無理はない。
それに、実際にやってみたら、自分達の計画がいかに甘いものであったかを嫌と言うほど思い知らされた。
今、自分達が生き残っているのだって、カルティニのおかげのようなものである。
「カルティニもありがとう。あなたがいなかったら、今頃私達は死んでいたでしょう。」
その点に関しては、サリファも考えが甘かったと言わざるを得なかった。
カルティニに迷惑をかけないようにと思って立てた計画だったが、実際にはカルティニがいなかったら何もできないことをサリファは思い知らされたのである。
「私の役目はお嬢様をお守りすることです。
当然のことをしたまでです。
そんなことよりもお嬢様・・・」
カルティニはそう言うと、サリファの方を見る。
そのカルティニの表情を見て、サリファも小さく頷く。
「わかってる。でも、その前に・・・」
サリファはそう言うと、ポケットから何やら小型の端末を取り出す。
「お嬢様・・・それは?」
カルティニは驚いた表情を浮かべる。
サリファは真剣な表情で、カルティニを見つめる。
「カルティニ・・・あなたがいないと、私だけでは何もできない。
でも、私はカルティニの幸せを奪う権利はない。
あなたのDICTがまだ残ってるのは、お父様があなたの力に未練があるからでしょう。
だから、今ならまだやり直せるチャンスはある。」
サリファは端末を手にしたまま、カルティニに頭を下げる。
「それでも・・・私にあなたの力を貸してほしい。
今の私には、あなたにあげられるものは何一つないけれど・・・」
「それだけで十分です。」
カルティニが遮るように強く言う。
「カルティニ・・・」
「私の役目はお嬢様を命に替えても守ることだと言ったでしょう。
今のお言葉・・・私にはもったいないお言葉です。」
カルティニはそう言うと、頭を下げる。
刹那、サリファの目から涙がこぼれる。
「お嬢様・・・私はその端末がどういったものなのか、薄々わかっているつもりです。
だから、その端末を私に・・・」
「ありがとう、カルティニ。」
サリファは手に持っていた端末をカルティニに渡す。
カルティニは端末を操作すると、端末の頭を自分の体の方に向けて、Enterキーを押す。
「よし、これでOK。」
カルティニは端末に表示された文字を見て確認すると、サリファに向かってニッコリと微笑む。
「ありがとう、カルティニ。」
サリファは涙をぬぐって、改めてカルティニに感謝を言う。
カルティニが何を喜んでいるのか、サリファがなぜ涙を流しているのか、有騎と奈央には全くわからなかった。
「サリファとカルティニのDICT反応が消滅しました!!!」
ディルスターでサリファとカルティニのDICTをモニタしていたSALID基地では、突然のDICTの消失に騒然となっていた。
カルティニはもちろん、アカウントを抹消されたサリファも、体に埋め込まれていたDICTを使うことで位置追跡が可能だったが、突然その信号が途絶えたのだ。
DICTが停止した理由は一つしか考えられない。
「まさか、サリファとカルティニが奴らに殺されたのか!?いや、そうとは思えん。」
SALIDのリーダーであるライーは首を傾げる。
カルティニは百戦錬磨の戦士であり、サリファに忠誠を誓っている。
そんなカルティニがいる中で、サリファがあっさりと殺されるとは思えないし、一般のレジスタンスごときがカルティニを殺せるとも思えない。
その時、アルシアが二人に何度もデス・シグナルを送ったけど、効かなかったという話を思い出す。
「まさか、あの二人のDICTは偽装されていたのか?」
しかし、DICTを偽装なんて可能なのか?
DICTの詳細は不明だが、恐らくかなり高度な医療知識と科学知識が必要になるだろう。
第一、DICTを取り外そうと計画を立てた時点で、ゼウス・ネットワークの監視対象に入るはずだ。
それはSL5のサリファも例外ではないはず。
仮にサリファが特権を使ってうまくやったとしても、カルティニまで偽装されているとは一体どういうことだ?
ライーはアルシアにどう報告するか、しばらく頭を悩ますことになった。
「やはり、それはDICT停止装置だったのですね。
でも、それを使うには、事前にDICT側に仕掛けを行なう必要があると聞きました。
お嬢様はともかく、私のDICTに一体いつ仕掛けを行なったのですか?」
カルティニがサリファに尋ねる。。
「カルティニ、5年ほど前に大けがして入院したことがあったでしょ。」
「ええ、あれは確か、中東の反乱分子掃討作戦の時に、不覚にも背後から銃撃を受けて・・・」
そこでカルティニは気づく。
「そう言えば、あの時、なぜかサリファ様が手配した病院に搬送されたそうですが、まさか・・・」
「そう、あの時に手術と一緒に、カルティニのDICTに少し細工をしてもらったんだよ。」
「でも、DICTを外そうとした時点で、ゼウスネットワークに補足されるはずです。
一体どうやって!?」
「そんなの簡単だよ。アンノウンに依頼すればいいだけのこと。」
「もしかして、サリファ様はその頃には既に偽装されていたのですか?」
「私のDICTは、私が3歳ぐらいの時に、私のお母様がその医者に依頼して、密かに細工をしたと聞いています。
私の弟達も同じ手術を受けていると聞きます。
だから、カルティニが手術を受けると聞いた時に、私はその医者に依頼をして、カルティニのDICTに細工させたのです。」
「でも、どうして私のDICTを?」
カルティニが驚いた表情でサリファに尋ねる。
「それは、私がDICTの秘密を知ってしまったから・・・」
「それは、デス・シグナルのことですか?」
「もちろん、それもあるけどね。
DICTの正体を知ってしまったから、私はカルティニのDICTを何とかしないといけないと思った。」
「お嬢様・・・」
「DICT機能の一部を制限して、いざという時にはDICTを停止できるように細工させてもらった。
何の断りもなしにこんなことして、カルティニには悪かったと思ってる。」
サリファがそう言って謝ると、カルティニは首を横に振る。
「私の身を案じてくださったこと、まことに感謝の極みでございます。」
カルティニはそう言うが、サリファの表情は暗いままだ。
「DICTの噂は私もいくつか聞いて知ってはいますが、どうやらお嬢様は私の知っている以上の情報を知っておられるようだ。
もしかしたら今回の計画も、それと関係があるのでは?」
カルティニが尋ねると、サリファは小さく頷く。
「ならば、これでよかったのでしょう。」
カルティニはそう言った後、サリファの耳元に顔を寄せて小声で話す。
「だとすれば、このことはしばらく周りには話さない方がいいと思います。」
サリファは小さく頷く。
「わかってる。だから、まずはカルティニだけに話すよ。」
「何をこそこそ話してるんですか?」
近くで2人の話を聞いていた奈央が、サリファに声をかける。
「何でもないよ。」
「DICTがどうこう言ってたじゃないか。
今や俺達だってサリファ様の仲間なんだし、教えてくれてもいいんじゃないか?」
有騎がサリファにそう言う。
「ゴメン・・・でも、みんなに話すのはもう少しだけ待ってほしい。」
だが、サリファがそう言って謝ると、有騎も奈央もそれ以上は聞けなかった。
「わかったよ。じゃあ、今はまだ聞かないでおくよ。
でも、時期が来たら、俺達にも話してくれよ。」
有騎がそう言うと、サリファは大きく頷く。
「でも、これで二人のDICTがゼウスネットワークに補足される心配はなくなったな。」
有騎はそう言うと、安心したのか、その場に座り込む。
それを見て、サリファは自分がさっきからずっと立ったままだったことに気づく。
「そうだね。私も座ろうっと。」
サリファはそう言うと、有騎の隣に座り込む。
サリファの横に奈央が座る。
カルティニは、まだ警戒したいと言うと、前方の端末の方へと向かう。
「でも、そんな仕掛けを行なっているのであれば、もう少し早く使ってくれればよかったのに。」
いつの間にか、近くにいた秀秋が少し不満そうに話す。
その背後からの秀秋の声を聞いて、3人はわっと驚く。
「な、何だよ。そんなに驚くことないだろ。」
「アンタは気配を消しすぎ。背後霊か!?」
奈央が怒り気味に返す。
「まあ、どうせ、怖くて隅っこでガタガタ震えてたんだろうよ。」
有騎がそう言うと、奈央は「違いない。」と言って笑う。
その有騎と奈央の会話を聞いて、秀秋はムッとした表情になる。
「確かに・・・もっと早く使うべきだったね。ゴメンね。」
その時、サリファは苦笑しながら秀秋に謝る。
「ああ、こんな奴の言うことなんか、一々気にしなくていいですよ。」
奈央がそう言うと、秀秋が「こんな奴とは何だよ。」と言い返す。
確かに秀秋の言うとおりだった。
サリファが車に乗り込んでからすぐに使っていれば、ハイウェイゲートにとらえられることもなかったし、ここまで追跡もされなかっただろう。
しかし、今までの会話を聞いて有騎にはわかっていた。
DICTとゼウスネットワークの世界に生きている人達にとって、DICTを外すことは恐ろしいことなのだ。
確かに、DICTには恐ろしい機能がある。
しかし、今や世界はDICTとゼウスネットワークが基盤になっている。
そこからはみ出たら、もう二度と元に帰ることができないだろう。
しかも、自分だけならいざ知らず、カルティニまで巻き込んでもよいものか?
サリファはずっと葛藤していたのだろう。
だから、それを責めるのは酷なことだと思った。
その後しばらくして、ハロルド号はバイパスから下道を使って関西州を出て、中国州へと入る。
「この先の合流地点の廃村で一馬を回収し、他の仲間と合流して、本拠地に戻るぞ。」
「他の仲間って?」
サリファが有騎に尋ねる。
「俺達の他にも、途中で催涙弾投げたりして待機していた連中がいただろう。
アイツらは多分普通乗用車に乗って、こっちに向かってるだろう。」
「なるほどね。」
しばらくすると、寂れた村が見えてくる。
いや、寂れたというより、捨てられたと言った方が正しいかもしれない。
その村には誰も住んでおらず、風化した建物だけが寂しく立ち並んでいた。
「よし、この辺でいいだろう。」
一馬はそう言うと、街に入る前に車を停止させる。
街中に入る前に停止したのは、街中には別のアンノウンが潜んでいるかもしれないからだ。
自分達以外にもDICTとゼウスネットワークの支配下から逃れている人達がいるし、中国や韓国から不法入国してきた難民も潜んでいると聞く。
そういうアンノウン達は物資の入手が厳しく、こういった廃村に潜んで、通りかかった車に襲いかかることもよくあるらしい。
ハロルド号は一応武装しているが、そういった連中が潜んでいることを警戒するに越したことはなかった。
「やっと車から降りられる。」
有騎はそう言うと、車の出口から外に飛び出す。
「拠点まではまだまだ時間がかかるよ。」
有騎に向かって奈央がそう言う。
「わかってる。だから、今のうちに休憩だ。」
「そうだね。」
奈央は頷くと、車を出て有騎の元へと向かった。




